企業ブランドイメージアップに繋がるコンプライアンス強化とは

食品の賞味期限偽装、インサイダー取引、産業廃棄物の不法投棄など、企業における不祥事や法令違反のニュースを耳にすることがよくあると思います。

企業が社会の一員として、利益を生み出しながら事業を継続するために行う活動にはあらゆる法令が適用されます。業種によって適用される法律や法令の範囲も異なります。

これらの法令を守らず利益の追求ばかり優先した企業活動を行なっていると、違反行為が発覚した際には行政処分が下されるのみならず、社会からの信頼を失い、事業の継続に不利な状態を招くことになってしまいます。最悪の場合、経営破綻にまで事態が発展するおそれがあります。

そこで、法令違反や不祥事を未然に防止することを目的として各企業で取り入れられるようになったコーポレートガバナンス(企業統治)の原理の一つが、企業コンプライアンスです。

企業コンプライアンスの意味と範囲

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コンプライアンスとは、一般的に「法令遵守」と訳されます。企業コンプライアンスは、各企業の活動に関わる法律や条例を遵守する姿勢を指します。

業種によって適用される法律が異なることは前述しましたが、代表的なものでは独占禁止法や製造物責任法(PL法)などが挙げられるでしょう。そのほかにも、労働基準法や消費者保護法なども多くの企業に関わる法律です。さらには、監督官庁による命令・指導も遵守すべき法令の範囲に入ります。

しかし、企業が活動を行う上で、従業員はもちろん、顧客や取引先などとも密接な関係にあることを忘れてはいけません。したがって、企業コンプライアンスは法令に限らず広義な意味で捉える必要があります。

例えば、社内規則や業務ルールなどの遵守です。活動目標や業態がそれぞれ異なる企業は、継続的に発展していくために独自の業務プロセスや営業手法を築き上げていく必要があります。経営者と全ての従業員とが共通の認識のもと、目標に向かって効率的且つ生産的に事業を発展させていくためのマニュアルと捉えたらいいかもしれません。企業全体がこのマニュアルを遵守して活動しているかを管理するのは企業自身の責任です。

他にも、社会的良識に従って行動することが求められます。取引先との関係や、営業活動における公正さなど、コンプライアンスでは倫理観も重視する必要があります。消費者への情報公開もその一つです。また、セクハラ問題や過重労働の管理など、従業員に対する安全で快適な職場環境の提供も、企業の倫理観が問われます。

企業内でコンプライアンスに意識的な者とそうでない者がいては困ります。不祥事とは、経営者によって意図的に起こされるものもあれば、悪気のない従業員一人の判断や行動で起こることもあります。経営層から従業員まで企業内の全ての構成員がコンプライアンスの適用範囲と重要性を理解する必要があります。

企業コンプライアンス違反の例

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冒頭で述べたように、ニュースや新聞では大手企業による偽装問題や不正取引などの不祥事が取り上げられることがしばしばあります。

しかし、企業コンプライアンス違反は必ずしも法律に限ったことではないということは前述した通りです。自社の事業が従うべき法律の内容を十分に理解しておくことは当然必要ですが、社会的良識や倫理規範などは法律のように明確に定めることが難しく、「知らないうちにコンプライアンス違反していた」という事例がよく挙げられます。

以前、提出ルールは自由に決められる?!有給休暇の基礎知識では、全ての労働者が当然に持つ権利である有給休暇の取得と、これを従業員に与えなければならない経営者の義務との関係についてご紹介しました。業務に支障が出るような場合に限り、経営者は時季変更権を行使することができますが、理由なく一方的に従業員の有給休暇を拒否することは法律違反となり、コンプライアンス違反となります。

他にも、新入社員が、会社の業務を少しでも早く覚えようと、機密情報が入った資料を社外持ち出し禁止であることを知らずにコピーして自宅に持ち帰るという行為も企業コンプライアンス違反になります。

電車内や飲食店などの公衆の場で、大声で社内の内部情報について話すことも企業コンプライアンス違反になる場合があります。

コンプライアンス強化の対策として

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企業の業種や遵守すべき法令によって変動するコンプライアンス違反の判断基準ですが、重要なことは、全ての関係者が法令や社内規則を正しく理解し、企業理念に沿った倫理観や社会規範を持って行動することです。

法令違反することなく、社会からの信用を維持しながら活動を続けるために、企業では具体的にどのようなコンプライアンス対策がとられているのでしょうか。

法令や社内規則の理解

共通して遵守すべき最低限の法律や条例の理解を促しましょう。研修を開いたり、各人が学習できるようなマニュアルを準備します。管理職や経理担当など、担当する部署や関わる取引先によって理解しておかなければならない法令は異なってきます。

法律などの理解にはコストも時間もかかりますが、トラブル時にもスムーズな対応ができるように最低限の知識は身につけておく必要があるでしょう。また、法的規範における知識や理解がある企業とそうではない企業とでは、取引先や顧客からの印象や評価が大きく異なります。

また、多くの企業では、社内規則遵守もコンプライアンスの対象範囲としています。経営者は、法律や社会的良識に則って社内規則や業務ルールを作成し、全ての従業員が理解できるような手段で周知を徹底します。従業員一人ひとりが社内規則を理解することで、業務上における行動一つひとつにおいて正しい判断ができるようにします。

コンプライアンス違反になるケースが理解しやすいように、不正取引、セクシャルハラスメント、資料の保存の方法、業務用ノートパソコンの持ち出しなどの具体的な事例を罰則と併せて盛り込むことが好ましいです。

客観的な視点

複雑に絡み合った法律や条例を正しく理解することは専門家でない限り時間も労力も浪費するものです。理解できていると思っていても、ちょっとした認識の違いなどで法律の落とし穴にはまってしまう場合もあります。社内規則の周知不徹底による従業員のコンプライアンス違反も起こり得ます。

正しくコンプライアンス経営がされているかどうかを客観的に評価するために、コンプライアンス室の設置や弁護士などの専門家などによる定期的なチェックの導入を検討してみましょう。

情報共有や意見交換をおこなえる職場環境づくり

管理職と従業員同士で職場環境や業務態度について情報共有や意見交換を行える場を設けましょう。法令も社内規則も、社会の変化に合わせて常に見直しや改定を行う必要があります。

企業のアピールポイントとして

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企業がコンプライアンスを重視することは、法令違反の防止と内部統制に役立つとはいえ、一見、企業の利益には直結しないように見えるかもしれません。しかし、コンプライアンスへの取り組みは、企業ブランドを対外的にアピールするための有効的なツールとなり得ます。

例えば、商品の長所だけを前面的に押し出して宣伝するのではなく、短所も隠さずに丁寧に説明している企業は、消費者からの信用度アップが期待できます。また、従業員のワークライフバランスを配慮した職場環境を提供している企業では、既存の従業員からの好感度アップに限らず、入社希望者などにも好印象を与えます。

公式ウェブサイトに企業のコンプライアンスへの取り組みについて掲載するなど、外部に対して社会的責任をどのように果たしているかを認知してもらいましょう。コンプライアンスの強化は、社会における企業ブランドの認知度や企業に対する好感度の向上、安定した顧客の確保など、事業拡大を実現するための様々な要素を含んでいます。

これを機に、社内におけるコンプライアンスの取り組みについてもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

執筆は2017年3月30日時点の情報を参照しています。