ビジネスを営んでいると、契約書を作成する場面に遭遇することは少なくありません。たとえば、新しい従業員を雇うときは「雇用契約書」、店舗のロゴ制作を外部に発注するときは「業務委託契約書」を、お客様にサービスを提供するときは「役務提供契約書」を用意します。ところがいざ契約書を作ろうと思うと、形式などがわからず、戸惑うこともあるのではないでしょうか。
この記事では契約書の種類や書き方、マナーをはじめとする基本のきを紹介していきます。簡単に電子契約書が作れる機能などもあわせて見ていきましょう。
目次
契約書とは
契約書とは、当事者同士の間で契約が成立したことを証明する文書で、基本的に2以上の契約当事者が署名または押印をしたものを指します。申込書や注文書、依頼書など「契約書」と呼ばれる文書でなくても、契約書に該当することがあります。契約を結んだあとは、当事者がそれぞれ同じ契約書を1部ずつ所有するのが一般的です。
ここからは契約書についてよくある疑問を解消していきましょう。
参考:契約書の取扱い(国税庁)
契約書が必要な理由は?
契約書は主に三つの役割を果たします。
(1)当事者間の理解を統一する
(2)トラブルが発生したときの証拠になる
(3)コンプライアンスへの意識を強化し、安心できる仕事環境をつくる
契約内容が明確に書き出された契約書をお互いが確認したうえで契約を結び、できること・できないことについては随時契約書を参照することで、「こんな話は聞かされていない」などの水掛け論やトラブルを未然に防ぐことができます。さらにトラブルが発生したときには、契約書が法的証拠となります。そのためにも起こりうるトラブルを想定しながら、取引内容を細かく契約書に盛り込んでおくことが大切です。
また、法律によって契約書の作成が義務付けられることもありますが、そうでない場合、契約は口約束でも成立します。ただし口頭で契約を結ぶと詳細があやふやになりやすく、トラブルに発展しかねません。事業者として契約書の作成を徹底し運用ルールなどを決めておくと、コンプライアンス(法令遵守)への意識が高まります。
さらに、2023年4月には「フリーランス新法」が可決成立し、フリーランス事業者に業務を委託する際には、業務内容や報酬などについて書面または電磁的方法で明示することが義務付けられました。業務を委託するときも、委託されるときもその内容を契約書にしておくことで、自分や業務に関わる人が安心して働ける環境を築くことができるでしょう。
個人契約書と法人契約書の違いとは?
個人と法人が作成する契約書に大きな違いはありません。いずれの場合も契約を締結する3つの方法にある全ての方法で契約を結ぶことができます。ただし企業としての信用を保つためにも、法人は口頭ではなるべく契約を結ばないなど、リスク管理を徹底して行うことが求められるかもしれません。
契約書の法的拘束力は?
契約書はトラブルが発生したときに、証拠として扱われる重要な書類です。
契約書には原則、法的拘束力があります。このことから、契約書には発生しうるトラブルを想定したうえで解決方法なども記載しておくことが大切です。
ただいくら契約が当事者を拘束するといっても、法に反する内容であれば契約条項が無効になることもあります。詳しくは後述する「契約書が法律に反した場合」もご確認ください。
契約書を作成する目的の一つはトラブルの防止ですが、片方があまりにも不利になるような内容は無効になる可能性があることを覚えておきましょう。
契約書・覚書・誓約書の違いとは?
契約書と似たものに、覚書や誓約書があります。約束事を記した書面という点では契約書と同じですが、活用方法や仕組みなどの面で異なります。
契約書に近いのは、覚書でしょう。契約書と同様、双方の押印や署名が求められます。契約書作成後に変更が出た場合や契約作成前に合意事項を確認するうえで用いられることが多く、どちらかというと契約書の補助的な内容を記載するケースが多いです。法的効力は契約書と同等に扱われることが多いです。
誓約書は作成する当事者だけが押印・署名するもので、もう一方の署名などは求められません。「秘密保持」「服務規程の遵守」「競業避止義務」などに使われます。内容によっては誓約書と同等の法的効力を持ち、万が一裁判などになった場合は、有効書類として活用できることもあるそうです。
契約を締結する3つの方法
契約は主に以下三つの方法で締結することができます。
(1)口頭
口頭での同意が当事者間であれば、契約は成立します。主に知人や家族との間でこの方法を用いることが多いかもしれません。ただしビジネスでは、一般的にはトラブルを招きやすい方法として知られています。
(2)書面
紙の契約書を作成し、双方が署名・押印などをすることで契約を行う方法です。最も一般的な方法でしょう。契約内容を明確にし、いつでも参照できる形にしているため、トラブル防止にも役立ちます。
(3)電子
近年ではリモートワークなどが普及し、電子契約書が使われる機会も増えてきたかもしれません。PDFファイルなどの電子データとして契約書を作成し、双方が電子署名などをすることで契約を結びます。最近ではSquareをはじめ、便利な電子契約書作成サービスが次々と登場しています。
書面の契約書と同じようにトラブル防止につながるうえ、クラウド上などに保存しておけば保管場所を取らず、該当の契約書が検索しやすいことがメリットに挙げられます。
契約書の書き方
実際に契約書の書き方を見ていきましょう。
契約書の全体構成
契約書の構成に決まりはありませんが、以下が順に記載されているのが基本的なつくりでしょう。
- タイトル
- 前文
- 本文
- 後文
- 契約締結日
- 当事者の住所と署名・捺印
それぞれの書き方を詳しく紹介します。
タイトル
契約内容と一致する、わかりやすいタイトルをつけます。「業務委託契約書」「雇用契約書」などが例に挙げられます。
前文
どのような契約が、どのような目的で、誰と誰との間で交わされるのかを簡潔にまとめます。また、文中で誰を指しているかがわかるよう、前文でそれぞれの当事者を「甲」「乙」などと定義するのが一般的です。お客様を「甲」、事業者を「乙」とすることが多いようです。当事者が2以上になる場合には、十干(じっかん)を順番に使うことも覚えておくといいでしょう。
前文の例:
株式会社●●(以下「甲」という)と株式会社●●(以下「乙」という)は、●●に関して、以下のとおり●●契約(以下「本契約」という)を締結する。
本文
契約内容は、全て本文に記載していきます。ここには取引内容をできるだけ細かく記していきましょう。具体的にはどの契約書にも記載される「一般条項」と、その契約独自の内容になる「主要条項」を盛り込んでいきます。たとえば以下のようなことです。
- 契約期間
- 契約の解除について
- 秘密保持義務について
- 損害賠償請求についてのルール
- 管轄の裁判所(合意管轄条項)
- 納品時期について
- 代金の支払について
など
内容は「第●条」などとして、一つひとつ記していきましょう。さらに細かく説明したい場合は「条」のなかに「項」を設けたり、「項」のなかに「号」を設けたりすることもできます。「項」には(1)(2)を使い、「号」には①②を使うなど、数字は区別して表記します。
本文の例:
第●条(契約期間)
本契約の期間は、202●年●●月●●日から202●年●●月●●日までとする。ただし、期間が満了する日の●カ月前までに本契約当事者のいずれからも本契約を終了させる旨の通知がない限り、従前と同一の条件にてさらに●年間更新されるものとする。
など
後文
最後に以下の内容を記して、契約書を締めくくります。
- 作成した契約書の部数
- 各契約当事者が所持する契約書の数
- 各契約当事者が所持する契約書のうち、どれが原本でどれが写しか
上記は契約書の一番最後に記載されることが多いですが、後文(ごぶん・あとぶん)に記載しなければいけないという決まりはありません。配置場所は基本的に自由で、前文や本文に入れるケースもあるそうです。
後文の例:
【書面上の契約の場合】本契約の成立を証するため、本契約書を2通作成し、甲乙それぞれが署名又は記名押印の上、各1通を保有する。
【電子契約の場合】甲と乙は、本契約の締結を証するため、電子契約書ファイルを作成し、それぞれ電子署名を行い、保管する。なお、本契約においては、電子データである本電子契約書ファイルを原本とし、同ファイルを印刷した文書はその写しとする。
契約を締結した日付
契約締結日を記載しましょう。締結日の決め方には決まりがなく、以下のいずれかが記載されることが多いです。
- 契約期間の初日
- 当事者が契約書に署名をした日
- 当事者が全員契約書に署名をし終わった日
どの日付にするかを決めるときに考慮しておきたいことがあります。「当事者が契約書に署名をした日」だと全員が承諾していないうちに契約書が締結したことになってしまうため、公平なのは当事者が全員契約書を確認し終えた「当事者が全員契約書に署名をし終わった日」かもしれません。また、契約開始日を契約内容に定めていない場合は、契約締結日より法的効力が発生することになります。
当事者の住所と署名・捺印
双方が住所を記載し、署名・捺印する欄を設けましょう。住所は作成者が契約書にあらかじめ印字しておくこともめずらしくありません。
契約書は誰が作成するべき?
契約書は当事者であれば、誰でも作成できます。さらに契約書で引っかかる点があれば、当事者同士で修正箇所を指摘し合いながら、最終版を作り上げていくこともできます。
基本的には契約を依頼する側などが作成することが多いかもしれませんが、たとえばフリーランスとして業務を依頼された人が契約書を作成し、依頼者の署名を求めることもできます。
契約書のルールやマナー
ちょっとしたミスで不利になってしまわないよう、契約書を作成する際には以下のルールを守りましょう。
正式名称を使う
略語などはなるべく使わず、正式名称を調べて記載するようにしましょう。特に業界の専門用語は、契約書のなかで定義しておくなど、裁判官をはじめ、第三者でもわかるような言葉遣いを意識することが大切です。
数字などで具体性を出す
たとえばパンフレットの作成を外部に発注するために、契約書を作っているとしましょう。このような場合は、納品する部数、納品日、報酬、支払日など、数字で表せるところはなるべく細かく記載しましょう。また、紛争を避けるためには数字はもちろんですが、デザインの権利は誰に帰属するのか、デザインの一部をSNSで使用すると追加費用はかかるのか、などの詳細も契約書で決め込んでおけると安心です。
ひな形の契約書をそのまま流用しない
インターネット検索をするとありとあらゆる契約書のテンプレートが出てきますが、あくまでも参考程度にとどめておき、一語一句そのまま使用するのは避けましょう。安易に流用してしまうと、細かな点を見逃してしまったり、本来の希望とは異なる内容が紛れ込んだりしてしまう可能性があります。ひな形をいくつか見比べたうえで、必要な内容を取り入れ、自社に適した言葉遣いに適宜書き換えていくのが賢明です。
法律用語に基づいて記載する
法にまつわる項目では、法律用語を正しく記載しましょう。たとえば個人情報保護は、「個人情報の保護に関する法律」に、秘密保護は「特定秘密の保護に関する法律」に、損害賠償については「不法行為に基づく損害賠償請求権」と記載します。
2部以上発行する場合は割印する
当事者が2以上いる場合は、契約書を2部以上発行することになるでしょう。このような場合は契約内容が同じであることを示すために、割印をします。契約書が複数枚におよぶ場合は、どのページの内容も改ざんされることのないよう、全てのページに契印をしましょう。
契約書が法律に反した場合
契約書に規定した内容が法律に反していると発覚した場合、直ちに無効になるとは限らず、内容によっては有効と認められることもあります。
法律の規定には大きく強行規定、任意規定、取締規定の三つの種類があり、どの法律の規定と抵触しているかによって、措置が異なります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
強行規定
強行規定はどんな状況でも必ず適用されるものです。そのため、契約書で強行規定に反した内容を規定した場合は、無効になります。たとえば労働基準法で定められた労働条件の基準(労働時間など)は、強行規定に当てはまるので、必ず守らなければいけません。公共性の高い法律、消費者法や労働者法など、弱者の保護を目的とした法律は、強行規定に分類される場合が多いです。
任意規定
任意規定は、厳密には決まりがあるものの、当事者同士の合意が優先される規定です。そのため、自社に合わせて内容を調整することができ、法律の規定に抵触していても有効性を発揮します。当事者の同意があれば契約内容を自由に決められる「契約自由の原則」を掲げる民法は、任意規定に当てはまることが多いそうです。
取締規定
取締規定とは、行政上の目的で、特定の行為を禁止するために定められたもので
す。多くは契約の効力に影響がなく、契約内容自体は無効にならないこともあるようです。ただし、契約書の効力に関係なく、規定を守らなければ刑事罰や過料の対象になりうるので、注意が必要です。
取締規定に違反している例として、飲食店を経営しているにも関わらず営業許可を取得していないなどが挙げられます。
Square 契約書で簡単に作成
Squareでは、誰でも簡単に、無料で電子契約書を作成できる機能を備えています。無料アカウントを作成すると、管理画面から以下四つのテンプレート(※)が自由に使えるようになります。主に店舗やネットショップを運営している事業者に役立つ内容です。
- 役務提供契約書
- 売買契約書
- 役務の完了を証する書類
- 引き渡しの確認を証する書類
※Squareでは、私的な目的で契約書類を作成することを希望する事業者を対象に、契約書のテンプレートを提供しています。特定の契約条項の正確性や執行可能性について法的助言が必要な場合は、資格のある弁護士にご相談ください。
どれも自社の契約内容に合うように適宜編集して使うことができます。また、上記の用途とは異なる契約書を作成したい場合には、一から作成することも可能です。作成した内容はテンプレートとして保存することもできるので、同じ用途に再利用することができます。
▲Square 契約書のイメージ
作成した契約書はSquareの管理画面から送信でき、受け取った相手が電子署名をすると当事者全員に署名済みの契約書がPDF形式で送信されます。同時に請求書も送信したい場合は、Squareの請求書機能から請求書と契約書をまとめて作成・送信することもできます。
月額利用料金もかからないので、必要なタイミングにログインをして、必要な数だけいつでも無料で発行できます。
契約書の基本について知っておくことは、トラブルを防ぐうえでも大切です。契約を結ぶ相手と紛争などが起きないのが一番ですが、万が一のことを考えて、正しい知識をもとに作成に取り掛かるようにしましょう。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2023年7月25日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash