建設業の法定福利費とは?福利厚生費との違いや計算方法・見積書の記載方法

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※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

建設業界では、下請け業者への発注時に法定福利費を​含めた見積金額で​契約することが求められています。下請け側は見積もり段階で法定福利費を正しく算出して見積書に記載する一方、元請け側はその働きかけを行い、見積書を適切に処理しなければなりません。

本記事で、法定福利費の基礎知識から、福利厚生費との違い、計算方法と計上の仕方、さらには見積書に記載する際のポイントまで押さえておきましょう。

📝この記事のポイント

  • 法定福利費は、企業が法律で義務づけられた社会保険料などを負担する費用
  • 福利厚生費は任意の支出であり、法定福利費とは会計上別に扱う
  • 健康保険や厚生年金などの保険料率は年度ごとに定められ、企業と従業員で折半する
  • 企業負担分は「法定福利費」、従業員負担分は「預り金」として会計処理する
  • 建設業では法定福利費(事業主負担分)を見積書に明示することが求められる
目次


法定福利費とは

法定福利費は​​企業が​福利厚生の​ために​支払う​費用の​うち、​法律で​義務づけられている​ものを​指します。

具体的には、​社会保険料や​労働保険料の​うち、​企業が​負担する​部分の​ことです。​法律に​おいては、​健康保険法、​労働基準法、​厚生年金保険法、​介護保険法、​労働者災害補償保険法、​雇用保険法などで​定められています。​また、​会計処理に​おいては、​勘定科目として​使われます。

企業に​とっては​大きな​支出負担と​なりますが、​従業員が​安心して​生活していく​ために​欠かせない​費用でも​あります。

福利厚生費との​違い

会計上、​法定福利費と​間​違えやすい​ものに​「福利厚生費」が​あります。​2つの​違いは、​ざっくりいえば​「法律で​義務づけられているか、​そうでないか」です。

前述した​とおり、​法定福利費は​法令で​企業が​負担する​ことが​定められている​費用の​ことです。​一方、​福利厚生費は、​企業が​従業員の​健康維持や​モチベーション向上などを​目的と​して、​独自に​行っている​福利厚生制度に​かかる​お金を​さします。

日本経済団体連合会が2019年度に実施した調査9によれば、従業員一人につき平均で月108,517円の費用が発生しており、内訳は法定福利費が84,392円、法定外福利費(=福利厚生費)が24,125円です。

​福利厚生費には、​住宅手当や​通勤手当、​慶弔見舞金などが​挙げられます。​社員旅行などの​レクリエーションや、​歓送迎会など​飲み会に​かかる​費用も該当します。

福利厚生は、​従業員の​満足度を​アップさせ、​安心して​働き続けられるようにする​ために、​企業が​提供する​給与以外の​報酬・サービスを​指します。​法定福利費も​福利厚生費の​1つと​いえますが、​法律に​よって​支出負担が​定められていると​いう​特徴から、​会計上は​別々に​計上します。

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法定福利費の​種類と保険料率

法定福利費に​含まれる​費用と保険料率は次のとおりです。

区分 制度名 保険料率(2025年度) 負担者
健康保険料(協会けんぽ・東京都)1 健康保険法 9.91% 企業・従業員で折半
介護保険料(第2号被保険者)2 介護保険法 1.59% 企業・従業員で折半
厚生年金保険料3 厚生年金保険法 18.3%(固定) 企業・従業員で折半
子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金)4 子ども・子育て支援法 0.36% 企業のみ
労働者災害補償保険料(労災保険)5  労働者災害補償保険法 0.25~8.8%(※建設業は0.6~3.4%) 企業のみ
雇用保険料(建設事業)6 雇用保険法 1.75%(企業1.10%/労働者0.65%) 労使で分担

法定福利費の​計算

ここからは、各保険料の計算方法を詳しく解説します。

健康保険料の​計算方法

健康保険とは、​従業員や​その​家族が​加入する​制度で、​病気や​怪我を​した​ときに​医療費の​自己負担が​軽減されます。​正社員は​原則加入で​あり、​パートや​アルバイトの​スタッフも​労働条件に​よって​加入義務が​発生します。

多くの​中小企業と​従業員が​加入している​「全国健康保険協会​(協会けんぽ)」では、​保険料率が​会社所在地の​都道府県に​よって​異なります。​東京都を​所在地と​する​会社で​あれば、​2025年度の保険料率は​9.91%と​なります1

​月々の​給与​(報酬月額)は、​その金額に​応じて​等級に​分けられており、​等級ごとに​標準報酬が​定められています。​この​標準報酬に​9.91%の​保険料率を​掛けた​金額が​月額保険料です。​

下の​表は、​報酬月額が​195,000円から​270,000円までの​等級と​保険料を​抜粋した​ものです。​各都道府県の1等級から​50等級までの表は、こちらのPDFファイルで​確認できます。

等級 標準報酬月額 報酬月額(給与) 健康保険料(標準報酬×9.91%)
17 200,000円 195,000円以上210,000円未満 19,820円
18 220,000円 210,000円以上230,000円未満 21,802円
19 240,000円 230,000円以上250,000円未満 23,784円
20 260,000円 250,000円以上270,000円未満 25,766円

たとえば、報酬月額が25万円の従業員の場合、該当するのは「20等級」(報酬月額25万円以上27万円未満)です。​20等級の​標準報酬である​26万円に​保険料率を​掛けて、​保険料が​次のように​算出されます。

26万円×9.91%=25,766円

保険料は​労使折半で、​企業と​従業員が​半分ずつ​お金を​出し合います。​各都道府県の​保険料率や​保険料は​全国健康保険協会の​サイトで​確認できます。

協会けんぽの2023年度のデータ10によると、加入者数は約3,956万人、平均標準報酬月額は約30万円で、事業所数は約26.6万か所と引き続き増加傾向にあります。

項目 数値 単位
加入者数 39,559 千人
被保険者数 25,223 千人
被扶養者数 14,336 千人
平均標準報酬月額 304,077 円(+0.9%)
適用事業所数 2,666 千か所(+3.3%)

介護保険料の​計算方法

介護保険とは、​高齢者や​障害者など、​介護サービスを​必要と​している​人を​支援する​ための​制度です。​40歳から​64歳までの​「介護保険第2号被保険者」が​支払い​義務を​負い、40歳の誕生日の翌月から自動的に健康保険とあわせて徴収されます。

全国健康保険協会に​加入している​場合は、​全国​一律で​1.59%(2025年度)かかります。​たとえば報酬月額が25万円の従業員は、標準報酬26万円(20等級)にこの料率を掛けて計算します。

260,000円 × 1.59% = 4,134円

こちらも​保険料が​労使折半で​あり、​企業と​従業員の​費用負担割合は​5:5です。上述の​健康保険料と​合わせて​報酬月額​(給与)から​従業員負担分が​天引きされます。

介護保険は40歳未満の従業員には適用されないため、​同じ​25万円の月額報酬をもらっている人でも年齢により天引き額が異なります。

区分 保険料率の内訳 労使折半後の従業員負担額
40歳未満(第2号被保険者に該当しない) 健康保険料 9.91% 12,883円(=26万円×9.91%÷2)
40〜64歳(第2号被保険者) 健康保険料9.91%+介護保険料1.59% 14,950円(=26万円×(9.91%+1.59%)÷2)

少子高齢化により介護保険料率は過去10年で約0.4ポイント上昇しています2

厚生年金保険料の​計算方法

老後も​安心して​生活できるように、​老齢や​障害、​死亡に​対して​給付金を​支払う​ための​保険です。​厚生年金保険料率は、​一律18.3%です。

​ただし、​厚生年金基金に​加入している​場合は、​免除保険料率が​あるので、​加入している​基金に​よって​13.3%から​15.9%の​厚生年金保険料率と​なります。​健康保険料のように​月額報酬額に​よって​決定される​等級ごとの​標準報酬に​掛けた​金額が、​厚生年金の​金額と​なります。​

たとえば、​厚生年金基金に​加入しておらず、​報酬月額が​25万円の​被保険者の​等級は​17等級と​なります7。​17等級の​標準報酬である​26万円に​保険料率を​掛けます。​つまり、

26万円×18.3%=47,580円

の​厚生年金保険料が​かかります。​保険料は​労使折半で、​企業と​従業員は​半分ずつ費用を​負担します。

厚生年金の被保険者数は、2023年度末時点で4,672万人おり、前年度に比べて1.2%増加しています11

子ども​・子育て​拠出金の​計算方法

国や​地方自治体が​行う​子育て​支援サービスに​使う​ため、​企業から​徴収される​お金です。​従業員に​負担義務は​なく、​全額を​企業が​納付します。

​勘違いされやすいですが、​従業員の​子ど​もの​有無は​関係​ありません。​従業員の​標準報酬月額と、​標準賞与額に​拠出金率を​掛け合わせた​金額を​企業が​支払います。​2020年4月に​拠出金率の​改定が​行われ、​現在は​0.36%と​なっています4

たとえば、標準報酬26万円の従業員を1人雇用している場合、企業が納付する月額の拠出金は次のとおりです。

260,000円 × 0.36% = 936円

労災保険料の​計算方法

一般的に​労災保険と​呼ばれる​制度で、​従業員が​仕事中や​通勤中で​ケガを​したり、​病気に​なったりした​ときに​補償金を​給付する​ものです。​休業中の​補助の​ほか、​障害を​負ったり、​死亡したりした​場合にも​保険金が​給付されます。

アルバイトや​パートタイマーなどの​雇用形態に​関係なく、​従業員を​1人でも​雇っていれば、​企業は​労災保険に​必ず​加入しなくては​なりません。​保険料は、​企業が​全額​負担します。​労災保険率は、​機械装置の組立てまたは据付けの事業が​0.6%、舗装工事業が​0.9%、​既設建築物設備工事業が​1.2%と​いうように、同じ建設事業でも事業の種類に​よって​保険料率が​変わります5。​事業主は、​賃金総額に​業種ごとに​決められた​保険料率を​掛けた​金額を​納めなくては​なりません。

​たとえば​年間の​総賃金が正​社員、​アルバイト合わせて​2,000万円の​舗装工事会社が​あるとします。​その事業主が​納める​労災保険料は、

2,000万円×0.9%=18万円

と​なります。

雇用保険料の​計算方法

何らかの​理由で​離職した​従業員や、​育児や​介護で​長期休業する​従業員を​サポートする​ために、​必要な​給付を​行う​保険です。​要件を​満たしている​場合、​従業員の​希望に​かかわらず​加入するのが​原則です。​なお、​法人の​取締役は​加入対象外です。

保険料率は、​事業の​種類に​よって​異なります。​建設業の雇用保険料率は1.75%で、そのうち​労働者(従業員)が0.65%を、​事業主(企業)が​1.1%を負担します6

計上の​仕方

法定福利費は、​企業側が​負担する​費用と、​従業員が​負担する​費用に​分かれています。企業が負担する法定福利費率は、各保険料率によって変わります。

一般的に、​法定福利費の​お金の​流れは​以下のと​おりです。

1.企業が​従業員に​給与を​支払う
2.従業員の​負担分を​給与から​天引きし、​残額を​従業員の​給与口座に​振り込む
3.企業の​負担分と​従業員の​負担分を​合わせて、​年金事務所へ​納付する

計上の際、企業側は​勘定科目​「法定福利費」、​従業員の​負担分​(給与から​天引き)に​ついては「預かり金」で​処理を​進めます。例として、「健康保険料」の​項目で​紹介した、​東京に​事業所を​置く​企業で​全国健康保険協会に​加入している​場合の​仕訳を​紹介します。給与は25万円で、天引き額は健康保険料の12,883円(25,766円の半額)と厚生年金の23,790円(47,580円の半額)を足した36,673円です。

(1) 給与25万円​(天引き額は36,673円)を​介護保険第2号被保険者に​該当しない​従業員に​支払う​とき
借方科目は​「給与 250,000円」、​貸方科目は​「預り金 ​36,673円」と​「普通預金 213,327円」

(2) 保険料​(企業分​36,673円+従業員分​36,673円)を​口座引き落としで​納付する​とき
借方科目は​「法定福利費 ​36,673円」と​「預かり金​36,673円」、​貸方科目は​「普通預金 73,346円」

法定福利費は​原則と​して​非課税です。​企業側の​負担分は​損金と​して、​従業員の​負担分は​所得税の​計算の​際に​控除されます。

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建設業の​場合は見積書に記載が必要

冒頭でも触れたように、建設業では見積書に法定福利費を記載することが求められます。明示する範囲は基本的に、法定福利費のうち事業主負担分です。

見積書作成の注意点

下請け側

見積書を作成する際は、経費とは別に法定福利費の欄を設けます。各法定福利費の内訳には、法定福利費の総額だけでなく、対象金額(労務費)と各保険料率を明示し、事業主負担額の計算方法がひと目でわかるようにしましょう。

各保険のうち、労災保険料は元請けが一括で加入します。そのため、見積書に記載すべき法定福利費は以下の5種類です。

  • 健康保険料
  • 介護保険料
  • 厚生年金保険料
  • 子ども​・子育て​拠出金
  • 雇用保険料

元請け側

見積書に法定福利費をきちんと含めるよう、下請けに要請しましょう。見積書を受け取ったら、法定福利費が正しく記載されているか確認します。法定福利費を減額したり、その他の費用で減額調整したりすると、場合によっては建設業法に違反するおそれがあるので注意が必要です。

見積書の作成方法

法定福利費の基本的な算出方法は、「労務費×法定保険料率」です。本来は年間の賃金総額に保険料率を掛けるのが正しい方法ですが、見積もり段階では年間賃金の把握が難しいため、見積もり時に算出する労務費を用います8

1.労務費の計算をする

労務費とは人件費の1つで、製品やサービスを生産するための費用です。労務費には、建設工事に直接関わる従業員の給与や残業代、賞与、手当が含まれます。なお、ひとり親方や常勤労働者が5人未満の個人事業所の作業員は法定福利費の適用対象外ですが、見積もり段階ではその把握が難しいことから、すべての作業員を対象として算出してかまいません。

📘 労務費の例:
1名あたり月額賃金35万円 × 3名 × 6カ月 = 労務費630万円

2.法定福利費を算出する

次に、法律で定められた各保険料率を労務費に掛けます。介護保険料については、40歳以上64歳以下の労働者の割合を労務費総額に掛けて算出します。

📘 法定福利費の例:

保険の種類 事業主負担率(2025年度) 算出式 負担額(例)
健康保険(協会けんぽ・東京都) 9.91% ÷ 2 630万円 × 4.955% 312,165円
介護保険(第2号被保険者) 1.59% ÷ 2 × 0.6(該当率) 630万円 × 0.477% 30,051円
厚生年金保険 18.3% ÷ 2 630万円 × 9.15% 576,450円
子ども・子育て拠出金 0.36% 630万円 × 0.36% 22,680円
雇用保険(建設業) 1.10% 630万円 × 1.10% 69,300円
合計(法定福利費)     1,010,646円

3.見積書に法定福利費を記載する

それぞれの概算保険料の合計額を算出したら、法定福利費総額として記載します。

まとめ

法人や​常勤従業員を5人以上​雇用している​個人事業主に​とって、​法定福利費はある​程度まと​まった​支出に​なります。​従業員を​雇用しビジネスを​拡大していくので​あれば、​必ず上記を参考に​準備​して​おきましょう。なお、上記で紹介した保険料率は​改定される​場合も​ある​ため、​随時確認してください。


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執筆は2019年9月2日時点の情報を参照しています。2025年12月17日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。