建設にかかわる分野の労働形態でみられる、一人親方。一口に一人親方といっても、実際にどのような働き方をしているかによって、社会保険の加入形態が異なってきます。また、手続きに不備があると、場合によっては建設現場入場制限の対象となり、現場での作業が進められなくなることもあるので注意が必要です。
今回は一人親方が知っておくべき基本的な情報や求められる手続きについて紹介します。
一人親方とは
建設業を中心に、労働者を雇わずに自分自身のみ、または自分自身とその家族だけで事業を行っているものを一般的に「一人親方」と呼びます。一人親方は、大工工事業や左官工事業、電気通信工事業といった建設業のほかにも、林業、漁業、職業ドライバーなどにもみられます。
一人親方の業務への携わり方には、請負事業者として出来高払制で仕事を受けるケースのほか、労働者に近い扱いで日給月給制で作業を受け持つケースがあります。
両者とも一人親方と呼ばれているものの、働き方の実態が異なるため、加入するべき社会保険に違いが生じます。そのため、一人親方として働いている場合、自分がどちらの範疇に含まれるかを知っておかないとなりません。
働き方によって異なる一人親方
「請負事業者としての一人親方」と「労働者としての働き方に近い一人親方」の違いですが、国土交通省の資料「みんなで進める『一人親方』の社会保険加入」によると、次のような点が区別のポイントとして挙げられています。
請負としての働き方に近い「一人親方」
・予定外の仕事を断る自由がある
・毎日の仕事量や進め方などを自分の裁量で判断できる
・報酬は工事の出来高見合いで支払われる
労働者としての働き方に近い「一人親方」
・予定外の仕事を断る自由がない
・詳細な指示を受けて毎日働く
・働いた時間で報酬が支払われる
参考:みんなで進める『一人親方』の社会保険加入(国土交通省)
一人親方になったときに必要な手続き
一人親方になったときに行う主な手続きとして、まず社会保険の加入があります。社会保険とは、雇用保険、医療保険、年金保険、労災保険など、国民の生活を保障するための公的な保険制度であり、事業所の種別や就労形態によって加入すべき対象が異なります。
一人親方が加入すべき保険として、就労形態別に次のようなものが挙げられています。
個人事業主の一人親方の場合
医療保険(いずれかに個人で加入)
・国民健康保険
・国民健康保険組合(建設国保など)
年金保険(個人で加入)
・国民年金
法人に所属する常用労働者の場合
雇用保険
医療保険(いずれかに加入)
・協会けんぽ
・健康保険組合
・適用除外承認を受けた国民健康保険組合(建設国保など)
年金保険
・厚生年金
参考:一人親方の社会保険加入にあたっての判断事例集(国土交通省)
労災保険の特別加入
また、必ず加入するべきものではありませんが、一人親方が加入を検討しておきたいのもとして労災保険が挙げられます。
労災保険は、本来、雇われている人向けに用意されているもので、建設現場では元請業者が一括して下請業者の労災保険加入手続きを行うのが原則となっています。そのため、本来であれば一人親方は加入することができません。しかし、業務の実情や災害の発生状況を鑑みて、労働者を使用していない一人親方の事業主であっても特別加入できる仕組みが用意されています。
労災保険に特別加入することによって、通勤途中や業務中の災害によるけがなどの治療費の補償のほか、休業や障害に対する補償、死亡時の遺族補償などが受けられます。
一人親方が労災保険に特別加入するには、自身を労働者とみなす必要があるため、事業主としてみなされる特別加入団体を新たにつくるか、すでにある特別加入団体に入る必要があります。
自分がどの社会保険に加入すればよいか分からない場合は、社会保険労務士などの専門家へ相談するか、公的機関の相談窓口を利用するとよいでしょう。
参考:建設業に従事している皆様へ 社会保険労務士に相談しやすくなりました!(国土交通省)
現場入りするためにも 一人親方が押さえておきたい社会保障
国土交通省が策定した「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」によると、「適切な保険に加入していることを確認できない作業員については、元請企業は特段の理由がない限り現場入場を認めないとの取扱いとすべきである」とされています。
参考:社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(国土交通省)
一人親方の場合、それぞれの労働形態に応じて前項で紹介した社会保険への加入がもれなく行われていないと現場への入場が制限されることとなるので、忘れずに加入するようにしましょう。
また、現場入場制限とは関係がありませんが、一人親方が利用できるそのほかの補償制度として、現場で働いた日数に応じて掛け金を積み立てて、引退時に退職金として受け取ることのできる建設事業者向けの「建設業退職金共済制度」や、毎月一定額の積み立てを行い、廃業時に共済金を受け取ることのできる個人事業主向けの「小規模企業共済制度」、取引先の倒産によって代金回収が困難な場合に無担保、無保証人で共済金の貸し付けが受けられる「経営セーフティ共済」などがあります。
リスクや資金繰りを考慮しながら、必要に応じて加入を検討しておいてもよいでしょう。
一人親方が従業員を雇ったときの手続き
一人親方が新たに従業員を雇った場合、その被雇用者が家族かそうでないかによって、加入すべき社会保険が違ってきます。
被雇用者が家族の場合
新たに雇った人が家族である場合は、その人も一人親方として扱われます。社会保険も一人親方が加入すべきものと同様で、国民健康保険もしくは国民健康保険組合(建設国保など)と国民年金に個人で加入することになります。
また、労災保険についても家族従業員は一人親方として扱われるため、加入するのであれば、特別加入団体を通じて特別加入の手続きをとる必要があります。
被雇用者が家族でない場合
新たに雇った人が家族でない場合に加入すべき社会保険は、常用労働者の数によって次のような違いがあります。
【常用労働者が1人から4人の場合】
医療保険(いずれかに個人で加入)
・国民健康保険
・国民健康保険組合(建設国保など)
年金保険(個人で加入)
・国民年金
雇用保険
・雇用保険
【常用労働者が5人以上の場合】
医療保険(いずれかに加入)
・協会けんぽ
・健康保険組合
・適用除外承認を受けた国民健康保険組合(建設国保など)
年金保険
・厚生年金
雇用保険
・雇用保険
上記の社会保険への加入が行われていないと、一般的に現場入場が認められていないので、注意しましょう。
また、労災保険については工事の現場ごとに元請業者が一括して下請業者の労災保険加入手続きをするのが原則となっているので、その都度確認するようにしてください。
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執筆は2020年2月5日時点の情報を参照しています。
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