《この連載は…》米国サンフランシスコ在住ライターが、海の向こうで見つけた「ちょっとおもしろい」記事をご紹介するシリーズです。
いま、マーケティングの鍵を握るのは「共感」だ。流行りの片仮名でいうところの「エンゲージメント」。そしてこれは、「小商い」(個人事業・中小企業)にとってチャンスだ。なぜなら小商いの多くは、これまでも顧客との「接点」を重要視し、「共感されること」を誰より意識してきたはずだからだ。今回は、そんな「小商い」におすすめしたいマーケティングのヒントを5つ紹介する。
1. 消費行動は「トレンド起点」から「価値観の共有起点」へ
今ではすっかり定着した「オーガニック」という言葉。最近はさらに、チョコレートでは「Bean to Bar(ビーントゥバー)」、コーヒーでは「サードウェーブ」といった動きが広がっている。これらに共通するのは、原材料の生産から、商品の加工、物流、販売プロセス、さらには消費に至るまでの一連の工程を大切にしているということ。今、大量生産、大量消費に疲弊した消費者の間で、この動きへの共感が広がっている。購買行動は、トレンド(流行)を追うのではなく、企業やブランドが掲げるビジョンやミッションといった価値観に消費者自身が共感できるかが重要性を増しているのだ。むろん「食」産業だけの現象ではない、小規模の「個性派」書店や出版社の増加も同じ流れをあらわしている。振り返って、自分のお店や会社はどうだろう。自社のビジョンやミッションはしっかりと発信できているか、お客様に届いているか、大手を含む他社と差別化できる「オリジナリティ」はそこにあるか。この機会に改めて見直してみてはどうだろう。
2. 消費者は「ストーリー」を求めている
「オリジナリティ」を伝えるとき、箇条書きや味気ないプレゼンテーションより、「ストーリー」を語ろう。ホームページを始めとするデジタルメディアを活用して、写真や動画を取り入れて工夫するのがよい。例えば人気商品について、その商品が生まれたストーリーがあれば、伝えない手はない。商品が生まれたきっかけ、企画開発段階での試行錯誤、社内ディスカッションの様子(会議室の雰囲気やホワイトボードなど)から、商品棚に辿り着くまで —— 消費者にその過程を追体験してもらい、思い入れをもってもらう。そうすることで、商品の真の価値や、プライシングの理由に納得してもらえるのだ。 **
3. ソーシャルメディアは「コミュニティ」づくりの場
ソーシャルメディアにおいて、ファンやフォロワーの数は多いに越したことはない。ただし、それ以上に注目すべきは、エンゲージメントの数、つまり自社の投稿に対する人々の「反応」だ。例えば、どういった内容の投稿が多くのリーチを獲得し、「いいね」やシェアなどの行動に繋がっているのか。傾向が見出せるなら、ぜひ将来の投稿に反映させたい。多数の「なんとなく」フォロワーよりも、少数であっても「強い」繋がりや興味を示してくれるコミュニティを育てる方がソーシャルメディアでは大切と言える。投稿やメッセージの内容を再考するのと同時に、複数あるソーシャルメディアの使い分けについても見直すのがおすすめだ。すべてのソーシャルメディアに投稿するのが必ずしも正しいとは限らない。選択と集中が功を奏することもある。
4.「量より質」”中身のない”メールは嫌われる
Eメールマーケティングの難易度はますます上がっている。Gmailの受信トレイが3つに分かれ、多くのメルマガが、メルマガ用タブ(「プロモーションタブ」)に振り分けられるようになってからはなおさらだ。配信したEメールに気づいてもらうことすら困難になっている。 だからと言って「数打てば当たる」的に、Eメールの本数を増やすのはNGだ。むしろ原点に立ち戻り、一通一通のEメールについて「5W1H」をしっかり考えよう。誰に、どのような行動を起こしてもらうために、どのようなメッセージを送るのか。いつ送るのか、フォローアップを含め、何回送るのか。さらには、このメッセージを送る方法は、果たしてEメールが最適なのか。
5.マスマーケティングより、データをもとにした細やかなアプローチ
時代は「グローバル」だけでなく、地域の特色も大切する「グローカル」に変わりつつある。地域やコミュニティに根ざしたビジネス……それこそ「小商い」の得意分野ではないだろうか? 手元にあるデータは、コミュニティに細やかなサービスを提供するための大きな武器になる。売上データ(誰がいつ何を買っているか)、ソーシャルメディアのデータ(どういった投稿がより多くのエンゲージメントを獲得しているか)、Eメールの開封率やクリック率(どんなメッセージ、オファーにお客様は反応しているか)からお客様のことを理解し、そのお客様に合ったメッセージを届けよう。
さて、今回ネット時代のマーケティングで注目すべきポイントを、改めてまとめてみた。意識していなかったこと、知識として分かってはいたけれど、実践できていないことなど、あるのではないだろうか? ぜひこの機会に自社のマーケティング戦略を振り返ってみてほしい。
(この記事は2015年12月2日に米国版Town Squareに掲載されたものを翻訳・編集してご紹介しています)