ネットショップの商品は自分の目で実物を確認してから代金を支払いたい、と思うお客さまは少なくありません。このような消費者に人気の決済方法が「後払い」です。文字通り、商品を受け取った後に支払う決済方法で、国内の後払い決済サービス(BNPL)市場規模は2024年に210億米ドル、2033年には1,455億米ドルに拡大することが予測されています1。
従来の後払いでは、商品の到着後にお客さまが代金を一括で支払うのが一般的でした。ところが近年では、手数料の負担を気にせず分割払いが選べる「BNPL(Buy Now Pay Later、以下BNPL)」が後払いの一形態として急速に広がっています。BNPLはクレジットカードを必要とせず、柔軟な分割支払いが可能な新しい後払いモデルとして、アメリカやヨーロッパを中心に世界的なトレンドになっています。
アメリカでは、BNPLの利用者数が2022年時点で7,900万人に増え、2026年には1億人に達すると見込まれています2。国内でもペイディを筆頭に、メルペイやPayPayなどのキャッシュレス事業者がBNPL機能を拡充しており、サービス提供者の増加とともに利用者層の拡大が進んでいます。
このような流れのなかで、「自社でも後払いに対応すべきか」と悩む事業主や、「BNPLについてもっと詳しく知りたい」と考える事業主も多いでしょう。この記事では、後払い決済の仕組みや特徴を整理しながら、今後さらなる拡大が見込まれるBNPL市場の動向についても紹介していきます。
📝この記事のポイント
- 後払いは商品の受け取り後に支払う方式で、カードを持たない層にも選ばれる決済方法
- BNPLは分割払いなど支払いの柔軟性が特徴で、若年層中心に普及
- 後払いの国内市場は拡大し、QRコード決済サービスによる後払い機能も浸透
- 一方でトラブルも増大し、国民生活センターの相談件数が増加
- 事業者はカゴ落ち防止・客層拡大の効果が期待できるが、手数料・未回収リスク・上限額などの留意
目次
- 後払い決済とは
- 後払い決済とBNPLの違い
- 消費者が後払いを利用するメリット・デメリット
- 事業者が後払いを導入するメリット・デメリット
- 国内の後払い市場
- 後払いを導入するには〜ネットショップ編〜
- 後払いを導入するには〜店頭編〜
後払い決済とは
後払い決済とは、購入した商品を受け取った後に代金を支払う決済方法で、主にオンラインショッピングを中心に広く利用されています。クレジットカードを持っていない、あるいはカード情報をネット上で入力したくないお客さまにも選ばれる、安心感のある支払い方法として定着しています。
基本的な流れとしては、商品を受け取った後、指定された期日までに代金を支払います。従来はコンビニエンスストアや銀行、郵便局で払込用紙を使って支払う方法が主流でしたが、最近では、QRコードを読み取って支払う方式やネットバンキングなど、紙の払込票を使わない後払いが普及しつつあります。
代表的なサービスには、「NP後払い」や、BNPLの代表例として知られる「ペイディ」などがあります。
また、実店舗で利用できる後払い機能も広がっています。たとえば「PayPayあと払い」は、事前にチャージすることなく、当月の利用分を翌月まとめて支払える機能で、日常的な買い物にも使われています。「メルペイのあと払い(現、メルペイスマート払い)」も、メルカリでの取引だけでなく、街のお店での買い物でも翌月払いが可能です。
いずれの場合も商品購入時には支払いが発生しないため、消費者にとっては手元の現金が足りなくても商品を購入できる便利な支払い方法だといえます。
ネットショップや実店舗で後払い決済に対応するには、初期費用、導入費用、月額利用料、決済手数料などがかかります。その場で支払いが発生しない点や後日支払う点などでは、クレジットカード決済と似ていますが、後払い決済は基本的にクレジットカードのない人でも利用できる決済方法として分けて説明されることが多いようです。
後払い決済とBNPLの違い
BNPLは「Buy Now Pay Later(バイ・ナウ・ペイ・レイター:今買って、あとで払う)」の略語で、近年急速に普及している新しいタイプの後払い決済です。従来型の「後払い決済」との大きな違いは、支払い方法の柔軟さと、分割払いのしやすさにあります。
従来型の後払い決済は、支払期日を数週間後に延ばした一括払いが基本でした。たとえば「NP後払い」などは、商品到着後に届く払込票やメール通知をもとに、コンビニや銀行で一括支払いを行う仕組みです。
一方でBNPLは、複数回に分けて支払える分割型の後払いです。しかも、サービスによっては分割手数料が無料で利用できる点が大きな特徴です。たとえば、ペイディでは、3回・6回・12回と分割払いを選択でき、手数料無料で利用できる場合もあります。こうした柔軟な支払い設計が若年層などを中心に支持を集めているようです。
また、クレジットカードを作るときのような与信審査がほとんどないのも大きな特徴です。サービスによっては審査もありますが、クレジットカードの与信審査と比べると簡素であることから、クレジットカードが作れない層・作りたくない層でも使える可能性があります。
ただし、BNPLの普及に伴ってトラブルも増えているようです。国民生活センターが2025年7月に発表した調査3によると、後払い決済サービス関連の相談件数は2021年度14,555件、2022年度33,206件、2023年度34,137件、2024年度43,964件と増加傾向にあると報告されています。
消費者相談の現場では、BNPLと呼ばれる後払い決済サービスが問題となっている。過剰与信の入り口となり得ることが指摘され、悪質な加盟店により悪用されるリスクが高く、現に詐欺的な定期購入商法において悪用されている実態があり、現場からは法規制を求める声が上がっている。
– 資金決済制度等に関するワーキング・グループ資料、金融庁4
消費者が後払いを利用するメリット・デメリット
財布と相談することなく、欲しいものを手に入れられる手段ともいえる後払い決済。消費者が感じるメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
消費者が後払いを利用するメリット
クレジットカードがなくても使える
クレジットカードを作るにはさまざまな条件をクリアする必要があります。審査を通過しなければいけなかったり、年齢制限があったりすることから、クレジットカードが作れないこともあります。
後払い決済なら審査が簡素であることが多く、収入や年齢が妨げになることも少ないでしょう。
メルペイが2021年に行った調査10によれば、クレジットカードの非保有者は英会話や旅行、映画など、体験型のサービスに後払いを利用する傾向にあるようです。
簡単に利用できる
後払い決済を利用するには、ネットショップの購入画面に表示された決済手段から「後払い決済」をクリックするだけです。たとえばクレジットカード決済だと、氏名や番号などの情報を入力する必要があるため、なるべく人目がない場所を選びたくなりますが、後払いならこのような心配もいりません。
不正利用の心配がない
昨今の不正利用のニュースの影響を受け、ネットショップでクレジットカード決済を利用したことで情報が流出したらいやだな……などと心配になる人もいるかもしれません。後払い決済ならこのような情報の入力は不要なため、安心して決済をすることができるでしょう。
消費者が後払いを利用するデメリット
支払いに手間がかかる
支払い方法によっては、期日までにコンビニエンスストアやATMなどに足を運ぶ必要が出てきます。「支払いに必要な払込用紙を自宅に忘れた、入金情報のメールが見つからない」などの理由で、支払いがどんどん遅れてしまう可能性があります。支払いに手間がかかることを煩わしく感じる人もいるでしょう。

限度額がある
後払い決済サービスには基本的に利用上限額があります。たとえば後払い決済サービスの大手として知られるNP後払いでは、上限額を満たすと一時的に使えなくなるそうです5。一定額を超えた買い物には利用できないことに不便さを感じる人もいるかもしれません。
後払いが選べないこともある
すべてのネットショップが後払いに対応しているとは限りません。実店舗で後払い決済を利用したい場合も、同じことがいえます。このように後払いを使いたいのに選べない場面に遭遇するとストレスを感じることがあるかもしれません。
事業者が後払いを導入するメリット・デメリット
後払いを導入することは、事業者にはどのようなメリット・デメリットをもたらすのでしょうか。
事業者が後払いを導入するメリット
客層が広がり、売上拡大につながる
最も大きなメリットは客層が広がることでしょう。後払い利用に関する調査6によると、20代から60代のどの年代でもネットショップの決済方法として後払いがトップ3に入っていたことから、一定のニーズがあることが伺えます。
また、ジャックス・ペイメント・ソリューションズ株式会社の調査7からは、15歳から19歳が他の年代と比べて後払い決済をよく利用していることがわかっています。後払いを好んで利用する層も囲えるようになることは、売上拡大につながるといえるでしょう。
カゴ落ち対策になり、機会損失が防げる
たとえばネットショップでクレジットカード決済を利用する場合、有効期限やカード番号などの入力が必要になるでしょう。クレジットカードが手元になければ、購入者は情報を入力できず、購入を諦めてしまうこともあるかもしれません。
このように購入を検討したにも関わらず決済完了に至らないことを「カゴ落ち」といいます。後払いなら支払い方法に「後払い」を選択するだけで購入手続きを終えられるので、クレジットカード決済で起こり得るカゴ落ちを防ぐことができます。
業務負担が少ない
後払い決済を導入すると、入金処理や支払いの催促などは基本的に後払い決済サービスが担当します。つまり、事業者は「入金を待つだけでいい」ということになります。このような細かな作業に手間をかける必要がないことはメリットだといえるかもしれません。
事業者が後払いを導入するデメリット
代金を回収できない可能性がある
商品が購入者の手元に届いた後に支払いが行われるため、「支払期日を失念していた」「払込用紙をなくした」などを理由に、代金が支払われないまま商品在庫だけが減っていったらどうしよう……という不安が頭をよぎるかもしれません。
このようなリスクを減らすには後払い決済サービスを導入する前に、未回収リスク保証を提供しているか、利用者の与信審査はしているか、未払いが続いている人に対して利用を停止する措置はあるか、などを確認しておくといいでしょう。
コストがかさむ
後払い決済を導入すると、決済手数料はもちろん、サービスによっては初期費用や月額利用料もかかります。
特に前章でも触れた「未回収リスク保証」を提供しているサービスだと、数千円から数万円ほどの月額利用料がかかることもあるようです。予算があまりないビジネスだと、気軽に導入しにくいかもしれません。
限度額が低い
消費者のデメリットにも挙げた通り、多くの後払い決済サービスには利用上限額が設定されています。宝飾品や家具、家電など1回の決済額が高額になる商品を販売している場合には、後払い決済サービスの限度額では支払えない可能性があります。
メルペイによる調査10では、クレジットカードを持っている人に対して、クレジットカードと後払い決済サービスの利用金額について尋ねています。その結果、クレジットカードは平均1〜3万円未満/月、後払い決済サービスは3,000円未満/月との回答がもっとも多かったことがわかっています。
国内の後払い市場
後払い決済サービス(BNPL)の国内市場規模は、2024年に210億米ドル、2033年には1,455億米ドルに拡大することが予測されています1。
2002年から株式会社ネットプロテクションズが「NP後払い」を提供していることから、後払い決済自体は20年前から存在している決済方法です。しかし、サービスの多様化が顕著に進みはじめたのはここ数年のことでしょう。
実店舗での支払い、サブスクリプションの支払い、公共料金の支払いなど、利用領域が拡大し、とくにQRコード決済サービスが提供する後払い機能が普及しています。アカウント内に残高がなくても、支払時期を翌月に繰り越せるというものです。
また、近年話題を呼んでいるのが「BNPL」です。BNPLサービスの旗手ともいえるペイディは、2023年7月にアプリダウンロード数が1,000万を突破。さらにアプリ利用者の62.5%が18〜39歳と40歳未満が過半数を超えるなど、若い世代を中心に支持されていることが伺えます8。
後払いを導入するには〜ネットショップ編〜
後払いは、主にネットショップで利用される決済方法です。そのため導入するには、後払いに対応したネットショップを構築する、あるいは既存のネットショップに後払い決済機能を付け加えるといったステップを踏むことになります。
また、デメリットの部分でも触れたように、後払い決済には代金未回収のリスクがあります。未回収リスク保証があるサービスを利用すると、決済手数料のほかに月額利用料がかかったりとコストが膨らみがちです。コストがあまり割けない事業主にとっては、導入しにくい決済手段かもしれません。
後払いの導入にまだ踏み切れない場合、まずは利用者の多いクレジットカード決済に対応したネットショップから始めてみてはいかがでしょう。より低コストではじめられる可能性があります。たとえばSquareなら、クレジットカード決済が受け付けられるネットショップを無料ではじめることができます。コストをかけずに売上拡大が狙える、うれしいサービスです。

後払いを導入するには〜店頭編〜
店頭で後払い決済を受け付ける方法はまだあまり多くはありませんが、一番近しい方法としてクレジットカード決済に対応しておくことはできるでしょう。クレジットカード決済を受け付けるようになると、後払い決済と似たメリットが受けられるようになります。
たとえばクレジットカード決済には、購入単価を上げる効果があります。銀行系カード会社の業界団体の調査によれば、クレジットカードによる支払額は現金と比べて2倍近く多いそうです9。
そのうえクレジットカードの利用限度額は後払い決済よりも基本的に高く、最低でも10万円、設定によっては100万円以上使えることもあります。利用限度額に達してしまい購入ができない……という場面も後払い決済と比べると圧倒的に少ないでしょう。

クレジットカード決済はもちろん、PayPayをはじめとするQRコード決済、電子マネー決済など豊富なキャッシュレス決済方法に対応できるのが、Squareです。初期費用は端末代金のみ。端末は4,980円から購入することができ、利用にかかるのは決済手数料だけです。アカウントさえ作成すればPOSレジやネットショップなど豊富な機能を無料で使えるようになります。売り上げは最短翌営業日に振り込まれるので、入金サイクルの心配もありません。

後払い決済は、手元にお金がなくても商品を手に入れられる、消費者にとって便利な決済方法です。導入するメリット、デメリットをもとに、ネットショップや店舗での導入を検討してみてはいかがでしょうか。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2023年5月18日時点の情報を参照しています。2025年10月31日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash
1:日本のBNPL (Buy Now Pay Later) 市場の分析:チャネル別、企業規模別、最終用途別、地域別(2025~2033年)(株式会社グローバルインフォメーション)
2:後払い決済市場規模見通し(日本貿易振興機構)
3:増加し続ける後払い決済サービスが関連する消費者トラブル-商品が届いた後に支払えるからといって安心せず、契約条件をよく確認しましょう-(国民生活センター)
4:第3回 金融審議会資金決済制度等に関するワーキング・グループ(金融庁)
5:NP後払いの上限金額とは何ですか?(株式会社ネットプロテクションズ)
6:【EC決済の後払い利用調査】中高年・シニア層で高い利用率。支払い時の安心感が後押し(2023年2月2日、ネットショップ担当者フォーラム)
7:【2022年版|ネットショッピング利用状況と決済手段に関する調査】希望する決済手段がない場合、そのECサイトでの購入を見送る方は6割を超える(2022年7月13日、ジャックス・ペイメント・ソリューションズ株式会社)
8:ペイディアプリ、1000万ダウンロードを突破(2023年7月3日、株式会社Paidy)
9:クレジット利用額、現金の1.7倍(2018年2月27日、日本経済新聞)
10:【メルペイ、後払い決済サービスに関する実態調査を実施】後払い決済サービスは、約4人に1人が利用 10代、20代を中心にコロナ禍で「キャッシュレス/後払い決済の利用機会が増えた」と回答(2021年3月23日、株式会社メルカリ)

