小売を表す「リテール」と技術を表す「テック」を組み合わせた「リテールテック」という用語があり、小売事業でITやIoTを取り入れることを意味します。今回はリテールテックの説明、その代表例であるキャッシュレス化の動向、リテールテックをスモールビジネスで取り入れる方法を紹介します。
リテールテックとは
2000年前後に始まったインターネットの広がり、それに続くパーソナルコンピューター、2010年前後から始まった小型のタブレットデバイスやスマートフォンの普及により、消費者の購買活動が変わり、産業構造に大きな変化が生まれています。並行して、生産、流通、消費に関するデータがビッグデータとして蓄積され、解析や、人工知能技術の開発にもつながっています。このような技術革新から、今、産業構造が大きく再編されています。
小売、リテールというと、スーパーマーケットなど、店舗での小売販売を思い浮かべる人が少なくないでしょう。ただ、各業界でITをはじめとする先進技術の導入が進み、業界を横断した領域が生まれて、クロステック(X-Tech)と呼ばれています。フィンテックをはじめ、クリーンテック、フードテックといった言葉をメディアで見聞きしたことがあるという人もいるでしょう。リテールテックもこの一つで、オンライン書店として始まった世界最大のECサイトは、小売事業者というだけでなく、関連するIT先端技術開発にも取り組むリテールテック企業の代表例としても知られています。
「リテールテック」が意味するところは、前出の世界最大のECサイトに限らず幅広く、小売事業者がITやIoT技術を導入することや、小売事業者がITを導入して実現するサービスを表すこともあれば、小売業のIT化を支援するサービスを表すこともあります。消費者、小売事業者として身近なところでは、政府が推進しているキャッシュレス決済やその関連技術もリテールテックの一つといえます。
人手不足が深刻化する中で、リテールテックの導入は小売事業者にとって喫緊の課題です。リテールテックに関する技術を集めた展示会「リテールテックJAPAN」が開催されています。1985年にストアオートメーションショーとして始まった同イベントは、2019年で35回目の開催となりました。
国内でのキャッシュレス動向
リテールテックの身近な事例として、キャッシュレス化についてはすでに触れました。人手不足解消に寄与し、さらに増加する訪日外国人客に利便性を提供する手段としてキャッシュレス化は注目を集めていますが、一方で日本でのキャッシュレス化はなかなか進んでいないのが現状です。日本のキャッシュレス化率は2015年時点で約18.4%で、政府は2025年までに40%にすることを目指しています。2019年10月の消費税率引き上げと同時に、政府はさらなるキャッシュレス化を進めようとしています。
近年日本ではIT企業も参入してスマートフォンによる決済サービスが提供され、利用が広がっていますが、普及するまでにはまだ時間がかかりそうです。キャッシュレス決済が普及している国では主にクレジットカードが利用されています。一方で、交通系のICカードが使われているのは、日本独自のキャッシュレス化の特徴といえそうです。
日本におけるキャッシュレス化は、キャッシュレス先進国である隣国の中国や韓国と比べてまだ遅れがあるのが現状ですが、先進国の中にも日本以上にキャッシュレス化の進んでいない国があります。日本と同じく工業先進国で知られるドイツです。キャッシュレス化の浸透は、単純に技術的な問題というだけではなく、お金をどのように捉えるのか、使ってきたのかといった国民性や文化の問題もあるようです。世界のキャッシュレス事情については、「意外と知らない!?世界のキャッシュレス事情」で詳しく紹介しています。
近年登場しているリテールテックの代表例
「リテールテック」というと、大企業が巨額の投資をして取り組む技術改革を思い浮かべる人もいるかもしれません。お客様に合った商品を人工知能で見つけ出し、注文があれば巨大な倉庫をピックアップロボットが巡回して、発送を行う……確かにこのような近未来的なシステムを実現しようとしている企業もありますが、リテールテックの中にはすでに身近で使われている技術やサービスも含まれます。
小売事業の全部または一部をインターネット経由で行っているという事業者もいるでしょう。ECサイトを開いて、なるべく人手をかけずに24時間365日注文を受け付けられるようにすることはリテールテックの導入といえます。この数年の流れとして、消費者がインターネットショッピングに慣れ、小売と関連する流通業界や流通システムでも変革が起こる中、忙しい現代人を支える日用品も販売するオンラインショップやネットスーパーの利用が徐々に広がりをみせています。
また、店舗型の小売事業で欠かせないPOSシステムや決済システムもリテールテックです。以前はこれらのシステムを導入しようとすると、多大な初期費用と運用費がかかり、利用にあたってはある程度の知識が求められました。タブレットデバイスやスマートフォンが普及するのと合わせて、普段使い慣れたこれらのデバイスに小型の機器を取りつけることで、手軽にキャッシュレス決済を導入できるサービスが開発され、現在利用が広がっています。
スモールビジネスでも取り入れられるリテールテック
リテールテックと認識することなく、すでにECサイトやPOSシステム、決済システムを取り入れているビジネスもいることでしょう。リテールテックというと難しく聞こえるかもしれませんが、リテールテックの開発や導入が進む中で、導入のハードルは低くなり、スモールビジネスでも導入しやすくなってきています。
ECサイトはITの知識がなくてもテンプレートを選んで数クリックで開店できるようになりました。POSシステムや決済システムも特にクラウドベースのものであれば時間とお金をかけずに、使い慣れたデバイスで利用できます。このようなサービスを使うことで、システム導入の手間や費用を減らせるだけでなく、セキュリティーリスクも抑えることができます。ワイヤレスの決済システムには、お客様のところにインターネットにつながった端末を持って行って決済ができるため、小売事業のサービス面もスムーズにします。このようなサービスを世界的な電子機器メーカーが直営店で実現した時には画期的な顧客体験として注目を集めましたが、今やスモールビジネスでもこのような仕組みを導入できるようになりました。
ECサイトの始めたい、POSシステムや決済システムを導入してみたいと思った人は以下の記事を参考にしてみてください。想像以上にこれらを手軽に導入できることがわかるはずです。
・ECサイトを始めるには~初級編~
・ECサイトを始めるには~中級編~
・会計目的のレジはもう古い!?POSシステム導入のすすめ
リテールテックというと難しく聞こえますが、実はリテールテックをすでに導入していた、導入を検討していたというビジネスオーナーも少なくないことでしょう。これから導入するという人も、今はもうリテールテック導入のハードルは決して高くないと感じたはずです。
本記事をきっかけにリテールテックについて理解を深め、ビジネスの効率化とスムーズなお客様の体験のためにもリテールテックの活用を進めてください。
執筆は2019年12月18日時点の情報を参照しています。
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