経営者が知っておきたい試用期間の基礎知識

従業員を雇うとき、試用期間制度を導入している企業も多いことでしょう。しかし、中には詳細について実はよくわかっていないまま導入しているケースもあるかもしれません。

今回は、経営者なら知っておきたい試用期間に関する基礎知識や、押さえておくべきポイントなどについて解説します。

試用期間とは何か

試用期間を簡単にいうと、「本採用の前に従業員の適性などを企業が確かめる期間」です。

面接や書類だけでは、職場や業務内容との適性を完全に把握することが難しいため、実際に勤務をする期間を設け、スキルや適正などを試用期間中に確かめます。

労働基準法などで期間の設定が義務付けられているわけではありませんが、3カ月から6カ月程度の試用期間を設ける企業が多いようです。また、試用期間については、設けられている旨を募集要項や労働契約書に明記する必要があります。

参考:
労働者募集の原則(厚生労働省)
労働基準法施行規則第5条第1項 (e-Gov )

試用期間中の労働条件について

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試用期間中の従業員であっても、労働契約を締結していることにかわりはありません。社会保険については、加入要件を満たしていれば、試用期間中の従業員でも加入できます。そのため、雇用保険や健康保険、労災保険などについて、企業側は加入手続きを行う必要があります。

賃金については、都道府県や産業ごとに法で定められている最低賃金を下回ってはいけません。また、残業代についても、きちんと支払う必要があります。

「解約権留保付労働契約」について

試用期間については、企業が契約の解約権、簡単にいうと「本採用するかしないか決められる権利」を留保しているので、本採用にふさわしくないと判断されれば試用期間で解雇することもできるといわれています。しかし、権利が留保されているからといって、「気に入らなければ従業員を簡単に解雇できる」というわけではありません。

参考:「試用期間」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性(厚生労働省)

「簡単に解雇できる」「簡単に退職できる」というのは誤解

たとえ試用期間でも、客観的に見て合理的な理由がなければ、解雇はできません。正当な理由というのは、たとえば経歴の詐称、出勤不良、勤務態度が著しく悪い、などがあります。個人的な好き嫌いや、能力が期待はずれだった、といったことは理由にならないと考えましょう。

また、従業員側にとっても、試用期間中とはいえ労働契約が成立している以上、すぐに退職することはできません。就業規則などで退職に関する規定があれば、規定に則った手続きをする必要があります。万一、規定がない場合でも、民法627条1項では、退職予定日の2週間前に退職の申し入れを行なうことで労働契約が終了する旨が定められています。

参考:民法627条1項(e-Gov)

試用期間中に辞める場合の対応方法

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実際に従業員が辞めることになった場合の対応方法を、ケースごとに分けて解説します。

雇用した日から14日を過ぎたあとに解雇する場合

試用期間中であっても、雇用した日から14日を過ぎた時点で解雇する場合は、通常の解雇と同じ手続きが必要です。具体的には、少なくとも30日前に従業員に対して「解雇予告」をしなければなりません。もし30日前までに解雇予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金である「解雇予告手当」を支払う義務が発生します。

参考:解雇には30日以上前の予告が必要です(厚生労働省)

雇用した日から14日以内に解雇する場合

試用が始まってから14日以内に解雇する場合は、予告や手当が不要です。しかし、だからといって、試用開始から14日以内の従業員であれば自由に解雇できるわけではありません。正当な理由がなければ、不当解雇としてトラブルの原因になる可能性があります。注意しましょう。

従業員が退職の意思を示した場合

前述の通り、通常の解雇と同じ手続きになりますので、企業の就業規則などに従って対応することになります。関係書類の提出や後任者の選出など、当該従業員がいなくなる前に、必要な手続きを済ませましょう。

「試の使用期間中の者」は「試用期間中の者」ではないことに注意

労働基準法21条に、解雇予告の適用除外として「試の使用期間中の者」について定められています。「試用期間」と「試用期間中の者」は別物であり、「試用期間中は解雇予告手当が必要ない」というのは誤解です。繰り返しになりますが、たとえ試用期間中でも、従業員の状況に応じて解雇予告や解雇予告手当は必須です。経営者として、この点には注意を払うようにしましょう。

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試用期間後に本採用しない場合(本採用拒否)

試用期間が終わったあと、本採用しない場合は解雇扱いとなります。よって、14日を過ぎた場合と同様の手続きが必要です。30日以上前の解雇予告か、解雇予告手当を支払うか、どちらかを、選択しましょう。

試用期間について押さえておくべきポイント

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試用期間は適切な長さを設定すること
試用期間を設ける際は、期間が長くなりすぎないよう気をつけましょう。労働基準法などで明確な長さの定義はありませんが、あまりに長すぎる期間は、従業員にとって不利益となり、無効とされる可能性もあります。「従業員の適性を見極める」という試用期間の趣旨に照らして考えれば、最長でも1年が限度といえるでしょう。

試用期間の延長については慎重に扱うこと
試用期間の延長については、就業規則の中で、延長する可能性やその理由、実際の延長期間について定めておきましょう。正当な理由なく繰り返される期間延長は無効になる可能性もあります。本採用拒否ができないからなど、企業の一方的な理由で延長を行うことは避けましょう。

労務管理を適切に行うこと
試用期間中でも、従業員の適切な労務管理を行いましょう。各種社会保険への加入や、時間外労働については割増賃金の支払いなど、本採用されている従業員と同じ扱いになることに留意しましょう。

従業員には適切な指導や教育を行うこと
試用期間中の従業員については、適切な指導や教育を行いましょう。勤務態度や適性に問題があっても、改善できるように手助けすることが大切です。また、その際には指導記録をつけることで、よほどの理由で解雇をする際、解雇事由に正当性が認められやすくなると考えられます。

経営者にとって、円滑にビジネスを進めていくうえで、従業員の試用期間について正しく理解することは重要です。もし、不明点や疑問点がある場合は、弁護士や社会保険労務士といった専門家に確認するとよいでしょう。

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執筆は2018年11月12日時点の情報を参照しています。
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