【WORLD STORY】地域を育てる、地域と育つ – 教育の場「ノース・キャンパス」の取り組み

《この連載は…》米国サンフランシスコ在住ライターが、海の向こうで見つけた「ちょっとおもしろい」記事をご紹介するシリーズです。

世界のあちこちには、規模こそ小さいけれど、より良い社会を目指して大きな力を発揮している事業や団体が多数あります。今回のWORLD STORYは、地域コミュニティの育成にSquareギフトカードが一役買った……しかもちょっと意外な使い方で……という例をご紹介します。


治安も経済状況も不安定な町に、学びの場を

アメリカのミズーリ州セントルイス郊外ファーガソン。ひょっとすると聞き覚えのある読者もいるかもしれない。2014年に、警察官による黒人青年の射殺事件をきっかけに大規模な暴動が発生した場所だ。

経済的に恵まれているとは決していえないこの中西部の町に、治安や経済状況が不安定でも子どもたちが安心して集い、学習できる場を提供する団体「ノース・キャンパス(North Campus)」がある。

2012年に子ども30名を対象にしたサマープログラムから始まり、3年間で150名以上が参加する通年プログラムにまで成長した。現在も助成金の給付を受け、活動はさらなる広がりをみせている。

誰もが「豊かな子ども時代」を送れるように

創設者のアルダーマン・アントニオ・フレンチ(以下、フレンチ)率いる運営チームは、通常の学習指導のほかにも文芸、憲法と法律、科学などを楽しみながら学べるクラブや、水泳、ヨガ、テニスなどのレクリエーションを提供している。

「限られた時間でもいい、ノース・キャンパスで『豊かな子ども時代』を送ることで、健全な自尊心を育成し、将来の成功体験へとつないでいこう」というのがフレンチたちの狙いだ。子どもたちが安心して学習や活動に集中できるよう、キャンパスの警備も怠らない。

「子どもたちが自分から来たくなる」仕組みとは?

ニューヨークのハーレムにある同様の施設をモデルにスタートしたノース・キャンパス。そのユニークで革新的な点は、子どもたちとその親に「積極的に参加してもらう」ための仕組みにある。

「毎日の授業のあとに、さらに4時間も学校みたいな場所に行かなくちゃならないなんて、子どもからしてみれば全然嬉しくないですよね」とフレンチは話す。「だからこそノース・キャンパスを楽しくて、子どもたちが自分から来たくなるような場所にしたい、という願いがありました」

「リアルな」参加報酬を、子どもにも、大人にも

そんなフレンチたちが行き着いた解決策は「Squareのプリペイド式ギフトカードの導入」だった。冒頭のTwitter投稿の写真は、ノース・キャンパスのオリジナルギフトカードだ。同団体の「誕生から大学まで、成功をつなげよう」のスローガンを、地元ミズーリ大学のスクールカラーと同じ鮮やかなレッドが体現している。

プリペイドカードは、通常、あらかじめ一定額をチャージし、利用金額をチャージ残高から「引いていく」。それを、逆転の発想で子どもたちがキャンパスに来るたびに参加ボーナス(1回につき約100円など)が少しずつ「加算されていく」ようにした。

また、親にも子どもを参加させれば、少額が加算されるようにした。子どもたちにきちんと出席してもらうには、親の理解と後押しが欠かせないからだ。

単なるスタンプやポイントではない「リアルな」現金残高がカードに貯まると、子どもも大人もキャンパス内にあるショップで食料品や日用品から、タブレット端末などの電子機器まで、好きな商品を文字通り「購入」できる。

健全な動機づけで、みんなの意識が変わってきた!

この「チャージ残高を足していく」ポイントカード式アプローチは、健全な動機づけとして功を奏した。子どもたちは自分の欲しいと思った商品を手に入れようと、極力休まないで自分からキャンパスに来るようになった。

自らの努力と労働(この場合は勉学)によってコツコツと貯めた「お金」で、必要なものや欲しいものを手に入れる。社会生活の基本中の基本とも呼ぶべきこの体験こそが、経済的に切迫した地域で暮らす子どもたちにとっては何にも代えがたい「学びの機会」そのものであることは紛れもない事実だ。

親である大人の側にとっても、自らの前向きな努力が金銭へと結びつき、暮らしに直結した商品を購入できる仕組みがもたらした変化は大きい。今では子どもたちを積極的にキャンパスへと送り出してくれている親も増えた。ノース・キャンパスの主旨を徐々に理解し、「勉強だなんて、役に立たないことを」という意識も変わってきているという。

日本で例えるなら、夏休みのラジオ体操の出席カードやスタンプカードにも似たこの仕組み。けれども、Squareギフトカードを使った仕組みでなくては、ここまでの変革はもたらされなかった。お金の持つリアルな重みを通してこそ、学びの場の重要性を伝えることができたのだ。

これは、一生懸命に貯めたポイントで、ついに自分専用の Choromebook(クロームブック)を手にしたジョシュア君だ。ノース・キャンパスの小さな取り組みは、ゆっくりと、でも確実に、地域コミュニティを大きく変えつつある。

(この記事は2015年5月8日に米国版Town Squareに掲載されたものを翻訳・編集してご紹介しています)