保育所への入所を検討しているけれど、なかなか入所できないことに悩んでいる人、そんな従業員が社内にいるという経営者も多いのではないでしょうか。保育所の施設や人手不足から希望通り入所できず、育児と仕事の両立が難しい状況にある人は少なくありません。近年では、社内に保育所を設置する企業も徐々に増えています。
今回は子育てをする従業員をサポートしたいと考えている経営者向けに、企業主導型保育所について説明します。
企業主導型保育所とは
男性が外で働き、女性が家で育児や家事を行なうことが一般的だった時代もありましたが、1980年以降共働き世代は増加し続けるのに対して、男性が職につき女性が無職の世代は年々減ってきています。共働き世帯はけして珍しくない社会のなか、夫婦どちらも仕事で忙しく、保育所への送迎や育児に苦労している世帯は少なくありません。
参考:男女共同参画白書(概要版)平成30年版(内閣府男女共同参画局)
企業で働く従業員の子育てを支援するために政府が2016年に開始した助成制度が、企業主導型保育所です。
企業主導型保育所は、企業が事業所内もしくは事業所周辺で開業・運営する保育所のことです。従業員は就業場所やその近くに子どもを預けられるようになり、送迎の負担を減るだけでなく、何かあったときにすぐに駆けつけられる点がメリットです。
参考:企業主導型保育事業の制度の概要と企業のメリット(内閣府)
企業主導型保育所を設置するには
保育所は大きく分けて、「認可保育所」と「認可外保育所」がありますが、企業主導型保育所は後者の認可外保育所にあたります。認可保育所とは異なり、自治体の許認可は必要ありませんが、その代わりに内閣府への申請が必要です。
自社だけで運営することも可能ですが、専門の事業者に運営を委託することもできます。また、複数の企業が共同で設置することもできます。
設置にあたっては、職員配置数や設備基準が定められており、これらの条件に沿って準備を行なった場合に、企業主導型保育事業と認定され、助成金を受け取ることができます。設置条件について詳しくは企業主導型保育事業ポータルをご確認ください。
企業主導型保育所の利用には、「従業員枠」と「地域枠」があります。従業員枠には保育所を設置する企業の従業員の子どもと、その企業と契約を結んでいる近隣の企業の従業員の子どもが含まれます。地域枠には、保育所を設置する地域の子どもが含まれます。
2019年2月から3月に東京商工リサーチが行った調査では、事業所内に保育所を設置している企業はわずか1.6%でした。設置している企業のうち、半数以上が企業主導型保育所です。職場内に保育所を設置する企業自体がまだまだ少ないですが、その中でも国から助成が受けられる企業主導型保育所は急速に増加しているようです。
参考:「事業所内保育所」設置に関するアンケート調査、企業の 98.4%が事業所内保育所を未設置(株式会社東京商工リサーチ)
企業内保育所を導入するメリットと考慮すべき点
企業内保育所を導入するメリット、また考慮すべき点は何でしょうか。
メリット
離職率低下につながる
職場内に保育所を導入するメリットの一つが、従業員の離職率低下につながる点です。確実に離職率を抑えられる訳ではありませんが、育児中の従業員にとって快適に働ける環境づくりは、長く働いてもらう上で重要なポイントになります。
前述の調査でも、事業所内に保育所を設置している企業の半数以上が、設置の効果として「産休・育休利用者らの復職率の向上」「人材の採用に有利」を選んでいます。
働き方に合わせて子どもを預けられる
勤務形態に合わせて保育時間を設定できるので、平日の遅い時間や土日も預けられるなど、従業員が働き方に合わせて子どもを預けられるため、仕事と子育ての両立を支援できます。また、職場に保育所がある点は採用時のアピールポイントにもなります。
地域社会への貢献
保育所に入れない待機児童問題は、都市部を中心に深刻な問題になっています。周辺地域の住民にも利用してもらうことで、待機児童問題の解消に役立つだけでなく、地域社会への貢献にもつながります。
考慮すべき点
保育の質の維持
設置を考える上でネックになるのが、保育所を運営したことのない企業がいかに良質な保育を提供するか、です。保育所の設置や運営には相応の費用が掛かります。また、認可保育所か認可外保育所かに関わらず、保育所の設置には子どもたちの安全、保育士の働きやすさに配慮した施設づくりが求められます。
加えて、開所後の保育の質を維持するためのランニングコストも考慮する必要があります。
定員の確保
せっかく保育に必要な設備や人員を整えても、定員割れをしてしまうようでは運営の継続が難しくなります。定員割れに悩む保育所も多く、短期間で閉鎖するなどのトラブルも報道されています。設置を検討するにあたっては、自社と周辺住民の需要の把握は欠かせないといえます。
参考:企業主導型保育所の利用率は6割 18年3月末(2019年1月19日、日本経済新聞)
「保活」という言葉があるように、保育所に子どもを入れるために奔走する保護者も少なくありません。職場内に預ける場所があれば、安心して仕事を続けられると感じる従業員も多いでしょう。また、少子高齢化が進む社会の中で人材を確保するためにも、子育てを支援する環境を整えることは企業にとって欠かせないかもしれません。
しかし、事業所内に保育所を設置するにはそれなりにコストや労力もかかります。今後の人員計画や地域住民の需要など、さまざまな要素を考慮しながら検討してみてはいかがでしょうか。
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執筆は2019年4月24日時点の情報を参照しています。
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