厚生労働省が2019年2月1日に発表した2018年の年平均有効求人倍率は、前年度から0.11ポイント上昇の1.61倍と、9年続けて上昇しています。売り手市場が続くことで、優秀な人材確保を目指している企業にとって厳しい状況が継続するとみられています。
参考:一般職業紹介状況(平成30年12月分及び平成30年分)について(厚生労働省)
人材の確保が難しくなっていく中、「いかに優秀な人材を自社に留めることができるか」はどの企業にとっても大切な点になってきます。
今回は、企業の価値や魅力を高め、人材流出を引き留める施策として注目されている「リテンションマネジメント」について紹介します。
リテンションマネジメントとは
リテンション(retention)は、維持・保持・引き留めるという意味をもつ英単語で、人事分野においては「人材を保持する」ことを指します。
リテンションにマネジメント(management)をあわせた「リテンションマネジメント」は、「優秀な従業員の社外流出を防ぎ、長期に渡って働き続けてもらうための施策」を意味します。
従業員の定着率を上げるためには、企業と従業員との間で良好な関係を構築し、従業員が安心して長く働ける環境づくりが求められています。
リテンションマネジメントが注目される背景
2018年1月に厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表されました。政府が推進する「働き方改革実行計画」を踏まえ、原則副業・兼業を禁止としていたモデル就業規則が改訂されています。
一昔前の日本では、入社から定年まで一つの企業で働くということが当たり前でした。しかし、今では雇用条件や就業環境が合わないと感じれば、他の企業へ転職することが当たり前の時代になってきています。
時代が変化する中で、企業と従業員が信頼関係を構築し、いかに優秀な人材を自社に留めておけるかということが、企業にとっては重要な課題といえます。
リテンションマネジメントに取り組む目的
帝国データバンクが行った「人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)」によると、正社員が不足している企業は52.5%にのぼっています。前年同月から3.4ポイント増加し、調査開始以来、過去最高値を更新しています。
参考:人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)(帝国データバンク)
近年では、人材不足による企業の倒産も増加しており、慢性的な人材不足は社会的に深刻な問題となっています。人材の流出は、自社のノウハウが流出し、企業の弱体化にもつながります。企業が成長するには、優秀な人材の長期的な定着が必要不可欠といえます。
参考:【独自】人手不足倒産が過去最多ペース 月内にも前年水準超え(産経新聞、2018年10月14日)
リテンションマネジメントのメリット
次に、リテンションマネジメントに取り組む具体的なメリットを紹介していきます。
採用コストの抑制
長期的に優秀な人材を定着させることができれば、新規採用を行う回数が減り、その分採用にかけるコストを抑制することができます。採用には大きなコストがかかってきます。求人サイトへの掲載費用や人材紹介会社に支払う紹介手数料、就職フェア参加費用など、外部に支払うコストだけにとどまりません。人事担当者が選考にかける時間や労力なども、内部コストとしてかかってきます。
内部コストは外部コストに比べて把握しづらく、想定していたよりもコストがかさんでしまっていたというケースもあるので注意が必要です。採用コストを抑制する方法として、リテンションマネジメントに取り組み、長期的な人材確保を目指すことは有効だと考えられます。
ノウハウ・スキル・経験の蓄積
人材の長期間定着は、社内ノウハウやスキルの蓄積につながります。コストと労力をかけて採用した人材がすぐに退職してしまっては、ノウハウやスキルが継承されず、企業の安定成長にはつながりません。また万が一、ある特定の人材のみがノウハウやスキルを所有していた場合、人材流出に伴うリスクは計り知れません。
日頃よりノウハウやスキルの共有、教育を行い、特定の人材しか知りえないという状況を解消することは必須事項といえます。長期的に安定して活躍できる人材を定着させることができれば、企業の安定成長と新たな事業展開も期待できます。
エンゲージメントの向上
リテンションマネジメントに取り組むことにより、エンゲージメントを高めることができます。給与や待遇面以外でも、従業員一人ひとりが「自社でなければならない理由」をもてるような職場環境、企業と従業員の関係性を築くことで、従業員に選ばれる企業になれることが期待できます。
リテンションマネジメントの具体的な施策例
リテンションマネジメントの具体的な施策例を紹介していきます。
給与の改善を行うことである程度の人材流出を阻止することができますが、近年給与だけでは根本的な改善は難しくなってきています。
重要なポイントは、給与改善だけに頼らず、リテンションマネジメントで従業員をいかに定着させるかということです。企業として従業員の立場に立ち、どのようなアプローチが効果的なのか、長期的な目線で見極める必要があります。
適正な給与体系
給与の改善は1番わかりやすい改善方法だといえます。従業員にとって給与は、自分自身の労働に対する最もわかりやすい対価であり、企業から自分に対する評価を測るための重要な基準となります。
企業は、従業員の目標設定、成果に応じて適正な給与体系が設定されているのかを、明確に示す必要があります。成果を出せば給与にきちんと反映されるという安心感や信頼感が、従業員のモチベーションの向上につながります。
権限と責任を与え適正な人事評価を行う
一人ひとりに対して責任と権限を与えることは、従業員のモチベーション向上のための一つの手段です。一段階上の責任権限を与えることにより、自発的な行動や積極性の促進につながります。
リスクを考えて簡単な仕事ばかり任せていては、責任感や自発性があまり育ちません。責任ある仕事を任せ結果が出れば、自己肯定感もアップし、さらにモチベーションとパフォーマンスのアップが期待できます。
社内コミュニケーションの活性化を図る
従業員同士のコミュニケーションが活発で風通しの良い職場環境も、リテンションマネジメントに効果的です。エン・ジャパン株式会社が行った調査によると、社内コミュニケーションの活性化は、リテンションマネジメントに効果的だという結果が出ています。円滑なコミュニケーションは、部署の垣根を越えた協力関係の構築にも期待できます。
参考:約7割の企業が、リテンションを積極的に取り組むと回答。―人事担当者向け 中途採用支援サイト『エン 人事のミカタ』アンケート―(エン・ジャパン株式会社)
挑戦できる職場環境づくり
従業員のキャリアプランを支援し、希望に合わせて異動を検討することや、定期的なジョブローテーションを行うこともリテンションマネジメントに効果的です。
長期間同じ業務に従事していると、新しいスキルを身につけたい、新しい環境でチャレンジしたいという願望が芽生える従業員もいます。従業員に挑戦できる環境を提供することも、リテンションマネジメントには重要な要素といえます。
ある程度経験を積みノウハウやスキルをもった人材を異動させることは、リスクと考えるかもしれません。しかし、一人ひとりのキャリアビジョンに対して柔軟な姿勢を示すことも、人材の長期確保に重要なポイントです。
新規人材採用が難しくなってきた近年、リテンションマネジメントの重要性はますます高まってきています。リテンションマネジメントの正解は一つではありません。また、他社で上手くいった方法が自社で上手くいくかといったら、必ずしもそうとはいえません。
リテンションマネジメントは、それぞれの企業や人材にあった適正なアプローチを積み重ねていく必要があります。試行錯誤を重ね、自社にあった方法を見極め、従業員に浸透させていくことを目指しましょう。
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執筆は2019年2月19日時点の情報を参照しています。
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