海外観光客を惹きつける、宿泊施設でのインバウンド対策。東京大会に備えよう!

訪日観光客数は近年右肩上がりで、日本の経済成長に大きく貢献しているといえる観光業。2018年には初めて3,000万人を突破、と6年前に比べて2,000万人ほど増加しており(※)、東京大会の開催が予定されている2021年には、さらなる訪日観光客数の拡大が予想されています。

日本を旅行先に選ぶ外国人が年々増加するなか、ビジネスにとってますます重要となるのがインバウンド対策です。今回は宿泊施設に焦点を当てて、訪日観光客の宿泊者に快適な時間を過ごしてもらえるよう準備しておきたいことと、キャンセルやチャージバックを防止する方法を紹介します。

インバウンド訪日外国人動向(JTB総合研究所)より

訪日観光客に快適な宿泊体験を提供するには

観光庁が2017年に発表している、多言語対応に対する訪日観光客のアンケート調査データを見てみると、実は宿泊施設は観光庁が焦点を当てた五つの場所(※)のうち、困ったと感じる訪日観光客が最も少ない場所とされています。

※鉄道駅、城郭・神社・仏閣、飲食店、小売店、宿泊施設

他の場所と比べると言葉の壁に苦労する旅行客は少ないなかで、訪日観光客が「困った」と感じるのはどのような場面なのでしょうか。上位を占める4つの困りごとは、以下の通りです。

1位 チェックインの際(33.5%)
2位 日本独特のもの(大浴場など)の説明を受ける際(32.4%)
3位 周辺の観光情報を尋ねる際(29.5%)
4位 部屋の使用方法の説明を受ける際(22.5%)

参考:「訪日外国人旅行者の受入環境整備における 国内の多言語対応に関するアンケート」結果(観光庁)

以上の結果を踏まえて、訪日観光客がより快適に寝泊まりできる空間づくりへのアイデアを紹介します。

1. フロントでは、指差しシートを活用する

前述の調査によれば、訪日観光客が最もコミュニケーションにおいて苦労しているのはチェックインです。外国語が得意な従業員がいない場合でも、意思疎通を行なえるよう用意しておきたいのが、指差しシートです。また、同調査では、アンケート回答者の大多数が訪日観光客に最も必要だと思うコミュニケーションツールとして、指差し会話シートを挙げていました。

参考:「訪日外国人旅行者の受入環境整備における 国内の多言語対応に関するアンケート」結果(観光庁)

たとえば玄関では靴を脱ぐことや、浴衣を着て外出しないなど簡単なルールの説明には、この指差しシートが実用的です。最近ではオリジナルの指差しシートを作成してくれるサービスも誕生しているので、このようなサービスを用いて指差しシートを作成すると、チェックインも円滑に進むかもしれません。また、青森市役所のウェブサイトでは無料でダウンロードできる指差しシートが提供されており、東京都生活衛生営業指導センターが発行している訪日観光客用マニュアルにも指差しシートが含まれています。まずは無料で提供されているリソースを役立ててみてはいかがでしょうか。

参考:
外国語コミュニケーションシート(指差しコミュニケーションシート)(青森市役所)
外国人観光客対応ツール活用マニュアル(公益財団法人 東京都生活衛生営業指導センター)

2. 宿泊部屋には、多言語のマニュアルを用意する

たくさんの観光スポットを巡り、疲れた足を休めようと宿泊施設にチェックイン。部屋の鍵を渡されたはいいものの、部屋に到着するとエアコンのつけかたも浴衣の着方もわからず、途方に暮れる……なかにはこのような訪日外国人もいるかもしれません。

部屋のなかで遭遇する困りごとを減らすためには、マニュアルを用意しておくといいでしょう。マニュアルに入れる事項には、下記が挙げられます。

・温泉の入り方(入浴時間も記載しましょう)
・浴衣の着方
・エアコンやTVのリモコンの使い方
・食事の時間
など

前述の調査からは、日本独特のものの説明を受ける際に言語的障壁を感じる人が多い、という結果が出ています。特に温泉や浴衣などについては、口頭で説明するよりもマニュアルで細かく説明したほうが訪日観光客にとってもわかりやすいかもしれません。イラストなどを加えると、わかりやすさも増します。

マニュアルの多言語化には、翻訳サービスを活用するという手があります。なかには1文字5円から行ない、70カ国語以上に対応している「Gengo」や、ホテル・旅館のサービスに特化した「Prime Concept」などがあるので、予算と相談しながら作成してみてはいかがでしょうか。

3. 周辺の観光マップを作成する

宿泊先の周辺にある代表的な観光スポットや地元の人が足しげく通うスポットなど、好奇心本位で聞いてはみるものの、母国語がうまく日本の従業員に通じない……というのは、訪日観光客がよくぶつかる壁のようです。場合によっては意思疎通に時間がかかってしまい、他の宿泊者をお待たせしてしまうこともあるかもしれません。

従業員の業務を効率化し、訪日観光客が求める情報を瞬時に届けられるよう多言語の観光マップを用意してみてはいかがでしょうか。たとえば新宿のかどやホテルでは、従業員が実際に足を運んだ場所を多言語で紹介したマップをロビーに置いているそうです。このようにマップを用意し、宿泊者の旅程に予想外の展開を加えてみてはいかがでしょうか。

また、上記3つ以外で、以下にも対応すると宿泊の満足度も一層向上するでしょう。

1. 食事にはできる限り柔軟に対応する

宿泊施設で食事を提供する場合は、肉や魚介を食べないベジタリアンや、動物性の食材を一切食べないヴィーガン、アレルギーや宗教上の理由などによる食事制限に柔軟に対応できるメニューを用意しておくのも一つの案です。

日本ではあまり馴染み深くありませんが、欧米では「ベジタリアンコーナー」を設けているスーパーや、「ベジタリアン・ビーガンメニュー」が用意されている飲食店も少なくありません。全ての要望に応えるのは難しいかもしれませんが、対応する範囲を広めるだけでも、より多くの宿泊客の希望に寄り添えるでしょう。

2. さまざまな宗教やセクシュアリティにもオープンに対応する

訪日観光客が増加すると同時に、さまざまな宗教や人種、セクシュアリティへの配慮も重要になるでしょう。

たとえば近年、日本では訪日ムスリム観光客が増加しています。Mastercard Asia PacificとCrescent Ratingが2017年に発表している資料によると、2004年に日本を訪れたムスリム観光客は15万人だったところ、2016年には70万人まで増えており、2020年には140万人にまで増加することが予想されています。このような流れもあり、最近ではムスリムの宿泊者が使用できる礼拝所や、ハラル料理を提供する宿泊施設も少しずつ増えてきているようです。

参考:Japan Muslim Travel Index(Mastercard Asia Pacific, Crescent Rating)

また、どんな宿泊者にも分け隔てなく接客するためには、多様化するセクシュアリティにもオープンな姿勢を持つことが大切です。Lesbian(女性同性愛者), Gay(男性同性愛者), Bisexual(両性愛者), Transgender(性別越境者)の頭文字をとった「LGBT」が性的少数者を表す総称であることをご存知の人も多いでしょう。しかしながら最近ではセクシュアリティも多様化しており、Facebookの性別欄では71種類もの選択肢から自分の性別を選べるようになりました。

さまざまなセクシュアリティや宗教に対してオープンな姿勢を持つホテルを目指すうえで、従業員間で正しい理解を共有できるよう、社内研修を実施することをおすすめします。

参考:Facebook’s 71 gender options come to UK users(2014年6月27日、The Telegraph)

当日キャンセルやチャージバックを防止するには

宿泊施設の経営者がよく頭を悩ませるのは、チャージバックです。ここでチャージバックが発生する仕組みを今一度振り返りましょう。

・「支払った覚えがない」(クレジットカードの盗難や情報漏えいによる不正利用の疑い)
・「支払いを完了したにも関わらず、商品が送られてこない、サービスを受け取っていない」
・「商品が破損していた」「サービスの内容が異なった」

上記のような理由で、クレジットカードの保有者が支払いに対して異議を申し立てることがあります。異議が認められた場合、支払われた金額はカード保有者に返金されます。事業者は売り上げからその分の金額を返金することになるので、チャージバックの発生はなるべく避けたいものです。

宿泊施設では、事前に予約をすると同時に決済を済ませる宿泊客予約者も少なくないでしょう。直前にキャンセルがあったときには、事前に受け取った宿泊代金からキャンセル料金を差し引いて返金するこという施設もあります。さまざまな国から観光客が訪れることから、普段見たことのないクレジットカードを受け付けることも少なくありません。

このことから、偽装されたカードを受け付けてしまう、お客様がキャンセルポリシーを知らずキャンセル料金を支払いのタイミングとサービスを受けるタイミングにズレが生じ、「支払った覚えがない」とするケースも珍しくなく、宿泊施設ではチャージバックが比較的起きやすいようです。最終決定を下すクレジットカード会社にチャージバックが承認されてしまうと、事業者主が返金義務を負うこととなるため、対策には最善を尽くすことが必要不可欠でしょう。

チャージバックに加えて、もう一つ注意したいのが直前のキャンセルやノーショウです。せっかく用意していた部屋や食事をムダにしてしまうような事態は、できる限り避けたいところでしょう。

このようなトラブルを未然に防ぐためにも、以下4つの処置を参考にしてみてください。

1. 安全な決済サービスを使う

チェックイン・チェックアウト時にカード決済を受け付ける際には、ICチップを読み込む決済端末を使いましょう。クレジットカードの裏側についている磁気テープよりもICチップの方が安全性が高く、日本を含め各国でICチップを搭載したカードの普及が進んでいます。もし、磁気テープしか読み取れない決済端末を利用しているなら、なるべく早めにICチップ対応の決済端末に変えましょう。Squareなら、EMV(ICカードの国際標準規格)に準拠した専用のICカードリーダー(Square Reader)を7,980円(税込)で購入することができます。クレジットカードだけでなく、電子マネー決済を受け付けることも可能です。

オンラインで宿泊費用の支払いを受けるときも、セキュリティーコードや3Dセキュア認証を導入するなど、トラブルを防止するためにも安全には気を配りましょう。

2. キャンセルポリシーは多言語で記載

ご予約時に、お客様にキャンセルポリシーを提示し、同意してもらう必要があります。その際に「日本語でしか記載されておらず、読めなかった」などを理由にキャンセルポリシーが無効にならないよう、文言を必ず多言語で明記するようにしましょう。また、チャージバックを防ぐためには、お客様がキャンセルポリシーに必ず目を通すように工夫をしましょう。電話での予約なら電話口で説明をする、オンラインでの予約ならウェブサイト上にチェックボックスを設ける、メールで予約確認をする際にキャンセルポリシーを載せるなど、決済異議申し立てのリスクを最小限に抑えましょう。

3. 請求書にもキャンセルポリシーを記載

キャンセル防止には、事前決済を条件とするのも一つの手でしょう。一定の期間を過ぎてからキャンセルを希望された場合、キャンセル料金を差し引いた額を返金するシステムを設け、必ず証拠となるようその旨を記載したメールを予約者に送信しましょう。そのうえ、宿泊日を過ぎてからキャンセル料金を指定の口座に入金してもらうよりも、いただいた額からキャンセル代金を差し引くほうが流れもスムーズでしょう。

たとえば請求書などで事前決済をお願いする場合は、請求書にも必ずキャンセルポリシーを記載しましょう。また、請求書のメッセージ欄には、キャンセルポリシーに同意したうえで支払いを完了するよう、記入しましょう。海外からのお客様に請求書を送る場合は、いずれも多言語で表記されていることが大切です。

Squareであれば、アカウントを作成すると、請求書が無料で作成・送信できます。キャンセルポリシーはメッセージ欄に記入しましょう。

支払いのやり取りを証明できるレシートやメールは一定の期間、必ず保管しておきましょう。支払いの証明となるものについては「異議申し立てを避けるには」でも紹介しているので、参考にしてみてください。レシートの詳しい保管期間は、税理士など会計士に相談しましょう。

4, ドタキャン対策で宿泊前日にリマインドのメールをする

数カ月前に予約を完了させている宿泊者のなかには、急に都合が悪くなってしまったり、体調を崩してしまったりし、そのまま宿泊先へキャンセルの連絡ができていない人もいるかもしれません。

宿泊施設の経営者を悩ませるノーショウを防ぐためには、予約時に宿泊者のメールアドレスをもらい、事前に必ずリマインドメールを送信しましょう。このときも英語や中国語など、相手の言語に合わせた内容を送信できるとベターです。

たとえばRESERVA予約などの予約システムには、前日のリマインダーメールはもちろんのこと、予約完了後の受付メールや宿泊後のお礼メールなど、テンプレートを作成しておけば自動で配信してくれる機能がついているので、ノーショウ防止にはこのようなサービスを味方につけるのも一つの手でしょう。

異議申し立てを避ける方法はこちらで、ホテル/宿泊施設におけるチャージバックについてはこちらでも詳しく説明しているのでご参照ください。

近年の訪日観光客の増加に伴い、集客をするうえでもリピーターを増やすうえでも欠かせないインバウンド対策。宿泊施設では、訪日観光客に快適な時間を過ごしてもらうための施策はもちろんのこと、せっかく用意した部屋や食事をムダにしないためにも、当日キャンセルやチャージバックの防止策は取り入れておきたいところです。上記の提案を参考に、インバウンド対策を少しずつ形にしてみてはいかがでしょうか。

▶︎▶︎▶︎地方自治体ができるインバウンド対策

(1)飲食店ができるインバウンド対策
(2)小売店ができるインバウンド対策
(3)宿泊施設ができるインバウンド対策
(4)地方自治体ができるインバウンド対策

執筆は2019年10月29日時点の情報を参照しています。2020年4月1日、2020年8月4日に一部内容を更新しています。
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