終身雇用をベースとした経済とは真逆のスタイルともいえる、ギグエコノミーが日本でもじわじわと広まりつつあります。新しい働き方ともいえるギグエコノミーとは、社会にどんな影響を与えているのでしょうか。
ギグエコノミーを実践する企業の例や、実際に「ギグワーカー」として働く際のメリットやデメリットなどを解説します。
ギグエコノミーとは?
長期的・継続的でなく単発の仕事を中心とした経済あるいは働き方を、ギグエコノミーと呼びます。従来、企業は雇用した従業員ができるだけ長く働くことを前提として仕事を進めてきましたが、ギグエコノミーでは企業はフリーランスワーカーに仕事を発注するというスタイルが中心となります。フリーランスワーカーの働き方は専業・副業を問わず、案件に対してのプロフェッショナル性が重視されることになります。
「ギグ」とは元々、ジャズなどの音楽ライブの1回だけの公演を指す言葉です。現代では、ワンオフの演奏のように単発の仕事を中心に独立して働くフリーランスや契約で仕事をする人を、ギグワーカーと呼ぶこともあります。多くのギグワーカーは、インターネットを介して仕事を得ていることも特徴で、フレキシブルな働き方に注目が集まっています。
ギグエコノミーの興味深いポイントは、企業側だけでなく、ワーカー、そして経済の在り方にも変化をもたらすというところです。
海外と日本のギグエコノミー
ギグエコノミーという言葉が使われ始めた時期は明らかではありませんが、まだその言葉が広まるより早く、2012年からアメリカのバブソン大学ではギグエコノミーのMBA講座が開講されていました。同講座で講師を務めていたダイアン・マルケイ氏は、ギグエコノミーのパイオニアとして知られ、著書「ギグ・エコノミー」(日経BP社)が日本語でも刊行されています。
同書によると、ギグエコノミーのワーカーには、フリーランスだけでなくパートタイムなども含まれることがあり、フルタイム(※日本でいう正社員のような保障の多い雇用形態)の労働者にはない働き方の柔軟性や自由度の高さが特徴として挙げられています。
海外でギグワーカー向けの仕事を紹介するウェブサイト「Gigworker」は、「2021年までに、伝統的な働き方の労働者より、ギグワーカーの数が上回るようになるだろう」という見通しを明らかにしています。同サイトには、犬の世話代行や民泊から、在宅でできるセールスやマーケティングの仕事まで、ギグエコノミーのさまざまな単発の仕事が紹介されています。
参考:「ギグ・エコノミー」で人生を変えよう(日経ビジネス)
The History and Future of the Gig Economy(Gigworker)
ギグエコノミーをより理解する三つのキーワード
ギグエコノミーの概念を確実に理解するために、フリーランスワーカー、副業、シェアリングエコノミーという三つのキーワードとギグエコノミーの関係を考えてみましょう。
フリーランスワーカー(個人事業主)の働き方は、ギグエコノミーの仕組みと密接な関係があります。フリーランスワーカーが単発の仕事を獲得できる背景には、仕事を発注したいと考える企業や個人の存在があり、双方にとってメリットがある状態です。フリーランスの自由かつ柔軟性のある働き方と能力が、ギグエコノミーの時代に求められています。
また、副業も、ギグエコノミーを担う重要な働き方の一つです。たとえば、特殊な技能を持っている人が、本業を持っているからといって自身の技能を活用しなければ、その技能を求める企業や個人は仕事を発注する相手がいない、つまり事業が立ち行かないということにもなりかねません。フリーランスや副業など、伝統的な正社員と違う働き方をする人は、ギグエコノミーを支えているといえます。
シェアリングエコノミーは、使っていないスペースや車などを個人が貸し借りすることでお金が発生するという経済のスタイルです。これを別の角度から見ると、スペースや車を貸し出す人はフリーランスや副業としてギグエコノミーの一部を担っていることがわかります。つまりシェアリングエコノミーは、ギグエコノミーの一側面であり、モノに焦点を当てた考え方ということです。
日本にあるギグエコノミーの代表的な企業
日本でギグエコノミーの仕組みによって運営されている企業にはAirbnb(エアビーアンドビー)やUber Eats(ウーバーイーツ)などがよく知られています。
Airbnbは、家の空き部屋を宿として有料で貸し出すサービスです。家のオーナーはAirbnbに利用登録をすることで、同社のウェブサイトやアプリを通じて、旅行者などの短期滞在者に部屋をレンタルすることができます。家のオーナーが他に本業を持っていても、副業としてAirbnbをやることも可能です。
Uber Eatsは、近年急成長を遂げている料理の配達サービスです。従来、料理の配達というと店舗が自前で配達スタッフやバイクなどを確保していることが前提でしたが、そうした準備のない飲食店でもUber Eatsと契約することで配達が可能になりました。Uber Eatsは配達スタッフを雇用するのではなく、配達をする個人事業者と契約することでフレキシブルな事業を可能にしています。個人事業者は、フリーランスでも副業でも問題ありません。
つまり、AirbnbもUber Eatsも、ギグエコノミーやギグワーカーを前提として運営されているサービスです。
ギグエコノミーのメリット・デメリット
今後も拡大が予想されるギグエコノミーですが、現時点でのメリットとデメリットについて、企業側と労働者の両者の立場から考えてみましょう。
企業のメリット・デメリット
ギグワーカーと契約することで、企業(店舗)側には以下のようなメリットがあります。
- 人件費・福利厚生費などのコスト削減
- 採用にかけるコストの削減
- 人材育成にかける時間の削減
- 質の高いギグワーカーを選んで契約できる
一方、ギグエコノミーならではの企業側のデメリットも存在します。
- ギグワーカーの質によりサービスの質が左右される
- ギグワーカーの確保ができないとビジネスが運営できない
- 他社のギグワーカーへの報酬が自社に影響する
良い点と悪い点の双方を見てみると、正規雇用をしないことで削減できたコストの分を、良質なギグワーカーへの特別手当とするなどして、優れたワーカーの確保に務める必要がありそうです。ギグワーカーの能力に応じた報酬制度など、健全な仕組み作りが課題といえそうです。
労働者のメリット・デメリット
ギグエコノミーにおける労働者(ギグワーカー)には、以下のようなメリットがあります。
- 働く時間、日程を自分で決められる
- 家庭や本業などの事情を考慮した働き方ができる
- 個々の価値を売り込みやすい
メリットもある一方、デメリットとして気になるのが以下のような「安定性」の問題です。
- 収入が安定しない
- ボーナス、年次有給休暇などがない
- けがや病気の際の保障がない
こうした状況を受け、ギグエコノミーの広がりに伴い、フリーランスワーカー向けの民間医療保険なども登場してきています。さらに、Uber Eatsのように「傷害補償制度」を設けて、ギグワーカーがけがをした際に企業が見舞金を支払うなど制度の整備も進んでいます。
参考:Uber Eats、事故に遭った配達員に「見舞金」 「労災保険ない」反発の声に対応(2019年9月30日、IT Mediaニュース)
企業側のコスト面のメリットは商品やサービスの料金として消費者にも還元される可能性があり、たくさんの正社員を抱える企業が一般的だった時代と比較して、ギグエコノミーは消費社会の形を少しずつ変えていく可能性を秘めています。隙間の時間を有効活用して新しい仕事に挑戦したい人や、独立してフリーランスとして自分の能力生かしたい人にとって、チャンスの多い、オープンな時代がやってきたといえるでしょう。
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執筆は2020年3月31日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash*