2018年1月より、改正職業安定法が施行されました。この改正における変更点は、人材募集を行う企業にとって対応すべき事項が多く含まれているのが特徴です。
適切な採用を行うためにも、経営者が職業安定法の改正内容を理解しておくことは重要です。ここでは、職業安定法改正の背景や、具体的な変更点、そして採用活動を行う上での注意点について解説します。
職業安定法とは
まずは、「職業安定法」について説明します。
職業安定法(職安法)は、個々人の能力にふさわしい就職の機会を与えられ、そのことで企業が必要な労働力を確保できる状況にすることで、職業の安定と経済の活性化をはかるために制定されました。
もう少しかみ砕いて表すと、求人や職業紹介のルールについて定めた法律で、労働者を雇用する企業全てに関係のある法律です。
改正の背景
2018年1月から、改正職業安定法が施行されました。この改正は、「求人の出し方」に関する変更点を多く含んでいるため、労働者の雇用予定がある経営者は内容を理解しておく必要があります。
今回の改正は、以下の社会的背景にもとづくものとされています。(東京労働局の「改正職業安定法説明会」資料より引用)
社会経済の変化に伴い、職業紹介事業や募集情報等提供事業者等、求職者や求人者が利用する事業の多様化が進む中、求職者等が不利益を被るなどの不適切な事案に対して的確に対応していくことはもとより、求職と求人のより適切かつ円滑なマッチングを進めていくことも求められる。(東京労働局「改正職業安定法説明会」資料より引用)
いわゆる「ブラック求人」に悩まされる労働者が多いこと、求人媒体の多様化に適切に対応する必要があることなどが背景にあります。この背景を理解しておくと、以下で説明する変更点の把握がスムーズに進みます。
職業安定法改正の変更点・注意点
ここからは、企業が求人を行う際に気をつけなければならない改正点について具体的に説明します。
1. 求人募集中に労働条件が変更された場合の速やかな明示
ハローワークなどへ求人の申し込みを行う際や、ウェブサイト上で採用を行う際には、労働契約締結までの間に労働条件を明示する必要があります。改正前から労働条件の明示は必須でしたが、今回の改正で、「当初明示した労働条件が変更される場合には、変更内容について速やかな明示が必要」という項目が追加されました。
変更内容の明示は、求職者にとって分かりやすく示す必要があります。望ましい方法は、「当初の明示と変更後の内容を対照できる書面を交付すること」です。必ずしも書面全体の再交付が必要という訳ではなく、変更事項が間違いなく伝われば良いとされています。「労働条件通知書で変更事項に下線を引く、着色する、脚注をつける」という方法をとることもできます。
変更明示が適切に行われなかった場合や、当初の明示が不適切だった場合は、行政による指導監督や罰則等の対象となる可能性があります。採用前のことだからと甘く考えずに、しっかり対応しましょう。
2. 最低限提示しなくてはならない労働条件の追加
労働条件の項目も見直され、明示すべき項目が追加されました。求人する際や労働契約締結の際には、次の内容を書面で交付し、求職者に明示しなくてはなりません。求職者が希望する場合には、電子メールなどでの送付も可能です。
労働条件の明示は、求職者と「最初に接触する時点」までに行うことが原則です。つまり、求人情報の開示と合わせてすべて明示すべきですが、求人票のスペースが不足しているなど、やむを得ない事情がある場合には、「詳細は面談時に」と記した上で条件の一部を別途明示することもできます。
従来も提示が必要だった項目
・業務内容
・契約期間
・就業場所
・勤務時間
・賃金
・保険の加入
改正で追加・拡充された項目
・試用期間:試用期間がある場合、具体的な期間を明示します。試用期間中に賃金を低く設定している場合など、本採用後と労働条件が違う場合は、その内容も明示する必要があります。
・裁量労働制の明記:裁量労働制を採用している場合、専門型・企画型のいずれに該当するか、何時間働いたものとみなされるかを明示します。
・固定残業代の明記:賃金において、時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する「固定残業代」を採用している場合、(1)手当を除いた基本給額と、(2)固定残業手当の金額と相当する時間、(3)(2)の時間を超えて労働した場合の割増賃金を払うことを明示します。
・募集者の氏名または名称:実際に労働者を雇用しようとしている者の氏名・名称を明示します。子会社やフランチャイズの募集など、実際の雇用主と募集を行う者が異なっている場合によるトラブルを防ぐためです。
・派遣労働者募集の明記:派遣会社が派遣労働者を募集する場合、雇用形態を「派遣労働者」と明示します。「正社員として働くつもりだったのに、他企業の派遣労働者として働くことになった」というトラブルを防ぎます。
3, 労働条件明示にあたって遵守すべき事項
労働条件を明示する際には、職業安定法に基づく以下の指針を遵守する必要があります。(厚生労働省のパンフレットより)
・明示する労働条件は、虚偽又は誇大な内容としてはなりません。
・有期労働契約が試用期間としての性質を持つ場合、試用期間となる有期労働契約期間中 の労働条件を明示しなければなりません。また、試用期間と本採用が一つの労働契約であっても、試用期間中の労働条件が本採用後の労働条件と異なる場合は、試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示しなければなりません。
・労働条件の水準、範囲等を可能な限り限定するよう配慮が必要です。
・労働条件は、職場環境を含め可能な限り具体的かつ詳細に明示するよう配慮が必要です。
・明示する労働条件が変更される可能性がある場合はその旨を明示し、実際に変更された 場合は速やかに知らせるよう、配慮が必要です。
職業安定法の改正によって、経営者としては注意すべき項目が増えて煩雑に思えるかもしれませんが、遵守することで雇用にまつわるトラブルの削減につながります。
労働者の募集を考えている経営者は、改正職業安定法の内容を理解した上で準備を進めましょう。
執筆は2019年10月18日時点の情報を参照しています。
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