個人でネットショップを開設する前に、かかる費用や必要な手続きなどの基礎知識を押さえておきましょう。ネットショップ開設に役立つサービス、販売許可、税制など、個人での開業だからこそ事前調査と準備は万全にしたいところです。ネットショップ単体の運営だけでなく、実店舗にプラスしてネットショップを開きたい個人事業主にも役立つ基礎知識を解説します。
目次
個人でネットショップを開業するための基礎知識
ネットショップはオンラインショップとも呼ばれ、インターネットを介して商品・サービスの売買を行うEコマース(EC)のお店を指します。ネットショップは実店舗と比べてコストが低く抑えられるため、個人でショップビジネスを始めたい人にとって魅力的な業態です。立地、時間、気候などの制約から離れて、幅広く各地のお客様をターゲットにできるのは、オンラインだからこそ味わえる個人ビジネスの醍醐味といえるでしょう。実店舗にネットショップを併設する場合は、共通の在庫や商品知識が使えることもメリットです。
ネットショップ出店にかかる費用
ネットショップは、個人か否かにかかわらず、無料で出店することも可能です。
出店方法については、オンラインショッピングモールのような大型サイト内にネットショップを出店する、またはネットショップ作成サービスを利用して出店する場合、無料プランのほか、数千円から数十万円の初期費用の有料プランもあります。ネットショップを個人で用意する場合は、ウェブ構築、ドメイン、サーバー利用などの費用を考える必要があります。個人でウェブ構築が難しい場合はプロに頼むことになり、少なく見積もっても数十万円ほどの費用がかかります。また、ネットショップの出店に際しては、仕入れ、在庫保管場所、納品書や宛名を印刷するプリンター、梱包資材、事務用品などの費用も発生します。
モール型とASP型(有料・無料)の違い
個人でネットショップを開業する場合、一からウェブサイトを構築するより、既存の出店サービスを活用する方法が便利です。特に、モール型またはASP(アプリケーションサービスプロバイダ)型のサービスなら、セキュリティー面の安心感も高く、個人でも少ない手間でネットショップを開設できます。個人での出店では、コストと機能のバランスも特にシビアにチェックすると良いでしょう。
モール型 | ASP型(有料) | ASP型(無料) | |
---|---|---|---|
概要 | 大型ショッピングモールのような、ネットショップの複合サイト内に出店する。 | ネットショップの開設・運営に必要なシステムを借りて、インターネット上に出店する。 | ネットショップの開設・運営に必要なシステムを借りて、インターネット上に出店する。 |
例 | 楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングなど | BASE、Squareなど | STORES、MakeShop、Shopifyなど |
独自ドメイン | 利用不可 | 利用可 | 一部で利用可 |
ウェブデザイン | 自由度が低い | 自由度が高い | 自由度が高いが、ページ数などに制約のある場合も |
価格競争 | 起きやすい | 起きにくい | 起きにくい |
集客 | ・モール自体にアクセスが多く、顧客が流入しやすい ・共通セールやキャンペーンに参加できる |
・モール型より集客努力が必要 ・独自にセールやキャンペーンを企画し、宣伝する必要がある |
・モール型より集客努力が必要 ・独自にセールやキャンペーンを企画し、宣伝する必要がある |
月額費用(決済手数料別) | 〜約10万円 | 〜約1万円 | 0円 |
モール型とASP型にはそれぞれ長所・短所があり、集客力を重視するならモール型、ページデザインやブランディングの自由度を重視するならASP型、といったようにネットショップの商材やマーケティング施策の方針に合わせて選ぶと良いでしょう。
ネットショップを開業するための七つのフロー
個人で開業する場合も、ネットショップの成功には入念な下調べや準備が不可欠です。次のフローにしたがって、ネットショップ開業を実現しましょう。
1. 事業計画を立てる
ネットショップのコンセプト、ターゲット、商品、ブランディング方針など、まずはビジネスの柱となる部分をしっかり計画することで、ネットショップの成功確率を高めます。個人の好みや思いつきでなく、市場やトレンドについて丁寧なリサーチを重ねて計画をまとめることが重要です。
屋号(ネットショップ名)、ウェブデザインのイメージやショップロゴ、イメージカラーなども、コンセプトやターゲットに合うものを考えましょう。
2. 商品の仕入れ方法を検討する
ネットショップで販売する商品やその方向性が固まったら、仕入れ先を調べます。品質、発注から納品までの日数、入荷の最小ロットなどのほか、個人ビジネスの規模でも卸してもらえるかといった点まで、問い合わせて確認しましょう。個人による手作りアイテムを仕入れるなら、製作スケジュールや材料の安定調達についても確認が必要です。
3. 必要な届け出の実施、販売許可を取得する
ネットショップを始める以上、個人でも「法律を知らなかった」では済まされません。ネットショップで販売する商品が以下に該当する場合は、営業許可や届け出が必要になることがあります。
- 中古品……古物商許可
- 食品……営業許可
- 輸入食品……検疫所への輸入届出、食品表示の日本語表記
- 酒類……通信販売酒類小売業免許
- 自作の化粧品……化粧品製造販売業許可、化粧品製造業許可
他のジャンルの商品についても、必ず調べて、知らずに法律に違反することがないよう注意しましょう。
参考:ネットショップでの販売に必要な許可とは。届出先から申請方法までをご紹介
4. 出店方法(モール型、ASP型)を決める
ネットショップの事業計画が明確であると、商品ジャンルやブランディング方針により、適した出店方法を判断しやすくなります。初期費用と月額固定費はかかるが集客に強いモール型か、費用が比較的安価でブランディングの自由度が高い有料ASP型か、商品ページ数などの制約があっても初期費用と月額固定費ゼロの無料ASP型か。最終的には運営のしやすさなど、経営者個人の趣向も含めて判断します。
5. 決済方法や配送方法を決める
銀行振り込み、コンビニエンスストア決済、クレジットカード決済、電子マネー決済など、ネットショップの決済方法はさまざまです。事業計画で定めたターゲットが、どの支払い方法と親和性があるか、リサーチに加え、お客様個人を想像しながら考えてみましょう。ASP型の出店の場合は、あらかじめ決済方法が決められている場合もあります。
ネットショップからお客様への配送についても、利用する配送事業者のサービスを事前に決めておく必要があります。配送料金は、商品価格の設定にも影響を及ぼします。配送事業者によっては、個人でも集荷サービスや割引料金のある配送契約を交わすこともできます。
6. ネットショップのシステムをつくる
いよいよ実際にネットショップを開設するプロセスの始まりです。この段階で、ネットショップ名、サイトのURLなどを決定する必要があります。トップページ、商品ページ、問い合わせページなど、競合ネットショップを参考にするのも良い方法です。といっても、モール型やASP型であれば、用意されたフォーマットやテンプレートから必要な要素を選択することでネットショップが完成するため、初めて個人で出店する人でもさほど難しくはありません。
ページの背景色、文字色、ロゴ画像など、判断に迷うときは、事業計画に沿ってコンセプトを体現することを考えましょう。トップページに載せるインパクトのある高画質の写真、ネットショップの説明、商品写真、商品説明など、掲載するコンテンツも必要となります。個人で作り上げたコンテンツを、身近な人に客観的にチェックしてもらうことも有効です。
7. 開業届の提出
新規事業の立ち上げを税務署に届け出る「開業届」は、罰則はないものの、個人事業主であることを公的に証明し、屋号入りの銀行口座開設や事業者向けの卸売りサイトの会員登録などに必要です。ネットショップの開店に合わせて出すと良いでしょう。
参考:開業届はネットショップ開始に必須?提出のメリットや手続き方法を解説
個人でネットショップを開業する際の注意点
特定商取引法に基づく表記
特定商取引法では、代金の支払時期・方法、商品の引き渡し時期、販売者の氏名・電話番号など、ネットショップに記載すべき事項を定めています。詳しくは特定商取引法ガイドに記載されているので、参考にしながらネットショップに必要な事項を表記しましょう。
また、特定商取引法の改正により、2022年6月1日からはお客様が購入を確定する前の画面に以下の項目を記載し、簡単に確認できるようにすることが求められています。加えて、期間を限定して販売する商品に関しては、商品名にも申込期間の記載が必要です。
- 分量
- 販売価格・対価
- 支払の時期・方法
- 引渡・提供時期
- 申込の撤回、解除に関すること
- 申込期間(期限のある場合)
参考:令和3年特定商取引法・預託法の改正について(消費者庁)
連絡先を明確にする
電話は前述の特定商取引法に基づく表記だけでなく、仕入れや配送などの取引先との連絡にも使います。固定電話番号をビジネス用に用意することが理想的ですが、個人ビジネスの規模に見合わないコストの発生も考えられます。その場合、インターネット経由で使うIP電話の番号を取得し、問い合わせに使う方法もあります。
また、Eメールも個人のプライベート用のアドレスではなく、ネットショップ専用のメールアドレスを取得して使用します。コストを抑えたい場合は無料アカウント、ネットショップの事業継続と拡大を見据えるなら利便性の高い有料アカウントの作成を検討しましょう。ネットショップの専用LINEアカウントも、個人用とは別に用意しておくと便利です。
迅速に発送する
お客様は、ネットショップが提示する到着日程や配送期間に納得した上で商品を購入しています。迅速な発送を心がけることが一番ですが、個人でネットショップを運営する場合、受注数が多ければ発送に時間がかかることも考えられます。常に迅速な発送が難しい場合や、悪天候で配送遅延が発生する時期などは、あらかじめ余裕を持った日程を明記しておきましょう。
収支を正確に計算する
個人ビジネスであっても、ネットショップの仕事はただ商品を仕入れて売ることだけではありません。仕入れ、備品や固定支出の費用、売り上げ、損失など、全てを記録しておき、最終的にいくら利益が出たかを明らかにする収支計算もネットショップのビジネスの一部です。
ネットショップ開店前に、売り上げ管理表(仕入れ台帳)を作り、収支を1円単位で毎日記入すれば、売れ筋の商品や受注の多い日などの情報は、マーケティング施策の決定にも役立ちます。エクセル用の無料テンプレートなどを活用すると、個人でも簡単に収支計算ができます。毎日収支を入力するのは大変そう……という場合には、売上データが自動で蓄積されたり、会計ソフトに取り込めたりするようなネットショップ作成サービスを利用するにも一つの方法です。
輸入関税にも注意する
海外から商品を仕入れてネットショップで販売する場合、忘れてはいけないのが輸入関税の存在です。輸入関税の原則は以下の通りです。
- 課税価格(課税対象額)とは、海外商品価格+国際配送料+保険料+その他手数料の合計
- 課税価格が1万円以内なら、関税と消費税はかからない(ただし、革製品、手袋・靴、ニット衣類などは免税の対象外)
- 課税価格が20万円以下(少額輸入貨物)なら簡易税率、20万円を超える場合は一般税率が適用
小額輸入貨物と呼ばれる総額20万円以下の輸入には、たとえば、コーヒーは15%、プラスチック製品は3%など、品目ごとに定められた簡易税率が適用されます(一部例外品目あり)。
参考:小口輸入と関税(一般財団法人対日貿易投資交流促進協会)
税金の申告も忘れずに
個人事業主として開業届を出しているネットショップ経営者なら、事業所得として確定申告を行います。これは、実店舗とネットショップなど複数の事業を営む個人事業主にも共通です。開業届を出さずに、会社員として給与収入を得る傍ら副業としてネットショップを運営しているケースでは、ネットショップの利益の年20万円を超えた分を、個人で雑所得として確定申告します。
このように、一つひとつのステップをクリアしていけば、個人でもネットショップを開業できます。成功するネットショップ運営のために、個人であることのフットワークの軽さを生かし、リサーチを重ねながら出店準備を進めていきましょう。
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執筆は2021年8月11日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に一部情報を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash