インバウンド補助金とは?対象事業・受け取れる金額を解説

インバウンドの需要は、コロナ禍で一時的に減少したものの、2022年10月に行われた大幅な水際対策緩和以来、堅調に回復してきています。2023年5月末には、さらなるテコ入れを図るため、観光立国推進閣僚会議において「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」が決定されました。今後は、新たなビジネス・インバウンド市場を創出する施策の展開が予想されます。

本記事では、インバウンド事業をより効果的に展開するために用意されている補助金制度についての概要を解説するとともに、現在発表されている補助金の対象事業や金額などの具体例を紹介します。また併せて、事例や、インバウンド施策の取り組みのヒントとして聖地巡礼を取り上げます。

目次


インバウンド補助金とは

はじめに、インバウンド補助金とはどのようなものか、概要とメリットをみていきましょう。

インバウンド補助金とは

インバウンド補助金は、外国からの旅行者が観光するための環境を整えてインバウンド(訪日外国人の消費)需要を拡大させるために設けられた制度です。

補助金は、国や地方公共団体が事業者などを支援するための制度で、目的に合わせて募集が行われ、対象事業や対象者、金額などの基準が設けられています。申請は事業の開始前に行い、費用はいったん自己負担した後、事業の完了後に必要書類などを提出し、補助金を受け取るという流れになります。ある程度の余裕をもった資金計画を立てる必要があるでしょう。

また補助金は融資とは異なり、目的に沿った利用をしている限り原則として返済する必要がないのが利点です。

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インバウンド施策がビジネスとして注目される理由

インバウンド施策は、コロナ禍で落ち込んだ国内の消費をV字回復させるための切り札として期待されています。

2023年6月に発表された「新時代のインバウンド拡大アクションプラン(以下、アクションプラン)」では、今後、コロナ禍で落ち込んだインバウンドをV字回復させ効果的に根付かせるための方策として、ビジネス分野40施策、教育・研究分野13施策、文化・スポーツ・自然分野25施策を主要な柱とした施策を展開していくとしています。

このアクションプランの展開により、これまでの訪日外国人旅行者へのもてなしをさらに発展させ、より多くの外国人が日本に来たくなる観光資源の磨き上げや、より長く滞在したくなるビジネス・教育・文化・自然体験などの交流の機会を増やすための施策が展開することが予測されます。

つまり、今までインバウンドとは無縁だと考えていた事業者にもビジネスチャンスが舞い込んでくる可能性が高まってきているといえそうです。補助金は、各省庁や自治体が強化したい施策に関連して創設されることが多いため、インバウンド補助金に注目しておくことで、競合に先んじた事業戦略を図る機会にも活用できるかもしれません。

参考:新時代のインバウンド拡大アクションプラン(首相官邸)

インバウンド補助金が展開する可能性のある事業

アクションプランでは、インバウンドの本格再開に備えた受け入れ機能の強化として、快適な旅行を満喫できる安心・安全な環境の整備支援、宿泊施設や観光施設などのサステナビリティの向上支援、移動時の対応支援などの取り組みを図るとしています。このため、今後は、以下のような事業が補助金の対象となる可能性があるといえるでしょう。

  • 翻訳機器の整備、案内板・パンフレットなどの多言語対応
  • キャッシュレス決済環境の整備
  • 体験型・ストーリー型のコンテンツ、ガイド
  • 地域を巡るツアー
  • 歴史・文化・自然などを取り込んだ施設の高付加価値化
  • 太陽光発電、省エネ設備(空調など)の導入
  • 施設やタクシーなどの移動手段のバリアフリー、サイクルトレインの導入など

参考:令和4年度 都道府県・指定都市文化行政主観部課長会議観光庁説明資料(観光庁)

インバウンド補助金の種類

次に、インバウンド補助金として具体的にどのようなものがあるのかをみていきましょう。本記事では、国の例として観光庁の補助金事業と、都道府県の例として東京都の補助金事業を取り上げます。

補助金は原則として年度単位で制度化されるものであり、募集期間が定められているため、タイミングによっては受付終了となっているものがあるかもしれません。ただし、重点施策の場合だと毎年度実施されることも多く、また年度途中であっても補正予算がついて追加募集が行われる場合もあります。定期的にウェブサイトなどで最新情報を確認しておくとよいでしょう。

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(1) インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業

「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」は、観光庁が、インバウンドの地方誘客や観光資源の拡大を促進するため支援するもので、一般型、販路基盤整備、高付加価値コンテンツ型の三つの取り組みが用意されています。2023年6月5日から7月7日にかけて2次募集が行われています。

一般型

  • 主な要件:地域に根ざしたツアー、アクティビティ、体験、イベントなど
  • 補助率:400万円まで定額、400万円を超える部分は1/2
  • 補助額:上限1,250万円
  • 事業費:下限600万円(補助額500万円)
  • 経費割合:コンテンツ造成は事業費の50%以上

インバウンド販売モデル構築型

  • 主な要件:過去の観光庁事業採択団体、販売モデル構築を実施する旅行商品の多言語化、情報発信の多言語化
  • 補助率:400万円まで定額、400万円を超える部分は1/2
  • 補助額:上限1,250万円
  • 事業費:下限600万円(補助額500万円)
  • 経費割合:コンテンツ造成は事業費の20%以上、備品・設備は25%以下

高付加価値コンテンツ型

  • 主な要件:新規性が高く特別なもの、事業期間内に販売を行うこと、規模1,000名以上のコンテンツ・イベント、一般的なものより単価が2倍以上となる高付加価値な取り組み
  • 補助率:400万円まで定額、400万円を超える部分は1/2
  • 補助額:上限1,250万円
  • 事業費:下限600万円(補助額500万円)
  • 経費割合:コンテンツ造成は事業費の50%以上

※上記三つの事業では、主に以下の経費が補助対象となります。

  • 観光コンテンツ、旅行商品などの企画開発
  • 名産品の企画開発
  • ワークショップ、協議会などの開催
  • 専門家からの意見聴取
  • ガイドの育成
  • 観光イベントの実施
  • 共通クーポン券の企画開発
  • 観光戦略の策定
  • 地域事業者や地域住民に対するセミナーの開催
  • 造成したコンテンツに関するモニターツアーの開催
  • インバウンド受入に係る他言語対応等における経費
    など

参考:令和5年度(令和4年度第2次補正予算)インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業(観光庁)

(2) インバウンド対応力強化支援補助金

「インバウンド対応力強化支援補助金」は、東京都および(公財)東京観光財団が実施するもので、都内の宿泊施設、飲食店や免税店、体験型施設などが受け入れ強化を行う取り組みを支援します。2023年度中を募集期間としていますが、補助金申請額が予算額に達すると期限を待たずに終了します。早めに確認しましょう。

  • 対象事業者:都内の旅館、飲食店、免税店、体験型コンテンツ提供施設、外国人旅行者の受け入れ対応に取り組む中小企業団体など
  • 対象事業:多言語対応、公衆無線LAN、キャッシュレス決済、トイレの洋式化、災害時の受け入れ対応、外国人用グルメサイトへの掲載など
  • 補助率:補助対象経費の1/2以内
  • 補助額:上限300万円(無線LAN設置の場合は別途条件あり)、グループ向けは上限1,000万円(対象事業により上限額が異なる)

参考:インバウンド対応力強化支援補助金(公益財団法人東京観光財団)

インバウンド施策を成功させた事例

ここからは、インバウンドへの取り組みのヒントとして、いくつかの企業が行っている実践例をみていきましょう。

京都市:観光情報の発信と集客

京都では、京都観光のオフィシャルサイト「京都観光Navi」により、観光情報の発信に力を入れています。日本語話者向けのサイトとは別に、英語、フランス語、中国語(簡体字、繁體字)、韓国語、スペイン語と多言語展開し、訪日外国人の関心に合わせて、見どころや食べ物、人との交流、交通や荷物預かり、非常時サポートなどの情報をわかりやすく紹介するほか、歴史探索や季節ごとの楽しみ方など目的別の案内も展開し、インバウンド需要の掘り起こしを図っています。

参考:京都観光Navi

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大手航空会社:外国人旅行者向けのサービス提供

渡航者の空の玄関口ともいえる航空会社でもインバウンド施策が進められています。

ANAでは、訪日外国人用のナビゲーションアプリによる情報提供を行っています。アプリでは、交通、お金、通信、食べ物、文化、買い物などのトピックやおすすめの旅程などが紹介されているほか、ルート検索や地図機能などの機能も充実しています。言語は、イタリア語、インドネシア語、スペイン語、タイ語、ドイツ語、フランス語、ベトナム語、ポルトガル語、ロシア語、簡体字中国語、繁体字中国語、英語、韓国語と、多言語展開しています(iPhone用の場合、2023年6月時点)。

参考:Japan Travel – 訪日外国人向けナビゲーション(App Store)

JALでは、航空券購入を支援するウェブサイトを15カ国語で展開し、さらに訪日外国人向けの情報サイトとして「Guide to Japan」を立ち上げ、飛行機の予約と共に、ウェルネス、食事、アート、買い物など、観光先での楽しみ方に関する情報提供を行っています。

参考:Guide to Japan(JAL)

インバウンド施策による聖地巡礼への取り組み

ここからは、インバウンドの取り組みをより効果的に展開するヒントとして「聖地巡礼」をみていきましょう。

インバウンド施策で聖地巡礼が注目される理由

聖地巡礼とは、映画やアニメ、マンガ、ゲームなどの舞台となった場所や、ゆかりのある場所など「聖地」と呼ばれる場所を訪問する行動を指します。ものがたりの世界観や登場人物の行動を追うことでより深く理解し、「今ここでしか味わえない特別感」を伴う感動体験ができるため、繰り返し訪れる熱心なファンも多いことで知られています。

ビジネス上では、ターゲット層が明確で集客しやすい、リピーター率が高い、長く滞在して聖地周辺の観光や飲食・宿泊を行う可能性も高いなどのメリットから、地域全体の経済活性化につながる観光コンテンツとして期待されています。

海外には、アニメやマンガ、ゲームなど、高い評価を受け、多くの人に愛されている日本の作品がいくつもあります。作品そのもののクオリティの高さや独創的な世界観だけでなく、それらの作品を通じて日本の文化や価値観にも魅力を感じている人も多くいます。

こうした海外の関心を高めて、日本の作品を実際の場所で追体験できる聖地巡礼を目的としたインバウンド施策は、訪日の目的が明確で消費行動も期待できる有効な取り組みとして、近年特に注目されています。

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インバウンド施策を聖地巡礼に応用した例

インバウンド施策として聖地巡礼をビジネス活用するには、滞在時の宿泊や飲食関係の受け入れを充実させるほか、世界観を共有できる情報発信や体験イベントの開催、記念に持ち帰ることのできる商品の販売などを、地域で総合的に行うことが重要となります。たとえば、以下のような取り組みを、地域全体で協力し合いながら進めるとよいでしょう。

  • 宿泊施設・飲食店の多言語化、宗教や食習慣に対応するメニューなどの開発
  • 聖地巡礼スタンプラリーなど、ツアーの企画・販売
  • 聖地巡礼のガイドブックやパンフレット、ウェブサイト、アプリの多言語化
  • SNSなどによる情報発信
  • 聖地や作品に関連する商品の開発・販売
  • 聖地での記念撮影など作品に関するサービスの開発・提供
  • 聖地や作品に関連するイベントの開催

インバウンド対策に欠かせないキャッシュレス対応にはSquare

インバウンド施策は観光庁(国土交通省)が主体となって展開していますが、経済産業省や環境省、厚生労働省なども分野に応じて取り組みを進めています。このため、自社に関連する省庁や所在地の都道府県については、常に情報を集め、いつでも活用できるよう、経営戦略の一つとして取り組みたいところです。

インバウンド施策は、訪日外国人に対し、少しでも多く訪問し、また長く滞在してもらうことで消費行動を喚起するのが目的であることから、対策の中心となるのは、多言語による情報提供と、安定した通信(Wifi)の提供、キャッシュレス決済が環境整備のポイントといえます。

特にキャッシュレス決済については、事前の両替の必要がない上、慣れない他国の貨幣での計算を強いられるストレスから解放されるとあって、キャッシュレスを希望する人が多いと考えてもよいでしょう。店舗の規模にかかわらず導入しておきたいところです。

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執筆は2023年6月20日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash