聖地巡礼を外国人観光客の集客に生かす方法とは

岐阜県・飛騨古川駅、神奈川県・鎌倉高校前駅の踏み切り、埼玉県・久喜市の鷺宮神社……アニメ好きであれば、これらがどれも国内外で人気を集めた日本アニメの舞台であることに、すぐ気がつくかもしれません。

アニメの世界観を存分に体験しようと、舞台の土地などを訪れる「アニメツーリズム(聖地巡礼)」は、国内外の観光客から注目されている旅行の楽しみかたです。旅行会社では聖地巡礼のツアーを組んだり、自治体では町おこしの一環として取り入れたりと、今では聖地巡礼は観光誘客の立派な切り口として活用されています。

今は比較的観光客が少ないところでも、大ヒットアニメの舞台となれば、国内外から大勢のファンが押し寄せてくるかもしれません。巡礼者の波がいつ来ても対応できるよう、この記事ではアニメツーリズムの実態や経済効果、アニメツーリズムに対応するためのインバウンド対策などを小売店や飲食店向けに紹介します。

📝この記事のポイント

  • アニメツーリズムは作品の舞台を訪れる旅行スタイルで、日本発祥ながら世界共通の文化
  • 1990年代から始まり、2016年の協会設立と「聖地88選」で体系化
  • 地域経済に大きな波及効果がある(例:岐阜253億円、鷲宮神社参拝者数3倍増)
  • インバウンド対策は必須(多言語表記・SNS発信・文化配慮)で、Squareのキャッシュレス決済やネットショップ機能を活用すれば来店・購買をさらに後押しできる
目次


アニメツーリズム(聖地巡礼)とは

アニメツーリズムとは、アニメやマンガ作品の舞台を訪れることで、「聖地巡礼」とも呼ばれています。アニメに実際に登場する場所のほかに、作家の記念館や縁のある街、作品に関連する博物館や建造物を訪れることもアニメツーリズムに含まれます。

聖地巡礼は日本独自の現象と思われがちですが、実際には「好きな作品の舞台を訪れる」という行動は世界共通です。韓国ではドラマやK-POP、アメリカでは映画やアニメーション、イギリスでは『ハリー・ポッター』など、各国で“コンテンツツーリズム”が盛んに行われています。日本のアニメツーリズムはその代表的な成功モデルといえるでしょう。

「コンテンツツーリズムは、マンガやアニメ、ドラマ、映画、ゲームといったポピュラー文化作品に導かれた旅行行動である」
– フィリップ・シートン教授、東京外国語大学12

アニメツーリズムの誕生

聖地巡礼のはじまりは、1992年にオリジナルビデオが発売されたSFアニメ「天地無用!」まで遡ることができます1。アニメに登場する場所を実際に見てみたいと、1994年頃から舞台である岡山県の太老神社にファンが訪れるようになったそうです。

YouTubeをはじめ、動画配信サービスの登場もアニメツーリズムの盛り上がりに貢献したようですが、体系化されはじめたのは、アニメツーリズム協会が設立された2016年以降だといえます。

本協会の最もよく知られている取り組みは、2018年から毎年発表されている「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」でしょう。その名の通り、アニメ愛好家が訪れてみたい聖地を選定する取り組みです。

88の聖地は国内外のファンによる投票をもとに、権利者や地方自治体と協議をしたうえで決まる、アニメ聖地の公式リストともいえます。選ばれた聖地はアニメツーリズム協会のページに掲載されているので、近くに聖地があるかどうかを参考までに見てみるといいでしょう。

また、聖地に選ばれると現地に御朱印スタンプが設置されるそうで、聖地巡りを促すことも、一つの狙いとしてあることがわかります。

アニメツーリズムのターゲット層

近年だと、マンガは十数カ国語に翻訳され、アニメ映画は世界100カ国以上に配給されるようになり、アニメシリーズは動画配信サービスから外国語の字幕付きで簡単に見られるようになりました。このような動きも影響して、日本のアニメは世界各国の人にとって一段と身近なものになってきているようです。

なかでもアニメ映画は世界で爆発的な人気を集めており、映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編(以下、鬼滅の刃)」の公開実績を見てみると、アメリカでは外国語映画のオープニング興行成績で歴代1位を獲得、韓国では17週連続で興収トップ5入りなど、異例の人気を記録しています2

人気は「鬼滅の刃」に限ったものではなく、2016年公開の「君の名は。」や2022年公開の「THE FIRST SLAM DUNK」などさまざまな類のアニメが世界的にヒットしていることから、アニメ全般に関心が向けられていることがわかります。このようななか、アニメツーリズムにおいて国内観光客はもとより、海外観光客も無視できないターゲットだといえるでしょう。

政府が発表した資料「知的財産推進計画2023」にも、「映画やアニメ等のロケ地や舞台は、国内外の観光需要を喚起する重要な拠点であることから、ロケ誘致による経済・社会的効果を効果的に実現するため、観光促進のためのコンテンツの活用等、ロケツーリズムの推進に官民一体となって取組を進める」との記述があります3

アニメツーリズムによる経済効果

聖地巡礼と聞くと、特定の場所にファンが押し寄せるという印象を持つ人も少なくないかもしれません。ただし地域の旅行客が増えれば、その近辺の宿泊施設や小売店、飲食店などの利用者が増えたり、工芸体験の申し込みが増加したりと、地域全体への経済波及効果が生じるものです。

こうした効果はあなどれず、映画「君の名は。」を含む複数のアニメ映画の舞台になった岐阜県の経済波及効果は、253億円だといわれています4

アニメの聖地となった地域では、具体的にどのようなことが期待できるのでしょうか。

観光需要の増加

地域を訪れる観光客数が増えることはいうまでもないでしょう。例として、女子高生の日常をテーマにしたアニメ「らき☆スタ」の縁の地、鷲宮神社の正月三が日の参拝者数を見てみましょう5

参拝者数(万人)
2007(放送前) 13
2008(放映終了後) 30
2009 42
2010 45
2011 47

2011年以降は高止まりしているようですが、たったの3年で参拝者が3倍近く増加したことがわかります。今では毎年七夕の時期に本アニメに関連したイベントが開催されるなど、「らき☆スタ」の存在が地域に溶け込んでいるようです6

移住者の増加

アニメが舞台となった地域では、観光客の増加だけでなく、長期的には移住者の増加という形で地域社会に変化をもたらす可能性があります。

2000年以降に放送されたアニメと3,000以上の舞台地域を対象にした研究では、アニメ放送後に該当地域の人口動態に変化が見られ、移住者が増加する傾向が確認されたと報告されています13

具体的には、アニメ放送から5年後に平均納税者所得が0.5%上昇し、13年後には夜間光量(衛星データに基づく経済活動の指標)が有意に増加しており、この背景には「新たに移住してきた住民による地域活性化」があると指摘されています。観光による短期的な経済効果とあわせ、アニメツーリズムは中長期的に「人を呼び込む力」を持つ現象だといえるでしょう。

地域の活性化

アニメやマンガに取り上げられることは、地域を活性化させる大きなチャンスです。訪問者が増える貴重な機会を生かして、町のさまざまな魅力に触れてもらえるよう、町の観光協会などが独自の企画を考えることも珍しくありません。

たとえば町全体を周遊してもらえるよう、自治体が巡礼マップを作ったり、飲食店スタンプラリーを実施したりすることもあります。地図を見ながら辺りを散策する観光客が増えると、周辺施設や飲食店などの利用率も高まり、地域全体の活性化が期待できます。

また、地域がアニメやマンガの版元と協賛して、イベントを開催することもよくある例です。たとえば千葉市では2023年1月に『「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完」×千葉市 コラボイベント』が開催されました。

こうしたイベントには周辺の飲食店などが出店することもあり、参加店舗にとっては知名度向上、売上アップなどが期待できるといえます。

特産品やグッズの販売促進

アニメやマンガのグッズ販売はもちろん、作品に登場した食べ物や体験などに関心が寄せられることも想定できます。グッズ販売などは自治体が主導権を握るケースが多いですが、周辺の飲食店や小売店が著作権者とライセンス契約を結び、作品に基づいたオリジナルメニューを開発することもあるそうです7

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聖地巡礼者に向けたインバウンド対策

2022年10月に水際対策が緩和されてからは、国内で海外観光客を見かける機会が増えたかもしれません。日本政府観光局(JNTO)の発表8によると、2025年上半期には訪日外国人客数が過去最多の2,151万8,100人に達しました(前年同期比+ 21%)。

小売店や飲食店にとって、インバウンド対策は喫緊の課題といえます。すぐにでも取り掛かりたいインバウンド対策を紹介します。

外国語の表記を加える

観光庁が2020年に発表した調査9で、訪日観光客の困ったこととして投票数が多かったのは、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」や「施設などのスタッフとのコミュニケーションがとれない」など、言葉の壁にまつわる悩みでした。

「せっかく日本に来たからには日本語を使って旅したい」と考える野心的な訪日客もいますが、実際には外国語表記が一切ないことに不安を感じ、入店を諦めてしまう人のほうが多いかもしれません。飲食店であればメニューを外国語でも表記したり、小売店なら商品ポップを英語でも作成したりと訪日観光客に寄り添うことこそが、彼らの心をつかむ鍵となるでしょう。

キャッシュレス決済を受け付ける

国内でのキャッシュレス決済比率は2024年にようやく4割10に到達したところですが、訪日観光客数の多くを占める韓国では9割以上、中国では8割、アメリカでも6割近く11と、訪日観光客の中にはキャッシュレス決済ができて当たり前と思う人が多いと考えられます。

世界主要国におけるキャッシュレス決済比率(2021年)11

国・地域 キャッシュレス決済比率(2021年)
🇰🇷 韓国 95.3%
🇨🇳 中国 83.8%
🇦🇺 オーストラリア 72.8%
🇬🇧 英国 65.1%
🇸🇬 シンガポール 63.8%
🇨🇦 カナダ 63.6%
🇺🇸 アメリカ 53.2%
🇫🇷 フランス 50.4%
🇸🇪 スウェーデン 46.6%
🇯🇵 日本 32.5%

最近ではSquareのように、数千円で決済端末を手に入れることができ、決済手数料以外にはコストが一切かからない決済サービスも登場しています。導入もアカウントを作成して、端末を手に入れるだけと非常に簡単なので、このようなサービスを活用して、クレジットカードから中国で人気のWeChat PayやAlipay、UnionPay(銀聯)まで幅広いキャッシュレス決済手段に対応してみるのも一つの手でしょう。

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SNSなどで宣伝する

聖地までのアクセスのしやすさは、InstagramなどのSNSでもアピールしておきたいところです。たとえば徒歩圏内なら、お店からのアクセス方法をショート動画にして公開すると、立ち寄ってもらえる確率がさらに上がるかもしれません。

たとえば以下のような英文を添えておくとわかりやすいでしょう。

✈️ 英文フレーズ 🇯🇵 日本語訳
📍 We are located close by the location of “アニメの題名”! 私たちのお店は「アニメの題名」の聖地のすぐそばにあります
🚶 We’re a ● minute walk away from the 【聖地の名前】 featured in “アニメの名前”! 私たちのお店は「アニメの題名」の聖地から徒歩●分の場所にあります
🚌 We’re a ● minute bus ride away from the 【聖地の名前】 featured in “アニメの名前”! 私たちのお店は「アニメの題名」の聖地からバスで●分の場所にあります

アニメの題名は外国語に翻訳されていたりと原題と異なることも珍しくないため、正しい表記を調べたうえで記載することが大切です。アニメの題名のハッシュタグを投稿に付け加えると、検索からの流入も期待できるでしょう。このように検索からSNSの投稿にアクセスしてくれるユーザーは、立派な潜在顧客です。

興味を示すユーザーのことを考えて、ウェブサイトやネットショップへの動線は必ず引いておきたいところです。たとえばSquareでネットショップを作成すれば、Instagramの投稿から数タップでネットショップにアクセスできるInstagramショッピングの機能とも簡単に連携することができます。

異なる宗教や文化への配慮

訪日観光客のなかには宗教や食生活を理由に、食事制限をしている人も少なくありません。一人ひとりに合わせて作ることは難しいですが、多くの人が食べられる可能性が高いヴィーガンメニューを作るなどは取り組めるかもしれません。

宗教ごと、食生活ごとに禁止されている食べ物は、以下をご参考ください。

宗教別

イスラム教……豚肉、宗教上適切な処理がされていないお肉など
ヒンドゥー教……牛肉、肉エキス、ごくん(にんにく、たまねぎ、にら、らっきょうなど)など
ユダヤ教……豚、血液、イカ、タコ、エビ、カニ、ウナギ、貝類、ウサギ、馬、宗教上の適切な処理が施されていない肉、乳製品と肉料理の組合せなど

食生活別

ベジタリアン……肉全般、魚介類全般など
ヴィーガン……全ての動物性食品(肉、魚介類、乳製品、卵など)

禁止事項をどこまで厳格に守るかには、個人差があるようです。沖縄県が公開している「多様な食対応 ハンドブック」(PDF)には宗教別、食生活別の禁止事項が細かく記載されているので、参考にしてみるといいかもしれません。

アニメやマンガ作品の聖地周辺で小売店や飲食店を営んでいる場合には、巡礼者の旅行の一部になる可能性が高いでしょう。聖地巡礼をきっかけに、地域のファンにもなってもらえるよう、観光客に寄り添った取り組みが大切です。作品によっては海外からの巡礼者も期待できるため、今後着実に増えていくであろう訪日観光客への配慮も、できるところから取り組んでいくといいでしょう。


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執筆は2023年6月14日時点の情報を参照しています。2025年11月21日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。