フリーランスや個人事業主の場合、自宅で仕事をするなど、プライベートとビジネスとの区切りがつきにくくなることがあります。こんなときに活用したいのが「家事按分」です。プライベートと兼用しているものでも、仕事で使っている部分を経費として計上できることから、上手に活用すると節税につながります。
スモールビジネスで知っておきたい家事按分について、経費に計上できるもの・できないものの考え方や、按分比率、確定申告時のポイントや効率的な計算方法などをご紹介します。
目次
家事按分とは
フリーランスや個人事業主など、個人で仕事をこなしていると、自宅にあるものを仕事上でも兼用するなど、支出は一つだけれど生活上と業務上の両方にかかっている費用が出てきます。これを「家事関連費」といいます。代表的なものでは、家賃や電気代、通信費用などがあります。
家事関連費のうち経費として計上できるのは仕事に関係する部分だけです。このため、一つの支出の中で「家事上の経費」と「事業遂行上必要な経費」との割合を按分(あんぶん)し、必要経費に算入することになります。これが「家事按分」です。
家事按分できるもの・できないもの
家事按分できる支払いには次のようなものが考えられ、かなり広範囲にわたります。
地代家賃 : 家賃・更新料、家屋の減価償却費、住宅ローンの金利、火災保険料など
租税公課 : 固定資産税、自動車税、車庫証明手数料など
賃借料 : 土地建物以外のレンタル料
水道光熱費 : 電気代、水道代、暖房用の灯油代など
通信費 : インターネット回線使用料、携帯電話代など
消耗品費 : 価格が10万円未満の物品や使用期間が1年未満の物品
工具器具備品: 価格が10万円以上で減価償却する物品
修繕費 : 施設備品の点検・メンテナンス、修理、内装・外装、解体など
車両費 : 車検費用、修理代、ガソリン・オイル交換代、駐車場代、保険料、車検費用など
車両運搬具 : 車両や運搬に必要な装備で減価償却する物品
新聞図書費 : 新聞雑誌、情報サイト利用料など
一方、家事按分の対象の費目であっても、直接の事業遂行に必要がないとみなされるものは必要経費に算入できません。
たとえば次のようなものは必要経費とならないので注意しましょう。
- 持ち家の住宅ローンの元本
- 業務上の必要性に基づくと客観的に認められない諸会費、旅費
- 生計を一にする配偶者や親族に支払う地代家賃、レンタル費用
- 家族のみが従業員の場合の慰安旅行(一般の家族旅行と変わらず事業に関連性がない)
- 従業員が家族の場合の慶弔費(業務遂行上必要であることが明らかにできない)
- 大学院の授業料、外国の大学への寄付金(自己研鑽のため・心情によるもの)
参考:家事費、家事関連費 公表裁決事例等の紹介(国税不服審判所)
家事按分の比率を計算してみよう
家事按分の計算は、支払いが発生するたびに家事と業務とを分けて積み上げるのが理想です。ただし、いちいち個別に計算するのは負担が増え、毎回按分の比率が異なるのも説明がつきづらくなるため、費目ごとに仕事上で使っている割合を決め、全体の支出額にかけあわせて得られた額を必要経費として計上するのが一般的です。
按分の比率に指定はありません。各自の業務の実態に沿った割合を決めてかまわないのですが、税務署に聞かれたとき、事業遂行上必要だと納得してもらえる妥当な割合にしておく必要があります。
次のような計算方法を目安にして割合を出してみましょう。使用時間や数量、距離などは数カ月計測して平均を出したものを比率にします。仕事の忙しさにムラがあって使用量が毎月大幅に変わるような場合は月ごとの計算でかまいません。
-
業務として使用している面積の割合:地代家賃・賃借料のうちスペースに関係するもの
(例)机、棚、プリンターなどの設備を置く仕事スペースが自宅の総面積に占める割合 -
業務として使用している時間の割合:地代家賃・賃借料のうち面積が分けにくいもの、水道光熱費、通信費、工具器具備品、新聞図書費など
(例)1週間のうち仕事で使っている時間の割合 -
業務として使用している数量の割合:消耗品、光熱費・通信費で回線数など用途別に分けられるもの、接待交際費の割り勘など
(例)自宅のコンセントの差込口全数に対する仕事で使用する口数 -
業務として移動した距離の割合:車両費、車両運搬具、ガソリン代など
(例)運行記録のうち仕事で使用した距離数が全体の走行距離に占める割合
家事按分のトラブルを防ぐポイント
必要経費として認められるのは、きちんと記録があり、業務遂行上、直接の影響があるもの、つまり、それがないと仕事を回せないことが明らかにできる場合に限られます。また、按分の基準は、客観的に見て誰もが納得する程度の合理性があるかがポイントです。
なんとなく、周りがこうだからという理由ではなく、いつ税務調査になっても説明できるよう、根拠をはっきりさせておきましょう。
日頃から次のような点に注意し、データを積み上げておくことをおすすめします。
- 金額や用途(仕事相手の人数や用件など)がはっきり証明できる領収書を保管する
- 按分の比率を算出した根拠となる資料(図面や平均を計算したときのデータなど)を残す
- 比率の端数の扱いを全体で統一し、計算方法がわかるようにしておく(小数点第何位としたか、処理は切り上げ・切り捨て・四捨五入のどれにしたかなど)
ちょっとしたことですが、必要経費がしっかりまとめられていないと、確定申告時に手間が増えます。確定申告をうまく乗り切れるよう、按分を活用していきましょう。
青色申告だと節税になる?
フリーランスや個人事業主の場合、確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。このうち、青色申告は、複式簿記にする必要があるなど記帳の手間は増えますが、必要経費として計上できる家事関連費の範囲が広くなります。
所得税法施行令第96条(家事関連費)第1号では、「家事上の経費の主たる部分」が「業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」と記されています。
さらに、国税庁の法令解釈通達家事関連費(第1号関係)45-2(業務の遂行上必要な部分)の中で、主たる部分が業務の遂行上必要であるかは、「その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定する」「金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には必要経費に算入して差し支えない」としています。
青色申告の場合は、所得税法施行令第96条第2号で、「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費」とされているため、50%を超えるかどうかに関わらず計上することができますが、白色申告の場合は50%を超えないものは一つひとつ実態を明らかにして必要であることを証明していかなければなりません。
つまり、青色申告の場合の家事按分の場合は、業務遂行上必要と合理的に認められればすべての経費を計上することができますが、白色申告の場合は、家事按分できる条件が厳しくなり、計上できる経費が少なくなることが考えられます。
また、パソコンや工具などで10万円以上の備品を購入した場合、工具器具備品として有形固定資産の扱いとなり、減価償却させる必要があるのですが、青色申告の個人事業者の場合は「少額減価償却資産の特例」として30万円未満まで(年間300万円まで)一括計上の対象とすることができるというメリットもあります。
家事按分の計算は会計ソフトで効率的に
家事按分は、費目ごとに比率を考え、いちいち計算していかなければならないため、自力で計算していくのを面倒に感じる人も多いかもしれません。
このようなときは、会計ソフトを活用することも考えてみましょう。低価格で利用でき、青色申告が簡単にできるソフトやアプリも登場しています。このような会計ソフトにはたいてい「家事按分機能」がついており、どのくらいの割合を業務に使っているか、費目ごとに比率を登録しておけば、日頃は支払ったときの金額を入力しておくだけで、自動で按分計算してくれるため、日々の業務の効率化に役立ちます。
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執筆は2020年1月8日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に記事の一部を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash