個人事業主がマイホームを購入する際に、最初のハードルとなるのが住宅ローン審査です。会社員と異なり、毎月の収入が変動しやすいため、金融機関から「返済能力の予測が難しい」と判断されやすく、不利になる傾向があります。
しかし、正しい準備と戦略によって、個人事業主でも十分に住宅ローンを通すことは可能です。
この記事では、個人事業主が住宅ローン審査で不利になる理由、審査に通るための準備、ローン選びのコツ、審査に落ちた場合の対策まで詳しく解説します。
📝この記事のポイント
- 個人事業主でも対策次第で住宅ローンの審査は通過可能
- 確定申告書を整理する、課税所得を増やす、クリーンな信用情報を確保することが大切
- 民間銀行ローン、フラット35、ノンバンク系ローンから自分に合った住宅ローンを選ぶ
- 夫婦共同名義で申し込んだり、借入を整理したりすれば、審査の通過率が上がる
- 審査に落ちても、再チャレンジの選択肢はある
目次
- 個人事業主が住宅ローン審査で不利になる理由
・収入が不安定な傾向がある
・経費によって所得が低くなる場合がある
・会社員と比べて審査基準が厳しい傾向がある - 個人事業主が住宅ローンを通すための準備
・直近3年分の確定申告書を準備する
・できるだけ経費を抑えて所得を増やす
・自己資金を増やして頭金を多めに準備する
・信用情報をクリーンに保つ - 個人事業主が選べる住宅ローンの種類
・民間金融機関の住宅ローン
・フラット35(住宅金融支援機構)
・ノンバンク系住宅ローン - 個人事業主向け住宅ローンの選び方
・審査基準が個人事業主に合っているか確認する
・金利タイプと返済計画のバランスを取る
・複数の金融機関で事前審査を受ける - 住宅ローン審査に通るための実践テクニック
・共同名義で申し込む(配偶者の収入を活用)
・借入を整理する
・決算書や確定申告書をわかりやすく整理する - 住宅ローン審査に落ちた場合の対策
・他の金融機関に再申し込みする
・収入を安定させて再チャレンジする
・フラット35やノンバンク系ローンを検討する - まとめ
個人事業主が住宅ローン審査で不利になる理由
個人事業主は、会社員よりも住宅ローン審査に通りにくい傾向があります。ここでは、個人事業主が住宅ローン審査で不利になる理由について詳しく解説します。
収入が不安定な傾向がある
個人事業主の収入は、売り上げや取引先との契約状況、景気動向など外部要因の影響を強く受けます。そのため、年や月ごとの変動幅が大きく、安定的な返済計画を立てるのが難しくなります。
株式会社マイナビの調査1によると、独立系フリーランスの直近1年間の最高月収は平均53.5万円である一方、最低月収は平均11.3万円にとどまっています。しかも最低月収が「なし(0円)」と回答した人が37.6%を占めており、月によっては収入がないケースも珍しくありません。
毎月一定額の給与が支払われる会社員とは異なり、この収入のばらつきが住宅ローン審査において大きな懸念材料となります。
経費によって所得が低くなる場合がある
住宅ローン審査では、個人事業主の返済能力を「税務申告上の所得」をもとに判断します。ここでいう所得は、売り上げから必要経費を差し引いた所得額です。
そのため、節税を目的に経費を多く計上していると、手元資金に余裕があっても申告所得が低くなり、金融機関からは「返済余力が乏しい」と見なされることがあります。
たとえば、年間売上が1,000万円あっても経費を800万円計上すれば、所得は200万円となり、この数字が融資限度額の算定基準になります。

会社員と比べて審査基準が厳しい傾向がある
会社員は源泉徴収票や給与明細で収入を証明できるため、審査は比較的スムーズに進みます。一方、個人事業主は、直近3年分の確定申告書や青色申告決算書、納税証明書の提出を求められ、売り上げの推移や利益率、事業の安定性まで詳細に確認されることがあります。
また、業種によっては収入の先行きにリスクがあると判断され、同じ所得額でも会社員より借入可能額が低く設定されることがあります。
個人事業主が住宅ローンを通すための準備
個人事業主が住宅ローンに通るためには、必要書類を揃えるだけでなく、金融機関に「安定した返済能力」をアピールする必要があります。ここでは、個人事業主が住宅ローンに通るための準備について詳しく見ていきましょう。
直近3年分の確定申告書を準備する
多くの金融機関では、個人事業主に対して直近3年分の確定申告書(第一表・第二表)と青色申告決算書(または収支内訳書)の提出を求めます。これは、単年の業績だけでなく、複数年にわたる安定性や成長性を確認するためです。
金融機関は、年ごとの売上高や経費、所得の変動幅、利益率の傾向を細かくチェックします。たとえば、売り上げが毎年右肩上がりであれば事業の成長性が評価されますが、逆に大きな落ち込みや赤字の年があると、返済能力に不安があると見なされることがあります。
できるだけ経費を抑えて所得を増やす
節税を目的に経費を多く計上すると、課税所得が減り住宅ローンの審査で不利になります。たとえば、経費を圧縮して所得を年間100万円増やせば、借入可能額が数百万円単位で変わることもあります。
ローン申請を見据え、審査の基準となる直近2〜3年は、節税よりも所得を高く見せることを検討しましょう。
自己資金を増やして頭金を多めに準備する
個人事業主は、継続的かつ安定した収入を証明することが会社員より難しいため、自己資金(頭金)をできるだけ多く準備することが重要です。
頭金を多く出せば、その分借入金額を減らせるため、毎月の返済額が抑えられ、金融機関が重視する「返済負担率」も低下します。
返済負担率とは「年収に対する年間返済額の割合」を示す指標で、「総返済負担率」や「返済比率」と呼ばれることもあります。計算式は「年間返済額 ÷ 年収 × 100」で、この数値が低いほど返済にゆとりがあり、無理のない返済計画と判断されます。
一般的に理想とされる返済負担率は20〜25%以下で、この水準を満たせば審査通過の可能性も高まります。
さらに、頭金を多く用意すると、「計画的に資金を貯められる人」であることのアピールも可能です。

信用情報をクリーンに保つ
住宅ローンの審査では、申込者の返済能力だけでなく、これまでの支払いや借入れの履歴も重要な判断材料です。こうした記録は「信用情報」と呼ばれ、クレジットカードやカードローン、割賦販売などの契約や利用状況、返済履歴、申込履歴などが客観的な事実として登録されています。
信用情報には、金融機関やクレジットカード会社が顧客の「信用」を評価するために必要な情報のみが含まれ、人種や思想、病歴、犯罪歴などの属性情報は一切含まれません。
日本では、全国銀行個人信用情報センター(KSC)2やCIC3などの信用情報機関が代表的で、金融機関は住宅ローン審査時にこれらのデータベースを照会します。たとえばCICの場合、以下の3種類の情報が登録されています。
| 情報の種類 | 概要 | 主な登録内容 | 保有期間 |
|---|---|---|---|
| 申込情報 | クレジットカードやローンを新規申し込みした際の記録 | 氏名、生年月日、電話番号、契約予定額、照会日、照会会社名など | 照会日から6カ月間 |
| クレジット情報 | 契約内容や支払状況に関する情報 | 契約額、支払回数、残債額、入金 履歴、異動(延滞・補償履行・破産)の有無、契約終了予定日など |
契約期間中および契約終了後5年間 |
| 利用記録 | 契約途中に支払能力を確認するために照会された記録 | 氏名、生年月日、利用日、利用目的、利用会社名など | 利用日から6カ月間 |
住宅ローン審査で特に注意が必要なのは、延滞などの「異動情報」です。クレジットカードの支払いが61日以上または3カ月以上遅れる4と延滞履歴が登録され、契約終了後も最長5年間は記録が残ります。これがあると住宅ローンの審査に大きく不利に働きます。
したがって、審査の少なくとも半年前にはすべての延滞を解消し、不要なカードやローンは解約しておくことが重要です。
個人事業主が選べる住宅ローンの種類
住宅ローンにはいくつかのタイプがあり、金利の仕組みや審査基準、返済方法が異なります。
個人事業主は、自身の収入の安定性や返済計画に合ったローンタイプを選ぶことが重要です。まずは、個人事業主が選べる住宅ローンの種類について詳しく見ていきましょう。
民間金融機関の住宅ローン
銀行や信用金庫などが提供する住宅ローンには、主に三つのタイプがあります。
- 変動金利型:金利が半年ごとに見直され、低金利で借りられる反面、将来の金利上昇リスクがあります。
- 固定金利期間選択型:当初2年・5年・10年など選んだ期間だけ金利が固定され、その後は変動金利や再固定を選べます。ライフプランに合わせやすい一方、期間終了後の金利上昇には注意が必要です。
- 全期間固定金利型:完済まで金利が変わらず返済計画が立てやすい反面、他のタイプより金利は高めです。
フラット35(住宅金融支援機構)
フラット355は、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する全期間固定金利型の住宅ローンで、最長35年間、金利と返済額が変わらないのが特徴です。市場金利の変動に影響されないため、将来の返済計画を立てやすく、長期的なライフプランを重視する人に向いています。
利用には、省エネ性や耐震性などの技術基準を満たした住宅であることが条件ですが、条件を満たすことで「子育て世帯向け」や「省エネ住宅向け」などの金利引下げ制度も活用できます。たとえば、一定の住宅性能や家族構成に応じて、当初5年間は年1.0%金利を引き下げられるケースもあります。
ノンバンク系住宅ローン
ノンバンク系住宅ローンは、銀行以外の金融機関が提供する住宅ローンで、消費者金融や信販会社、クレジットカード会社などが該当します。ノンバンク系金融機関は預金や為替業務を行わず、貸付を主な事業としています。銀行に比べて審査基準が柔軟なことが多く、過去の信用情報や事業形態によっては銀行ローンの審査に通らなかった人でも利用できる可能性があります。
一方で、金利は銀行ローンより高く設定される傾向があり、総返済額が大きくなるのがデメリットです。長期借入では利息負担が重くなるため、将来の返済計画を慎重に立てる必要があります。
個人事業主向け住宅ローンの選び方
住宅ローンは金利や期間だけでなく、金融機関の審査方針やサービス内容も比較する必要があります。個人事業主向け住宅ローンの選び方について詳しく見ていきましょう。

審査基準が個人事業主に合っているか確認する
金融機関によっては、会社員に比べて個人事業主への融資基準が厳しい場合があります。過去の融資実績や、必要書類の種類(確定申告書は何年分の提出を求めるか)を事前に確認しましょう。
金利タイプと返済計画のバランスを取る
将来の収入変動を考慮し、返済額が一定になる全期間固定型か、当初の金利負担を抑える変動型かを選びます。収入が安定していない場合は、返済額が変わらない固定型を選ぶことでリスクを抑えられます。
複数の金融機関で事前審査を受ける
住宅ローンの審査基準や評価方法は、金融機関ごとに大きく異なります。たとえば、同じ年収・同じ物件価格・同じ頭金の割合であっても、ある銀行では借入可能額が大きく提示され、別の銀行では希望額に届かないことも珍しくありません。これは、金融機関ごとに「返済負担率の上限」や「過去の融資実績」「職業や業種に対する評価基準」などが異なるためです。
そのため、まずは複数の金融機関で「事前審査(仮審査)」を受けて、審査に通過できる可能性を確認することが重要です。
住宅ローン審査に通るための実践テクニック
個人事業主が住宅ローン審査を通過するためには、事前準備だけでなく、申込方法や書類の見せ方も重要です。ここでは、審査の通過率を高める方法を紹介します。

共同名義で申し込む(配偶者の収入を活用)
住宅ローンを夫婦で申し込む場合、共有名義にすることで配偶者の収入を合算でき、借入可能額を大幅に増やせる場合があります。
さらに、共有名義にすれば、住宅ローン控除も双方が受けられます。たとえば夫婦それぞれがローンを負担している場合、各人の持分割合に応じて控除額が適用され、節税効果を最大化できます。このため、単なる借入額の増加だけでなく、税制面でもメリットがある方法といえるでしょう。
借入を整理する
リボ払いやカードローン、自動車ローンの残高は、住宅ローン審査で「返済負担率」に含まれます。返済負担率が高いと審査で不利になるため、可能な限り事前に借入残高を減らしておくことが重要です。
決算書や確定申告書をわかりやすく整理する
審査担当者が短時間で事業内容や収益状況を理解できるよう、決算書や確定申告書を整理しましょう。売上推移や利益率が安定していることを示せば、事業の信頼性が伝わりやすくなります。
住宅ローン審査に落ちた場合の対策
住宅ローン審査に落ちても、マイホームの購入を諦める必要はありません。住宅ローン審査に落ちた場合の対策について詳しく見ていきましょう。
他の金融機関に再申し込みする
同じ条件でも、銀行・信用金庫・ネット銀行など金融機関ごとに審査基準や重視するポイントが異なります。
ある銀行で否決されたとしても、別の金融機関では通るケースも珍しくありません。特に、地元密着型の信用金庫や地方銀行は、地域の事業者との取引に積極的な場合が多く、個人事業主にも柔軟に対応してくれる傾向があります。
収入を安定させて再チャレンジする
前年や直近の所得が低かった場合や、売り上げの変動が大きかった場合は、数年間かけて安定した収入実績を作ることが効果的です。経費の抑制による課税所得の増加、継続的な契約先の確保、売り上げの季節変動を平準化する施策などが挙げられます。
フラット35やノンバンク系ローンを検討する
民間銀行の審査が通らなかった場合でも、全期間固定金利の「フラット35」や、審査基準が柔軟なノンバンク系住宅ローンを利用できる可能性があります。フラット35は、主に返済負担率や物件の適格性が重視され、収入の安定性に関する基準は比較的緩やかです。
ただし、ノンバンク系は金利が高めで総返済額が増えるため、利用は慎重に検討しましょう。
まとめ
個人事業主は収入の安定性が判断しづらく、住宅ローン審査で不利と見られがちです。しかし、事業の成長性を示す確定申告書の整備や課税所得の確保、頭金の準備、信用情報の管理といった対策で通過率は高められます。
ローンの種類や金融機関によって審査基準は異なるため、複数社を比較し、自分に合った条件を選ぶことが大切です。
十分に準備を整えたうえで、自分に最適なローンに申し込みましょう。
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執筆は2025年8月19日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash

