資本性劣後ローンとは?メリットや注意点をわかりやすく解説

新型コロナウイルス感染症の影響を受けているビジネスに対して、資金繰り改善方法として提示される「資本性劣後ローン」。毎月の返済がなく、業績が一時的に悪化してしまったビジネスの財政的な回復を手助けするローンとしても知られています。

ここでは利用を検討している人に向けて資本性劣後ローンの詳しい特徴、メリット・デメリット、概要を説明します。

目次



資本性劣後ローンとは

「資本性劣後ローン」の特徴は名前にもある通り「資本性」で「劣後ローン」であることですが、これが具体的に何を意味するのか、パッと読んだだけでは少しわかりにくいかもしれません。ここでは「資本性」と「劣後」の意味を掘り下げます。

「資本性」と呼ばれる理由って?

このローンが「資本性」と呼ばれるのは、借入金でありながら自己資本とみなすことができるからです。

自己資本とは、株主から調達した投資額や会社が稼いだ利益など、返済する必要のない資産のことを指します。

ローンは当然ながら返済しなければいけないため、「自己資本」ではなく「負債」とみなされることが多いですが、資本性劣後ローンの場合は制度上、投資額や利益のように「自己資本」とみなされることがあります。自己資本が多いのは資金繰りが安定している状況を示すので、金融機関から融資を受けたい場合には審査に通過しやすくなるなどのうれしい結果が期待できます。

「ほかにも融資を受けて新規事業に踏み込みたい」などの計画があるビジネスは、まず資本性劣後ローンを利用して自己資本を増やしてから追加の融資に申し込むという手順を踏むと、融資が受けやすくなるかもしれません。

「劣後ローン」ってどういうこと?

「劣後ローン」と呼ばれるのは、万が一倒産した場合にこのローンの回収がほかの支払いよりも劣後する(劣って遅れをとる)からです。

具体的にいうと、資本性劣後ローンはさまざまな債務のうち、優先度が最も低い(※)支払いとして扱われます。そのため法的倒産時には優先度の高い債務(ほかの融資や税金、給与など)の支払いを終えてから、最後に回収されます。

※償還順位が同等以下とされているものは除く

諸々の支払いを終えたあとには、返済に割ける資本が残っていない可能性が高いでしょう。このような理由から、資本性劣後ローンは回収できる確率が低い債権として扱われることが多いようです。貸し手のリスクが高いこともあり、審査はほかの融資と比べて厳しく設定されているようです。

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資本性劣後ローンについてよくある質問

ここまでは資本性劣後ローンの特徴として、

  • 自己資本としてみなすことができる
  • 倒産時にはほかの支払いより劣後する

の二点を挙げました。

ここからは資本性劣後ローンをもっと詳しく知るために、よくある質問を見ていきましょう。

資本性劣後ローンの相談窓口は?

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業に対しては、日本政策金融公庫商工組合中央金庫(商工中金)が窓口となります。中堅企業や大企業では、日本政策投資銀行と商工組合中央金庫が窓口になります。

資本性劣後ローンには誰が申し込める?

対象条件について詳しくは後述しますが、個人事業主も、中小企業も、大企業も申し込むことができます。

月々の返済がないって本当?

資本性劣後ローンは制度上、期日に一括で返済する仕組みなので、利息分を除いて毎月の返済はありません。たとえば、中小企業向けの新型コロナ対策資本性劣後ローンでは融資期間は5年1カ月、7年、10年、15年、20年から選ぶことができます。

資本性劣後ローンの役割は?

資本性劣後ローンの大きな役割は、一時的に悪化した業績を回復させ、財政を安定させることです。

資本性劣後ローンはどんな状況に使われる?

売り上げが激減し、融資の借入金はあるもののそれだけでは足りない……ビジネスを継続するにはさらなる資金調達が必要、というケースはコロナ禍では少なくないかもしれません。しばらくの間低収入が続く場合、金融機関は貸し倒れリスクがある(貸付金を返済してもらえない可能性がある)と判断し、追加の融資には慎重になる傾向にあります。

それでも資金調達をしてどうにか経営を改善したいと考えるビジネスが関心を寄せているのが、資本性劣後ローンです。融資を複数受けて借入額が膨らむと信用力が下がり、融資が受けにくくなるのはもちろん、仕入れに支障が生じるなど、さまざまなトラブルが起こり得ます。資本性劣後ローンだと、借入金でありながらも自己資本としてみなされるため、このような問題の回避にもつながります。

2021年9月8日掲載の日本経済新聞の記事では、感染症の影響で来場者が減ったイチゴ農園が財務を改善するために利用したケースや、被災した製造業が工場の復旧に充てたケースなどが挙げられています。

参考:日本公庫の資本性ローン、新潟・長野で融資額184億円(2021年9月8日、日本経済新聞)

資本性劣後ローンの対象者

資本性劣後ローンは全ての事業者が受けられるとは限りません。新型コロナウイルス感染症特別貸付とも併用できる中小企業向けの資本性劣後ローン、「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」の対象者は以下の(1)~(3)のいずれかに該当する中小企業者です。

(1) J-Startupプログラム選定者または中小企業機構出資ファンドの出資を受けて事業の成長を図る
(2)再生支援協議会の関与のもとで事業の再生を行う者など
(3)事業計画書を策定し、民間金融機関などによる金融支援を受けられるなどの体制が構築されている者

詳しくは商工組合中央金庫のウェブサイトにある資本性劣後ローンのご案内をご確認ください。

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資本性劣後ローンのメリットとは

ここまでは資本性劣後ローンのメリットとして、

  • 月々の返済がないこと(利息分を除く)
  • 融資が受けやすくなる
  • 法的倒産時には返済が劣後する

を挙げてきました。ここではさらに二つのメリットを紹介します。

利息負担が抑えられる

資本性劣後ローンは月々の返済はないものの、利息は毎月発生します。利息が負担になるかもしれない……と心配になるかもしれませんが、資本性劣後ローンの場合、利率は業績にあわせて毎年調整され、赤字など業績が厳しいときには下がる仕組みになっています。新型コロナ対策資本性劣後ローンでは、融資後の最初の3年間の利率は業績を問わず0.50%となっており、通常の融資と比べて利息負担が抑えられるのも一つの長所として挙げられます。

参考:【中小企業事業】新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付 (新型コロナ対策資本性劣後ローン)に関するQ&A(日本政策金融公庫)

無担保・無保証人で申請が可能

担保や保証人などは将来借入額が返済できなくなったとき、代わりに返済をしてくれる保険として使われますが、資本性劣後ローンには担保も保証人もいりません。

資本性劣後ローンのデメリット

メリットが多い資本性劣後ローンですが、注意すべき点もいくつかあります。

利率は高い傾向にある

資本性劣後ローンは回収率が低いローンとみなされていることから、利率は高い傾向にあります。メリットにもあったように赤字などの際には利率が抑えられますが、業績が好調なときは通常の融資と比較すると負担が大きく感じることもあるかもしれません。

分割払いはできない

資本性劣後ローンは一括返済が基本のため、返済時期を迎えると何千万円、場合によっては何億円もの額が一度に手元から離れることになります。返済をしたと同時に手元の資金が消えてしまわないよう、返済直後もビジネスを続けていけるような計画を常日頃から実行し、十分な資金を用意しておかないと、返済時期に資金繰りが再び悪化してしまうことも考えられます。

資本性劣後ローンの概要

最後に新型コロナ対策資本性劣後ローンの概要を見ていきましょう。

  中小企業向け制度
貸付限度額 10億円
貸付期間 5年1カ月、7年、10年、15年、20年
利率 当初3年間:0.5%
4年目以降:業績に応じ毎年見直し

参考:新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)(日本政策金融公庫)

資本性劣後ローンの申込に必要な書類

新型コロナ対策資本性劣後ローンに申し込む際には、会社案内や直近の財務状況がわかる決算書など下記の申込書類に加えて、今後どのように財務基盤を強化していくかを記載した事業計画書などを提出する必要があります。日本政策金融公庫を通じて郵送で申し込む場合には以下の書類が必要になります。

(1) 会社案内、製品カタログなどの参考資料
(2) 法人の登記事項証明書
(3) 最新3期分の決算書・税務申告書
(4) 納税証明書
(5) 最近の試算表(決算月から時間が経っている場合)
(6) 設備投資を行うときは、概要のわかる資料(見積書など)

参考:中小企業の方(日本政策金融公庫)

各書類のテンプレートはこちらからダウンロードすることができます。記載例などもあるので、迷ったときには参考にするといいかもしれません。

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毎月の返済がなく、借入金でありながら「自己資本」とみなすことができる資本性劣後ローン。一時的に悪化した業績を回復させる資金調達方法として、大小問わず多くのビジネスから注目を集めています。通常の融資よりもメリットが多い一方で、期日には借入金を一括で返済しなければいけないため、現実的な事業計画をもとに、経営の改善を目指していく必要があることを念頭に置いて検討するといいでしょう。


そのほかにも新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者に向けて、経済産業省や日本政策公庫などでは以下の支援制度を提供しています。

東京都に事業所がある場合には、「東京都 新型コロナウイルス感染症 支援情報ナビ」で紹介されている支援制度もご確認ください。「新型コロナウイルス対策:個人事業主でも利用できる給付金・補助金とは」の記事でもさまざまな支援制度を紹介しています。

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執筆は2022年2月1日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に記事の一部を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash