「生産者が見えたほうが安心」「野菜の定期便を自宅に届けてほしい」「希少品種を食卓で使いたい」という需要に応えられるよう、野菜や果物のネット販売を検討している農家は少なくありません。一方で、ネット販売のメリットが今ひとつわからない、そもそもどうやってはじめるのだろう、と感じている人もいるかもしれません。この記事では農家が独自のネットショップで農作物を販売するメリットや、ネット販売をはじめる際に浮かぶ質問への回答をまとめています。
目次
ネットショップで野菜を販売をするメリット
ネットショップで野菜を販売するうえで期待できることは、売り上げの拡大です。具体的には、以下のようなメリットがあります。
(1) 利益率が上がる
農業共同組合(JA)などに農作物を出荷している場合、販売手数料などの中間マージンが発生します。ネット販売なら、消費者に直接販売ができるため、中間マージンを利益に変えることができます。言い換えると、同じ量を販売したときに中間業者を挟むよりもネットショップのほうが利益率が上がります。
価格設定も、自由にできます。農家のネットショップでは、どのような商品を販売しているのでしょうか。以下のように一定量の野菜をセットにして販売するケースが多いようです。
- 野菜4種セット
- 夏野菜詰め合わせ(1.5キロ)
- 段ボール(中)に詰められるだけ詰めました!
- じゃがいもお試し2キロ分
など
(2) 余剰分やワケありの野菜が売れる
これまで泣く泣く廃棄していた余剰野菜や規格外の野菜も、ネットショップなら販売が可能です。最近では「廃棄されてしまうなら購入したい」という消費者も増えており、訳あり野菜を消費者に届けるサービスも次々と登場しています。本来なら廃棄されていた分まで利益に変えられるのは、農家にとって大きなメリットでしょう。
(3) 定期購入便を提供できる
最近ではネットスーパーなどを利用した定期注文が少しずつ消費者の生活に浸透していたりと「定期便」が注目されています。野菜をネット購入する消費者からは「月に二回、野菜セットを届けてほしい」という希望をもらうこともあるかもしれません。ネット販売なら商品の販売方法や価格を自由に設定できるため、「2週間に1回」「月に1回」あるいは「週に1回」など、野菜セットの配送頻度を豊富に設けることもできます。定期便の注文数が増えていけば、ある程度安定した収入も期待できるでしょう。定期便の支払い方法については、「野菜のネット販売についてよくある質問」の章にある「Q. 定期便の支払いはどうすればいい?」をご覧ください。
売上拡大のほかにも、消費者に直接商品を届けられると、以下のようなメリットが生まれます。
(4) 鮮度の高い野菜を届けられる
農業協同組合などに出荷している場合、農業協同組合から卸売市場に渡った後、ようやく消費者が購入できる小売店などに並べられます。この流通の過程で、野菜や果物の鮮度は刻一刻と落ちていきます。また、野菜の価格は市場の需要と供給のバランスに左右されます。大事に野菜を育てている人であれば誰でも、できるだけ早く消費者のもとに届けたい、安定した価格で販売したいという思いがあるでしょう。中間業者を挟まず配送と販売価格を自ら管理すれば、利益率を下げることなく、収穫した野菜を新鮮なうちに消費者に発送できます。また、以下の方法で情報発信を定期的に行い、リピーターを増やすのも良案でしょう。
- 「販売時期はLINEで告知します」などと記し、LINEの友達登録を促す
- 「販売時期はInstagramで随時お知らせしています」と記し、Instagramをフォローしてもらう
など
(6) 消費者から直接感想を聞くことができる
商品ページにレビューが残せるように設定しておけば、「ようやく息子がニンジンを食べました!」など、消費者からのうれしい感想を読むことができます。消費者とメールでやりとりをする機会があれば、メールで感想が送られてくるかもしれません。購入者が野菜をおいしく食べている様子を直接知ることができるのは、農家にとっても大きな励みになるでしょう。
ネットショップで野菜を販売する際の注意点
ネットショップでは売り上げが拡大できたり、消費者から直接フィードバックがもらえたりなどのメリットがあるものの、いくつかの注意点もあります。
作業量が増加する
ネットショップを運営するとなると、梱包も発送もネットショップの更新作業も、基本的にはすべて自分で行うことになります。具体的には以下のような作業が発生します。
- 在庫管理
- 顧客管理
- 梱包資材の用意
- 野菜の梱包、発送作業
- ネットショップやSNSの更新
- 顧客とのコミュニケーション
など
ネットショップは、いわば一つの店舗を持つのと一緒です。効率的に作業を進めていくためには従業員の間で業務を振り分けるなど、オペレーションを一度見直す必要が出てくるかもしれません。
集客が鍵になる
ネットショップを作成しても、すぐに購入者が集まるとは限りません。ある程度のフォロワーがInstagram上にいるという農家は少ないかもしれません。集客があらかじめにできていない場合は、認知を高めていくところからはじめなければいけません。まずは集客力の高い産直ECに出品してみる、SNSなどでフォロワーを獲得して自社ECで販売していく、など集客方法を考慮して販売先を選ぶのも一つの手でしょう。
いずれにしても、お客様に「ほかのどこでもなく、ここから買いたい」と思ってもらうための戦略づくりが肝となります。また、この記事においては独自のネットショップを作成することを前提としていますが、「ほかのオンラインでの販売方法も検討したい」という場合には「野菜のネット販売についてよくある質問」の章にある「Q. どこで販売すればいいか迷っています。」をご覧ください。
野菜のネット販売についてよくある質問
ここでは野菜のネット販売において、よくある質問を見ていきましょう。
Q. 開業届は提出したほうがいいですか。
A. 開業届は原則、事業をはじめてから一カ月以内に提出するよう、所得税法で定められています。
提出をしなかった場合の罰則などは特にないものの、開業届を提出しておくと節税効果が期待できる青色申告ができます。そのほかのメリットや開業届の提出方法などはこちらの記事でも説明しています。
Q. 野菜の販売に許可は必要ですか。
A. 畑から収穫した野菜をそのまま販売する場合、許可の取得は必要ありません。
ただし、ジュースやジャムなど、作物を加工して販売する場合には営業許可が必要になります。また、加工食品を製造する場合には、食品衛生上の管理運営が行えるよう食品衛生責任者を一人置く必要も出てきます。販売したい飲食料品によって必要な許可が異なるため、まずは管轄の保健所に相談してみるといいでしょう。
Q. パソコンは必要ですか。
A. パソコンがなくても最低限のことは行えるかもしれませんが、効率よく作業するうえでは用意しておくのが賢明です。
最近ではスマートフォンから編集できるネットショップ作成サービスもあります。とはいっても画像をアップロードしたり、商品の説明文を書いたり、ネットショップの売り上げを分析したり……とさまざまな作業をこなしていくうえで、画面が大きいほうが操作も確認もしやすく、作業効率はいいでしょう。せめてタブレットは用意しておきたいところです。
Q. どこで販売すればいいか迷っています。
A. まずはそれぞれのメリット・デメリットを知ったうえで、決めてみましょう。
詳しく見ていきましょう。
(1) モール型ECで販売する
最近では利用者の多いモール型ECで野菜を販売する農家も増えているようです。代表的なサイトには、
などが挙げられます。
モール型ECは利用者こそ多いものの、商品は数もバリエーションも溢れかえっています。大切に育てた野菜が日の目を見ないまま多くの商品に埋もれてしまう、という可能性も否めません。このように消費者にアピールしづらい点は、心に留めておく必要があるでしょう。もう一つの懸念点として、月額利用料金が挙げられます。低コストに抑えられるサービスもあれば数万円ほどかかるサービスもあるので、費用は細かく見比べておくといいでしょう。
また、モール型ECに加えて、最近ではメルカリなどのフリマアプリで野菜を販売する生産者もいるようです。
(2) 産直ECで販売する
産直ECには食べチョクやポケットマルシェが挙げられます。ファーマーズマーケットに出店するようなイメージで、興味を持って集まってくれた消費者に野菜を販売することができます。
また、ある一定の基準を満たさないと出品できないこともあり、消費者からの信頼性は高いといえます。こだわりの野菜を求めて利用する消費者が多いことから、生産者のストーリーに感銘を受けて応援してくれる消費者が出てくるなど、リピートの可能性も見込めます。このように集客はしやすいかもしれませんが、売り上げの2割ほどを販売手数料として差し引くサービスがほとんどで、収益を圧迫しないような価格設定が必要です。まずは産直ECで認知度を高めてから独自のネットショップを持つという手も考えられます。
(3) 自社の農家直送サイトから販売する
SNSなどを駆使してコツコツと集客をしながら、独自のネットショップを運営する農家もいます。最近では初期費用も月額費用もかけずに運用できるネットショップ作成サービスが増えていることもあり、コストをおさえたネット販売方法として注目を浴びています。たとえば、Squareでも、ネットショップを無料で作成できるプランがあります。パソコンが苦手でも操作がしやすく、テンプレートが用意されているのでデザインやコーディングなどの専門知識も必要ありません。産直ECやモール型ECのように販売手数料がかからない点もメリットが大きいでしょう。
Q. ネットショップはハードルが高いです。もっと簡単な方法はありますか?
A. SNSを使って販売することもできます。
「ネットショップを作るのは難しそう」「産直ECやモール型ECは販売手数料がかかるから、簡単に始められない」という場合、無料ではじめられるFacebookやInstagramなど、SNSを販売の場として活用してみてはいかがでしょうか。
商品の写真と説明文をSNSに投稿します。投稿を見た人から「購入したい」という連絡が入ったら、具体的な支払方法や発送日時をDM(ダイレクトメッセージ)やチャットを使って連絡します。
支払方法には、請求書と決済リンクの二つの方法が使えます。前者は、お客様に請求書を送り、お支払いが確認できたら商品を発送する方法です。たとえば、Square 請求書のようなメールで送れる請求書なら、郵送の手間が省けます。
後者の決済リンクは、その名の通り、商品料金を支払うためのリンクです。決済リンクを作成し、リンクをDMやチャットでお客様に知らせます。お客様はリンクをクリックするだけで、クレジットカードで支払いを済ませることができます。銀行振込などに比べて、利便性の高い方法です。
Q. 定期便の支払いはどうすればいい?
A. 「継続課金」を導入しましょう。
定期便の注文数が増えると大変なのが、経理業務です。期限までに入金されたかどうかを確認したり、入金が遅れているお客様には電話やメールで連絡を入れたりといった作業の負担を減らすには、決まった頻度で決まった金額を課金する「継続課金」の導入がおすすめです。
たとえば、メールで送れる、Square 請求書には自動継続課金という機能があります。設定した日に自動的に請求書が発行され、設定した金額がお客様のクレジットカードに自動で請求がされます。
または、Squareの決済リンクにも継続課金(サブスクリプション)機能があります。金額と請求する頻度(毎週、毎月、3カ月など)を設定すると、継続課金に使えるリンクが作れます。
どちらもSquareのアカウントを作成するだけで無料で使えます。請求業務が自動化され、お客様の支払い忘れも防止できる継続課金の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
Q. 配送はどこに頼むべき?A. 送料を比較したうえで決めましょう。
一つの配送会社に絞る前に、送料に注目して比較検討をしておきましょう。以下に代表的な配送会社を紹介します(※)。
※リンクをクリックすると、料金ページに飛べます。
どの配送会社もウェブサイトから簡単に集荷依頼ができる点が特徴的です。送り状も集荷依頼時に作成できます。入力した情報をもとに作成した伝票を、集荷の際にドライバーが持ってきてくれる業者もあるので、伝票の書き間違え防止にもつながります。このような機能を活用することで、配送にかかる作業時間短縮が期待できます。また、中には交渉をすると、配送料を数パーセント値引きしてくれる場合もあるようです。月にある程度の量を発送する予定であれば、交渉してみる価値もあるかもしれません。
Q. ネットショップにはどのような情報があるといい?
A. 商品情報はもちろんのこと、販売している野菜に関する豆知識や、農園のストーリーなどが綴られていると、よりお客様の心を掴みやすいかもしれません。
商品さえ掲載されていれば、ネットショップとしては成立します。しかし前述したように、消費者から「ほかではなく、ここで購入したい」と思ってもらえるためには、「誰がどこでどのように育ててるのか」「どのようなこだわりを持って、野菜を育てているのか」などを写真を交えて伝えることも大切です。情報を読んだサイト訪問者には安心感と親しみが芽生え、購入意欲も高まるかもしれません。
そのほかにも用意しておきたいページは以下のとおりです。
- 特定商取引法に基づく表記
- プライバシーポリシー
- 配送方法・送料について
- お問い合わせページ
ネットショップを運営するうえで「特定商取引法に基づく表記」は、必須です。詳しくは消費者庁のページからご確認ください。記載例はSquareのヘルプページでも紹介しています。
この記事では農家が売上拡大を目指すうえで視野に入れておきたい、ネット販売の基本知識を紹介しました。また、売上拡大に限らず、消費者と直接コミュニケーションがとれたり、鮮度の高い野菜を購入者に届けられたりと、農家のやりがいにつながるメリットを生み出すのも特徴的です。ビジネスをもう一段階レベルアップするためにも、ネット販売の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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執筆は2021年5月31日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に一部情報を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash