※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
特定商取引法とはどういった法律か、名前だけ聞いたことはあるがよくわからないと思っている人もいるのではないでしょうか。今回は、特定商取引法の概要と、押さえておくべきポイントについて説明します。
目次
特定商取引法とは
概要
事業者と消費者との取引に関して、事業者による悪質な勧誘行為や、消費者の迷惑となる行為を規制し、消費者の利益を守る法律です。ルールとしては大きく2つに分けられ、事業者に対する行政上の規制と、クーリング・オフなどの消費者の権利を守るための民事上のルールがあります。
適用される取引
共通点
基本的に、事業者が消費者に対して物品を販売する取引に適用されます。適用対象となる販売形態を紹介します。
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訪問販売
事業者が、消費者の自宅等を訪問して、物品を販売する形態を指します。 -
通信販売
事業者が、新聞や雑誌、テレビ、インターネットなどに広告を出し、それらを見た消費者から、郵便、電話、ファクシミリ、インターネットなどで申し込みを受ける形態を指します。ただし、次の電話勧誘販売に該当するものは除きます。 -
電話勧誘販売
事業者が、消費者に電話をかけるか、あるいは、特定の方法で電話をかけさせて、その電話での勧誘により、消費者から、郵便、電話、ファクシミリ、インターネットなどでの申し込みを受ける形態をいいます。 -
連鎖販売取引
事業者が、個人を商品の販売員に勧誘し、その個人に次の販売員を勧誘させるといった方法で、販売組織を連鎖的に拡大していく形態をいいます。俗に「マルチ商法」などといわれます。 -
特定継続的役務提供
事業者が消費者に対して、長期にわたり継続的に役務を提供し、これに対して高額な対価を約束する取引のことです。「役務」というのはサービスのことです。「特定」というのは、対象になるサービスが限定されていることを指しています。具体的には、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相談所など結婚相手を紹介するサービス、パソコン教室の7つの役務が対象です。 -
業務提供誘引販売取引
事業者が消費者に対し、仕事を提供することを持ちかけ(業務提供誘引)、その仕事に必要だとして、消費者に商品などを販売し、消費者に金銭を負担させる(販売)取引のことをいいます。たとえば、事業者が消費者に対して、マッサージ機を使用した感想に関するモニターの仕事を提供するにあたり、その仕事に必要ということで、消費者にそのマッサージ機を販売する場合がこれに当たります。 -
訪問購入
事業者が、消費者の自宅を訪問して、物品などを購入する形態を指します。
押さえておきたいポイント
行政規制と民事上のルール
上記で説明した販売形態をとる事業者が従うべきルールとして、行政規制と民事上のルールがあります。中でも、特に押さえておく必要があるものについて、行政規制と民事上のルールに分けて説明します。
各販売形態の詳細に関しては、特定商取引法ガイド(消費者庁)をご参照ください。
訪問販売について
訪問販売の行政規制
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事業者の氏名等の明示
事業者は、勧誘をする前に、消費者に対して、氏名・名称、勧誘が目的であること、販売しようとする商品の種類を告げなければならないとされています。 -
再勧誘の禁止等
事業者は、勧誘をする前に、消費者に対して勧誘を受ける意思があるかどうかを確認するよう努めるべきとされています。消費者に契約する意思がない場合は、その訪問の際、また、その後のいずれにおいても、勧誘することが禁止されています。 -
書面の交付
事業者は、消費者から契約の申し込みを受けたときや消費者と契約をしたときには、商品の種類・数量、販売価格、代金の支払時期・方法、商品の引渡時期、クーリング・オフに関する事項などを記載した書面を、消費者に対して渡さなければならないとされています。 -
禁止行為
以下のような行為は禁止されています。
・勧誘を行う際、またはクーリング・オフなどを妨ぐために、事実と違うことを告げること
・勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
・契約を締結させ、またはクーリング・オフなどの権利の行使を妨げるために、消費者を威迫して困惑させること
・目的を告げないで誘引した消費者に対して、人気のない場所で勧誘を行うこと
訪問販売の行政処分・罰則
ここまで述べた規制に従わなかった事業者は、行政処分のほか、罰則の対象となります。行政処分には、業務改善の指示、業務停止命令、業務禁止命令があります。
訪問販売の民事上のルール
- 契約の申し込みの撤回または契約の解除(クーリング・オフ制度)
訪問販売の際、消費者が契約の申し込みをしたり、契約を取り交わしたりした場合に、法律に定められた書面を受け取ってから8日以内であれば、消費者は事業者に対して、書面で申し込みの撤回や契約の解除ができます。これをクーリング・オフと呼びます。
この場合、基本的に事業者の負担で、商品を引き取ってもらうことができ、商品を使用している場合などにも、対価を支払う必要はありません。
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過量販売契約の申し込み撤回または契約の解除
訪問販売の際に、消費者が通常必要な量を著しく超える量の商品を購入する契約をした場合、その後1年間は、契約の申し込み撤回や、契約の解除をすることができます。 -
契約の申し込みまたはその承諾の意思表示の取消し
事業者の勧誘にあたり、以下にあてはまる行為があったために、消費者が誤認し、契約の申し込みや承諾の意思表示をしたとき、消費者は意思表示を取り消すことができます。
・事実と異なることを告げられた場合に、その告げられた内容が事実であると誤認した場合
・故意に事実を告げられなかった場合に、その事実が存在しないと誤認した場合 -
契約を解除した場合の損害賠償等の額の制限
クーリング・オフ期間の経過後、消費者が代金を支払わないなどの理由で契約が解除された場合、事業者が請求できる損害賠償の額について上限が定められています。たとえば、商品が返還されない場合は、販売価格に相当する額といった制限があります。
通信販売について
通信販売の行政規制
- 広告の表示
通信販売に対しては、広告の記載に関して詳細な規制があります。たとえば、事業者の名称などはもちろんですが、販売価格、代金の支払時期・方法、商品の瑕疵に対する責任といった内容です。特定商取引法の改正により、2022年6月1日以降、ECサイトやネットショップ、SNSを使った通信販売などでは顧客が注文を確定する前の段階で、下記の6項目が簡単に確認できるように表示することが求められています。
(1)分量(商品の数量など)
(2)販売価格・対価(定期購入の場合は2回目以降の価格も表示)
(3)支払い時期・方法(定期購入の場合は各回の請求時期も表示)
(4)引渡・提供時期(定期購入の場合は次回分の発送時期も表示)
(5)申込の撤回・解除について
(6)申込期間(期間限定販売の場合)
参考:令和3年特定商取引法・預託法の改正について(消費者庁)
- 誇大広告等の禁止
「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。
通信販売の民事上のルール
消費者が契約を申し込んだり、契約を取り交わしたりした場合でも、商品の引き渡しを受けた日から数えて8日間以内であれば、消費者は事業者に対して、契約の申し込み撤回や解除ができます。ただし、この場合、返品の送料は消費者の負担となります。加えて、特定商取引法の改正により、2022年6月1日以降は消費者に誤解を与えるような表示を行い、誤解をした消費者が購入申込をした場合、消費者は取消権を行使できるようになります。
特定継続的役務提供について
特定継続的役務提供の行政規制
書面の交付や誇大広告の禁止、勧誘における禁止行為などが定められています。
特定継続的役務提供の民事上のルール
特定継続的役務提供においても、クーリング・オフ制度があります。消費者は、負担なく商品や権利を返還することができますし、頭金などの対価を支払っている場合、速やかにその金額の返還を受けることができます。
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執筆は2018年6月12日時点の情報を参照しています。2022年5月26日に一部情報を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash