​​​​​​IT導入補助金の概要や申請の流れ・方法について解説

CRM、財務会計システムや人事管理システムなど、最先端のIT導入がビジネスを加速する時代になりました。人工知能が登場し、人間の仕事を代替するPRA(Robotic Process Automation)も注目されています。

しかしながら、潤沢な予算が確保できる大規模な企業であればともかく、なかなか中小企業では十分にIT投資を行うことができないかもしれません。

中小企業や小規模の事業所のIT利用状況に関する調査によると、大規模な企業と比べてIT投資の遅れが見られることが分かりました。また、すでにITを導入している中小企業でも、収益に直結するような調達や販売、受発注管理などにITを導入している企業は少ない状況です。

参考:中小企業のIT導入・活用状況に関する調査(商工中金)

そこで予算に余裕がない企業で活用したいのが「IT導入補助金」です。今回は、IT導入補助金について説明します。

目次


IT補助金とは

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一般的に「IT補助金」と呼ばれていますが、正式名称は「サービス等生産性向上IT導入支援事業」です。中小企業や小規模の事業所が抱えている人手不足や効率化、売り上げアップなどの問題を解決するために、必要なITサービスやソフトウエアなどの費用の一部をサポートするものです。

中小企業・小規模事業者に補助金が交付されるもので、これまでの通常枠(「A類型」「B類型」)に加えて、「デジタル化基盤導入類型」「セキュリティ対策推進枠」が追加されました。また、通常枠の「A類型」「B類型」には、賃上げ目標の策定が補助金交付採否においての加点または必須項目として追加されています。賃上げ目標の策定とは、下記2点を満たす計画を従業員に表明することです。

  • 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること
  • 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること

補助金の申請は、IT導入支援事業者(ITベンダー・ITベンダーサービス事業者)と共同で行う必要があり、申請が通ったあとは、IT導入支援事業者がシステムの導入を実施するとともにアフターフォローを行います。補助事業完了後の報告手続きでは、IT導入支援事業者は内容確認と必要情報の入力を行います。

つまりは、中小企業や小規模事業主とIT導入支援事業者がタッグを組んだIT導入を支援する補助金制度です。中小企業がITを導入する機会創出であるとともに、中小企業の顧客獲得をねらうITベンダーにとってもチャンスになります。さらにそこで成果を出せば、導入事例としてアピールすることも可能です。それでは、IT補助金で用意されている三つの枠について説明します。

通常枠(A・B類型)

中小企業、小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助するものです。自社の強みと弱みを分析し、経営課題やニーズに合ったITツールを導入することで、業務の効率化や売上アップなど、経営力の向上と強化を図ることを目的にしています。A型、B類型とも補助率は1/2ですが、補助金申請額がA類型は30万円以上150万円未満、B類型は150万円以上450万円以下となります。

セキュリティ対策推進枠

中小企業、小規模事業者が、情報セキュリティーに関する事故や攻撃が原因で事業継続が困難となる事態を回避することを目的としています。セキュリティーサービスの利用料1/2以内で最大100万円を、最長2年間補助します。

デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型・複数社連携IT導入類型)

デジタル化基盤導入類型・複数社連携IT導入類型の2種類があり、中小企業・小規模事業者が導入する会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトの経費の一部を補助することで、企業間取引のデジタル化を推進することを目的としています。デジタル化基盤導入類型の補助額は5万円以上350万円までです。また、このデジタル化基盤導入枠では、パソコンやタブレットなどのハードウエアの購入費用も補助対象となります。

複数社連携IT導入類型は、以下のように補助対象事業者が限られているのが特徴です。

  • 商店街振興組合、商工会議所、商工会、事業協同組合など
  • まちづくり会社、観光地域づくり法人など、地域のまちづくり、商業活性化、観光振興の担い手となる中小企業者または団体
  • 複数の中小企業・小規模事業者によって形成されたコンソーシアム

これらの事業者を対象に、デジタル化基盤導入類型の補助のほか、デジタル化基盤導入類型の要件に属さない複数社類型特有の経費として、消費動向等分析経費と補助事業者が参画事業者をとりまとめるために必要な事務費、外部専門家の謝金や旅費も補助対象となります。

IT補助金制度の対象と金額

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具体的に制度の内容をみていきます。

まず、補助の対象となる中小企業とは、以下の業種(個人事業主を含む)あるいは、医療法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人です。

対象業種:製造業、建設業、運輸業、卸売業、サービス業、小売業、ゴム製品製造業、ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業、その他

ただし、大企業の子会社の場合、対象外になる可能性があるので注意しましょう。

業種ごとに、補助金の対象となる資本金と従業員の規定もあります。たとえば、中小企業のうち製造業なら、資本金3億円以下、常勤の従業員が300人以下。卸売業では資本金1億円以下、従業員100人以下です。サービス業、小売業、旅館業では資本金は5,000万円以下ですが、従業員数は、旅館業が200人、サービス業が100人、小売業が50人以下となっています。小規模事業者では、製造業、宿泊業、娯楽業は従業員数が20名以下、商業・サービス業では5人以下となっています。

その他の業種についても定められているので、IT導入補助金のウェブサイトで詳細を確認してください。

参考:事業概要(IT導入補助金)

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IT補助金の対象になる製品とサービス

すべてのIT関連の製品やサービスが補助の対象になるわけではなく、IT導入支援業者が登録したITツールが対象になります。また、三つの枠それぞれで利用できるITツールは異なります。対象となるITツールの検索は、「IT導入支援事業者・ITツール検索」で確認してください。

通常枠(A・B類型)

事前に登録されたITツールの中から導入するITツールを選んで交付申請を行います。ソフトウエアのカテゴリー(プロセス)は以下になります。

1.顧客対応・販売支援
2.決済・債権債務・資金回収管理
3.調達・供給・在庫・物流
4.会計・財務・資産・経営
5.総務・人事・給与・労務・教育訓練
6.業種固有
7.汎用・自動化・分析ツール

類型 補助金申請額 補助率 プロセス数 賃上げ目標 補助対象 導入ツール要件
A類型 30万円〜150万円未満 1/2以内 1以上 加点項目 ソフトウエア購入費用及び導入するソフトウエアに関連するオプション・役務の費用 類型ごとのプロセス要件を満たすものであり、労働生産性の向上に資するITツールであること。
B類型 150万円〜450万円以下 1/2以内 4以上 必須要件 同上   同上 

引用:IT導入補助金2022 公募要領 通常枠(A・B 類型)

セキュリティ対策推進枠

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスのうち、IT導入支援事業者が提供し、かつ事務局に事前登録されたサービスの導入費用(サービス利用料)の最大2年分を補助します。IT導入支援事業者への相談を行い、適切なITツールを選択し、申請することが必要になります。補助率は1/2で、補助金額は5万円から100万円です。「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」掲載内容については、こちらのサイトを参考にしてください。

デジタル化基盤導入枠

「会計」「受発注」「決済」「EC」の機能を有するソフトウエアを導入する場合に、導入費用およびサービス利用料の費用が最大2年分補助されます。また、ソフトウエアと合わせて購入するパソコン、タブレット、プリンター、スキャナー、POSレジ、モバイル POSレジ、券売機などのハードウエアについても補助対象となります。補助率と補助額については、以下の表の通りです。

・デジタル化基盤導入類型

補助対象経費区分 ソフトウエア購入費、導入関連費、ハードウエア購入費
補助率 2/3以内〜3/4以内
補助上限額・下限額 ソフトウエア購入費・導入関連費:5万円〜350万円以下
パソコン、タブレット:下限なし〜10万円
レジ、券売機等:下限なし〜20万円

引用:IT導入補助金2022 公募要領 デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)

・複数社連携IT導入類型

区分 デジタル化基盤導入類型に属する基盤導入経費 デジタル化基盤導入類型に属さない複数社類型特有の経費 デジタル化基盤導入類型に属さない複数社類型特有の経費
補助対象経費区分 ソフトウエア購入費、導入関連費、ハードウエア購入費 消費動向等分析経費 補助事業者が参画事業者をとりまとめるために要する事務費、外部専門家謝金・旅費
補助率 2/3以内から3/4以内 2/3以内 2/3以内
補助額 ソフトウエア購入費・導入関連費:5万円から350万円まで
パソコン、タブレット:下限なし10万円まで
レジ、券売機:下限なし20万円まで
50万円×参画事業者数 基盤導入経費+消費動向等分析経費の10%

参考:IT導入補助金2022 公募要領 デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)

IT補助金申請の流れ

IT導入補助金の申請は、個人事業主や企業が直接申請するわけではありません。選定したIT導入支援事業者のサポートをもとに行う必要があります。申請から導入まではいくつかのステップが必要です。

1.事業内容の理解
公募要項などを読み、補助金事業の内容を理解します。または、商工会議所、よろず支援拠点、ITコーディネーターなどに経営の課題や課題解決のためのITツールについて相談を行います。

2.IT導入支援事業者・ITツールの選定
補助金の交付申請を行う前に自社の業種や事業規模、経営課題に合ったIT導入支援事業者と導入したいITツールを選びます。利用できるIT導入支援事業者とITツールは、検索ページで見つけることができます。

3.「GビズID」アカウントの取得
申請には法人・個人事業主向けの共通認証システムである「GビズID」のプライムアカウントが必要となります。アカウントを持っていない場合は「GビズID」ホームページから取得できます。

4.「SECURITY ACTION」の実施
GビズIDに加えて申請には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の宣言が必要になります。中小企業・小規模事業者自らが、2段階の情報セキュリティー対策に取組むことを宣言する制度で、中小企業における情報セキュリティー対策の普及と加速を目指すものです。交付申請作成時に宣言済アカウントIDの入力が必要となります。

5.交付申請
IT導入支援事業者との間で、どのようなITツールを導入するかなどの話し合いを行い、事業計画を作成します。手続きはすべて電子申請で行い、申請者はIT導入支援事業者から「申請マイページ」の招待を受け、交付申請に必要となる情報の入力を行います。

法人の場合は履歴事項全部証明書と法人税の納税証明書、個人事業主の場合は運転免許証などの身分証明書と所得税の納税証明書、所得確定申告書Bを添付する必要があります。また、IT導入支援事業者が導入するITツールの情報や事業計画の入力を行います。進捗状況はウェブサイトで随時確認できるほか、ステータスが更新されるたびにメールでの通知があります。

参考:令和元年度補正・令和3年度補正 サービス等生産性向上IT導入支援事業 交付申請の手引き

6.ITツールの発注・契約・支払い
交付申請を完了し、事務局から「交付決定」を受けてから、ITツールの発注、契約、支払いを行うことができます。支払いの事実に関する客観性を担保するために、銀行振込もしくはクレジットカードの1回払いとなります。このほかの方法で支払った場合や交付決定の連絡が届く前に発注、契約、支払いなどを行うと、補助金の交付を受けることができなくなるので、注意が必要です。

7.事業実績報告
補助事業が終了した後で、実際にITツールの発注、契約、納品、支払いなどを行ったことが分かる書類を提出し、事業実績報告を作成します。IT導入支援事業者が内容の確認と必要情報の入力を行い、申請者が事務局に事業実績報告を提出します。

参考:令和元年度補正・令和3年度補正 サービス等生産性向上IT導入支援事業 通常枠(A・B類型)・デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)共通 事業実施・実績報告の手引き

8.補助金交付手続き
補助金額が確定するとマイページから補助額が確認できるようになります。事業者は確定した内容を確認し、承認をする必要があります。承認後、1カ月程度で補助金が交付されます。

9.事業実施効果報告
期限内に申請者はマイページから必要項目を入力し、IT導入支援事業者の確認を経て、事業実施効果報告を提出します。

IT補助金の手続きの流れで重要なこと

IT補助金の申請の流れは大きく分けると、制度の理解、導入するITツール・支援事業者の選定、交付申請、導入実施、実績報告、補助額の確定、補助金の交付となり、その後、効果報告が必要になります。

申請すればすぐに補助金が支給されるわけでなく、運用して効果が出たことを確認した後に補助金が確定することになります。

2022年度10月以降の交付申請期間は以下の通りです。

通常枠(A・B類型)

第7次締切分 10月31日(月) 17:00(予定)
第8次締切分 11月28日(月) 17:00(予定)

セキュリティ対策推進枠

3次締切分 10月31日(月) 17:00(予定)
4次締切分 11月28日(月) 17:00(予定)

デジタル化基盤導入枠

14次締切分 10月31日(月) 17:00(予定)
15次締切分 11月14日(月) 17:00(予定)
16次締切分 11月28日(月) 17:00(予定)

これまでIT導入に踏み切れなかった中小企業や小規模事業者は、この機会にITツールを導入し、業務効率化や事業拡大を目指してみてはいかがでしょうか。

執筆は2018年6月19日時点の情報を参照しています。2022年10月18日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。 Photography provided by, Unsplash