起業して会社を立ち上げようとする場合、真っ先に思いつくのは株式会社でしょう。しかし、会社の形態には株式会社以外に合同会社、合資会社、合名会社があり、それぞれ会社としての性質や設立費用などが異なります。
本記事では、4種類の会社について概要を整理し、比較のポイントや各会社の種類について、利点や注意点などを解説します。起業の成功にも大いに関わる会社形態の特徴や違いをよく理解し、勢いあるスタートダッシュと安定した経営を目指しましょう。
目次
- 会社の4つの種類とは?
- 有限会社は現在設立できない
- 会社の種類を比較するときの6ポイント
- 会社4種類のそれぞれのメリットとデメリット
- 起業するならどの会社形態がおすすめ?
- 忙しい起業1年目を乗り越えるための便利ツールを紹介
- 会社の種類について、よくある質問
会社の4つの種類とは?
会社は組織として事業を行います。ここで重要となるのが、会社の立ち上げに関わった出資者の責任範囲です。出資者の責任には、範囲が限定される有限責任と、無制限の無限責任があります。会社の種類を整理する前に、まず責任範囲を押さえておきましょう。
中小企業ビジネス支援サイト(J-Net21)では、以下のように説明しています。
有限責任:会社が倒産したときなどに、会社の債権者に対して出資額を限度として責任を負う。出資したお金は消えるがそれ以上は責任を負わない。
無限責任:会社が倒産したときなどに、会社の債権者に対して負債総額の全額を支払う責任を負う。会社がすべての債権を払いきれない場合、無限責任を負う者は個人の財産をもち出してでも弁済しなければならない。
参考:有限責任と無限責任について教えてください。(J-Net21)
以下に整理する四つの会社形態についても、これらの責任範囲をふまえるとそれぞれの特徴をとらえやすくなります。
1. 株式会社
株式会社は4種の会社形態のなかで唯一、株式を発行できます。株式を買った人が出資者となり、株主とよばれます。株主が経営者を選出するため、一般的に出資者と経営者が異なる点も特徴です。
株式会社は毎年の決算公告が求められるほか、株主総会や取締役会の設置など細かな組織設計も求められます。一方、株式会社は資本金1円で1人でも設立でき、株主(出資者)の責任範囲は有限のため、外部からの資金調達を受けやすい形態ともいえます。
2. 合同会社
合同会社は、株式会社と同じく、資本金1円で1人でも設立できます。また出資者の責任範囲も有限です。しかし株式会社とは違って、出資者が経営に関する決定権を持ちます。株式の発行はできないため、外部からの資金調達の点では不利といえますが、株主総会や取締役会などの設置も不要で、決算公告の義務もありません。
合同会社は、世の中にある会社の在り方が時代とともに変わるなかで、2006年に新しく設けられた会社形態です。会社運営に関する制約が少なく、設立費用も株式会社より低く抑えられるため、小規模事業者でも設立しやすいといえるでしょう。
3. 合資会社
合資会社は、有限責任と無限責任の2種類の出資者からなります。有限責任の出資者は経営に参加しないケースが一般的で、無限責任の出資者が経営者となります。つまり合資会社は、出資のみ行うスポンサーと、経営者で構成される会社です。
なお合資会社は資本金0円でも設立できます。現金や現金同等の財産だけでなく、労働力や信用の大きさも資産とみなされるためです。ただし、合資会社は出資者の構成上、1人では設立できません。
4. 合名会社
合名会社はすべての出資者が無限責任者となり、経営権を持つ会社形態です。複数の個人事業主が集まって会社を経営するイメージが近いでしょう。株式会社や合同会社と同様に1人でも設立でき、資本金は合資会社と同様、0円でもかまいません。
合名会社は出資者が負う金銭的責任が大きいため、家族経営や信頼できる個人事業主どうしで慎重に設立する必要があります。
有限会社は現在設立できない
以前は「有限会社」という会社形態もありましたが、2006年の新会社法施行により廃止となりました。現在、有限会社の新規設立はできません。
もともと、株式会社と有限会社は必要な資本金額や株式の譲渡制限の点で明確に区別されていました。しかし時代の流れとともに両者を区別する意味合いが薄れてきたため有限会社は廃止となり、代わりに「合同会社」が新設されたのです。
また、現在は合資会社や合名会社は新規設立が減っていますが、当時は株式会社や有限会社の設立費用を準備できない人の選択肢として利用されていました。
会社の種類を比較するときの6ポイント
では実際に会社を設立するにあたり、4種類あるなかからどのような観点で自分にマッチした形態を選べばよいのでしょうか。資金や責任、経営面など、以下に整理した6ポイントを押さえ、最も自社に適した形態を選択することが望まれます。
会社設立時の費用
会社の設立にはさまざまな費用がかかります。法務局や公証人役場に支払う法定費用のほか、会社印や名刺の新調、看板やホームページ、会社案内など設立に付随して作成するものの費用も必要です。
このうち法定費用は、会社の形態によって金額が異なります。株式会社は定款の認証が必要ですが、合同会社・合資会社・合名会社では定款認証が不要となり、手数料がかかりません。また、設立登記の登録免許税も、株式会社は最低15万円であるのに対し、合同会社・合資会社・合名会社は最低6万円と、安くなっています。
【主な設立費用】
定款印紙代:4万円(電子定款にすれば0円)
公証役場の定款認証手数料:株式会社3万円から5万円、合同会社・合資会社・合名会社は不要
設立登記の登録免許税:株式会社15万円または資本金の額の1000分の7の大きい額/合同会社6万円または資本金の額の1000分の7の大きい額/合資会社・合名会社6万円
出資者が経営もできるかどうか
株式会社では、出資者(株主)と経営者は一般的に区別されています。会社の経営に関する大きな決断は株主の賛成なしには下せないこととなっていますが、株主が会社を経営するわけではありません。
一方、合同会社・合資会社・合名会社では、出資者が経営者となるケースが一般的です。したがって、会社に出資したうえで経営にも参加したい場合は、株式会社以外が選択肢となります。
出資者の責任範囲
有限責任と無限責任のどちらを選ぶかによって、金銭的な不安が大きく変わるため、会社形態を選ぶにあたり重要なポイントとなります。
有限責任の場合は、会社の負債について出資額以上の責任を負いません。株式会社と合同会社では出資者の責任範囲が有限です。
無限責任の場合は、出資額に関わらず会社の負債全額の責任を出資者が負います。合資会社の経営者と、合名会社の出資者が該当します。
資金調達のしやすさ
会社の経営が苦しくなったときや、事業拡大の局面で資金調達が必要になるかもしれません。したがって、以下のような資金調達方法の観点も比較検討のポイントといえます。
- 金融機関からの融資
- 個人や法人からの出資
- 補助金や助成金
- 社債発行
- 株式発行
このうち株式発行は株式会社のみが行えます。金融機関からの融資、補助金や助成金では数百万円から数千万円の調達額となるケースが一般的ですが、株式発行では数億円規模で調達できる可能性もあります。
大規模な資金調達を視野に入れている場合は、株式会社が向いているといえるでしょう。
意思決定のスピード感
株式会社において重大な意思決定を行う際には、小規模な会社であっても株主総会の開催が必須です。そのため意思決定に至るまでには一定の時間と手間がかかります。
一方、合同会社・合資会社・合名会社では、出資者みずから経営者となって会社の舵取りをしていくため、迅速な意思決定が可能です。スピード感を持って事業を展開したい場合に適した会社形態といえるでしょう。
利益の配分
会社があげた利益の配分方法も会社形態によって異なります。株式会社においては、出資額(保有株数)に応じた利益(配当)配分が原則です。
一方、合同会社・合資会社・合名会社では、利益を配分する基準を自由に決められます。たとえば、出資額は少ないが経営や事業に関する重要なノウハウを持っている人に対して、出資比率よりも多い割合で利益を配分することもできます。
4種類の会社の比較表
これまでに会社形態を比較するための主なポイントとして6点紹介しましたが、ほかにも上場の可否や決算公告の義務などから総合的に検討することをおすすめします。下表は主な比較項目を一覧としてまとめたものです。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
資本金 | 1円以上 | 1円以上 | 0円でも可 | 0円でも可 |
設立費用 | 約22万円~ | 約10万円~ | 約10万円~ | 約10万円~ |
出資者 | 1名以上 | 1名以上 | 2名以上 | 1名以上 |
出資者と経営者 | 区別される | 同一 | 有限責任者と無限責任者で区別 | 同一 |
出資者の責任範囲 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任 無限責任 |
無限責任 |
資金調達 | 株式発行可能 | 株式発行不可 | 株式発行不可 | 株式発行不可 |
重大な意思決定 | 株主総会 | 社員の過半数 | 社員の過半数 | 社員の過半数 |
意思決定のスピード | 時間がかかる | 早い | 早い | 早い |
利益配分 | 出資比率による | 自由 | 自由 | 自由 |
上場 | できる | できない | できない | できない |
決算公告義務 | あり | なし | なし | なし |
社会的認知度 | 高い | やや低い (2006年新設) |
低い | 低い |
会社4種類のそれぞれのメリットとデメリット
どの会社形態で起業するにしても、メリットとデメリットが存在します。会社形態ごとにメリットとデメリットをみていきましょう。
1. 株式会社のメリット・デメリット
株式会社を設立する最大のメリットは資金調達のしやすさです。なぜなら株式会社は社会的信用度が高く、4種の会社形態のなかで唯一株式を発行できるためです。
株式会社はほかの会社形態とくらべて社会的に広く認知されており、守るべき法規制も多いことから、信用を得やすいといえます。高い信用力によって金融機関や投資家からも出資を受けやすくなり、株式発行では数億円規模の資金調達も可能です。
一方でデメリットとしては、意思決定の自由度とスピード感が欠けやすい点があげられます。株式会社の最高意思決定機関は株主総会です。重大な意思決定は経営者のみで行えず、株主に賛否を問う必要があるため、経営判断の自由度やスピードがほかの会社形態にくらべて劣るといえます。
2. 合同会社のメリット・デメリット
合同会社のメリットは金銭面の負担や不安を抑えて起業できる点です。設立にかかる費用は合資会社や合名会社とは差がありませんが、株式会社とくらべれば10万円以上安く抑えられます。
また出資者の責任範囲は有限ですから、会社が負債を抱えたときや万が一倒産したときにも、出資額以上の債務については責任を負わずにすみます。
合同会社のデメリットとしては、株式会社にくらべると社会的信用力がやや劣る点です。2006年に新設された会社形態であるため、株式会社ほど社会にはまだ浸透していないといえるでしょう。資金調達の面で不利になりやすいほか、業種やビジネスモデルによっては取引先として敬遠されるおそれもあります。
3. 合資会社のメリット・デメリット
合資会社として起業するメリットは、経営に参加しない出資者(スポンサー)を募ることができる点です。株式会社でも出資者(株主)は経営に参加しませんが、重大な意思決定は株主総会での議決が必要です。合資会社においては、有限責任の出資者は経営に参加しないため、経営者のみで意思決定を行えます。
一方で合資会社は1人では立ち上げられない点がデメリットといえるでしょう。合資会社には無限責任者(経営者であり出資者)と有限責任者(経営に参加しない出資者)がそれぞれ1名以上必要です。また経営者の金銭的リスクが高い点にも注意が必要です。
4. 合名会社のメリット・デメリット
合名会社のメリットは、設立に関する条件面でのハードルがもっとも低い点といえます。資本金0円で1人でも立ち上げられ、設立費用も株式会社ほど高くありません。
しかし、出資者全員が自動的に無限責任者となってしまう点は大きなデメリットです。合名会社では出資者と経営者が区別されませんから、経営判断ひとつで会社の債務の全額について出資者(=経営者)が返済義務を負うことになりかねません。
合名会社は、設立の条件に関しては4種のなかでもっとも緩い一方で、出資者・経営者が負う金銭的リスクがもっとも高い会社形態といえます。
起業するならどの会社形態がおすすめ?
これから会社を立ち上げる形での起業を考えている場合は、株式会社または合同会社がおすすめです。
理由は合資会社・合名会社にくらべて金銭的リスクが低いためです。合資会社・合名会社は出資者・経営者の責任範囲が無限となり、会社が負債を抱えたときや倒産したときの返済負担が大きくなってしまいます。
株式会社と合同会社のどちらを選ぶかは、これまでに紹介してきた複数の要素から総合的に判断する必要がありますが、事業の業種も一つの判断材料となります。具体的にはBtoBビジネスなら株式会社、BtoCビジネスなら合同会社が適しているといえるでしょう。
BtoBビジネスでは企業が顧客となります。自社と安心して取引してもらうためには会社の認知度や信用度がより重要になります。
一方で、一般消費者に商品やサービスを提供するBtoCビジネスでは、会社の形態や社名などよりも商品力やサービスの質のほうが重視される傾向にあります。したがって、設立費用や意思決定のスピードなどで株式会社よりも有利な合同会社のほうが起業に適しているといえます。
会社設立後に形態を変更することも可能
会社の形態は、設立後に変更することができます。起業するにあたり、株式会社または合同会社にしようと選択肢を絞ったあとも、今後どれぐらい事業を拡大したいか、上場を目指すのか、資金がどれぐらい必要になるのかなど、考えが固まらないケースも多いでしょう。
このような場合、ひとまず合同会社として立ち上げて、ある程度軌道に乗ってきた段階で株式会社に変更することも可能です。反対に、株式会社から合同会社へも変更できます。
なお、会社形態の変更には出資者の賛成が必要なほか、所定の費用がかかることには注意が必要です。
忙しい起業1年目を乗り越えるための便利ツールを紹介
起業1年目は人手も少ないなかで事業を軌道に乗せる必要があるうえに、事務作業や人脈づくりなど取り組みが多岐にわたり、時間の余裕がなくなりがちです。ここでは、業務の効率化を図ることのできるツールを4種紹介します。
①クラウド会計ソフト
クラウド会計ソフトはインターネットに接続するだけで利用できる会計ソフトです。従来の会計ソフトと同様に、売り上げや仕入れ、掛取引の仕訳、銀行口座の入出金管理など、事業運営や決算書類の作成に欠かせないさまざまな会計処理を行えます。
またクレジットカードや銀行口座の情報をクラウド会計ソフトに紐づけておけば、カードの利用や入出金があった際に自動で仕訳を作成してくれる点が特徴です。面倒でつい溜めこんでしまいがちな帳簿入力の負担がぐっと軽減されるでしょう。
②名刺管理アプリ
名刺管理アプリは紙の名刺をデジタルデータ化し、コンピューター上で整理、管理、活用できるシステムです。なかには顧客管理システムや営業支援システムとも連携可能なものも登場しています。起業当初は人脈づくりに奔走し、名刺のやりとりも多い時期です。名刺をきちんと管理、活用できれば営業活動の効果の高まりが期待できます。
③POSレジ
POSレジは売上情報の収集や記録もできるレジシステムで、飲食店や小売・サービス店で用いられます。レジとして単に決済を行えるだけでなく、蓄積されたデータからの売上分析や在庫管理、顧客管理なども可能なため、マーケティング活動や経営改善なども効率的に取り組めるでしょう。店舗経営を行う際にはぜひ導入したいシステムです。
④クラウド請求書サービス
クラウド請求書サービスはコンピューターやタブレット端末を使って請求書の発行や送信ができるシステムです。見積書や請求書、領収書などは表計算ソフトでも作成できます。しかしクラウド請求書サービスを導入すれば、書類の作成だけでなく送信作業や入金管理までシステム上で一元管理できます。営業活動に時間を使いがちで事務の時間をなかなか取りづらい起業直後でも、請求書の作成漏れや入金漏れなどを防げ、業務負担を軽減できるサービスです。
会社の種類について、よくある質問
最後に、会社形態や会社の設立についてよく聞かれる質問を五つ紹介します。
株式会社と合同会社の違いは?
株式会社と合同会社の違いは大きく二つあります。まず株式会社は株式を発行できますが、合同会社は株式を発行できません。また、株式会社では出資者(株主)は一般的には経営に参加しない一方で、合同会社は出資者が経営者となります。
会社と法人は何が違う?
法人とは、法律に定められた組織で、1人の人間と同じように権利・義務を与えられた存在です。会社は法人の一種であり、「営利法人」に分類されます。
会社設立の手続きは難しい?
会社設立には多くの書類や手続きが必要で、簡単ではないといえるでしょう。定款の作成など、なかには専門知識がないと難しい作業もあります。自信がない場合は専門家への依頼をおすすめします。
会社は1人で作れる?
株式会社、合同会社、合名会社は1人でも設立が可能です。ただし、どの会社を立ち上げるにしても手続きに関する負担は小さくありません。スムーズに会社を設立したければ、専門家によるサポートなどを受けることをおすすめします。
友人と共同で起業するリスクは?
会社経営の知識や経験に乏しい仲間どうしで共同して会社を設立する場合、役職や報酬額、負債の負担割合などがあいまいだと後々揉めるおそれがあります。あらかじめ契約書などの書面を作成し、必ず形に残しておきましょう。
本記事では株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4種の会社形態について、特徴やメリット・デメリットを紹介するとともに、起業する際の比較ポイントもお伝えしました。。
会社形態を決める際には、出資者の経営への参加度合いや責任の範囲、資金調達の難易度、意思決定の迅速さ、業種の適正など、複数の要素から総合的に判断します。
設立後の組織変更も可能ではあるものの、所定の手続きの手間や費用が余分にかかります。時には専門家の力も借りながら自身に合った会社形態を選び、よいスタートを切りましょう。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2018年1月31日時点の情報を参照しています。2024年4月2日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash