生産管理の方法として1960年代に考案された、「MRP」(資材所要量計画)。今回は、MRPについて知りたい人のために、MRPの概要と歴史、MRPを取り入れる目的、MRPで起こり得る問題、MRPの導入方法について解説します。
目次
MRPとは
MRP(Material Requirements Planning)は、日本語では「資材所要量計画」と訳されている生産管理手法の一種です。製品の生産計画を基に、原材料や部品などの資材がどのくらい(所要量)必要なのかを算出します。
MRPでの資材所要量の算出に必要なもの
MRPを行うには、次の3点が必要です。
・生産計画
・部品表(BOM)
・在庫管理
生産計画
製品の品目には、独立して需要が生じる品目(独立需要品目)と、他の品目に従って需要が生じる品目(従属需要品目)があります。まず、ある製品(独立需要品目)の生産計画を立てます。
部品表(BOM)
製品の生産計画に対して、原材料や部品などの従属需要品目は、何が(品目)・どのくらい(総所要量)・いつまでに(納期)必要か、部品表をもとに算出します。部品表には、品目や製品構成、ロットサイズやリードタイムなどの基本的な情報が必要です。
在庫管理
各従属需要品目の総所要量を算出したら、実際にはどれだけの所要量(正味所要量)をいつまでに(納期)手配すればよいのか、在庫数や発注残、仕掛などの在庫管理情報をもとに算出します。その後、リードタイムを考慮して各品目を発注します。
MRPの歴史と変遷
1970年代は、製品の出荷量は安定していましたが、資材調達が費用や納期の面で不安定という傾向があり、資材の所要量や納期の把握が重要課題でした。そのような状況をうけて、MRPは1960年代から70年代初めにアメリカで提唱され、70年代後半には日本でも広まります。
1980年代に入り、MRPやリーン生産方式などの普及によって資材調達が安定しましたが、今度は市場のニーズにあわせた製品出荷量の変動が課題となってきました。そのため、資材のみに留まらず、人員や設備など生産ライン全体の能力をもとに生産計画や管理を行う、MRP2(Manufacturing Resource Planning、生産資源計画)が登場します。
1990年代には、MRP2の考え方をさらに拡大し、生産から販売・物流・人事にいたるまでの企業活動全般において、企業の全資源を管理・最適配分するERP(Enterprise Resource Planning)へと発展します。
MRPを取り入れる目的
MRPを導入する目的やメリットとして、主に次の点が挙げられます。
所要量の算出による在庫リスクの軽減
MRPの導入により、製品ごとに必要な従属需要品目における最適な所要量を算出できます。そのため、感覚や慣習に頼った発注や、欠品を恐れた過剰発注などにより、ムダな在庫を抱えるリスクを軽減可能です。
業務の効率化による生産性の向上
所要量を人力のみで算出しようとすれば膨大な手間がかかりますが、システム化によって作業時間が大幅に短縮され、計算ミスや二重発注なども削減されます。適正な所要量の算出により、納期調整などにかかる時間の短縮や、欠品による工程の遅れなども軽減され、業務の効率化や生産性の向上が可能です。
MRPで起こり得る問題
MRPは有効な生産管理方式ですが、導入するうえでは課題も存在します。
生産計画などの精度に結果が左右される
MRPは、生産計画や部品表(BOM)、在庫管理情報などのデータを基に資材の所要量を算出するため、生産計画など基となるデータの精度が低い場合、所要量の算出精度も低くなります。
計画変更により修正が発生する
MRPは、製品の出荷量が安定していた1970年代に生まれた手法であり、生産計画に基づいて資材の所要量を算出します。そのため、市場や取引先のニーズによって計画が変更されると、システムへの再登録など修正業務の時間が発生します。
MRPの導入方法
MRP自体は、パソコンとソフトウェアさえあればすぐに導入できますが、前述した課題を克服して導入するには、次の点に注意する必要があります。
ルールの整備
MRPの実施にあたっては、最低でも1カ月分の生産計画、品目や製品構成などを正しく記載した部品表、在庫量や発注減の正確な把握が必要です。
そのため、生産計画の度重なる変更や、在庫管理のルールが曖昧で在庫量が信用できないなどの状況を改善しないままMRPを導入しても、失敗に終わってしまいます。特に在庫管理において、許可なく在庫を持っていく、現場で紛失するなど、入出庫についてのルールが守られていないケースも多くみられます。
MRPの導入にあたっては、生産計画の変更や在庫管理などについてのルールを整備し厳守している状態が前提となります。
部品表の一元管理
部門間で部品表が不統一だったり、整合性がとれていなかったりする状態では、MRPを導入しても正しい資材所要量が算出できません。全社で部門表の書式を統一し、管理担当の部門を決めて管理していく仕組みを整備することが求められます。
生産計画の精度向上
ルールの整備や部品表の一元管理を行ったうえで、生産計画などの精度を向上する必要があります。生産計画は、まず3カ月先程度の計画を立案し、最新情報をもとに段階的に計画をアップデート、製造1カ月前には計画変更が最小限で済むように調整して、計画の精度を向上していきましょう。
計画変更による影響の最小化
MRPは計画変更による修正が発生するため、対策を立てておくと影響を小さくできます。
計画変更が与える主な影響には、納期遅れがあります。納期遅れの原因には、部品の未発注や人手不足などが挙げられますが、比較的ハードルの低い対応策は不良の削減です。不良削減には、たとえば、品質管理に関する数値を毎日記録し、管理図を作成して工程を見直すなどの対応が考えられます。
不良削減といった納期遅れの原因には、できることから対応していき、計画変更が発生してもMRPによる影響ができるだけ小さくなるよう、日々品質管理の向上を心がけましょう。
部門を横断して情報を共有できる仕組み作り
MRPで最適な所要量を算出するには、最新の情報が求められます。そのため、部門を横断して、計画変更などの情報をタイムリーに共有できる仕組み作りが必要です。
MRPとは、生産計画や部品表、在庫管理情報をもとに、従属需要品目の所要量や納期を算出する生産管理方法です。MRPの発展形には、MRP2やERPがあります。MRPを取り入れる目的は、主に「在庫リスクの軽減」「生産性の向上」です。
MRPの導入にあたっては、「ルールの整備」「部品表の一元管理」「生産計画の精度向上」「計画変更による影響の最小化」「部門を横断して情報を共有できる仕組み作り」などが挙げられます。
MRPの導入はメリットが大きいですが、導入には対策が必要となります。しかし、ルールの整備などの対策は、そのまま品質向上につながるため、MRPの導入をよい機会として社内の生産体制を見直してみるのもよいのではないでしょうか。
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執筆は2019年7月11日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に記事の一部を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash