鍼灸師の鍼灸院開業ガイド|資格や資金、失敗しないためのコツ

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

鍼灸院を開業するためには、必要な資格や届出、開業までのステップ、開業資金の目安・調達方法などを正しく理解しておく必要があります。開業に失敗しないためのコツや注意点を押さえて、鍼灸院オープンに向けたプランを立てていきましょう。費用を抑えて鍼灸院を開業する方法も解説します。

📝この記事のポイント

  • 開業には国家資格「はり師」「きゅう師」が必須で、医師の同意があれば一定の疾患で保険適用が可能
  • 受領委任で保険を扱う「施術管理者」になるには実務経験と研修が必要
  • 施術所は施術室6.6㎡以上/待合3.3㎡以上などの構造設備基準を満たし、開設後10日以内に届出
  • 出張専門は「出張施術業務開始届」を提出(開始後10日以内)。往療距離は片道16km以内が原則
  • 開業後は国税の開業届と個人事業税の事業開始申告を提出
目次


鍼灸師が独立開業するには?必要な資格と保険適用の条件

鍼灸院の開業を目指すうえで、まず押さえておきたいのが必要な国家資格と健康保険の適用条件についてです。

国家資格「はり師」と「きゅう師」の資格が必要

鍼灸師​(しんきゅうし)は​東洋医学もしくは​漢方医学に​基づき、​全身に​ある​経穴と​呼ばれる​ツボを​鍼や​お灸で​刺激し、​人間が​本来​持つ​自然治癒力を​高める​治療を​行います。​高度な​知識と​技術が​必要と​され、​専門的な​教育を​受けた​後に​「はり師」と「きゅう​師」の二つの国家試験に合格した​人のみが​鍼灸師と​して施術できます。自身が施術する鍼灸院を開業するためには、鍼灸師であることが必須条件です。

受領委任で保険取扱いするには実務経験と研修が必要

鍼灸師としての施術には「保険施術」と「自費施術」の2種類があります。

  • 保険施術:施術料の一部が健康保険によってカバーされる。病院の医師が鍼灸施術に同意した場合に行う1
  • 自費施術:施術費は利用者が全額自己負担。健康保険の適用外の症状・条件の場合に行う

鍼灸院を開業する場合、保険施術と自費施術の両方に対応できるとより多くの症状に対応でき、収入源が多くなります。ただし、保険施術を受領委任(窓口で自己負担分のみ)で取り扱うには条件があります。他の鍼灸師と共に勤務して1年間の実務経験を経たうえで、2日間の研修を受けると、「施術管理者」として鍼灸院での保険施術が可能です2

鍼灸院開業の流れ10ステップ

鍼灸院の事業計画から開業までの流れをステップごとに確認していきましょう。

(1) 事業計画・資金計画を立てる

鍼灸院の開業に向けた「事業計画書」は、事業の方向性を定めるだけでなく、資金調達の際にも必要となる重要なものです。事業計画書には次のような内容をまとめます。

  • 開業の動機・目的
  • 経営者の経歴・経験
  • 鍼灸院で提供するサービス内容
  • 鍼灸院としてのセールスポイント
  • ターゲットとする利用者層、集客方法
  • 従業員数
  • 取引先名(仕入先、外注先など)
  • 借り入れ状況
  • 開業資金と調達方法
  • 事業の見通し(月ごとの収支計画など)

他の鍼灸院との差別化のポイントや特に力を入れたいサービスなども、事業計画の段階で明文化しておきましょう。初めての事業計画書作りでは、Microsoft Officeなどが提供する無料テンプレートを活用するのも良い方法です。

また、資金計画については開業前にかかる「設備資金」と、開業後にかかる「運転資金」をそれぞれ計算します。その合計額を調達するにはどんな方法があるかを調べ、いくらをどのように調達するか検討しましょう。

(2) 保健所での事前相談を行う

鍼灸院などの施術所を​開設するに​あたり、​開設予定地を​管轄する​保健所に​事前相談に​行く​必要が​あります。主な相談内容は、​提出に​必要な​書類、​施術所の​構造や​設備、鍼灸院の​名称などに​ついてです。​開設前に​これらの点が基準を​満たしているかを確認​しておく​ことが​重要です。

施術を​行う​ために、​適切な​施設・設備が​整っているかを判断する「構造設備基準」は、​次の4点が主な条件です3

  • 6.6平方メートル以上の​専用の​施術室が​ある​
  • 3.3平方メートル以上の​待合室が​ある​
  • 施術室は、​部屋の​面積の​7分の​1以上に​相当する​部分が​外気に​開放できる​(もしくは​換気装置が​ある)​
  • 施術に​用いる​器具や​手指などの​消毒設備が​ある​​

こうした基準に見合う構造・設備を用意することで、鍼灸院などの施術所を開設できます。詳細な基準は各保健所で相談し、確認しましょう。

(3) 鍼灸院の名称を決める(注意点あり)

鍼灸院の開業に​あたり、​​利用者が​誤解するような​名称は医療法や​医師法で​禁止されている​ため​注意が​必要です。鍼灸院の名称として禁止されているのは、次のような名称です4

  • 「​病院」や​「診療所」などが付く名称(例:鍼灸病院、鍼灸診療所など)
  • ​​「科」や「医」が​付く​紛らわしい​名称(例:はり科、​きゅう​科、鍼灸医など)
  • 「はり」「きゅう」「鍼灸」などの施術業態がない名称(例:A治療院、Bクリニックなど)

鍼灸院の名称を検討する際は上の例にあるようなネーミングを避けるよう十分に気をつけ、保健所で必ず相談しましょう。なお、これらの禁止事項は鍼灸院の名称だけでなく、広告などにも使用できません。

(4) 開業に必要な資金を用意する

開業資金を用意するには、自己資金の他、借り入れ、返済不要な助成金・補助金などの手段があります。詳細は後述します。

(5) 物件選定を行う

先述の事業計画や保健所での事前相談に基づき、鍼灸院開業の条件に見合う広さ・構造の物件を探します。エリアやアクセスのしやすさ、周辺の環境、予算なども含めて検討しましょう。

路面店やビル内、ショッピングモール内の賃貸物件だけでなく、マンションの一室を借りて開業するケースもあります。地域によっては医療系用途の物件に強い不動産業者を見つけて相談するのも一つの方法です。

(6) 設備・備品を整える

鍼灸院の開業までに物件の内装工事を進め、設備・備品を揃えていきます。施術台、衛生設備、待合室のソファ、収納、看板、パソコンなどが必要です。

事業計画書の作成段階で設備・備品のコストを見積もりますが、物件の広さ・構造によって揃えるものやコストが変化することもあります。そのため、設備・備品の予算には少し幅を持たせておくと安心です。

(7) 保険施術を行う場合、受領委任の申出を行う

鍼灸院で保険施術を行うには、実務経験や講習の受講に加え、「受領委任」の手続きを済ませておくことがおすすめです5

受領委任とは、保険施術を行った際に鍼灸院は利用者から自己負担分の金額だけを受け取り、利用者に代わって療養費を保険者(保険組合など)に請求する仕組みです。受領委任制度に参加していないと、利用者の窓口負担金額が多くなるというデメリットが発生します。

鍼灸院の開業前に都道府県の地方厚生局(または支局)に申請し、受領委任の手続きを行っておきましょう。

(8) 集客を始める

開業日のめどが立ったら、ウェブサイト、SNS、看板、折込広告、ポスティングなどで集客活動を開始しましょう。オンラインでも紙媒体でも、鍼灸院の広告宣伝は文言に注意が必要なため、詳しくは後述します。

(9) 必要な場合、スタッフを採用する

経営者1人でなく複数人で施術を行う規模の鍼灸院を開業する場合は、施術スペースの広さや設備を十分に生かせる人員体制を考え、施術スタッフや受付スタッフの募集を開始します。店頭に張り紙をする、求人サイトに掲載する、ウェブサイトに求人用の問い合わせ情報を載せるといった方法で、採用を目指しましょう。

(10) いよいよ開業!施術スタート

開業までに近隣の住民・店舗にあいさつを済ませ、スムーズなスタートを切れるようにしましょう。開業後すぐに利用できる期間限定のクーポン券を配布するといった集客施策も有効です。

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鍼灸院開業後の3ステップ

鍼灸院を無事に開業したら、「開業後」にもやるべきことがあります。次の3ステップを忘れないよう、計画表に入れておくのがおすすめです。

(1) 施術所開設届を提出する(開業から10日以内)

鍼灸院の​開業後10日以内に、「施術所​開設届」を管轄の保健所に提出することが​義務付けられています6。​開設後10日を​過ぎる​場合は​遅延理由書の​添付が​必要になる​ため注意​しましょう。

施術所開設届の手続きには、次の​​書類が必要です。​

  • 施術所開設届:提出用と​控え用の​計2部
  • 業務に​従事する​施術者の​免許証:​原本と​写し
  • 施術所平面図​​
  • 周辺の見取り図
  • 開設者が個人の場合:身分証明証(運転免許証など)
  • 開設者が​法人の​場合:​登記簿謄本2部​(発行より​6カ月以内の​もの)
  • 開設者が​法人の​場合:定款または寄付行為の写し2部

「施術所開設届」は管轄の保健所で入手するか、ウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。

(2) 保健所による実地検査が行われる

管轄の​保健所に​より​細かな​日程は​異なりますが、​開設届を​受理して​からおおむね7〜​10開庁日を​目安に​保健所の​職員が​施術所を訪問し、​実地検査を​行います。実地検査の目的は、鍼灸院が開設届の申告内容通りの状況で運営されているかを確認することで、次のような​項目がチェックされます7

  • 施術所全般、​施術室、​待合室(面積や構造など)
  • 防火措置(消火用器具の​設置、​防火に​対する​措置など)
  • ​清潔保持(清潔さ、消毒設備の設置など)
  • 採光・換気(換気設備など)
  • 廃棄物(感染性廃棄物の​分別、​廃棄処理の委託契約など)
  • 広告(法律に​基づいた​広告に​なっているか)
  • 防犯対策(セキュリティーシステムの導入、​防犯対策、​個人情報​保護など)

(3) 個人で開く場合は開業届を提出する(開業から1カ月以内)

施術所開設届とは別に、個人経営の鍼灸院の場合は開業届の提出も必要です。開業届とは正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、鍼灸院に限らず事業を営む人が管轄の税務署に開業を知らせ、納税に備えます。次の書類を用意し、開業から1カ月以内に届け出ます。

  • 開業届:原本と控えの計2部
  • 青色申告承認申請書(※青色申告希望者のみ)
  • マイナンバーカード(※ない場合は他の本人確認書類)

開業届は所得税(国税)に関わる手続きですが、鍼灸院は個人事業税(地方税)の対象であるため「事業開始等申告書」の提出も必要です。事業開始等申告書は税務署ではなく都道府県税事務所に、鍼灸院開業から15日以内に提出します8

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鍼灸院開業に必要な資金の目安と調達方法

鍼灸院開業のための初期費用となる開業資金は、どんな鍼灸院を開くかによって必要額が変わってきます。かかる設備費や自己資金の状況などと併せて、資金調達方法も考えてみましょう。

初期費用の内訳(物件・内装・設備など)

鍼灸院の開業にかかる初期費用は大きく「設備資金」と「運転資金」の2種類に分けられます。設備資金は物件・設備などにかかるコストに充てる資金で、運転資金は鍼灸院の運営が軌道に乗るまでの期間のコストをまかなうための資金です。

何にどれだけお金をかけるかによって必要額は違ってきますが、鍼灸院の開業前に用意する初期費用はおおよそ300万〜800万円程度を目安と考えると良いでしょう。物件取得費は、地域、広さ、立地などに応じて特に異なる点です。

設備資金と運転資金の項目や金額の目安は、次のような例が考えられます。

【設備資金】

項目 内容例 金額(目安)
物件取得 構造設備基準を満たす施術室と待合室が作れる物件、内装工事 100万〜400万円
衛生設備、備品 消毒機材、手洗い場、 施術台、タオル、カーテン、イス、ゴミ箱、パソコン、ロッカーなど 50万〜300万円
宣伝 店頭の看板、求人広告、折込チラシ、ウェブサイト開設など 30万〜100万円

【運転資金】

項目 内容例 金額(目安)
運転資金 3〜6カ月分の経費(家賃、人件費、通信費、水道光熱費、消耗品費など) 150万〜400万円

どこまで内装工事を行うか、人を雇うか、運転資金をいくら用意するかなどは鍼灸院によって状況が異なるため、開業の初期費用がいくらかかるかは一概にはいえません。また、上に挙げたもの以外にも消耗品など​細々と​した​備品も​必要となる​ため、初期費用は多めに見積もっておくと安心です。

自己資金の準備と融資の受け方

自己資金とは、主に鍼灸院を開業する人自身の預貯金のことです。事業計画を早めに立て、理想とする鍼灸院のスタイルとそれに必要な金額を概算し、計画的に自己資金を用意しましょう。

開業に必要な資金の全額を自己資金でまかないきれない場合は、融資(借り入れ)を利用する可能性も検討します。借り入れは一般的に次の3通りがあります。

  • 身内からの借り入れ
  • 公的機関(日本政策金融公庫、都道府県など)からの融資
  • 金融機関(銀行など)からの融資

公的機関から資金調達をする場合、申し込みからのプロセスが長くかかるケースや、資金の用途・申し込み資格が限定されているケースが珍しくありません。ただし、新規開業でも利用しやすく、金融機関より低利子の融資もあるなど、メリットも多いので検討の価値は大きいといえます。

鍼灸院の開業にも利用可能な公的な融資としては、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」がよく知られています。

補助金・助成金の活用

自己資金と融資以外の資金調達の方法として、補助金や助成金という選択肢もあります。融資ではないので返済の必要はなく、用途に応じた金額上限が設定されています。補助金と助成金はどちらも公的機関からビジネスに対する経済的支援という意味では同じですが、支給の目的や管轄する省庁は次のように異なります。

  • 補助金:新規事業や地域の活性化をサポート(経済産業省・中小企業庁が管轄)
  • 助成金:労働環境・雇用状況の改善をサポート(厚生労働省が管轄)

補助金や助成金の種類によって上限額や用途は決まっています。都道府県や自治体限定の補助金もあるため、各ウェブサイトで最新情報を確認してみましょう。

鍼灸院の開業費用を最小限に抑える方法

開業費用の予算が少なくても、鍼灸院の開業は可能です。開業にかかる費用のうち、「物件」と「設備・備品」へのお金の使い方を再考してみましょう。

居抜き物件やシェア・レンタルサロンを活用する

以前に鍼灸院や似た形態のビジネスに利用されていた物件なら、必要な間取りがすでに確保されていることがあります。こうした居抜き物件を借りると内装工事が発生しない、または少しの工事だけで済むので、開業費用をグッと抑えることが可能です。

さらに、自分名義で物件を丸ごと借りることにこだわらなければ、シェアサロンやレンタルサロンを借りて鍼灸院を開業することもできます。シェアサロンやレンタルサロンは施術スペースを時間や月単位で借りることができるサービスで、共有の待合室や受付スペースがあることが一般的です。鍼灸施術の予約が入った時だけ場所を借りるといった効率的な使い方もでき、低予算での開業に適しています。

シェアサロンやレンタルサロンを鍼灸院の開業に利用する場合は、保健所が求める構造設備基準を満たしているかをしっかり確認しましょう。

自宅の一部を施術スペースにする

場所を借りず、自宅の一室を使って鍼灸院を開業することも可能です。この場合も構造設備基準への準拠は必要ですが、物件の初期費用や毎月の家賃がないことは大きな魅力でしょう。マンションなど集合住宅でも、条件を満たせば自宅で鍼灸院を開業できます。
ただし、利用者が訪れやすい立地や駐車場の有無、自宅のプライバシー保護などは事前にしっかり検討しましょう。

出張専門でスタートする

​鍼灸師は​利用者の​自宅に​訪問して​施術した​場合も​保険施術と​して​認められている​ため、​出張専門の​鍼灸師と​して独立​開業する​ことも​可能です9。出張専門の鍼灸師は開業の手続きなどに違いがあるため、次の3点に注意しましょう。

  • 「施術所開設届」の代わりに「出張業務開始届」を保健所に​提出する
    (※構造設備基準などが​ない​ため、​必要書類は​業務開始届、届出者の​資格免許証原本と​写し、本人確認書類)
    (※ただし、​既に​施術所を​開設したうえで​出張業務を​始める​場合は、​届出は不要)
  • ​個人名での​届け出となる​ため、屋号、​施術所の​名称・​通称をでの広告は不可
  • 出張業務の対象範囲は、届出の住所から​片道16キロメートル以内
    (※それより遠方への​往診は​絶対的な​理由が​必要)

出張専門の鍼灸師は​施設に​かかる​費用が​ない​ため、​独立資金を​抑えて​開業する​ことが​可能です。とはいえ、鍼灸院を構えるのとは違った集客の工夫が必要であることに加え、​往診先の​どのような​環境でも​対応できるような​準備を​しなければなりません。​出張専門の鍼灸施術で利用者のニーズに応えながら評判を高め、資金を蓄えてから、鍼灸院を開業するのも良いでしょう。

備品や設備は中古を上手に使う

鍼灸院の待合室のソファや控え室のテーブル、施術室の消毒機器などは、新品だけでなく中古品を購入して利用するのも良い方法です。中古の医療関連機器を専門に扱うオンラインショップや、ネットオークションなどでも入手できます。

他にも、鍼灸院の開業資金を少なく済ませるには次のようなポイントに注目してみましょう。

  • イス、施術台、滅菌器などはレンタル品を利用
  • 工事で壁や扉を作る代わりに、​パーテーションで施術室と​待合室を区分け
  • 電動型の施術台など高価な備品でなく、最初はシンプルな備品を導入
  • キャッシュレス決済、顧客管理システム、予約管理システムなどで業務を効率化し、人件費を節約

開業時は中古品やレンタル品を賢く利用しつつ、鍼灸院の運営が軌道に乗ってきたら少しずつ備品や設備を好みのものに切り替えていくことも可能です。

予約管理はSquareで

メニューや​スタッフの​登録から、前払いの​受付、リマインダーの送信、​予約サイトの​作成まで無料。アプリでも、お使いのブラウザでも、場所を問わず、どこでも予約の状況を確認、調整できます。

鍼灸院の開業で失敗しないための4つのコツ

開業の流れやポイントを理解したところで、鍼灸院の運営を成功させるコツを、資金、他院との差別化、集客、リピート利用の四つの観点から考えてみましょう。

(1) 最低でも半年分の運転資金を確保しておく

開業後すぐに鍼灸院が予約でいっぱいになると考えるのはあまり現実的でなく、来院した人の口コミなどで徐々に人気が上がっていくのが一般的です。そのため、開業から数カ月間は毎月の利益が目標額に届かないことも想定しておきましょう。

最初の半年分の経費をまかなう運転資金を用意しておくと、安心して事業の成長に取り組むことができます。十分な運転資金が心理的にも余裕を生み、より良いサービス提供にもつながりそうです。

(2)他院との差別化ポイントを明確にする

近隣エリアに鍼灸院が複数ある場合、利用者には「他院ではなくこの鍼灸院を選んで来る理由」が必要です。そこで、開業前の事業計画の段階から、他院との差別化ポイントになる鍼灸院の特徴を打ち出しておくことが利用者獲得の鍵となります。

鍼灸院の差別化のポイントとしては、次のような例が考えられます。

  • 自動車事故後のむち打ち症の改善に効果的な施術
  • リウマチ患者の施術経験が豊富な鍼灸師
  • 子どもにフレンドリーなカラフルな内装
  • 初めての鍼灸でも安心の丁寧なコンサルテーション
  • 多忙な社会人にも対応できる営業時間
  • 肌や体調の悩みに応える美容鍼灸

差別化のポイントを設定する際は、鍼灸師自身の強みや興味を生かす、または地域のニーズに応えるといった要素があると、集客に効果が出やすくなります。他院の特徴を研究するのもおすすめです。

(3)集客は多方面から取り組む(広告に関する規定に注意)

鍼灸院には基本的に地元や周辺地域の人が来院することを踏まえ、地域の特性に合う集客方法が求められます。ポスティング、折り込みチラシ、看板、張り紙といった広告方法は一定の効果が見込めそうです。

一方、近年はオンラインの口コミ情報も集客に影響することから、Google マップへの掲載やレビューへの対応なども大切です。SNSへの投稿や動画を使った集客活動も一般的で、すぐに来院に結びつけるだけでなく「ファンになってもらう」「鍼灸に興味を持ってもらう」「施術効果を理解してもらう」といったマーケティング効果も期待できます。オンラインの場合は遠方からの来院につながることもあり、多方面から集客に取り組むことが重要といえるでしょう。

なお、鍼灸院の広告やコンテンツを作成する前に、法律が定める「広告できること・できないこと」を確認しておきましょう。次の​事項は​鍼灸院が広告する​ことが​認められていますが、​それ以外は​どのような​状況であっても​広告できないと​定められています10

  • 施術者の​氏名、​住所
  • 業務の​種類
  • 施術所の​名称、​電話番号、​所在場所
  • 施術日、​施術時間
  • その他厚生労働​大臣が​指定する​事項
    ​(※​医療保険療養費支給申請が​できる​旨、​予約に​よる​施術の​実施、​休日や​夜間に​おける​施術の​実施、​出張に​よる​施術の​実施、​駐車設備など)

また、「◯◯流鍼灸」「◯◯に​効く​鍼治療」といった​施術者の​技能や​施術方法、​経歴に​関する​事項の​記載は​できません。​さらに、​規定から​逸脱するような​誇大広告は​禁止されているので​注意しましょう。

(4)リピートにつながる仕組みを準備する

一度来院した人がまた施術を受けるリピート利用を促進することも、鍼灸院の安定的な経営につながります。再来院を促す仕組みとして、次のような施策を検討してみましょう。

  • ポイント制を導入してカードを配布する
  • 次回利用分のクーポン券をわたす
  • 3カ月、半年など来院のない人にダイレクトメールを送る

こうした施策と併せて、「継続的な施術を受けることの効果を伝える」「健康管理の一環としての鍼灸の価値を理解してもらう」といったコミュニケーションも鍼灸院のリピーター化にプラスになります。

よくある質問(FAQ)

鍼灸院の開業を考える人にとって気になるのが、鍼灸師のお金や時間の現実ではないでしょうか。開業前の「よくある質問」を二つ取り上げます。

鍼灸師が鍼灸院を開業して狙える年収は?

独立開業して一人で運営する鍼灸院の場合、年収は350万〜450万円ほどといわれます。他の鍼灸師がいないので取れる予約の数に限度がありますが、知識や技術力、経験値を武器に、収益性の高い自費施術のサービスを提供することも可能です。

他の鍼灸師を雇用して複数人体制の鍼灸院を経営する場合は、1,000万円台の年収を見込むこともできます。自身の鍼灸の技術だけでなく、スタッフのトレーニング、効果的な集客、収益性の高い施術メニュー、コスト効率の良いオペレーションなど、ビジネス面でもスキルアップを図ることが高い年収につながりそうです。

鍼灸院を開業するまでの期間の目安は?

1年以上の実務経験を積み、開業のための自己資金を準備したうえで、鍼灸院の開業準備には6〜8カ月かかると考えておきましょう。

特に物件は探し始めてからすぐに見つかるとは限らず、物件が決まらないと内装工事の計画や届け出などの手続きも進みません。補助金や助成金を利用する場合は申請から受給までの期間が長いケースもあり、鍼灸院開業までの準備期間が短いと必要なタイミングで受給が間に合わないことも考えられます。

実務経験を積みながら独立開業に向けた事業計画を練り、資金調達の手段を調べ、鍼灸院の開業に向けて少しずつ準備を進めていくのがおすすめです。

まとめ

鍼灸師が独立開業するには、求められる経験、資金、資格、手続きなど、決められた準備やステップを一つずつ着実に踏んでいく必要があります。施術所を開設する鍼灸院の在り方に限らず、シェアサロンやレンタルサロンを利用した鍼灸院、出張専門のスタイルなど、働き方はさまざまです。人の体を癒す専門職として、ぜひ自身の強みを生かして他院と差別化した鍼灸院を開業しましょう。


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執筆は2019年2月7日時点の情報を参照しています。2025年9月26日に記事の一部を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash