辻本店 | Square導入事例

創業は文化元年(1804年)。美作勝山藩主、三浦家に献上する「御前酒」を醸していた由緒正しい酒蔵に生まれ、かつてはその境遇を窮屈に感じていた女性が今、岡山県初の女性杜氏(とうじ)として日本酒の新境地を開いている。

株式会社辻本店・杜氏の辻麻衣子(つじ・まいこ)さんは、高校生進学とともに実家を飛び出し、酒造りとは全く関係のない人生を歩むつもりだった。その彼女がなぜ、酒造りの心臓部とも言える杜氏としての道を選ぶことになったのか。220年の歴史がある事業で、なぜキャッシュレス決済が必要になり、Squareを選んだのか。その背景にあるものを紐解いていく。

業種 酒造業
業態 製造、物販、飲食
利用しているサービス Square リーダーSquare POSレジ売上データ分析
導入を検討した理由 ・イベントなどのポップアップショップで簡単にキャッシュレス決済に対応する、低コストで導入できるシステムが欲しかった
Squareが役に立っている点 ・タブレットさえあれば簡単に導入できる
・持ち運びがしやすい
・入金が早い

かつて遠ざけていた実家の蔵へ

ここは、子どもが入る場所じゃない。ましてや女が入ってはいけない——酒蔵の娘でありながら、見たこともない、酒造りの現場。それなのに、外を歩けば誰もが「御前酒のまいちゃん」と声をかけてくる。

麻衣子さんは、思春期を迎えるにつれ、生まれながらに酒蔵の看板を背負う境遇を次第に疎ましく感じるようになっていったという。だからこそ、高校から実家を離れて一人暮らしを始め、東京の大学に進学もした。

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しかし、二十歳を迎え、自らお酒を嗜むようになるころ、麻衣子さんの心境に変化が訪れる。

大学の友人を実家に招待して酒蔵を見せると、皆興奮気味に目を輝かせる。実家のお酒を振る舞えば、その味に感動してくれる。実家が酒蔵というのは、悪くないことなのかもしれない——。

大学で国際政治を学んでいたこともあり、海外に目を向けた時に自分のルーツを深く語れないことに負い目を感じていたことも手伝って、麻衣子さんは徐々に実家の酒造りの中身を知りたいと関心を抱くようになっていった。

そんなある年の大学の冬休み、麻衣子さんは意を決して、父親に酒造りを手伝わせて欲しいと直訴する。そして、父親はそれを受け入れてくれた。

当初はほんの1週間の「酒造り体験」のつもりだったという。しかし、勝手知ったるはずの実家でありながら、蔵人たちが生き生きと働く酒造りの現場、そして米が徐々にお酒に変化していく様子は、すべてが麻衣子さんの目に新鮮で魅力的に映った。

「もう本当に引き込まれてしまって。当初1週間だった予定を2週間に延ばしてもらったんですよ。その時からもう、『これがやりたい』となっていましたね」

実家での体験を終えた麻衣子さんは、それでも一度は東京で就職している。父親からも、まずは外の世界を経験してきた方がいいと勧められたし、本人もそう感じていたからだ。しかし、働き始めて半年も経たないうちに、麻衣子さんは居ても立ってもいられなくなったという。どうしても酒造りをしたい気持ちが抑えられなかったのだ。

そして麻衣子さんは、ついに”弟子入り志願者”として実家の門を叩く。

岡山県で女性初の杜氏に

その頃になると、時代が変わっていた。男女雇用機会均等法の施行から10年以上が経ち、あれほど「女人禁制」を掲げていた父親も、麻衣子さんが酒の造り手として蔵に入ることに反対はしなかったそうだ。

さらに、麻衣子さんの師匠となる原田杜氏もまた、当時としては非常に柔軟な思考の持ち主だったという。頑固なところは全くなく、常に新しい酒造りの手法について考え、良いと思ったものはどんどん取り込み、失敗したらすぐやめるというような、今時のエンジニアにも通じる気質を持っていた原田杜氏にとって、麻衣子さんが蔵に入ることは何の問題もなかった。こうして麻衣子さんは晴れて蔵人となり、夢中になって酒造りを覚えた。

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しかし、働き始めて6年ほど経った頃、大きな転機が訪れる。師匠の原田杜氏が病に倒れたのだ。酒造りの期間中のことである。それは蔵にとっての非常事態だった。酒造りはすべての工程が杜氏の指示のもとで行われるからだ。辻本店のビジネスとして酒造りを止めることはできない。

当時、「頭(かしら)」と呼ばれるポジションに就いていた麻衣子さんは、杜氏不在のまま必死でその年の酒造りをやり遂げた。師匠ならこうするだろう、という想像に基づいてやるしかなかった酒造りは、後から振り返ると実は1番大変な経験だったかもしれないという。

結局、そのまま原田杜氏は帰らぬ人となった。そして、次の酒造りシーズンに向けて、父親から声がかかった。

「次をやってくれるか——」

岡山県初の、女性杜氏誕生の瞬間だった。

杜氏として、母として

杜氏に就任した頃、麻衣子さんはもう一つ、大きな人生の転機を経験している。子どもを授かったのだ。しかし、妊娠中も出産直後も、杜氏になりたての麻衣子さんに、仕事を休むという選択肢は存在しなかった。

「酒造りって、夜間の作業があるんですよ。子どもが生まれたばかりの時は、夜中に授乳して、授乳が終わったら蔵に麹を混ぜに行って、また戻って授乳して……というのを2、3往復したりしてましたね」

妊娠がわかった時点で、育児をしながらどのように酒造りに関わっていくかは、ある程度シミュレーションしてはいたものの、両立の大変さは想像をはるかに超えていたという。

しかし、その大変さは、効率的な仕組み作りを行うモチベーションにもなったそうだ。

「夜中の作業も、これまではずっと杜氏1人でやるものだったのですが、それを交代制にしたり、妊娠してから授乳が終わるまではお酒を飲めないので、味覚を言語化しておいて、蔵人全員が共通認識を持てるようにしたり」

麻衣子さんの率いる辻本店が、慣習に囚われすぎない新しい日本酒像を描きはじめたきっかけは、実はこのような体験にもあったのかもしれない。

支えとなった女性コミュニティの存在

大変だった時期を乗り越えるのに、周囲のサポートが欠かせなかったと麻衣子さんは振り返る。

家族はもちろん、ともにお酒を造る蔵人たちの理解と協力なくしては、杜氏と母親の両立はできなかっただろう。蔵の一部が保育所と化したのも、蔵人たちの理解があったからこそだ。

しかし、最も心の支えになったのは、同業女性たちのコミュニティだったという。

「『蔵女性サミット』というのがあるんですよ。全国から蔵で働く女性が40人ぐらい集まって、年に1回研修会をやるんですけど、楽しいんですよ」

そこには、麻衣子さんと同じく大変な思いをしながら酒造りに関わり続けてきた母親が大勢いた。まだまだ子どもが小さい麻衣子さんに、具体的なアドバイスもたくさん送ってくれた。杜氏という、特殊な世界で働いている麻衣子さんにとっては、同じ境遇での体験談は何よりも実践的なヒントになった。

「夜の麹作業の時は、麹室の隅っこで子どもに米の拭き掃除をやらせると喜ぶよ、とか、子どもを連れながらの酒造りを経験してきた先輩がこんなにいたんだ、っていうのは心強かったし、そこに参加して悩みも解決しましたね」

こうして、麻衣子さんの酒造りは試行錯誤を経て、順調に軌道に乗っていく。

ポップアップショップでの決済手段にSquare

一方、ビジネスサイドを見てみると、辻本店の日本酒をもっと多くの人々に手に取ってもらうために、同社はイベントなどで積極的にポップアップショップを出店している。イベントでは、クレジットカードでの支払いを希望するお客さまが目に見えて増えてきていた。

そんな時、定例会議で営業チームから提案があったのが、Square リーダーの導入だった。

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酒蔵と併設している物販店と飲食店では他社のPOSシステムを使っていることもあり、イベント単体での決済システムに多額のコストをかけられる状況ではなかったが、Squareの初期費用の安さと、簡単に導入できて、すぐに使える手軽さが決め手となった。

「設定が簡単で、あの四角い端末とタブレットさえあれば、いろんなところに持ち運びができるのはイベントの出店にぴったりでした」

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加えて、偶然、取材時は物販店舗で使用していた他社製のカード決済端末が故障していたのだが、それによって、Squareの入金の早さを改めて実感することになったという。

「端末が壊れてすぐに新しいのを発注したんですが、納品まで2か月かかってしまうんです。それで今応急処置として常設店舗でもSquareを使っているのですが、入金が早いのはいいですね。元々使っているものはカード決済後の色々な処理のために入金まで2か月ぐらいかかってしまうので。入金が早いというメリットは、使っている端末が壊れたことで気付いたことですが、営業としては、イベントだけでなく、常設店舗も含めてSquareで統一してもいいのではないかと感じているようです」

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変わらないものがあるから、どんどん変えていく

杜氏になりたてだった頃は、「杜氏が変わって味が変わった」と思われることを1番恐れていた麻衣子さんだが、初めて自分がすべてを決めたお酒を造った時に「この蔵で造ったお酒には、共通した”味の芯”がある。だから、やり方はどんどん変えても大丈夫なんだ」と気付いたという。

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それ以来、麻衣子さんは積極的に新しいチャレンジを繰り返している。それは、日本酒業界の未来に強烈な危機感を覚えているからだ。

「日本酒の国内マーケットは縮小していて、その中でどうやって生き残っていくかを常に考えています」

そういった状況において、辻本店のお酒を特色のある強いものにするために取り組んでいることが二つある。一つは、岡山県産の「雄町(おまち)米」を原料として100%使用すること。そしてもう一つが、「菩提酛(ぼだいもと)仕込み」と呼ばれる、空気中に漂う乳酸菌を利用する、原始的な無添加の酒造りですべての商品を製造することだ。

どちらもコストや工程を考えると簡単なことではない。むしろ酒造りのこれまでの常識では考えられないことかもしれない。それでも、辻本店はその未来を選んだ。

「時代の移り変わりで、昔ながらのお酒が好き、という方は必ず減っていきます。長い目で見ると、今10代の方がお酒を飲めるようになったときに、好きになってくれるものを造っていかないといけません。失敗することもあるんですよ、誰も確立していないやり方なので。そういうのを積み重ねていって、安全に、いいものを造らなくてはいけないので、そこはやっぱり時間がかかりますね」

菩提酛仕込みに関しては、教えを請うために麻衣子さんを訪ねてくる同業者もいるというが、そんな時は、麻衣子さんの知識を惜しみなくオープンに伝える。菩提酛仕込みという偉大な遺産を引き継いでいくため、ということももちろんあるが、そこには、一朝一夕で身につけられるものではない難しい製法に対する、麻衣子さんが積み重ねてきた絶対的な自信が滲み出てもいる。

さらには、海外へも積極的に打って出ており、現在12か国に日本酒を輸出しているという麻衣子さんの酒造りは、今なお進化を続けている。

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設定が簡単で、あの四角い端末とタブレットさえあれば、いろんなところに持ち運びができるのはイベントの出店にぴったりでしたー株式会社 辻本店 杜氏 辻麻衣子さま

Squareが実現したこと

どこへでも持ち運べる決済端末でイベント出店をより手軽に

辻本店では、酒蔵に隣接された常設店舗以外にも、より多くのお客さまに日本酒を手に取ってもらう機会として各種イベントでのポップアップ出店を積極的に行っています。近年、ポップアップショップでクレジットカード決済を希望するお客さまが増えてきたことから、Square リーダーを導入。とにかく簡単に設定できて、コンパクトな端末をタブレットに接続するだけですぐに販売できるため、イベントでの出店がより手軽で効率的になりました。

すばやい入金

常設店舗では他社製のクレジットカード決済端末を使っていましたが、それが故障した時に臨時で常設店舗でもSquare リーダーを使用。もともと使っていた決済代行会社では、決済から売上金の入金まで2か月程度かかっていましたが、Squareを使ったことにより、改めて入金の早さ(※)を実感したそうです。

※Squareアカウントの登録口座が「三井住友銀行」、または「みずほ銀行」の場合は、決済日の翌営業日に振り込まれます。その他の銀行口座の場合は、毎週木曜日0:00~翌週水曜日23:59までの決済額が、翌週金曜日に合算で振り込まれます。振込手数料はかかりません。

この事例に登場したSquareのサービスは: