※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
事業をはじめる前の準備では、広告宣伝や備品の購入、調査にかかる費用など、さまざまな出費が避けられません。これらの支出は通常の経費とは区別され、税務上は「開業費」として繰延資産に計上することになります。
開業費を正しく会計処理することで、節税の面で有利になるだけでなく、今後の資金繰りや事業計画を立てやすくなる点も大きなメリットです。
本記事では、開業費に該当する支出とそうでない支出の違い、勘定科目や仕訳の方法、償却の仕組みや期間、よくある疑問までを整理し、わかりやすく解説します。
📝この記事のポイント
- 開業費は「準備費用」であり、経費ではなく繰延資産
- 個人は開業届前、法人は設立日〜営業開始日の支出が対象
- 生活費・開業後の費用・高額備品は対象外
- 仕訳は資産計上、償却は一括も分割も可能
- 領収書を保管し、開業との関連性を示すことが重要
目次
- 開業費にできるもの
・個人事業主が開業費として計上できる費用
・法人が開業費として計上できる費用 - 開業費にできないもの
・生活費や家事関連費用
・開業後に発生する費用
・その他、開業費にできない代表的な費用の例 - 開業費は「経費」ではなく、「繰延資産」として取り扱われる
・繰延資産とは
・繰延資産のメリットは節税効果と費用計上の柔軟性 - 開業費の帳簿の付け方は?勘定科目・仕訳・償却の基本
・よく使う勘定科目と仕訳例【支出時・開業時】
・仕訳の日付は個人事業主と法人で異なるので注意
・償却はどうする?均等償却と任意償却とは【決算・確定申告の時】
・領収書・レシートの保管ルールと注意点 - 開業費として認められる期間はいつからいつまで?
・個人事業主は明確な起点がないが、開業準備期間中の支出が対象
・法人は「会社設立日から営業開始日まで」の支出が対象 - 開業後に役立つ!Squareの無料・低コストな便利ツール
- よくある質問 (FAQ)
・法人の開業費と創立費の違いは?
・開業費は一括で償却できる?
・開業から数カ月後に気づいた費用も計上できる? - まとめ
開業費にできるもの
開業費とは、事業をはじめるまでの準備段階で発生した支出をまとめたもので、「開業準備費」とも呼ばれます。通常の経費とは扱いが異なり、会計上は「繰延資産」として処理されるのが特徴です。
支出した金額は、その年に全額を経費化することも、数年間に分けて少しずつ償却することも可能で、利益に応じた柔軟な費用計上ができます。これにより、資金繰りや節税対策に役立つ点が大きなメリットです。
ただし、開業費として認められる範囲は、個人事業主と法人とで取り扱いが異なるため注意が必要です。以下では、それぞれのケースについて詳しく解説します。
個人事業主が開業費として計上できる費用
個人事業主の場合、開業届を提出する前の準備段階で発生した費用のうち、事業に必要と認められる支出が対象です。主な例は以下のとおりです。
- 開業準備のために参加したセミナーや講座の費用
- 市場調査や打ち合わせに出向いた際の交通費・ガソリン代
- 打ち合わせや準備作業で発生した通信費や会場費
- 取引先や関係者への挨拶に用意した手土産代
- 開業前に借入を行った場合の利息
- チラシやポスター制作、ネット広告出稿などの広告宣伝費
- パソコンやプリンターなど、業務で使用するために購入した備品
このように、事業開始に直結する準備支出は幅広く開業費に含められるのが特徴です。ただし「生活費に近い支出」や「事業との関連性が不明確な支出」は認められないため、領収書やメモを残し、開業準備との関連を示せる形で管理しておくことが重要です。
法人が開業費として計上できる費用
法人の場合、会社設立日から営業開始日までに発生した支出のうち、開業準備のために特別に使った費用が対象となります。主な例は以下のとおりです。
- 従業員研修や市場リサーチにかかった費用
- 会社ホームページの制作や広告出稿などの宣伝費用
- 営業活動で使用する名刺のデザイン・印刷代
- 事務所や店舗の内装工事、机・椅子など備品の購入費用
- そのほか開業準備に特別に充てた支出
ここで注意したいのが、法人では「開業費」と「創立費」が明確に区別される点です。
- 創立費:法人設立登記までにかかった費用(定款認証費用、登録免許税、司法書士報酬など)
- 開業費:設立登記後から営業開始までに発生した準備費用
両者を混同すると仕訳や申告に誤りが生じる可能性があるため、領収書や契約書を整理し、どちらに区分されるかを明確にしておくことが大切です。

開業費にできないもの
開業準備のための支出であっても、すべてが開業費として認められるわけではありません。事業運営や日常生活に関する費用の中には、税務上「開業費」に計上できないものが存在します。ここでは代表的なケースを整理します。
生活費や家事関連費用
個人的な生活費や家事関連費用は、事業に直接関係がないため開業費になりません。たとえば、以下のような支出です。
- 自宅の家賃・光熱費・通信費などのうち、私生活に使用した分
- 日常の食費や衣類の購入費用
- 趣味や娯楽のために支出した費用
自宅を事務所として利用している場合でも、事業に使用した割合を算出して「家事按分」として経費にすることは可能ですが、その際は事業との関連性を説明できるよう記録を残すことが重要です。
開業後に発生する費用
開業後にかかる費用は事業の運営に直結するため、開業費ではなく通常の経費として処理します。代表的なものは以下のとおりです。
- 開業後に実施したキャンペーンや広告出稿にかかる費用
- 従業員への給与支払いおよび社会保険料の会社負担分
- 商品や原材料の購入に要した仕入代金
- 事務所や店舗の運営で継続的に発生する光熱費や消耗品費
これらは事業活動が続く限り毎月・毎年発生する「継続的な費用」であり、開業準備という一時的な支出とは性質が異なります。
したがって、開業後の費用は「開業費」としてまとめるのではなく、適切な勘定科目で仕訳し、その年度の損益に直接反映させることが正しい処理です。特に仕入れや人件費のように金額が大きくなりやすい支出は、正確な仕訳と取引や業務の内容の証明書類の管理が重要です。
その他、開業費にできない代表的な費用の例
生活費や開業後の運営費用以外にも、以下のような支出は開業費として認められません。
- 10万円以上の備品購入(固定資産に該当するため)
- 商品や材料の仕入代金(売上原価に計上)
- 敷金や礼金(資産や前払費用として処理)
このように、開業費の範囲は限定的であり、事業に直接必要な準備費用かどうかで判断されます。判断が難しい場合には税理士に確認しておくと安心です。また、開業後の費用はその年の損益計算に直結するため、適切に勘定科目へ仕訳し、経費として処理することが節税の第一歩です。
特に広告宣伝費や仕入代金は金額が大きくなりやすいため、証憑の整理や会計ソフトへの記録を正確に行うことが重要です。

開業費は「経費」ではなく、「繰延資産」として取り扱われる
開業費は税法上、単純な「経費」ではなく「繰延資産」として処理されます。開業準備に使ったお金は手元から出ていく支出であるにもかかわらず、会計上は資産として計上されるため、違和感を覚える人もいるかもしれません。これは、開業費が事業を長期的に支える性質を持つためです。ここでは、繰延資産の基本的な考え方と、開業費を資産計上することによるメリットを解説します。
繰延資産とは
繰延資産とは、支出の効果が1年以上にわたり事業に利益をもたらすと考えられる費用を指します。土地や建物といった固定資産と異なり、物理的な形を持たないことが多いのが特徴です。
たとえば、市場調査や広告宣伝といった開業準備のための支出は、その年だけでなく、将来の利益や顧客獲得にも寄与します。こうした長期的な効果を見込める支出は、繰延資産として資産計上し、複数年度に分けて経費化していくのが原則です。
繰延資産のメリットは節税効果と費用計上の柔軟性
開業費を繰延資産として計上する最大のメリットは、節税効果と費用計上の柔軟性にあります。
会計上は通常5年で均等に償却することが求められますが、税法上は任意償却が認められており、年度ごとに経費化する金額を自由に決められます。状況に応じて一括償却することも可能です。
そのため、利益が多い年には償却を進めて税負担を軽減し、利益が少ない年には償却を抑えて翌年度以降に回すといった調整が可能になります。開業費を繰延資産として取り扱うことは、資金繰りと税務戦略の両面で大きなメリットがあります。
開業費の帳簿の付け方は?勘定科目・仕訳・償却の基本
開業費は「繰延資産」として会計処理されるため、帳簿への記録方法や仕訳の仕方に独自のルールがあります。正しく計上しておくことで、決算や確定申告の際に慌てることなく、節税にもつながります。ここでは、勘定科目や仕訳例、償却方法、領収書管理の基本について解説します。
よく使う勘定科目と仕訳例【支出時・開業時】
開業費として認められる支出が発生した際は、「開業費」という資産勘定で記録します。たとえば、開業準備で2万円を支払った場合は、次のように仕訳します。
借方:開業費 20,000円
貸方:元入金 20,000円
この時点ではあくまで資産計上であり、損益計算書上の費用には反映されません。その後、開業を迎えた後に「償却」という形で少しずつ経費化していくことで、税務上の費用として扱われるようになります。
また、支出の内容によっては「消耗品費」や「広告宣伝費」として処理できる場合もありますが、開業前に発生した費用は「開業費」としてまとめておくほうが、後々の償却や税務処理がスムーズです。
仕訳の日付は個人事業主と法人で異なるので注意
個人事業主の場合、開業届を提出する前日までの準備段階で発生した支出を「開業費」として計上できます。 一方、法人は「設立日から営業開始日まで」に発生した費用が開業費の対象となります。日付の基準が異なるため、仕訳を記入する際は注意が必要です。
償却はどうする?均等償却と任意償却とは【決算・確定申告の時】
開業費は繰延資産として、原則5年間で均等に償却することが可能です。たとえば20万円を5年間で償却する場合、毎年4万円を「開業費償却」として経費化します。
借方:開業費償却 40,000円
貸方:開業費 40,000円
また、税法上は「任意償却」が認められており、各年度の業績に応じて償却額を自由に設定できます。利益が出ている年に多めに償却して節税効果を狙うことも可能です。
領収書・レシートの保管ルールと注意点
開業費の証拠となる領収書や契約書は、仕訳とセットで保管しておきましょう。特に開業準備段階の支出は後から証明が難しくなるため、整理して台帳に記録しておくことが大切です。
仕訳帳には支出や償却の内容を日付順に記録し、繰延資産台帳では開業費の残高を一覧で管理します。これにより「いくら残っていて、どの年度にいくら償却したか」が一目でわかり、税務署からの確認にも対応できます。

開業費として認められる期間はいつからいつまで?
開業費は「開業前に特別に支出した費用」が対象となりますが、その期間は個人事業主と法人で取り扱いが異なります。いずれの場合も、開業との関連性を証明できる領収書や契約書を残しておくことが重要です。
個人事業主は明確な起点がないが、開業準備期間中の支出が対象
個人事業主の場合、明確な起点は法律で定められていません。ただし、開業届を提出する前の準備段階で事業に関連して発生した支出は「開業費」として計上することが可能です。一般的には、開業日の数カ月前から1年前程度の支出が妥当とされています。
たとえば、開業のためのセミナー参加費や市場調査費、開業準備に伴う交通費や通信費などが該当します。 1年以上前の支出でも、開業準備と明確に関連づけられるものであれば開業費に含めることは可能ですが、税務調査で証拠を求められる可能性があるため、領収書や記録をきちんと保管しておく必要があります。
法人は「会社設立日から営業開始日まで」の支出が対象
法人の場合、開業費にできるのは「会社設立日から営業開始日まで」の期間に発生した費用です。たとえば、設立後に行った研修費や広告宣伝費、市場調査費などは開業費に含めることができます。一方、法人設立前の費用は「創立費」として区分されるため、開業費とは区別されます。法人の場合はこの違いを理解し、誤って仕訳しないよう注意が必要です。
開業後に役立つ!Squareの無料・低コストな便利ツール
開業準備で「開業費」を正しく処理することも大切ですが、実際に事業をスタートさせた後は日々の売上管理やキャッシュレス対応が欠かせません。そんなときに役立つのが、Square(スクエア)です。
Squareはクレジットカード、電子マネー、QRコード決済に対応したキャッシュレス決済サービスを、初期費用0円で導入できます。必要なのは専用の決済端末だけ。飲食店や小売店はもちろん、個人事業主やフリーランスの人でも気軽に導入できるのが魅力です。

また、売上データは自動的に集計されるため、会計ソフトとの連携もスムーズです。クラウド請求書の作成・送付や在庫管理機能も備えており、開業直後の事業運営を効率的にサポートできます。
よくある質問(FAQ)
ここでは「創立費との違い」「償却の方法」「開業後に気づいた費用の扱い」といった、よくある質問に回答します。
法人の開業費と創立費の違いは?
創立費は「法人設立登記まで」に発生した費用(定款認証や登録免許税など)、開業費は「設立登記後から営業開始日まで」の準備費用(広告宣伝や内装工事など)を指します。
開業費は一括で償却できる?
開業費は繰延資産として処理し、原則5年間(60カ月)で均等に償却します。ただし、税法上は「任意償却」が認められており、年度ごとに償却額を自由に決められます。
そのため、初年度に全額を一括償却することも可能ですし、利益が少ない年は償却を見送ることもできます。決算時に利益が確定したうえで償却額を調整できるため、節税の柔軟性が高いのが特徴です。また、5年間を過ぎても未償却残高がある場合は、その後の任意のタイミングで経費に計上できます。
開業から数カ月後に気づいた費用も計上できる?
開業届を提出した後に「実は開業準備中に使った費用だった」と気づくケースもあります。この場合でも、領収書や契約書などで開業準備との関連性を証明できれば、開業費として計上可能です。
ただし、あまりにも期間が空いている、あるいは開業との関連性が曖昧な支出は税務署から否認されるリスクがあります。遡って計上する場合には、支出の目的や必要性を明確に記録し、証拠をしっかり残しておくことが重要です。
まとめ
開業費は開業準備のために支出した費用であり、通常の経費ではなく繰延資産として扱われます。個人事業主と法人では対象となる期間や内容に違いがありますが、共通して「事業開始の準備に直接関連する支出」であることが要件です。
仕訳の際は「開業費」で資産計上し、任意償却を活用することで利益に応じた柔軟な費用計上が可能です。開業後の費用や生活費などは開業費には含まれないため、経費区分を明確にしましょう。また、領収書や契約書などの証拠を残しておくことは税務対応の観点からも欠かせません。
正しく理解し管理することで、節税と資金繰りの両面でメリットを享受できます。判断に迷う場合には税理士など専門家に相談し、開業準備を進めましょう。
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執筆は2019年12月6日時点の情報を参照しています。2025年9月29日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash

