チップ制度のメリットとデメリット

海外旅行でレストランやホテルを利用した際、「チップはどうすればいいのだろう?」と戸惑った経験がある人は少なくないでしょう。

日本ではあまり馴染みのないチップ文化ですが、サービスの一部として制度化されている国もあり、その習慣や金額の相場は国や地域によって大きく異なります。

本記事では、チップの意味や歴史、各国の最新事情、さらに日本に導入した場合のメリットとデメリットを、統計データや専門家の意見を交えて解説します。

📝この記事のポイント

  • チップは国や地域で習慣が異なり、日本では不要とされる場合が多い
  • アメリカではチップが労働者収入の一定の割合を占め、経済状況によってチップ率が変動している
  • 欧州の一部(英国・スウェーデンなど)ではチップを期待しない文化が強い
  • チップ導入には従業員へのインセンティブや文化配慮としてのメリットあり
  • 一方で、不公平感、混乱、税制・賃金の課題などのデメリットもある

目次



チップとは

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チップとは、ホテルやレストランなどにおいて従業員によるサービスに対して、任意で支払われる金銭をさします。国によって異なりますが、チップは支払われて当たり前の国から日本のようにチップ不要の国までさまざまです。

レストランのチップの相場は、料金の10~15%が多いようですが、国によってはラウンドアップという一つ上の切りの良い数字で支払うこともあります。たとえば、8.5ドルであれば10ドル、12.7ドルであれば15ドルを支払います。また、お会計にサービス料が含まれている場合はチップを支払う必要がないので、伝票をよく確認しましょう。

クレジットカードでチップを支払う場合は、払いたい金額を書き込むか、「For Service XX%」と自分でパーセントを指定する場合もあります。無記入の場合、お店側で勝手に金額を記入してしまうこともありますので、必ず忘れずに記入するよう注意しましょう。

同じ国でも、地方ではチップの習慣がないけれど大都市では当たり前など、地域によって違うことがあります。また、人によってあげる人とあげない人がいたりと差があるようです。

日本ではホテルや旅館、レストランを利用する場合、サービス料が利用料金に上乗せされていることが多いため、チップの習慣は定着しなかったようです。しかし、チップの習慣がある国々では、国によっても異なりますが、このサービス料が料理や宿泊代に含まれていません。

料理代は料理のみ、宿泊代は客室の利用のみに料金を支払う仕組みに近い形になっています。レストランでいうと、料理には料金があらかじめ決められていますが、それに伴うサービスには料金が決められていません。この変動するサービス料の部分がいわゆるチップという形で支払われるのです。

チップを当然とする国々では、ウエイターやウエイトレスの給与の一部を、雇用主からではなくその顧客から受け取るという仕組みになっています。義務に近い感覚でサービスに対してチップを支払うという国もあります。日本でいう「感謝の気持ち」ではなく、サービスの対価として支払われるのです。

たとえば、アメリカのNational Restaurant Association1によれば、チップを含めた飲食店の接客スタッフの時給の中央値は27ドル、高収入の人だと時給41ドルを超えています。 さらに、マサチューセッツ州でのチップ制廃止を問う住民投票では、63%対37%で廃止反対が多数となり、否決されたそうです。

2024年のSquareの調査によると、全米平均でレストラン従業員の収入の約23%がチップによるもので、2023年の22%から増加しました。チップが総賃金に占める割合が最も高い州は、ワイオミング州(33%)、サウスダコタ州(31%)、アラスカ州(31%)、カンザス州(30%)です。一方で、オクラホマ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、ネブラスカ州では、他州と比べてチップが収入に占める割合が最も低くなっています。

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国・地域別のチップ事情

世界各国の最近のチップ事情を見てみましょう。

  • 🇺🇸アメリカではチップが求められる場が増えている
    Pew Researchの調査によれば、72%のアメリカ成人が「過去5年よりチップを求められる場が多くなった」と感じており、同様の調査では、アメリカ人の3分の2がチップ制度について否定的に考えており、30%は「行き過ぎだ」と答えています2

「COVIDの時期、人々は非常に寛大になりました。COVIDの間に、より多くの場所でチップ制度が広がり、その傾向はポストCOVIDでも続いています」
– Stephen Barth, an attorney and hospitality law professor at the University of Houston’s Conrad N. Hilton College of Global Hospitality Leadership2

  • 📉経済への不安感からチップ額は減少傾向
    アメリカの飲食業界を対象にしたSquareのレポートによると、2025年第1四半期における平均チップ率は15.17%でしたが、第2四半期には14.99%にまで低下しました。バーは常に最もチップが高額な業態であり、第1四半期の平均チップ率は17.36%でしたが、第2四半期には16.96%に下がりました。カフェとクイックサービスのレストランでは、それぞれ第1四半期に14.72%と14.64%を記録し、第2四半期には14.57%と14.20%に減少しました。フルサービスのレストランのチップ率も、第1四半期の14.76%から第2四半期には14.64%へと下落しています。

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「過去のSquareの調査でも示されているように、チップは労働者の賃金の大きな部分を占めています。2024年には、レストラン従業員の平均で収入のほぼ23%がチップによるものでした。経済への消費者の信頼が変化し、チップが減少することで、労働者の手取りは減り、業界に労働面での不安が再び生じる可能性があります。これは、地域のレストランが依然として感じている経営の圧迫にさらに拍車をかけることになるでしょう」
– Ming-Tai Huh, Head of Food and Beverage at Square

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  • スウェーデンや英国では期待しない傾向が強い
    Statistaの調査3では、スウェーデンで「チップを期待すべきではない」と考える人が42%以上、英国で41%。一方、米国は22%、イタリアは18%と比較的低い傾向にあります。
国・地域 チップの相場・習慣
米国 約15〜20%が一般的。多くのサービスに適用される傾向。
欧州(例:英国・スウェーデン) チップ期待への抵抗感が高く、法的にサービス料込みが一般的。
日本 一般的にチップ不要。サービス料込みで対応される場合が多い。

チップの文化が生まれた歴史

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チップの由来にはさまざまな説があります。たとえば、イギリスの床屋で生まれたという説では、当時床屋で行われていた悪い血を抜き取る「血抜き」というサービスの料金が定まっておらず、客が出せるだけの料金を箱にいれることになっていました。 この箱の表に「To insure promptness(迅速さを保証するために)」と書かれており、頭文字をとって「TIP(チップ)」となったという説があります。

また、イギリスのパブでビールや食事などのサービスを迅速に受けたい人のために、同じく「To Insure Promptness 」と書かれた箱を置き、そこにお金を入れさせたことに由来するという説もあります。もしくは、フランス語やドイツ語のチップに当たる言葉が「酒を飲むためのお金」を意味することから、給仕係にサービスに対する報酬として「これで酒でも飲んでくれ」という意味合いを込めて渡していたのがチップの習慣の始まりだという説もあるようです。

チップ制度を導入するメリットとデメリット

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もし日本でもチップ制度を取り入れた場合、経営者や従業員にとってどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

メリット

  • 従業員のモチベーションが向上する
    お客さまのことを考えて行動した結果として、笑顔や「ありがとう」をもらえるだけでなく、目に見える感謝の気持ちとしてチップをもらえたら、従業員はお客さまにより良いサービスを提供しようとするかもしれません。従業員のモチベーションアップは、顧客満足度の向上にもつながります。

  • 外国人観光客のカルチャーショックを避ける
    チップの習慣がある国から来た観光客は、良いサービスに対して金銭的な対価を払うのは当然と考えています。そのような気持ちからくる報酬を、受け取れないのは失礼にあたることもあります。もしかしたら、日本語で「美味しかった」「嬉しかった」「楽しい時が過ごせた」などの表現ができない代わりにチップを渡している人もいるかもしれません。たとえ悪気はなくとも、文化の違いでお客さまが不快な思いをしないよう注意が必要です。

デメリット

  • 従業員間に不公平感が生まれる可能性がある
    チップの額はお客さまの「感謝の気持ち」を表したものなので、お客さまの気分次第であることが否めません。そのため、チップをもらえる従業員ともらえない従業員、多くもらえる従業員と少ない従業員など不公平感が生じる可能性があります。従業員のモチベーション向上が期待できるチップ制度ですが、不公平感が生まれた場合、かえってモチベーションが下がる可能性があります。

  • 職業倫理に反する可能性がある
    チップ制度の導入は、業種によっては職業倫理に反する可能性があります。たとえば、医療機関では、正規の治療費以外の報酬を受け取ることになれば、職業倫理に反するという議論があります。

また、税務上の対応や社内でのルールなど導入にはさまざまな事項を検討する必要があります。

まとめ

チップは国や地域によって形態も意識もさまざまであり、文化的背景や経済状況と密接に関わっています。アメリカのように高額かつ広範囲で求められる国もあれば、日本のようにチップ不要が基本の国もあります。

旅行やビジネスで海外を訪れる際は、現地のチップ事情を事前に知っておくことが、スムーズで気持ちの良いサービス利用につながります。

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執筆は2018年2月21日時点の情報を参照しています。2025年9月1日に記事の一部を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash