▶この記事では、日本でのタッチ(コンタクトレス)決済の現状について説明します。
前回の記事では海外でのタッチ決済の現状を探り、交通機関やスーパーなど日常的な場面でタッチ決済が使われていることがわかりました。一方で日本ではどのような場面で使われており、世界での利用状況に比べてどのような違いがあるのでしょうか。
目次
タッチ決済のおさらい
タッチ決済の定義、タッチ決済と海外の現状に続いて、今回は国内でどのようにタッチ決済が使用されているかを掘り下げていきます。日本でのタッチ決済の利用状況をよりよく理解するうえでも、まずはタッチ決済の基礎を簡単におさらいしましょう。
Q1. そもそもタッチ決済とは?
A:非接触型ICカード、もしくは非接触型ICチップを利用している端末(スマートフォンやウェアラブルデバイス、など)を専用リーダーにかざすだけで完了する決済方法です。一定額(原則1万円)までは暗証番号の入力やサインの必要がないため、決済をスピーディーに終えられます。
三井住友銀行が発行しているVisaカードなど、すでに国内でもタッチ決済機能を搭載したデビットカードやクレジットカードも存在するため、もしかしたら手持ちのカードにも非接触対応マーク(上記イメージ)がついているかもしれません。
Q2. タッチ決済の「規格」って何?
A:簡単にいうと、タッチ決済の種類です。NFC(Near Field Communication、近距離無線通信規格)の規格を統括している「NFCフォーラム」が国際基準としているものは、大きく以下の三つです。
- 「NFC Type A」
- 「NFC Type B」
- 「NFC Type F」(以下、FeliCa)
タッチ決済では、NFC Type AとBの両方に対応する「NFC Type A/B(以下、NFC Pay)」とFeliCaの二種類に分類され、それぞれ専用端末が異なります。世界的に主流とされているのはNFC Pay、国内で主流とされているのはFeliCaです。
Q3. タッチ決済にはQRコード決済も含まれる?
A:含まれません。タッチ決済の定義は、非接触型ICカード、もしくは非接触型ICチップを利用していることなので、QRを読み取ることで行う決済はあてはまりません。
以上を踏まえたうえで、国内でのタッチ決済の利用状況を見ていきましょう。
タッチ決済が進む諸国と日本の違いとは
SuicaやPASMOをはじめとする交通系電子マネーが広く利用され、Apple PayやGoogle Payなどスマートフォンやウェアラブルデバイスを通しての決済も手軽に行なえるようになったことから、日本でも近年よく目にするようになったタッチ決済。ところが、細かく見ていくと海外でのタッチ決済の動向とは少し異なる部分があります。
1. タッチ決済で親しまれる「規格」が異なる
海外での主なタッチ決済方法は、非接触対応マーク(下記イメージ)がついているクレジットカードです。なかでも広く普及しているのはVisaのタッチ決済や、Mastercardが提供するMastercard Contactlessのようです。タッチ決済機能を持つクレジットカードは、全て「NFC Type-A/B」の規格を採用していることはこちらでも触れました。
一方で日本人に馴染みの深いタッチ決済は、「NFC Type-F(以下、Felica)」の規格を採用しているFeliCaです。SuicaやPASMOはもちろんのこと、イオンが提供するWAONやセブンイレブンのnanacoなど、日本で使用されているほとんどのタッチ決済にはFeliCaが採用されています。
しかしながらFeliCaは日本以外ではほとんど使えないのが現状です。そのため、今後は世界的に主流の、非接触対応マーク付きのクレジットカードを用いた「NFC Type A/B(以下、NFC Pay)」での決済が日本でも普及すると考えられます。
実際にiPhoneでは2014年にNFC Payのチップが搭載され、その後2016年発売のiPhone 7からはFeliCaにも対応しています。iPhoneと同様、Androidのスマートフォンにも両方の規格に対応する機種が近年登場しています。これらの機器にタッチ決済機能を搭載したクレジットカード情報を登録すると、国内のお店ではもちろんのこと、NFC Payが広く親しまれている海外でも端末を通してタッチ決済が行なえるようになります。
2. 種類の数が異なる
前述のように、海外では非接触対応マークがついたクレジットカードでの決済が主流とされています。一方で日本はFeliCaを採用するタッチ決済方式が複数存在し、利用場面に合わせて使い分けられているところが特徴的です。代表的なものを以下に挙げます。
使い方はいずれも専用のカードを発行する、あるいはスマートフォンにある専用アプリにクレジットカード情報を登録する、の二パターンが一般的です。
日本でのタッチ決済の現状
現金での支払いがまだ主流とされる日本ですが、タッチ決済は実際にどれくらいの利用率を占めているのでしょうか。
マクロミルが2019年4月に20歳から69歳の男女1,000人を対象に行った調査によると、キャッシュレス決済のうちクレジットカードを除いて最もも使用されていたのは交通系ICカード(36.7%)、次いで流通系ICカード(34.3%)とスマートフォン決済(19.4%)です(※)。いずれも昨年10月の結果と比較して利用率が上昇しています。
また、スマートフォン決済の内訳はタッチ決済が70.1%、QRコード決済が67.0%という結果になっており(※)、タッチ決済の方が若干多いようです。
※複数回答の集計です。
参考:キャッシュレス決済、半年でどのくらい浸透した?増税対策の「ポイント還元」で利用進む?20~69歳1,000人調査(2019年6月19日、HoNoTe)
NFC Payの普及について
国内でもマクドナルドやローソンをはじめとし、世界的に主流の規格「NFC Pay」が少しずつ使えるようになっていますが、すでにタッチ決済の一種であるFeliCaが使えるなかで、わざわざNFC Payを導入する必要がないようにも思えるかもしれません。そこでタッチ決済機能を搭載したクレジットカードに代表される「NFC Pay」を自社ビジネスに導入するメリットを見ていきましょう。
1. レジでの待ち時間が短くなる
財布を取り出したり、小銭を数えたりなど何かと時間がかかる現金でのやりとり。
一方でNFC Payを採用したタッチ決済は、決済スピードが早いのが大きな利点です。Visaが行った調査によると、レジで現金を使用した場合、支払いにかかる時間は10から23秒。それに対してサイン・暗証番号不要(※)のクレジットカードを使用したタッチ決済の場合、4から12秒まで短縮できることがわかっています。このようにタッチ決済を受け付けることで、レジでの待ち時間の短縮が期待できます。
※一定額を超えるとサイン・暗証番号の入力が必要になります。
なかにはレジの列を見て購入を諦める人もいるかもしれません。Visaが行った調査によると、カフェで「レジの行列を見て、購入を諦めた経験がある」と答えた消費者は39%でした。ほんの数秒の待ち時間が機会損失につながらないよう、タッチ決済に対応する端末の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
2. インバウンド対策にもなる
訪日観光客のなかには、母国での買い物や交通機関の決済手段としてクレジットカードでのタッチ決済を活用している人も多いでしょう。なかでもスウェーデンやオーストラリアでは近い将来に現金を使う概念をなくし、国全体をキャッシュレスにしていくことが予想されています。
このようにタッチ決済に慣れている海外のお客様を迎え入れるなかで、タッチ決済に対応していないと「タッチ決済は使えないの?」と不満に思われてしまう可能性もなきにしもあらずです。クレジットカード決済を受け付けるのはもちろんのことですが、合計額によってはサインや暗証番号の入力が不要なタッチ決済も用意しておくと、よりスピーディーに決済を済ませられるでしょう。
特に訪日観光客の来店が多い店であれば、彼らにとって普段から親しみのある決済手段を整えておくことも最高のサービスを提供する方法の一つかもしれません。
3. キャッシュレスへの第一歩になる
「まだ現金での支払いしか受け付けていない」という店舗も多いのではないでしょうか。しかしながら現金決済のみの場合、お客様が現金を持ち合わせていなければ商品の購入は難しくなります。実際にSquareが2018年に発表した調査によると、「カード払いができず購入を諦めた」と回答した消費者は22.9%に及びました。
参考:現金管理コストや機会損失のリスクが明らかに。キャッシュレス化、人手不足解消でもメリット大(2018年11月18日、Square株式会社)
このように販売機会を逃さないためにも、東京大会をきっかけにさらなる拡大が予想されるNFC Payの対応端末を導入し、キャッシュレスへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
国内での取り組み
現在日本ではマクドナルドやローソン、TSUTAYAやIKEAなど身近なところでタッチ決済が使用できるようになっており、今後もさらなる拡大が予想されています。
上記の企業に加えて、大型小売り店舗をチェーン展開しているイオンも2020年までに1万6,000店以上のグループ店でタッチ決済が行なえるよう進めており、2020年3月までには約10万台のレジの改修を終える予定です。また、2019年9月からは、Visaのタッチ決済機能を搭載したイオンカードを発行することも発表しています。
参考:
・Visaのタッチ決済(非接触決済)
・脱現金、VISAが反攻、タッチ決済、イオン系1.6万店で、中国勢と訪日客争奪(2018年4月17日、日本経済新聞)
世界中から注目が集まる2020年の東京大会の会場内でも、決済テクノロジースポンサーとして選ばれているVisaのタッチ決済が導入される予定です。海外と比べるとキャッシュレスにおいても、タッチ決済の導入においても少し遅れをとっている日本ですが、東京大会を機にキャッシュレス化の加速が予想されています。実際に経済産業省は、2027年までにキャッシュレス決済比率を4割までに伸ばすことを掲げています。その大きな推進力となるクレジットカード決済をより身近な決済手段として置き換えていくうえで、利便性の高いタッチ決済の導入は大きな一歩かもしれません。
今回はFeliCaが広く普及していることから、海外とは少し異なる日本でのタッチ決済の現状と、今後の発展を見てきました。次回はタッチ決済の導入を検討しているビジネスオーナーに向けて、国内で使用できるタッチ決済の対応端末を紹介します。
続けて読もう!「今後の端末選びには「タッチ決済対応」が肝?タッチ決済の決済端末3社を比較!」
▶︎タッチ決済については、以下の記事でも詳しく説明しています。
(1) タッチ決済とは?歴史と成り立ちを知ろう!
(2) 海外では当たり前?タッチ決済における、世界の現状
(3) 海外との違いを知ろう!国内でのタッチ決済の今と未来
NEXT▶︎(4) 今後の端末選びには「タッチ決済対応」が肝?タッチ決済の決済端末3社を比較!