飲食店というと店舗でお客様に食事を提供するスタイルでの営業を思い浮かべる人が多いでしょう。インターネットショッピングの普及、さらに2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の影響で、飲食店でもネットショップを開業する動きがあります。この記事では飲食店がインターネットを活用し始めた背景から始め、ネットショップを開業し運営するために知っておきたいことを説明します。
目次
- 飲食店がインターネットを活用する背景
- 飲食店のネットショップとは
- ネットショップのコンセプトや商品を考えよう
- 法的な問題をクリアする
・営業許可証
・食品表示ラベル - ネットショップの作成
- ネットショップの運営
飲食店がインターネットを活用する背景
帝国データバンクの調査によると、2020年1月から12月までに倒産した飲食店の件数は、2000年以来の過去20年で最多の780件を記録しました。倒産の理由については言及されていませんが、2020年に蔓延が始まった新型コロナウイルス感染症の影響も少なくないと考えられます。
参考:飲食店の倒産動向調査(2020年)(帝国データバンク)
感染拡大以降、営業に制限がかかり客足がにぶる中、売り上げを維持し営業を続けるために、テイクアウトを始めたり、デリバリーサービスの利用を始めたりしたという飲食事業の経営者は少なくありません。
感染拡大の影響が後押しする形になりましたが、飲食業では業態の変化やインターネット化の兆候が以前からありました。消費者庁が公開している三菱UFJリサーチ&コンサルティングの資料「フードデリバリーサービスの動向整理 (2020年12月17日)」では、購入した商品を家庭で食べる中食の需要は増加傾向にあり、2019年の市場規模は7.3兆円、2020年11月時点でデリバリーサービスの利用経験がある人は39.7%としています。20代、30代といった若い世代ほどデリバリーサービスを利用していることも明らかになっています。
参考:フードデリバリーサービスの動向整理 (2020年12月17日)(消費者庁)
2020年からの1年間に新しい飲食の形態として注目を集めたテイクアウトやデリバリーサービスですが、このほかにも飲食店が売り上げを維持し、事業を続ける施策があります。それが「飲食店のネットショップ」です。続いて飲食店がネットショップを開業するとはどういうことなのか、具体的な手続きも含めてみていきましょう。
飲食店のネットショップとは
インターネットを利用したデリバリーサービスも広義では飲食店のネットショップともとらえられますが、飲食店が販売できるものは調理したての商品だけではありません。
飲食店が販売できる商品として、調理前の商品もあります。店舗で人気の料理を家庭でも調理できるように、材料をまとめて調理キットとして販売することが考えられます。また、お客様が手に入れやすい食材や傷みやすい食材は省略して、料理の肝になる食材だけをセットにして販売するのも一つの手で、ラーメンのスープと麺のセットがこの典型です。
お客様がすぐに食べる料理はデリバリーサービスを通じて取り扱うのが便利ですが、調理済みの商品でも、日持ちのする食品は飲食店が運営するネットショップで取り扱うのに向いています。自宅で温めて食べられるカレーのような商品から、パンやお菓子までさまざまな商品が考えられます。
飲食物のほか、飲食店は調理のノウハウもネットショップで販売できます。オンラインの料理教室を企画して、商品として販売してもよいでしょう。リモートワークやオンライン飲みを経験し、オンラインでのコミュニケーションが日常になりつつある人もすくなくありません。
このように、飲食店のネットショップとは、店舗で扱う食事や調理テクニックから派生する商品を扱う支店としてイメージするとよいでしょう。
ネットショップのコンセプトや商品を考えよう
ここまででネットショップで販売する商品のイメージがわいてきましたか。まだピンとこないという人は、店舗のコンセプトや人気商品、どのようなお客様が多いのかなどを改めて書き出して、ネットショップをイメージしてみるとよいでしょう。
手軽に安くおいしいものを食べたいという需要もありますが、自宅で過ごす時間が増える中、手間をかけて料理をしてみたい、外食に使っていたお金を使って自宅でぜいたくを楽しみたいという需要もあります。お客様がどのようなシーンで商品を利用するのか考えながら、内容や価格を設定しましょう。
販売形式については、一度きりの販売のほか、お客様に一定期間、定期的に商品をお届けする定期便のような商品を検討してもよいでしょう。たとえば、コーヒーが自慢のカフェであれば、毎月おすすめのコーヒーを1年間届けるといった具合です。このような商品を取り扱うことで、売り上げの安定を見込めるほか、お客様と長期間にわたってコミュニケーションを取り続けられます。
また、商品のほかに、梱包についても検討する必要があります。食品は宅配サービスを利用して配送するため、配送可能なものでなければなりません。商品を最善の状態でお客様にお届けするために適切な梱包資材を選び、普通便、冷蔵便、冷凍便などどのような方法で配送するか検討します。各社のサービスを使って、商品が問題なく届くか実際に試してみてもよいでしょう。
法的な問題をクリアする
ネットショップのコンセプトと商品のアイデアがかたまったらすぐに販売に取りかかりたいところですが、販売を始める前に法的な手続きを済ませる必要があります。具体的には、食品の製造に必要な営業許可証を取得し、商品の食品表示ラベルを作成します。ここではそれぞれのステップについて具体的に説明します。
営業許可証
飲食店を経営している人はすでに営業許可証を取得していますが、この営業許可証では、食品を製造し、ネットショップで販売することはできません。食品を製造し、販売するには「製造業」の営業許可証が必要で、管轄の保健所で許可証の申請を行います。2021年6月から改正食品衛生法が施行され、営業許可証制度が見直されました。新たに許可が必要になる業種もあります。どのような商品を販売したいのか保健所に相談して、必要な営業許可証を取得します。この際に疑問点があればまとめて、保健所でアドバイスをもらってもよいでしょう。
製造業の営業許可証がとれたからといってすぐに商品を販売できるわけではありません。食品には食品表示ラベルで情報を表示する義務があります。続いて食品表示ラベルについて見てみましょう。
食品表示ラベル
食品の製造者は、食品表示法にしたがって、食品に関する情報をラベルに表示する義務があります。たかが表示とあなどってはいけません。食品表示ラベルに誤った記載があったり、記載すべき項目が記載されていなかったりすると、最悪の場合、罰則が科されます。また、お客様や取引先に対する信用も失ってしまいます。
名称や原産地など、共通の表示項目もありますが、食品によって記載が必要な項目が異なるので、まずは消費者庁の資料に目を通すことをおすすめします。
消費者庁の資料に目を通したら、類似商品なども参考にしながら食品表示ラベルを作ってみましょう。はじめて食品表示ラベルを作るときには、ラベル作りを難しいと感じるかもしれません。食品表示ラベルの作成を支援するサービスやソフトウエアがあるので、必要に応じて利用してみるとよいでしょう。
ネットショップの作成
ネットショップのコンセプトと商品が決まり、法的な手続きを済ませたら、ネットショップを作成し、商品を販売し始めます。この段階まで待たずに、ネットショップのコンセプトを固める段階で、外部には公開せずにネットショップを作りながらコンセプトや商品をブラッシュアップするのも一つの手です。
飲食店を経営しながら、自分で一からネットショップをプログラミングする時間は取れないという人が多いかもしれません。手軽にデザイン性に優れたネットショップを作るには、ネットショップ作成サービスを利用するのがおすすめです。クラウド型のサービスであれば、ソフトウエアのアップデートといった作業も必要ありません。
ネットショップ作成サービスを利用するというと、利用料金が気になりますが、売り上げが発生した時にだけ数パーセントの手数料がかかるプランを提供しているサービスも少なくありません。売り上げが発生しなければ費用は発生せず、売り上げが増えて手数料が気になるようになったら手数料を節約できるプランへの切り替えを検討すればよいでしょう。無料で作れるネットショップについては、「無料で開設できるネットショップはどこまで便利に使える?」も参考にしてください。
ネットショップ作成サービスではテンプレートが用意されていて、デザインやウェブサイトを作成の経験がなくても、指示にしたがって情報を入力していけばネットショップができあがります。ネットショップを作成するにあたって、商品のコンセプトが伝わりやすい写真や、商品を食べるシーンを想像しやすい写真を用意し、ていねいに商品説明を書くとよいでしょう。
ここでは一般的なネットショップ作成サービスを利用する方法について説明しましたが、ショッピングモールにネットショップを開店したり、パンなどジャンルをしぼった通販サイトに登録して商品を販売したりしてもよいでしょう。ネットショップ作成サービスを利用すると、自由度が高く、初期費用を抑えてネットショップを開けます。一方ショッピングモールや通販サイトは一般的に初期費用や手数料がかかりますが、集客効果を期待できます。
また、ネットショップ作成サービスの中には店舗で使用するPOSレジと連携できるものもあります。販売実績をデータとして集計・記録し、管理するPOSレジと連携することで、実店舗とネットショップの売上管理、顧客管理、在庫管理を効率的に行うことができます。たとえば、Squareが提供しているネットショップ作成サービス(Square オンラインビジネス)なら、飲食店に特化したPOSレジ(Square レストランPOSレジ)と連携して利用できます。両方とも、Squareのアカウントさえあれば無料ではじめることができます。
飲食業の分野や商品、集客が得意かどうかなどを含め、総合的にどのようにネットショップを開店するか検討してください。
ネットショップの運営
ネットショップが完成したら、インターネットでのビジネスが始まります。飲食店でネットショップにも事業を拡大する場合、商品の製造だけでなく、商品の管理や発送、ネットショップの問い合わせ対応といった追加業務が発生します。考えていた以上に手間がかかる可能性もあるので、ネットショップを開店した当初は商品数をしぼってネットショップの運営に慣れることを優先するとよいでしょう。ネットショップの運営に慣れてきたら、随時商品を追加するのでも遅くはありません。
ネットショップの運営といってもお客様からの注文に応えるだけでは十分ではありません。ネットショップを見て買い物をしてもらうための集客も忘れずに。すでに各種ソーシャルメディアのアカウントを持っているお店は既存のつながりを活用して、まだソーシャルメディアに挑戦したことがないという人はアカウントを作って集客につなげましょう。
本記事では飲食店での活用も始まったネットショップについて、その背景から始め、どのようにネットショップを開店し運営していけばよいのか説明しました。飲食店というと実店舗でお客様に食事を提供するというイメージを持っていた人も少なくないでしょう。ネットショッピングが普及し、さらに感染症の影響もあり、お客様が飲食を楽しむスタイルは大きく変わりつつあります。このような転機をビジネスチャンスととらえ、ぜひ本記事をきっかけにネットショップの開店を検討してみてください。
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Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2021年8月17日時点の情報を参照しています。2023年1月31日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash