安定した経営にとって、資金調達は最も重要な課題です。資金を集める方法は多ければ多いほど安心できるものですが、現実には金融機関からの融資や株式の発行など、選択肢は限られます。
あまり使われることのない資金調達方法に、私募債の発行があります。今回は、私募債の概要と、利用時のメリットや注意点について解説します。
私募債とは?
私募債は、社債の一種です。社債とは、会社が資金調達するために販売する「債権」のことで、有価証券として取引されます。国債や地方債のようなものだと考えれば良いでしょう。発行の際には、事前に金利と返済期限が決められます。発行した会社は購入した人に対して利息を支払い、満期になったら社債の額面金額を一括償還します。
社債の中でも、特定少数の投資家が直接引き受けるものを「私募債」と呼んでいます。
私募債の特徴と、発行する目的
私募債を発行するには、金融商品取引法が定める有価証券の「募集」に該当しないことが条件となります。具体的には、発行対象の投資家が50名未満であるか、または金融機関に所属するプロに限って発行することが条件です。
その他の条件として、発行できるのは会社だけで個人事業主は発行できません。また、発行時には一口あたりの金額を設定し、社債総額を一口あたりの金額で割ったときの数が50未満であることが必須です。
発行対象の数が限られているため、通常は経営者の身内や知人、会社の取引先など近しい関係者に購入してもらうことが多くなります。
私募債は、長期的な資金を調達する目的で発行されます。償還までの期間は会社ごと自由に決めることができ、中には数十年の期間を定めている債券も多々あります。たとえば、2019年に三菱地所が発行した債券は、年限が50年となっています。
参考:三菱地所が50年社債発行 国内最長、コスト抑え調達多様(2019年4月5日、産経新聞)
私募債の種類
私募債にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴を持っています。代表的なものについて説明します。
普通社債
最も一般的で、英語でStraight Bond(SB)とも呼ばれます。発行した企業は、購入した投資家に対して利息を支払い、償還期日には元金を返済します。特別なオプションは付与されないので価格の変動は少なく、投資家は主に利息収入を得る目的で引き受けます。
転換社債型新株予約権付社債
事前に決まった一定の価格(転換価格)で社債を株式に転換できる権利が付与されます。英語でConvertible Bond(CB)とも呼ばれます。転換価格より株価が上昇してから株式に転換・売却すれば利益を得ることができます。一方、株価が転換価格を下回っていれば、そのまま持ち続けることで利息を受け取り続けることも可能です。
企業側が発行する利点は、売却益が見込める分普通より低めの金利が設定されるので、コストを抑制しつつで資金調達できる点です。
新株予約権付社債
決まった一定の条件で株式を取得できる権利が付与されます。発行される株数や、権利行使期間などの条件は発行時に決めます。転換社債型新株予約権付社債と違って株式に転換するものではないので、株式取得の資金は別途準備しなければいけません。
劣後債
劣後債は、発行した会社が経営不振などで倒産した場合、一般の債権者よりも資金の弁済が後回しにされることを約束した上で発行されるものです。投資した金額が回収不能となるリスクが高い分、高い金利が設定されます。
公募債との違い
少数の投資家が引き受ける私募債に対し、不特定多数の投資家から資金を集める目的で発行される社債は「公募債」と呼ばれます。
公募債は50人以上の投資家を対象に発行されるもので、金融商品取引法上の「募集」に該当する点で私募債とは明確に区別されます。より広く、大規模な投資を集める場合に向いている方法です。
ただし公募債を発行する際には、有価証券届出書の作成や提出が必要で手続きに1カ月程度かかります。私募債はこうした手続きが不要となる分、よりスピーディーに発行できます。
私募債を利用するメリット
1. 融資より借り入れしやすい
事業資金を調達する最もポピュラーな方法は銀行など金融機関からの融資です。私募債は外部から資金を借用するという点で、融資と似た方法だといえます。一方で、融資では借り入れの際に審査を受けたり、担保や保証人を必要としたりする負担があるのに対し、私募債の発行ではこうした負担がありません。
2. 低コストで資金を集められる
私募債は、公募債のように有価証券届出書の提出が不要です。よって私募債では、有価証券届出書を作成するための費用や手間を削減し、発行コストを抑えることが可能です。
3. 発行の条件を自分で決められる
銀行からの借り入れの場合、銀行から提示された返済方法や金利を借り手の希望で変更するのは難しいものです、私募債の発行条件は発行会社が任意で決められるため、柔軟な条件設定が可能です。
私募債を取り入れる際の注意点
1. 一括償還が必要
私募債は期限を迎えたときに一括返済することになります。事前に償還資金を準備しておかないと、期限到来時に資金ショートの原因になってしまうので注意が必要です。
2. 償還条件の変更ができない
銀行から融資を受けたのに業績悪化で返済が難しくなった場合は、銀行に返済条件の変更を依頼することがあります。一時返済をストップしたり、期限を伸ばしたりして返済負担を軽減することで、無理のない範囲で返済を続けていけることもあります。しかし私募債では、発行時点で決めた条件を変更することはできません。よって長期的な資金計画を厳格に管理する必要があります。
3. 銀行引受の私募債は手数料が高い
私募債を発行したくても、知り合いや取引先などの関係者に十分な資金を持つ人がいない場合もあるでしょう。その場合、銀行に私募債を引き受けてもらうこともできます。
ただし銀行が私募債を引き受ける際、事務手数料や引受手数料、また保証会社の保証料などさまざまな名目で手数料がかかります。金額は各銀行によっても異なりますが、数百万円から数千万円かかることも珍しくありません。
私募債発行から償還までの流れ
資金調達計画・調達の目的を決定
設備投資や事業拡大資金など具体的な発行の理由と必要な資金を明確にし、計画を策定します。発行する金額が計画に対して妥当であることがポイントです。
私募債発行の決議
発行について、取締役会の承認または株主総会の決議によって決定します。必ず議事録を作ります。
募集要項の作成
募集する金額、償還期限、償還方法、利率など、発行条件を決めて募集要項を作成します。勧誘の際に必要であれば、パンフレットなど説明資料を作成することもあります。
私募債の勧誘
直接訪問や説明会の開催などの方法で、引受の勧誘を行います。ここで重要なのは、勧誘する相手は49人以下でなければならないという点です。実際に引き受けしなくても、勧誘しただけの人も人数に含まれますので注意しましょう。
申込・入金を受け付ける
引き受けてくれる人から申込書を受け取り、購入分の金額を入金してもらいます。
発行・管理
発行した私募債についての事項は、「社債原簿」を作って管理します。
利息の支払い
発行時に定めた条件に従い、利息を支払います。
償還
発行時に定めた償還期日が到来したら、一括で元本を償還します。
長期的な資金を集める目的で使われる私募債。個人事業主は利用することができませんが、会社を経営しているのであれば、資金調達方法の一つとして視野に入れてみてはいかがでしょうか。
執筆は2019年10月31日時点の情報を参照しています。
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