起業・独立などにより新しく事業を立ち上げる際、大きなハードルになるのが創業資金の調達です。経営実績があまりない事業者が、民間の金融機関から融資を受けるのは簡単ではありません。一方、公的な制度である創業融資を利用すれば、創業直後の時期でも借り入れが期待できます。
今回は創業融資の概要とその種類について解説していきます。
創業融資とは
創業融資とは名前の通り、新しくビジネスを始める事業者に必要な資金を融資する制度のことを指します。
開業にあたっては仕入れや人件費、店舗の準備費用など、さまざまな面でまとまった資金が必要になります。こうした費用を全て自己資金でまかなうのは難しく、金融機関など外部から資金調達して準備することが多いでしょう。
国や地方公共団体が、必要な資金を借りやすくして創業者を支援するために準備している制度が創業融資です。創業融資には、日本政策金公庫の「新創業融資制度」と、各都道府県・市区町村が用意する「制度融資」の2種類があります。
創業融資を利用するメリット
創業直後の事業者でも借りやすい
民間の金融機関から融資を受ける場合、金融機関は確実に返済してくれるかどうかを判断するので、創業直後の事業者では実績が乏しく、融資を見送られることも多いでしょう。
一方創業融資は、もともと創業時の事業を対象にした制度なので、借り入れがしやすくなっています。
創業融資は、国や地方公共団体が新しいビジネスの誕生を支援する目的で運営されています。日本では少子高齢化による社会全体の人口減少、産業界では後継者不足による企業の廃業が課題になっています。中小企業庁の発表によれば、今後10年で70歳を超える中小企業の経営者が増加し、そのうち約半分の127万社が後継者未定という廃業危機を迎えるとのことです。廃業が増え続ければ、日本の産業はどんどん空洞化していってしまうでしょう。こうした事態を防ぐため、創業融資によって起業しやすくする環境を作ろうとしています。
金利が低い
金融機関の融資金利は、融資先の信用力から算定したリスクがある程度影響します。創業直後の企業の場合、金利が高く設定されがちです。一方で創業融資は創業を支援する目的があるため、金利は低く設定されています。
創業融資の種類
1, 日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、「新創業融資制度」は創業前・創業直後の事業者が無担保・無保証で利用できる創業融資です。
「新創業融資制度」の利用条件
新創業融資制度を利用するには下記の3点をすべて満たす必要があります。
創業の要件
これから新たに事業を始める人、または事業開始後の税務申告を2期終えていない人が融資対象となります。
雇用創出等の条件
「人を雇用して事業を始める」「過去に会社に勤務するなどして経験した業種と同じ業種で開業する」など、事業の特性によって利用条件が定められています。細かい要件についてはこちらで確認してください。
自己資金の要件
事業の内容や状況によりますが、新規創業、もしくは事業開始後に税務申告を1期を終えていない場合は、創業資金総額の10分の1以上にあたる金額を自己資金でまかなえることを証明する必要があります。
「新創業融資制度」のメリット
最大3,000万円まで借り入れ可能
「新創業融資制度」では3,000万円まで(運転資金なら1,500万円まで)と比較的大きな金額を借りることができます。
無担保・無保証で融資を受けられる
民間の金融機関で融資を受ける場合、担保を設けるのが一般的でしょう。たとえば、経営者が保有する不動産を担保として提供したり、経営者が連帯保証人になったりします。万が一事業に失敗した場合、担保の資産は処分して返済にあてなければなりませんし、連帯保証人になっていれば経営者自身の債務として責任を取る必要があります。ビジネスに失敗して借金まで残ったら、経営者本人の日常生活すらおぼつかなくなることも十分考えられます。
「新創業融資制度」であれば、無担保・無保証で借り入れができます。また、経営者が希望するなら連帯保証人になることもできます。その場合、融資金利が0.1%安くなるという特典があります。
「新創業融資制度」のデメリット
「新創業融資制度」には、後述する「制度融資」に比べて金利が高めであるというデメリットがあります。金利は年度ごとに変動しており、2019年10月時点では、基準金利2.56%から2.75%となっています。
2, 各都道府県・市区町村の「制度融資」
各地方自治体が、それぞれの信用保証協会と金融機関と連携して運営している創業融資制度のことです。
「制度融資」の仕組み
開業したい事業者から資金借り入れの申し込みを受けた自治体は、金融機関に対して融資のあっせんを行います。
融資にあたっては信用保証協会が連帯保証を行い、返済不能になるリスクを軽減することで融資を受けやすくします。また地方自治体は事業者の返済をサポートするため、金融機関への金利や保証協会への保証料を一部負担することもあります。
細かい申し込み方法や手続きについては各地方公共団体によって異なるため、自治体のホームページなどから詳細を確認してください。
「制度融資」のメリット
金利が低い
「制度融資」には自治体からの利子補給が付属していることが多く、一般的な銀行融資より低い金利で借りることができます。自治体によっても異なりますが、1.0%から2.0%程度で設定されることが多いようです。
地方公共団体からの様々なサポートを受けられる
「制度融資」では、自治体からの経営者に対するさまざまなサポートが用意されていることがあります。たとえば、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」は女性、39歳以下の若年層、55歳以上のシニア層が創業する際に受けられる制度で、創業アドバイザーによる創業支援サービスや各種セミナーなどのサービスを提供しています。不安が多い創業期に、公的なサポートを受けられるのは大きなメリットでしょう。
「制度融資」のデメリット
「制度融資」では、自治体・保証協会・金融機関の3者が融資に関係するため、手続きが複雑になっています。申し込みにあたって多くの書類を準備しなければならないほか、申し込みから融資の実行まで数カ月の期間を要します。資金が必要な時期に間に合わなくなる場合もあるので、利用する際は計画的に手続きを進めるようにしましょう。また地方公共団体によって制度の内容が異なるため、自ら制度に関する情報を集める努力も必要です。
執筆は2019年10月17日時点の情報を参照しています。
当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
Photography provided by, Unsplash