個人事業主に損害保険は必要?業種別に押さえたい補償内容と選び方

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

個人事業主にとって、万が一の事故やトラブルに備える損害保険は、事業の安定と継続に欠かせない備えの一つです。

本記事では、個人事業主が検討すべき主な損害保険の種類と業種別に必要な損害保険を理由と共に解説します。また、補償内容や選び方のポイントもわかりやすく紹介します。事業で起こりうるリスクとその備えとして活用できる保険の概要を知り、安心して事業に集中できる体制を整えましょう。

目次


個人事業主に損害保険は必要?

損害保険とは、他人のものを壊したり他人にケガをさせたりなど、法律上の損害賠償責任を負担する場合に用いられる保険です。リスクへの対処法には主に4つの手段があり、そのうち「第三者にリスクを移す方法」が損害保険にあたります。

  1. リスクの発生自体を回避する
  2. 事故の被害を最小限にするために予防、軽減、リスク分散の対応をする
  3. 貯蓄などでリスクに備える
  4. 金銭的取引によりリスク第三者に移転する(=損害保険)

個人で事業を運営している場合、仕事中のトラブルで他人に損害を与えてしまったとき、責任をすべて背負うことになります。損害保険は「もしも」に備えて、金銭的・信用的なダメージを最小限に抑えるための仕組みです。

損害保険と生命保険・医療保険の違いとは?

損害保険では、以下のような事業に関わる損害リスクを補償します。

  • 店舗の床の油で滑ったお客さまが転倒し、治療費を請求された
  • 自宅兼店舗が火災になり、営業停止を余儀なくされた
  • 顧客データの流出で損害賠償が発生した

保険は三つの分野に分かれています。生命保険は第一分野、損害保険は第二分野、医療保険は第三分野にあたります1。また、生命保険や医療保険と損害保険では、補償する対象が異なります。損害保険は偶然の事故や災害によって生じる損害に備えるものです。一方、生命保険・医療保険は自分や家族の命・健康を守るものです。

  • 損害保険1:自賠責保険、自動車保険、火災保険、地震保険、傷害保険、個人賠償責任保険、海外旅行保険など
  • 生命保険2:定期保険、収入保障保険、養老保険、終身保険、がん保険など
  • 医療保険:公的医療保険、民間の医療保険(がん保険など)

個人事業主が検討すべき主な損害保険の種類

損害保険は、万が一に備えるだけでなく、信頼性の向上にもつながります。なかには、顧客からの暴力や悪質なクレーム、盗難などに備えが必要となる場合があるかもしれません。ここでは、個人事業主が特に検討しておきたい保険について紹介します。

賠償責任保険

賠償責任保険とは、仕事中にお客さまや第三者に損害を与えてしまった場合に備える保険です。賠償責任が求められる事例には、以下のようなものがあります。

  • 強風で店舗の看板が落下して通行人がけがをした
  • 販売した商品で食中毒が起きた
  • 誤って他人の物を壊した
  • 建設現場の資材が倒壊して請負作業者がけがをした
  • サイバー攻撃で顧客の個人情報が漏えいした

一般的には、施設賠償責任保険、生産物賠償責任保険(PL保険)、請負業者賠償責任保険、サイバー保険があります。

補償範囲は、主に被害者への賠償、争訟の費用、他人に損害賠償を求めるための費用、保険会社への協力に係る費用、緊急対応費用、損害防止費用などです。

火災保険・動産保険

火災保険は建物本体、動産保険はパソコン・什器・備品などの「中身」に対する補償を担います。特に高価な機器や在庫を扱う事業では、早期復旧のための備えとして重要です。

火災保険や動産保険は、保険により補償内容が異なります。台風・水漏れ・落雷・強風などでの損傷や冬季の水道設備の損傷、地震による食器の破損、鳥獣による屋外のソーラーシステムの破壊など、さまざまな事象に備える余地があります。

労災保険(公的保険)

従業員やアルバイトを雇う場合、労働中のケガや病気への補償を目的とした「労災保険」への加入は必須です。労災保険とは、労働災害に備えるもので、労働災害には業務上の事故などによるケガ・病気・障害・死亡があります。

基本的には企業などに雇用されている人を対象とした制度ですが、個人タクシー、芸能従事者、柔道整復師、企業から業務委託を受けているフリーランス3など、近年では特別加入できる範囲が広がっています。特に建設業や運送業など、労働リスクの高い現場では重要な保険です。

業種別専門保険

損害保険の基本商品は、多くの場合、店舗での転倒事故や火災、盗難など汎用的な事業リスクを想定して設計されています。しかし、個人事業主が従事する職種・業種によっては、原因の発生頻度や金額、責任の所在が異なる特有のトラブルがあるため、業種別専門保険が設けられている場合があります。

たとえば、飲食業では食材の管理不備や調理ミスが原因となる一方、IT業ではシステムの設計ミスやデータ管理体制の不備がトラブルの引き金となります。ひとくちに「業務中の事故」といっても、必要となる補償内容が異なるため、業種別専門保険が設けられているのです。次に詳しく見ていきましょう。

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【業種別】損害保険の種類と必要な理由

業種によって直面するリスクは異なり、事故や賠償責任が発生しやすい場面に応じて備えるべき損害保険も変わってきます。ここでは、4業種を取りあげて、必要となる主な補償とその理由を紹介します。

飲食業

飲食店では、顧客が食中毒を起こした、熱いスープでやけどを負った、店内で転倒したなど、日常的に賠償リスクと隣り合わせです。

  • 飲食店賠償責任保険:食中毒や異物混入などにより、顧客に健康被害を与えた場合の治療費や損害賠償金などを補償
  • 施設賠償責任保険:椅子の破損による転倒や床の濡れによる滑倒など、店内の設備や備品による事故などを補償
  • 火災保険・動産保険:厨房設備や在庫食材が火災・水漏れなどで損害を受けた際に、復旧費用や商品損失などを補償
  • 店舗休業保険:食中毒や火災などが発生して店舗が休業になった場合の営業損失などを補償

美容業・サロン業

美容サロンでは、直接人の肌や身体に触れる業務が中心となるため、施術ミスや薬剤トラブルなどのリスクがあります。

  • 受託者賠償責任保険:顧客の持ち物(バッグ、衣類、アクセサリー等)を預かる際の損傷・紛失リスクなどを補償
  • 施設賠償責任保険:店舗内での器具破損や不注意による事故、施術用イスからの転倒事故などを補償
  • 生産物賠償責任保険(PL保険):施術に使用する化粧品やオイルによって皮膚炎などが起きた場合の損害賠償責任などを補償
  • 店舗総合保険:店舗に関わる建物・設備・什器をはじめ、火災や水漏れ、盗難、自然災害などを補償

建設業・工事業

現場作業には常に危険が伴い、事故が発生した場合の責任は重大です。高額な賠償につながる可能性もあり、対策は必須です。

  • 建設工事保険・土木工事保険・組立保険:工事中の事故や自然災害による工事資材・現場設備の損害などを補償
  • 請負業者賠償責任保険:足場の倒壊、資材の落下、近隣への損害など、第三者に対する対人・対物賠償などを補償
  • 企業財産包括保険:倉庫や事務所に保管中の工具・資材・機械類の盗難・破損などを補償

IT・オンライン業

デジタル業務に従事する個人事業主は、システム障害や顧客情報の漏えいなどの見えないリスクに備える必要があります。

  • サイバー保険:顧客情報の漏えい、外部からのハッキング、マルウェアによる業務停止などの損害、訴訟、広報費用などを補償
  • 業務過誤賠償責任保険(E&O保険):システムの開発や管理、コンサルティング業務における設計ミスや進行上の過失により、取引先へ経済的損害を与えた際の賠償リスクなどを補償

損害保険の選び方とチェックポイント

損害保険を選ぶ場合は、想定外の事態が起きることを前提に、事業リスクに応じた補償内容を選ぶことが重要です。ここでは万が一のときに本当に役立つ保険を選ぶために必要となるポイントを5項目紹介します。

  • 補償内容と補償金額の妥当性
    補償範囲が広すぎると保険料が高くなり、狭すぎるといざというときに役立ちません。対人・対物・財物など、想定される損害と補償額が自分の事業規模に合っているかを確認しましょう。

  • 特約の有無(例:休業補償・損害賠償特約)
    標準プランに含まれない補償も、特約を追加することでカバーできることがあります。特約には、事故や災害で営業できなくなった場合の「休業補償特約」、法律上の賠償責任を広くカバーする「損害賠償特約」などがあります。

  • 免責金額の設定(自己負担の有無)
    免責金額とは、事故や損害が発生した際に、保険会社ではなく契約者である個人事業主が自分で負担する金額のことです。たとえば免責金額が5万円の場合、損害額のうち5万円までは自己負担となり、それを超えた分が保険から支払われます。免責金額を設定すると保険料は抑えられますが、万一の場合の自己負担に無理がないかどうかも確認が必要です。

  • 保険料と補償のバランス
    高額な補償内容を求めすぎて月々の保険料が経営を圧迫してしまっては本末転倒です。必要なリスクに絞って補償を選ぶことで、コストと安心のバランスを取ることが可能です。

  • オンライン申込み・更新のしやすさ
    最近はネット完結型の保険サービスも増えており、見積もりから加入、契約更新までウェブ上で手続き可能な商品も登場しています。事務負担を減らしたい場合には、利便性も大切な選定基準です。

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まとめ

個人事業主として活動する以上、事業にはさまざまなリスクが伴います。事故やトラブルが発生した際、金銭的損失だけでなく信用の損失も発生する可能性があるため、損害保険への備えは非常に重要です。

特に賠償責任保険や火災保険、業種別の専門保険は、自身の事業内容に応じてしっかり検討したいポイントです。また、保険をかけすぎては費用負担が大きくなってしまいます。補償の過不足を見直し、自分のビジネスを長く安定して続けるために、損害保険を上手に活用していきましょう。


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執筆は2025年5月28日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash