従業員シェアを活用して雇用を維持するには

新型コロナウイルス感染症の影響により、休業したり事業縮小を余儀なくされたりと事業者にとって厳しい状況が続くなか、雇用を守るための手段として注目されているのが「従業員シェア」です。

従業員シェアは、一時的に仕事がなくなっている企業と、慢性的に人手が足りない企業や、人を探している企業をマッチングさせ、業種を超えた「在籍出向」で人材を活用する就労方法です。

出向というと大企業のイメージが強いかもしれませんが、中小企業でも活用が進み、支援制度や相談の場も整備されつつあります。この記事では、雇用の維持を目的とした従業員シェアの就労形態の概要と主な事例、導入までの流れや留意点、サポート体制について解説します。

目次



従業員シェアとは

従業員シェアは、雇用維持に苦しむ企業の従業員を人手不足で困っている企業へ一時的に出向させることにより互いの悩みを解決する方法で、「在籍型出向」と呼ばれます。

従業員シェアは「在籍型出向」による雇用の維持

従業員シェアでは、人材を送り出す側(出向元企業)と人材を受け入れる側(出向先企業)との間で出向契約を締結し、従業員は出向元企業(もとの職場)と出向先企業(一時的に送り出された職場)の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務します。

従業員は、一時的ですが出向元・出向先の両方と雇用関係をもつことになるため、労務管理の責任は契約のなかでしっかり決めておく必要があります。

従業員シェアを導入するメリット

従業員シェアは在籍したままの出向なので、期間を過ぎれば従業員は自社に戻ってくることが前提です。このため、雇用の維持が難しい期間に従業員を解雇せずに維持でき、経済が回復したときに貴重な人材を留保できるというメリットがあります。

従業員にとっても、別の会社で働くことで新しい業務経験ができたりスキルを磨いたりと、ステップアップにつながるチャンスが生まれます。
従業員を受け入れる企業にとっても、人手不足を解消できるだけでなく、他の業種で活躍する人が新しく入って活躍することにより、職場が活性化し生産性が向上する効果が期待できます。

従業員シェアの目的は雇用機会の確保

従業員を別の企業の指示のもとで就労させること(労働者供給)を「業として行う」のは職業安定法第44条により禁止されていますが、以下を目的とする場合は該当しないと判断されます。

  • 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
  • 経営指導、技術指導を実施する
  • 職業能力開発の一環として行う
  • 企業グループ内の人事交流の一環として行う

従業員シェアは、一つ目の「雇用機会の確保」を主目的とするため、基本的に問題がないとされています。目的の範囲を超える出向とならないよう注意が必要です。

参考:在籍型出向の“基本がわかる”ハンドブック(厚生労働省)

従業員シェアと複業、兼業や派遣との違い

副業や兼業は、従業員自身が各自の判断で行うものです。会社から指定したり命令したりすることはありません。これに対し、従業員シェアで行う在籍型出向は、会社が従業員に命令して実施します。

派遣労働の場合、従業員は派遣元の事業者と雇用契約を結びます。派遣先の企業と従業員は直接の雇用関係はなく、業務の指揮命令を受けるだけです。これに対し、在籍型出向の場合は、従業員は出向元と出向先の両方と雇用契約を結び、出向先の指揮命令を受ける形で就労します。

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従業員シェアを行った企業の事例

感染症の拡大でさまざまな業種の経営に影響が広がっていることもあり、業種の異なる企業への出向や規模が小さい企業の事例も多くあります。いくつかの例を紹介しましょう。

旅館・ホテル業から食肉加工業へ

送り出し側はリゾートホテル。インバウンドの減少により宿泊客が大きく減少して雇用過剰になっていたところ、調理人を探していた食肉加工業の直営レストランが受け入れ先になりました。(出向者2名、出向期間6カ月)

食料品小売業から障害者福祉施設へ

送り出し側は農産品や食肉加工など地域の特産品を販売する企業。売り上げが大きく減少して雇用維持に悩んでいたところ、慢性的な人手不足だった知的障害児入所施設が受け入れ先となりました。(出向者1名、出向期間8カ月)

金属材料製造業から製麺業へ

送り出し側は感染拡大の影響で需要が落ち込んだ金属材料製造業。熟練工の雇用維持を図るため、冬期の人員確保が課題だった製麺業の企業へ、製麺作業員として従業員を出向させました。(出向者13名、出向期間2カ月)

参考:在籍型出向の“基本がわかる”ハンドブック(厚生労働省)

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従業員シェア導入の流れ

従業員シェア(在籍型出向)は、送り出し側と受け入れ側の双方での契約と、従業員の個別の同意が必要です。主な流れを把握しておき、トラブルがないように進めていきましょう。

従業員と出向元間の準備

送り出し側となる企業は、従業員に出向を命じる際、従業員から個別に同意を得るか、受け入れ先での仕事の内容(賃金、労働条件、出向期間、復帰方法など)が就業規則や労働協約などによって従業員の利益に配慮して整備されている必要があります。
いくら雇用維持がたいへんと経営者が考えていても、出向の必要性やどの従業員を送り出すのかなどの決定が権利の濫用だとみなされた場合は、労働契約法第14条違反となって向こうとされてしまいます。

出向の必要性や労働条件については、はじめにしっかりと従業員とよく話し合い、個別に同意を得ておくようにしましょう。

出向元と出向先間の準備

送り出し側の(出向元)企業と、受け入れ側の(出向先)企業との間には、出向に関する契約結びます。出向契約には次のような事項を定めます。

  • 出向期間
  • 職務内容、職位、勤務場所、勤務時間、休憩時間、休日、休暇
  • 出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他手当の負担
  • 出張旅費
  • 社会保険、労働保険
  • 福利厚生の取り扱い
  • 勤務状況の報告、人事考課
  • 守秘義務、損害賠償
  • 途中解約
  • その他の特記事項

出向契約に定めのなかったものについては、従業員の地位に関わる権利義務については出向元、就労に関わる権利については出向先と解釈するのが合理的とされます。

産業雇用安定助成金や雇用調整助成金を活用する場合、出向契約書に必ず記載しなければならない項目があるため、注意が必要です。

従業員と出向先間の準備

出向先の従業員の就労については、送り出し側も受け入れ側もそれぞれが使用者としての責任を負うことになります。

出向先での労働条件については、受け入れ側の企業が明示することになりますが、送り出し側の企業が代わりに示すこともできます。以下の項目については原則として書面の交付で明示します。

  • 労働契約の期間
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  • 就業の場所、従事すべき業務
  • 始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関すること
  • 賃金の決定(退職手当、臨時賃金、賞与等を除く)、計算、支払の方法、賃金の締切および支払の時期)
  • 退職に関すること(解雇の自由を含む)
  • 出向した従業員の給与・保険などの取り扱い

従業員の給与は、送り出し側と受け入れ側が話し合って決定します。支給方法には、受け入れ側が直接従業員に支払う方法と、受け入れ側が給与負担金の形で送り出し側へ支払い、送り出し側が従業員に給与を支払う方法があります。

給与の税法上の取り扱いや、雇用保険、労働者災害補償保険、厚生年金保険・健康保険に関する取り扱いについては、個別の出向契約の内容によって異なります。届け出が必要な場合もありますので、トラブルにならないよう、確認しながら手続きを進めましょう。

出向期間の延長・更新の取り扱い

出向には期間が定められていますので、終了すれば従業員はもとの企業に戻るのが原則です。
ただし、何らかの事情により出向期間の延長や更新が必要になる場合もあります。改めて契約を結び直すときは、従業員とよく話し合って本人の意思を十分に確かめましょう。

従業員シェア(在籍型出向)の準備や留意事項に関しては、厚生労働省が「在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック」をまとめています。就業規則(出向規定)や出向契約書のひな形も掲載されていますので、参考にしてください。

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従業員シェア導入のサポート体制

従業員シェアは、雇用の維持が苦しいときでも人材を留保しつつ技術交流や人材育成も図れたり、受け入れた職場に刺激を与えて生産性を向上させたりできる可能性をもった仕組みです。国では、主に厚生労働省と経済産業省が中心となって、さまざまなサポートを行っています。

従業員シェアの支援制度

従業員シェアを行うときに使える助成金を紹介します。

  • 産業雇用安定助成金(厚生労働省):在籍型出向を行う場合、経費の一部を最大で9割助成します。
  • 雇用調整助成金(厚生労働省):事業主が在籍型出向を行う場合も助成対象です。
  • 人材確保等促進税制(経済産業省):在籍型出向の受け入れなどを行う場合、法人税などの税額控除措置があります。

従業員シェアの相談窓口

従業員シェアについては、以下の相談窓口のほか、都道府県などで独自に窓口を設置しているものもあります。

  • 産業雇用安定センター:マッチングを無料で行っています
  • ハローワーク:助成金などの支援制度の相談や申請ができます

その他、都道府県などの自治体や全国の経済産業局によっては、送り出し側・受け入れ側の情報を掲載したポータルサイトを運営している場合があります。従業員シェアを導入する際には、このようなサポート体制を頼りにしてみてもいいでしょう。

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執筆は2021年3月10日時点の情報を参照しています。
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