電子決済大国はどのようにして誕生したの?中国のキャッシュレス事情

Square (スクエア), ブログ編集者

スーパーでの買い物から公共料金や医療費の支払い、レストランや屋台での会計も今では全てQRコードで行なえる中国。ここではスマートフォンが必要不可欠となりつつあり、電子決済が爆発的に進んでいます。今回は現金離れが進んだ背景にあるQRコードの誕生やその問題点、そして現金からキャッシュレスに移りつつある現状を掘り下げていきます。

財布を持つのは時代遅れ?中国でキャッシュレスが主流となった背景

一般社団法人キャッシュレス推進協議会がまとめた資料によると、中国は韓国、イギリスに続いて世界で三番目にキャッシュレスが進んでいる国です。

なかでも圧倒的な支持を得ているキャッシュレス手段は、QRコードを用いた電子決済。中国支付清算協会の2018年の報告書によると、モバイル決済ユーザーのうち78.8%が「毎日使用している」と回答するほど今や生活に欠かせない決済手段となっています。電子決済の急激な成長を振り返る前に、まずは中国でキャッシュレスが普及した経緯を辿りましょう。

参考:
キャッシュレスロードマップ(一般社団法人キャッシュレス推進協議会)
中国におけるキャッシュレス化の現状と課題〜O2Oマーケティングの可能性〜(ERINA REPORT PLUS)

そもそも中国でキャッシュレスが進んだ理由とは

中国がキャッシュレスに傾倒し始めたのは、銀聯カードの誕生がきっかけといえるでしょう。異なる省や銀行間での決済の一本化を目的に、中国の中央銀行とされる中国人民銀行が設立した「中国銀聯」が2002年から発行を開始しました。

参考:中国の消費を支える銀聯カード(FFG 調査月報)

中国では低所得者がまだまだ多いこともあり、クレジットカードに必要とされる与信審査の通過が難しい場合が多く、カードの保有は富裕層に限定される傾向にあります。それゆえに、銀行口座を開設すれば入手できるデビットカードが主流となりました。

実際にUnion Pay Internationalによる2016年12月時点での銀聯カードの総発行枚数を見ると、デビットカードが57億枚、クレジットカードが5億枚、と前者が後者の10倍以上にも及ぶことがわかっています。

参考:中国におけるキャッシュレス化事情(Union Pay International)

中国でデビットカード、およびキャッシュレスが普及した背景には、大きく二点が挙げられます。

1. 高額紙幣が存在しない
中国では100元(2019年10月時点で日本円でおよそ1,507円)が最も高額な紙幣で、大金の持ち運びが難しい点が懸念されていました。このような理由もデビットカードの普及に貢献していると考えられます。中国でのキャッシュレス事情をまとめたUnion Pay Internationalの資料によると、今では銀聯カードの加盟店数は中国で約1,700万件ほどあるとされています。

参考:中国におけるキャッシュレス化事情(Union Pay International)

2. 偽札問題
中国で偽札は決して珍しいものではなく、多くの百貨店やスーパー、小売店では、偽札をチェックする機械が設置してあります。このように現金に対する信用が低く、在中国日本国大使館によると、偽札であると知りながら使用してしまうと行政処罰(15日間以下の拘留と1万元以下の罰金)が科されてしまうこともあり、安全性を求めてキャッシュレスに移行した国民も多いと考えられます。

参考:中国での偽札に関する Q&A(在中国日本国大使館)

爆発的な飛躍を遂げたQRコード決済。普及の背景と現状の課題点とは

QRコード決済の普及を後押ししたのは、スマートフォンの存在です。公益財団法人環日本海経済研究所(ERINA)がまとめた中国のキャッシュレス事情の報告によると、スマートフォンユーザー数は、2007年には5千万人、2012年には4.2億人、2017年には7.53億人、と人口(約13.90億人、外務省による調べ)の半数以上にまで増加しています。この勢いに乗り、消費者と加盟店の両者が取り入れ始めたのがQRコード決済です。

中国の2大モバイル決済には、オンラインショッピングを主に2004年にサービスを開始したアリババ集団の「Alipay」 と、中国版Lineともいえるテンセント「WeChat」が2013年に始めた「WeChat Pay」 が挙げられます。いずれも中国で開設した銀行口座と紐づけることで使用ができます。2018年第一四半期には、この二つのアプリが全モバイル決済の90.6% を占めていたことがiiMedia Researchの資料からわかっています。

モバイル決済の2大巨頭とも呼ばれるAlipayとWeChat Payが浸透し始めたのは、2014年から2015年のこと。iiMedia Researchの資料に発表された年間のモバイル決済額を見てみると、2014年は22.6兆元、2015年には108.2兆元、2016年には157.6兆元、2017年には202.9兆元と、2014年以降急増していることがわかります。スマートフォンの普及はもちろんのこと、個人間での送金が無料で行なえる利便性や、ユーザーを取り込むプロモーションが年間決済額の増加に大きく影響していると考えられます。

参考:
中国基礎データ(外務省)
中国におけるキャッシュレス化の現状と課題〜O2Oマーケティングの可能性〜(ERINA REPORT PLUS)

QRコード決済が消費者にも加盟店にも好まれる理由とは

モバイル決済が消費者にも加盟店にも圧倒的な支持を得る最大の理由として挙げられるのは、その利便性でしょう。中国支付清算協会の2018年の報告書ではモバイル決済を使用する理由として「スマホ操作が簡単で利便性が高いから」が95.6%の回答を占めています。次いで「現金やデビットカードを持たなくて済む」(80.8%)「割引キャンペーンや特典が多いから」(47.3%)などの回答が集まっています。

一方で導入店舗が一気に増加した理由には、設備投資が不要な点が大きいでしょう。専用リーダーやタブレットを用意せずとも、QRコードを貼り出すだけで決済を受け付けられる導入のしやすさが加盟店を惹きつけました。そのうえ、0%からという踏み込みやすい手数料形態も、QRコード決済の拡大に貢献していると考えられます。

参考:
中国におけるキャッシュレス化の現状と課題〜O2Oマーケティングの可能性〜(ERINA REPORT PLUS)

QRコード決済の普及から生まれる問題点とは

偽札の発行など現金が抱える問題を解消できる一方で、新たに問題となっているのはQRコード決済を悪用した窃盗事件です。方法としては、スマートフォンにウィルスを感染させて、利用者の銀行口座からお金を盗む、貼り出されているQRコードの上に自ら作成したQRコードを貼り付け、自分の銀行口座に入金される仕組みを作る、の二パターンが挙げられます。

2018年4月には、南京市で60種類もの偽物のQRコードを貼り出し、利用者から100回以上モバイル決済金額を盗み取ったとして、3人組が逮捕されています。2017年3月に発行された「南方都市報」によると、QRコードの不正利用として盗まれた額は広東省だけで9,000万元(約13億9,000万円)にも及ぶといわれています。

参考:QRコード決済“まさか”の落とし穴(2019年9月20日、毎日新聞)

また、当然ながらスマートフォンがなければQRコード決済は利用できないうえ、アプリとの紐付けには中国で開設した銀行口座が必要です。そのため、スマートフォンが使用できない高齢層やスマートフォンを持たない農村部の貧困層には利用が難しいうえ、中国の銀行口座を所有していない旅行客にとっては利便性が低いのが難点です。

場面別、中国でのキャッシュレスな生活を紹介

食事から移動、公共料金の支払い、ご祝儀の受け渡しまでキャッシュレスで行なわれているという中国。ここではそのキャッシュレス生活を場面別に掘り下げます。

移動時のキャッシュレス事情

タクシーや地下鉄など、移動時の支払いも着々とキャッシュレスに移行しつつある中国。イギリスと同様、地下鉄の乗り降りでは現金でのチャージを省き、ICカード、またはスマートフォンを改札機にかざすだけで精算が済むサービスを開始しています。

深圳地下鉄全線では2019年3月に金融ICカード(銀聯モバイルクイックパスおよび銀聯ICカードクイックパスを含む)をかざす、もしくは同カードを紐づけたスマートフォンやスマートウォッチをかざすだけで精算が済む改札機が設置され、上海の地下鉄では「Metro大都会」やAlipayなどのアプリを通じたQRコード決済が親しまれているようです。ただし地域によっては未だ現金でのチャージが必要なICカードのみの対応であったり、チャージ不要のタッチ決済も区間が限られていたりと、まだ利便性が高いとは言い切れない状況です。

地下鉄以外にも、アリババグループが運営する「Hello Bike」をはじめとするシェアサイクル、そしてタクシーでもQRコードでの決済が可能となっています。

参考:深圳地下鉄、金融ICカード改札サービスを導入(2019年3月6日、AFPBB News)

家族間でのキャッシュレス事情

中国では春節(旧暦のお正月)にお年玉を「紅包(ホンバオ)」という赤い封筒に入れて手渡しするのが今までの習わしでした。ところが今ではこのお年玉の受け渡しまでキャッシュレスになりつつあるようです。

一対一でも受け渡しが可能ですが、話題を呼んだのはグループ内での送信に使えるWeChatの「紅包争奪戦」の機能でした。送り手は紅包がもらえる人数と総額を決め、グループ内で最初にタップをした人から順に紅包が獲得できるようなシステムになっており、一人ひとりが受け取る金額はランダムに振り当てられるそうです。このようなエンタテインメント性で国民を惹きつけ、中国メディア「新華社」によると、2018年には紅包のやりとりにWeChatを利用したユーザー数が7億6,800万にも昇ったようです。伝統的な習慣が電子に切り替わっている流れからも、国内でのモバイル決済の広まりが伺えます。

参考:WeChatでお年玉、今年は7億6,800万人に(2018年02月22日、新華社)

もう一つ、家族間でモバイル決済が使用される場面といえば病院の予約と支払いでしょう。Xinhua Newsによると、WeChatでは全国55都市で、外来の予約から医療費の支払いまでアプリ上で行なえるようになっているそうです。そのため、遠くに暮らす親の診療予約から医療費の支払いを子どもがアプリ上で行なう、などの親孝行が簡単にできるようになりました。

参考:中国、モバイル決済浸透率68% 金額は米の11倍(2018年10月15日、AFPBB News)

飲食時のキャッシュレス事情

レストランから道端の屋台まで、飲食時も愛用されるQRコード決済。近年では、レストランで着席したテーブル上にあるQRコードをスキャンすると、スマートフォンの画面上にメニューが表示され、そこから注文、決済ができるシステムも点在しているそうです。

QRコードにはテーブル番号の情報も含まれており、注文が入ると厨房で配膳するテーブルがどこかもすぐにわかる仕組みになっています。このようにアプリを利用することで、レストラン側は注文や会計にかかる待ち時間が削減できるといえるでしょう。

参考:中国で発見、スマホなしでは注文できない料理店(2016年4月4日、日経ビジネス)

資産運用のキャッシュレス事情

最後に特記するべきは、モバイル決済アプリ内と紐付いた金融商品です。先駆者はAliPayで、AliPayの口座にある資金で投資ができるサービス「余額宝(ユアバオ)」を2013年6月に開始しました。少額から投資できる手軽さなどから、2015年の野村資本市場研究所の報告書では、サービスを開始してほんの一年で1億を超える口座が開設されたと発表されています。特に若年層に人気を集めているようで、利用者の平均年齢は29歳、35歳以下の比率は76%であることが同資料から明らかになっています。

一方で競合のWeChat Payは後を追うように2018年11月に「零銭通(リンチェントン)」という名前で同機能をアプリ内に追加しています。

参考:急成長する中国のコンシューマー向けインターネットファイナンス(野村資本市場研究所)

中国では飲食から移動、公共料金の支払い、お年玉の受け渡しなど、生活のあらゆる側面でモバイル決済が活用されていることがわかりました。次回は世界で最も高いキャッシュレス決済比率を誇る韓国に迫ります。

▶︎▶︎▶︎韓国のキャッシュレス事情

世界のキャッシュレス事情については、こちらも合わせてご覧ください。
(1) アメリカ
(2) イギリス
(4) 韓国
(5) オーストラリア

執筆は2019年10月4日時点の情報を参照しています。
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