電子決済大国はどのようにして誕生したの?中国のキャッシュレス事情

スーパーでの買い物から公共料金や医療費の支払い、レストランや屋台での会計も今ではすべてQRコードで決済できる中国。スマートフォンが必要不可欠となり、電子決済が爆発的に進んでいます。今回は現金離れが進んだ背景にあるQRコード決済の誕生や課題、そして現金からキャッシュレスに移りつつある現状を掘り下げていきます。

📝この記事のポイント

  • 中国はキャッシュレス比率83.8%で世界2位、QRコード決済が主流
  • クレジットカード普及率が低く、銀聯カードやモバイル決済が優勢
  • 高額紙幣が存在しないことや偽札問題がキャッシュレス化を後押し
  • スマートフォン普及とAlipay・WeChat Payの浸透で取引額は2014〜2017年に急増
  • 利便性や低コスト導入で加盟店も拡大する一方、高齢者・旅行者への利用制約が課題

目次



財布を持つのは時代遅れ?中国でキャッシュレスが主流となった背景

「キャッシュレス・ロードマップ2023」1によると、中国は韓国に続いて世界で2番目にキャッシュレスが進んでいる国です。

世界主要国におけるキャッシュレス決済比率(2021年)1

国・地域 キャッシュレス決済比率(2021年)
🇰🇷 韓国 95.3%
🇨🇳 中国 83.8%
🇦🇺 オーストラリア 72.8%
🇬🇧 英国 65.1%
🇸🇬 シンガポール 63.8%
🇨🇦 カナダ 63.6%
🇺🇸 アメリカ 53.2%
🇫🇷 フランス 50.4%
🇸🇪 スウェーデン 46.6%
🇯🇵 日本 32.5%

なかでも圧倒的な支持を得ているキャッシュレス手段は、QRコードを用いたモバイル決済です。その利用者は2016年6月の4億人から2019年6月には6億人まで拡大して、スマートフォンユーザー全体の73.4%を占めているそうです2。さらに、スマートフォンの普及率は韓国より低いものの、モバイル決済の利用率は韓国の2.7倍という報道もあるほどです3

今や生活に欠かせない存在となっているモバイル決済。まずは、中国で普及した経緯を辿りましょう。

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そもそも中国でキャッシュレスが進んだ理由とは

中国がキャッシュレスに進みはじめたのは、銀聯(UnionPay)カードの誕生がきっかけといえるでしょう。異なる省や銀行間での決済の一本化を目的に、中国の中央銀行とされる中国人民銀行が設立した「中国銀聯」が2002年から発行を開始しました4

中国では低所得者がまだまだ多いこともあり、クレジットカードに必要とされる与信審査の通過が難しい場合が多く、カードの保有は比較的富裕な層に限定される傾向にあります。たとえば、2021年時点でのクレジットカード保有率は約38%5で、日本の半分以下です。それゆえに、銀行口座を開設すれば入手できるデビットカードが主流となりました。

中国でデビットカードおよびモバイル決済が普及した背景には、大きく二点が挙げられます。

1. 高額紙幣が存在しない

中国では100元(2022年7月時点で日本円でおよそ2,036円)が最も高額な紙幣で、大金の持ち運びが難しい点が懸念されていました。このような理由もデビットカードの普及に貢献していると考えられます。

具体的な普及率を見てみると、中国本土では2,700万を超える加盟店と110万台のATMで銀聯(UnionPay)カードが利用できます6。中国本土での発行枚数に関する情報はありませんが、2024年には中国本土以外での銀聯(UnionPay)カードの発行枚数が2億3,000万枚を突破したことを発表しています7

「中国の金融システムと決済市場は、世界の他の地域と比べて未発達でした。クレジットカードの普及率は低く、現金が主流であり、国全体を取りまとめる大きなプレーヤーも存在せず、既存のシステムの中でモバイル決済を展開できる銀行もありませんでした」
– Dr Jan Ondrus、Singapore’s ESSEC Business School19

2. 偽札問題

中国で偽札は決して珍しいものではなく、多くの百貨店やスーパー、小売店では、偽札をチェックする機械が設置してあります。このように現金に対する信用が低く、在中国日本国総領事館によると、偽札であると知りながら使用してしまうと懲役または罰金刑、程度によってはその両方がが科されてしまうこともあり、安全性を求めてキャッシュレスに移行した国民も多いと考えられます8

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爆発的な飛躍を遂げたQRコード決済。普及の背景と現状の課題点とは

QRコード決済の普及を後押ししたのは、スマートフォンの存在です。中国インターネット情報センターの報告によると、スマートフォンを利用するインターネットのユーザー数は、2021年には10億人以上9と、人口(約14億人、外務省による調べ10)の7割にまで増加しています。この勢いに乗り、消費者と加盟店の両者が取り入れ始めたのがQRコード決済です。

中国の2大モバイル決済には、オンラインショッピングを主に2004年にサービスを開始したアリババ集団の「Alipay」 と、中国版Lineともいえるテンセント「WeChat」が2013年に始めた「WeChat Pay」 が挙げられます。いずれも中国国内で開設した銀行口座と紐づけることで使用ができます。2019年第2四半期には、この二つのアプリが全モバイル決済の約92% を占めていたことがAnalysys易観の資料11からわかっています。

モバイル決済の2大巨頭とも呼ばれるAlipayとWeChat Payが浸透し始めたのは、2014年から2015年のこと。iiMedia Researchの資料12に発表された年間のモバイル決済額を見てみると、2014年は22.6兆元、2015年には108.2兆元、2016年には157.6兆元、2017年には202.9兆元と、2014年以降急増していることがわかります。

モバイル決済額(兆元)
2011 1.0
2012 5.2
2013 9.6
2014 22.6
2015 108.2
2016 157.6
2017 202.9

スマートフォンの普及はもちろんのこと、個人間での送金が無料で行なえる利便性や、ユーザーを取り込むプロモーションが年間決済額の増加に大きく影響していると考えられます。

QRコード決済が消費者にも加盟店にも好まれる理由とは

モバイル決済が消費者にも加盟店にも圧倒的な支持を得る最大の理由として挙げられるのは、その利便性でしょう。中国支付清算協会の2018年の報告書13ではモバイル決済を使用する理由として「操作が簡単で利便性が高いから」が95.6%、次いで「現金やデビットカードを持たなくて済む」(80.8%)、「割引キャンペーンや特典が多いから」(47.3%)などの回答が集まっています。

一方で導入店舗が一気に増加した理由には、設備投資が不要な点が大きいでしょう。専用リーダーやタブレットを用意せずとも、QRコードを貼り出すだけで決済を受け付けられる導入のしやすさが加盟店を惹きつけました。そのうえ、0%からという踏み込みやすい手数料形態も、QRコード決済の拡大に貢献していると考えられます。

QRコード決済の普及から生まれる問題点とは

偽札の発行など現金が抱える問題を解消できる一方で、新たに問題となっているのはQRコード決済を悪用した窃盗事件です。方法としては、「スマートフォンにウィルスを感染させて、利用者の銀行口座からお金を盗む」、「貼り出されているQRコードの上に自ら作成したQRコードを貼り付け、自分の銀行口座に入金される仕組みを作る」の2パターンが挙げられます。

また、当然ながらスマートフォンがなければQRコード決済は利用できないうえ、アプリとの紐付けには中国で開設した銀行口座が必要です。そのため、スマートフォンが使用できない高齢層やスマートフォンを持たない農村部の貧困層には利用が難しいうえ、中国の銀行口座を所有していない旅行客にとっては利便性が低いのが難点です。

場面別、中国でのキャッシュレスな生活を紹介

食事から移動、公共料金の支払い、ご祝儀の受け渡しまでキャッシュレスで行なわれているという中国。ここではそのキャッシュレス生活を場面別に掘り下げます。

移動時のキャッシュレス事情

タクシーや地下鉄など、移動時の支払いも着々とキャッシュレスに移行しつつある中国。イギリスと同様、地下鉄の乗り降りでは現金でのチャージを省き、ICカード、またはスマートフォンを改札機にかざすだけで精算が済むサービスを開始しています。

深圳地下鉄全線14では2019年3月に金融ICカード(銀聯モバイルクイックパスおよび銀聯ICカードクイックパスを含む)をかざす、もしくは同カードを紐づけたスマートフォンやスマートウォッチをかざすだけで精算が済む改札機が設置され、上海の地下鉄では「Metro大都会」やAlipayなどのアプリを通じたQRコード決済が親しまれているようです。

ただし地域によっては未だ現金でのチャージが必要なICカードのみの対応であったり、チャージ不要のタッチ決済も区間が限られていたりと、まだ利便性が高いとは言い切れない状況です。

地下鉄以外にも、アリババグループが運営する「Hello Bike」をはじめとするシェアサイクル、そしてタクシーでもQRコードでの決済が可能となっています。

家族間でのキャッシュレス事情

中国では春節(旧暦のお正月)にお年玉を「紅包(ホンバオ)」という赤い封筒に入れて手渡しするのが今までの習わしでした。ところが今ではこのお年玉の受け渡しまでキャッシュレスになりつつあるようです。

一対一でも受け渡しが可能ですが、話題を呼んだのはグループ内での送信に使えるWeChatの「紅包争奪戦」の機能でした。送り手は紅包がもらえる人数と総額を決め、グループ内で最初にタップをした人から順に紅包が獲得できるようなシステムになっており、一人ひとりが受け取る金額はランダムに振り当てられるそうです。このようなエンタテインメント性で国民を惹きつけ、中国メディア「新華社」によると、2018年には紅包のやりとりにWeChatを利用したユーザー数が7億6,800万にも昇ったようです15。伝統的な習慣が電子に切り替わっている流れからも、国内でのモバイル決済の広まりが伺えます。

もう一つ、家族間でモバイル決済が使用される場面といえば病院の予約と支払いでしょう。Xinhua News16によると、WeChatでは全国55都市で、外来の予約から医療費の支払いまでアプリ上で行えるようになっているそうです。そのため、遠くに暮らす親の診療予約から医療費の支払いを子どもがアプリ上で行う、などの親孝行が簡単にできるようになりました。

飲食時のキャッシュレス事情

レストランから道端の屋台まで、飲食時も愛用されるQRコード決済。近年では、紙のメニューを置いていない飲食店も増えているようです17

テーブルに貼られているQRコードからメニューを読み取って注文し、そのままスマートフォンで決済まで行います。アプリを利用することで、レストラン側は注文や会計にかかる待ち時間が削減できるといえるでしょう。

資産運用のキャッシュレス事情

最後に特記するべきは、モバイル決済アプリ内と紐付いた金融商品です。先駆者はAliPayで、AliPayの口座にある資金で投資ができるサービス「余額宝(ユアバオ)」を2013年6月に開始しました。少額から投資できる手軽さなどから、現在は中国最大規模のMMF(マネー・マーケット・ファンド)に成長し、2020年6月末時点での同プラットフォームを利用した資産管理規模は4兆990億元(約83兆円)18に達しています(※)。

一方で競合のWeChat Payは後を追うように2018年11月に「零銭通(リンチェントン)」という名前で同機能をアプリ内に追加しています。

※2022年7月の為替レートで計算しています

中国では飲食から移動、公共料金の支払い、お年玉の受け渡しなど、生活のあらゆる側面でモバイル決済が活用されていることがわかりました。次回は世界で最も高いキャッシュレス決済比率を誇る韓国に迫ります。

▶︎▶︎▶︎韓国のキャッシュレス事情

世界のキャッシュレス事情については、こちらも合わせてご覧ください。
(1) アメリカ
(2) イギリス
(4) 韓国
(5) オーストラリア

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執筆は2019年10月4日時点の情報を参照しています。2025年9月1日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash