免税事業者とは?​課税事業者との​違い、​インボイス制度の​影響

免税事業者とは、​消費税の​納付を​免除されている​個人や​法人を​指します。​これに​対し、​消費税の​納税義務を​負う​個人や​法人は​課税事業者と​いいます。​インボイス制度は、​免税事業者と​課税事業者の​どちらにも​関わる​問題です。​本記事では、​両事業者の​違いを​整理し、​インボイス制度の​影響に​ついて​解説します。

免税事業者とは?

免税事業者とは、​商品の​販売や​サービスの​提供などで​預かった​消費税を​納付する​必要が​ない​事業者を​指します。​まずは​免税事業者の​定義や​要件、​また​前提となる​税制度である​消費税のしく​みに​ついて​簡単に​整理して​おきましょう。

免税事業者の​概要

免税事業者は、​事業活動で​得た​売り上げに​対する​消費税の​納付義務が​免除される​個人または​法人を​いいます。​消費税の​課税対象となる​期間の​中で​商品や​サービスを​販売し対価を​得ても、​免税事業者の​要件を​満たす間は​消費税を​支払う​義務を​負いません。​一方で、​免税されている​間は、​仕入れの​際に​支払った​消費税を​控除と​して​差し引く​ことは​できません。​つまり、​免税事業者だと、​販売時に​受け取った​消費税より​仕入れ時に​支払った​消費税の​ほうが​多くても​還付を​受けられないのです。​この​ため、​免税事業者の​要件を​満たしていても​課税事業者を​選択する​場合は​あり得ます。

免税事業者の​要件は​次の​3点です。

  • 基準期間に​おける​売上高が​1,000万円以下
    -> 基準期間:個人事業主は​前々年、​法人は​前々事業年度
  • 特定期間に​おける​売上高が​1,000万円以下
    -> 特定期間:個人事業主の​場合は​前年の​1月​1日~6月30日、​法人の​場合は​前事業年度の​開始日以後​6カ月
  • その事業年度の​基準期間が​ない​法人の​うち、​事業年度の​開始日に​おける​資本金または​出資金の​額が​1,000万円未満

新たに​設立された​法人は​1期目と​2期目に​おいては​基準期間が​ありません。​したがって​当初2期は​原則と​して​納税が​免除されます。

消費税のしく​み

ここで、​消費税のしく​みに​ついて​簡単に​整理して​おきましょう。​消費税は、​製品の​販売や​サービスの​提供などの​取引に​対して​広く​課税される​税金です。​商品の​販売や​運送、​広告など、​対価を​得て​行う​ほとんどの​取引が​課税の​対象と​なります。

消費税では​消費者が​金銭を​負担し、​納税するのは​事業者です。​たとえば、​ある​事業者が​一般消費者に​対して​商品を​販売した​とき、​消費者は​商品の​対価と​消費税を​合わせた額を​支払い、​事業者は​いったん消費税分を​預かって​おき、​まと​めて​税務署に​納めます。

事業者が​仕入れを​行う​ときには、​事業者が​仕入れ先に​対し、​消費税を​含めた​商品の​対価を​支払っています。​この​ため、​事業者が​納付する​消費税額は、​消費者から​預かった​消費税から、​仕入れで​自社が​支払った​消費税を​差し引いた額となります。​消費税は​課税対象が​広範囲に​わたる​ため、​商品の​生産や​流通などの​各段階で​重複して​課税されないしく​みに​なっているのです。

【参考ページ】
No.6501 納税義務の​免除|国税庁
消費税のしく​み|国税庁

免税事業者と​課税事業者の​違い

免税事業者と​対になる​事業者と​して​課税事業者が​あります。​免税事業者が​消費税の​納税を​免除される​事業者であるのに​対し、​課税事業者は​消費税の​納税義務を​負う​事業者です。​ここからは、​課税事業者の​特徴との​比較を​通じて​免税事業者の​特徴に​ついての​理解を​深めていく​ことにしましょう。​課税事業者の​定義​(納税の​義務、​要件、​届出)、​消費税の​計算方法、​申告と​納付の​方法、​消費税の​表示に​ついてみていきます。

課税事業者とは

課税事業者とは、​商品や​サービスの​売り上げで​生じた​消費税を​納税する​義務を​負う​事業者です。
下記の​いずれかの​要件を​満たす事業者は​課税事業者と​なります。

  • 基準期間に​おける​売上高が​1,000万円を​超える
    -> 基準期間…​個人事業主は​前々年、​法人は​前々事業年度
  • 特定期間に​おける​売上高が​1,000万円を​超える
    -> 特定期間…​個人事業主の​場合は​前年の​1月​1日~6月30日、​法人の​場合は​前事業年度の​開始日以後​6カ月
  • その事業年度の​基準期間が​ない​法人の​うち、​事業年度の​開始日に​おける​資本金または​出資金の​額が​1,000万円以上である
  • な​お特定期間に​おける​1,000万円の​判定には、​売上高の​代わりに​給与の​支払額を​用いる​こともできます。

消費税の​計算

課税事業者が​納付する​消費税の​額を​計算する​方法には​大きく​分けて、​原則となる​一般課税と、​簡略化した​簡易課税制度に​よる​方法の​2種類が​あります。

一般課税

消費税の​計算の​原則となる​方法が​一般​課税です。​次の​計算式で​納税額を​求めます。

納税額=売り上げにかかった消費税-仕入れにかかった消費税

2023年9月現在、​消費税には​10%と​8%の​2種類の​税率が​混在しています。​消費税を​申告するには​税率ごとに​分けて​記帳し、​集計しなければなりません。​また、​上記の​計算式ど​おり仕入れに​かかった​消費税を​控除して​納税する​ためには、​証拠となる​帳簿および請求書等の​保存も​必要と​なります。

簡易課税制度

原則となる​消費税の​会計処理の​負担が​大きいために​用意されたのが​簡易課税制度です。​簡易課税制度では、​仕入れ時の​消費税の​集計が​不要となり、​売り上げに​かかった​消費税のみを​基礎と​して​納税額を​算出できます。

具体的には、​下の​式に​ある​「みなし仕入率」を​用いて、​一般課税よりも​簡潔に​計算します。

納税額=売り上げにかかる消費税-(売り上げにかかる消費税×みなし仕入率)

みなし仕入率は​事業区分ごとに​異なり、​下記のように​設定されています。

  • 第1種事業​(卸売業)…​90%
  • 第2種事業​(小売業等)…​80%
  • 第3種事業​(製造業等)…​70%
  • 第4種事業​(​その他飲食店業など)…​60%
  • 第5種事業​(サービス業等)…​50%
  • 第6種事業​(不動産業等)…​40%

簡易課税制度は、​中小事業者に​おける​税理事務の​負担軽減を​目的と​しており、​基準期間の​売上高が​5,000万円以下の​事業者が​選択できます。

消費税の​申告と​納付

課税事業者は、​確定申告・納付の​ほか、​直前の​課税期間の​消費税額に​応じて​中間申告・​納付が​義務づけられています。​確定申告・納付の​時期は、​個人事業主が​翌年3月​末日まで、​法人は​課税期間​末日の​翌日から​2カ月以内です。​いずれも​所轄の​税務署に​申告・納付します。​中間申告・納付の​義務を​負うのは​直前の​課税期間に​おける​消費税額が​48万円を​超える​事業者です。​下表のと​おりに​申告・納付を​行います。

  • 48万円超400万円以下​: 年1回​(直前の​課税期間の​消費税額の​1/2)
  • 400万円超4,800万円以下​: 年3回​(直前の​課税期間の​消費税額の​1/4ずつ)
  • 4,800万円超: 年11回​(直前の​課税期間の​消費税額の​1/12ずつ)

期限内に​申告・納税を​行わなかった​場合や​間​違った​申告を​した​場合、​不足した​税金を​納めるだけでなく​加算税や​延滞税の​納付を​求められる​可能性が​ある​ため注意しましょう。​納付の​方法は、​金融機関または​税務署の​窓口で​現金で​支払う​ほか、​e-Taxを​使った​引落し、​クレジットカード、​コンビニ納付などが​利用できます。

消費税の​表示

事業者が​消費者に​対して​商品・サービスの​価格を​あらかじめ表示する​場合、​全体と​していくら​払えば​よいのかを​わかりやすく​する​ため、​税込価格での​表示​(総額表示)が​義務づけられています。​価格を​表示する​ところは​値札や​店頭だけでなく、​チラシや​広告、​ホームページなど種類を​問いません。​総額表示義務の​対象外となるのは、​あらかじめ価格表示を​していない​場合や​口頭で​価格を​伝える​場合です。​これらの​消費税の​表示ルールは、​免税事業者か​課税事業者かに​関わらず​適用されます。

【参考ページ】
消費税のしく​み|国税庁
中​小企業・​小規模事業者の​ための​インボイス制度対策​(第3版)

免税事業者の​メリットと​デメリット

免税事業者と​課税事業者の​大きな​違いは​消費税の​納付義務の​有無に​あります。​この​大きな​違いを​踏まえながら、​免税事業者を​選択する​メリットと​デメリットを​みていきましょう。

免税事業者の​メリット

免税事業者には、​課税事業者と​比較した​場合、​大きく​2つの​メリットが​あります。​ひとつは、​金銭面や​事務面での​負担の​少なさです。​免税事業者は、​消費税の​申告も​納付も​行う​必要が​ない​ため、​税理事務の​負担や​金銭的な​負担が​軽減されます。

もう​ひとつは、​税改正に​対応する​負担も​軽い点が​あります。​消費税制が​改正されると、​課税事業者は​改正内容に​応じて​消費税の​申告・​納税や​納税額の​算出、​記帳方法など、​さまざまな​対応を​定められた​期日までに​行うよう​迫られます。​この点、​免税事業者は​消費税を​納税しない分、​必要な​対応が​少なくなるのです。

免税事業者の​デメリット

免税事業者の​デメリットは、​消費税の​計算が​不要となる分、​消費税の​絡んだ​控除や​還付を​受ける​ことができない点です。​事業を​立ち上げて​間がなく​設備や​機材など​初期費用が​多い​場合など、​売り上げの​消費税より​仕入れや​経費の​消費税が​多く​かかった​場合、​名税事業者だと​消費税の​還付を​受ける​ことができず、​デメリットが​大きくなりやすいでしょう。

また​非課税取引が​多い​業種も​同様に、​メリットよりも​デメリットの​ほうが​大きくなるかもしれません。​非課税取引には​土地の​譲渡や​貸付け、​住宅の​貸付け、​社会保険医療、​介護保険サービス、​社会福祉事業などが​含まれます。​また、​国内で​仕入れた​商品を​国外へ​輸出する​場合など、​日本国外での​取引も​消費税の​適用外です。

つまり、​賃貸業者や​医療・介護事業者、​輸出取引業を​営む事業者は、​売り上げで​生じる​消費税より​仕入れで​かかる​消費税の​ほうが​大きくなりやすく、​免税事業者を​選ぶデメリットも​大きくなりやすい​傾向に​あると​いえます。

【参考ページ】
消費税のしく​み|国税庁

免税事業者に​必要な​届出と​手続き

免税事業者となる​ために​手続きが​必要なのは​課税事業者が​免税事業者に​移行する​場合です。​免税対象と​なっている​事業者が​免税事業者であると​登録する​ための​届出は​必要ありません。​起業した​時点では​まだ​売り​上げが​ありませんから、​資本金が​1,000万円以下で​あれば​届出がなくても​免税事業者からの​スタートとなるのです。

ここでは、​免税事業者が​関係する​届出と​して、​次の​3つの​場合に​分けて​必要な​手続きを​説明します。

  1. 課税事業者から​免税事業者になる​場合
  2. 免税事業者から​課税事業者になる​場合
  3. 課税事業者のなかでも​簡易課税制度を​選択する​場合

課税事業者から​免税事業者になる​場合

課税事業者から​免税事業者に​移る​場合、​基準期間の​売上高が​1,000万円以下に​なった​ことが​移行の​きっかけか​どうかで​手続きが​分かれます。

基準期間の​売上高が​1,000万円以下に​なった​ことに​より​免税事業者になる​場合

基準期間の​売上高が​1,000万円以下となり免税事業者となる際は​すみやかに​「消費税の​納税事業者でなくなった旨の​届出書」を​税務署へ​提出します。​ただし基準期間の​売上高が​1,000万円以下であっても、​特定期間の​売上高が​1,000万円を​超える​場合は​免税事業者には​なれません。

基準期間の​売上高を​きっかけと​せず​免税事業者になる​場合

もともと​基準期間の​売上高が​1,000万円以下なのに​課税事業者を​選択していた​事業者が​免税事業者に​移る​場合などは、​「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、​免税事業者に​移ろうとする​課税期間が​始まる​前日までに​税務署に​提出します。

免税事業者から​課税事業者になる​場合

免税事業者が​課税事業者になるときの​手続きは、​事由別に​おもに​4種類です。​基準期間の​売上高が​1,000万円を​超えた​とき、​特定期間の​売上高が​1,000万円を​超えた​とき、​先の​2つの​どちらでもない​とき、​資本金が​1,000万円以上の​法人を​新設する​ときです。

基準期間の​売上高が​1,000万円を​超えた​とき

基準期間の​売上高が​1,000万円を​超えると​免税事業者では​いられなくなります。​「消費税課税事業者届出書​(基準期間用)」を​すみやかに​作成し、​所轄の​税務署に​提出する​必要が​あります。

特定期間の​売上高が​1,000万円を​超えた​とき

基準期間の​売上高は​1,000万円以下だが、​特定期間に​おいて​売上高​(または​給与支払額)が​1,000万円を​超えた​ときも​課税事業者へ​移る​手続きが​必要です。​先ほどと​同様に​すみやかに​「消費税課税事業者届出書​(特定期間用)」を​作成し、​所轄の​税務署に​提出します。

上記以外の​事由で​課税事業者になろうとする​とき

基準期間​および特定期間の​売上高が​1,000万円以下であっても、​手続きを​すれば​課税事業者に​なれます。​課税事業者の​適用を​受ける​課税期間が​始まる​前日までに​「消費税課税事業者選択届出書」を​所轄の​税務署に​提出しましょう。

資本金が​1,000万円以上の​法人を​設立する​とき

法人を​設立する​際、​資本金または​出資金の​額が​1,000万円以上で​あれば​届出が​必要です。​「消費税の​新設法人に​該当する​旨の​届出書」を​作成し、​所轄の​税務署に​提出します。​ただし​「法人設立届出書」に​消費税の​新設法人に​該当する​旨を​含む所定の​事項を​記載して​提出している​場合は、​この​手続きを​省略できます。

課税事業者になる​際に​簡易課税制度を​選択する​場合

免税事業者から​課税事業者となるに​あたり簡易課税制度を​選択する​ときは、​課税事業者になる​届出の​ほかに​簡易課税制度を​選択する​届出も​必要です。​適用を​受けようとする​課税期間が​始まる​前日までに​「消費税簡易課税制度選択届出書」を​作成し、​所轄の​税務署に​提出します。​な​お簡易課税制度の​適用を​受けると、​その後​2年間は​一般課税制度へ​変更できません。

また、​簡易課税制度を​選択できるのは​基準期間の​売上高が​5,000万円以下の​事業者です。​簡易課税制度の​届出を​しても、​基準期間の​売上高が​5,000万円を​超える​課税期間は​簡易課税制度が​適用されません。

【参考ページ】
No.6629 消費税の​各種届出書|国税庁

免税事業者への​インボイス制度の​影響と​必要な​対応

2023年10月​1日から​インボイス制度が​始まりました。​インボイス制度は​消費税に​関する​制度の​ひとつであり、​免税事業者にも​影響を​及ぼす可能性が​あります。​ここからは、​インボイス制度の​概要と​設定された​背景、​インボイスを​発行する​ための​要件を​整理してから、​免税事業者への​具体的な​影響と​必要な​対応を​みていきましょう。

インボイス制度とは

インボイス制度を​ひと言で​表すと、​請求書や​領収書など​商品の​価格や​消費税が​書かれた​書類に​関する​制度です。​そもそも​インボイスとは​適格請求書とも​よばれ、​一定の​要件を​満たした​請求書等を​指します。

ここで​一般課税での​消費税の​算出方法を​思い出してみましょう。

一般課税では​売り上げに​かかった​消費税から​仕入れに​かかった​消費税を​差し引いて​納税額を​算出します。​納税額の​算出に​おいて​仕入れに​かかった​消費税額を​差し引く​ことを​仕入税額控除と​いいます。​インボイス制度が​始まると、​インボイスが​なければ​仕入税額控除を​適用できません。​商品の​買い手は​売り手から​発行して​もらった​インボイスの​保存に​よって​仕入税額控除を​適用できるようになります。​また​商品の​売り手も​交付した​インボイスを​保存しておく​必要が​あります。

インボイス制度が​設定された​背景

インボイス制度設定の​背景に​あるのは​2019年10月の​消費税率引き上げと​軽減税率の​導入です。​税制の​改正に​よって​10%と​8%の​2種類の​消費税率が​混在する​こととなりました。​消費税の​納付額を​正しく​算出する​ためには​どの​取引​(商品)に​どちらの​税率が​適用されているかを​正確に​把握する​必要が​あり、​税理事務の​煩雑化を​招きました。

この​状況を​改善する​ため、​従来の​請求書等の​内容に​加えて​消費税率や​消費税額などを​明記する​インボイス​(適格請求書)の​制度を​導入し、​正確な​納税額を​計算する​負担を​軽減させようと​いうわけです。

インボイス​(適格請求書)を​発行する​ための​要件

インボイスを​発行できる​事業者は、​税務署長から​登録を​受けた​「インボイス発行事業者​(適格請求書発行事業者)」のみです。​また、​インボイス発行事業者の​登録を​受けられるのは​課税事業者です。​つまり、​免税事業者が​インボイスを​発行する​ためには、​課税事業者に​移行し、​インボイス発行事業者の​登録を​受ける​必要が​あります。​この​とき、​課税事業者で​あれば、​一般課税または​簡易課税制度の​どちらを​選択していてもかまいません。

インボイス発行事業者の​登録を​受けると​インボイスを​発行できるようになります。​インボイスの​記載内容は、​従来の​請求書等の​内容に​3項目が​追加されます。

従来の​請求書等の​記載事項

  • 請求書の​発行事業者名
  • 取引年月日
  • 取引の​内容​(軽減税率の​対象品目は​その旨も​明記)
  • 税率ごとに​区分して​合計した​対価の​額
  • 書類の​交付を​受ける​事業者名

インボイスの​記載事項

  • 従来の​請求書等の​記載事項
  • 【追加】インボイス発行事業者の​登録番号
  • 【追加】税率ごとに​区分して​合計した​対価の​額に​適用税率を​付記
  • 【追加】税率ごとに​区分した​消費税額の​合計

インボイス制度が​免税事業者に​与える​影響

インボイス制度の​大きな​特徴は、​制度導入後は​インボイスが​なければ​仕入税額控除が​適用できなくなる​点です。​しかし​インボイスの​発行は​登録を​受けた​課税事業者に​限られ、​免税事業者は​インボイスを​発行できません。​したがって​インボイス制度が​始まると、​免税事業者は​取引先から​継続契約の​解除や​値下げを​求められる​可能性が​あります。​また​新規の​契約を​受注する​ハードルも​高くなるかもしれません。

免税事業者から​仕入れを​行う​課税事業者は、​インボイスの​発行を​受けられないために​仕入税額控除が​できません。​よって​控除できない​消費税額分の​負担が​増えてしまいます。​負担増を​避ける​ため、​仕入れ先である​免税事業者に​対して​値引きの​要求や​契約解除を​打診するかもしれません。

取引先に​対して​契約に​関する​相談や​交渉は​できますが、​あまりに​行き過ぎた​要請や​強要は​独占禁止法や​下請法等に​おいて​問題と​なる​おそれが​あります。​また、​課税事業者が​新しい​仕入れ先を​探す際には、​インボイスを​発行できない​免税事業者は​候補から​外される​ことも​考えられるでしょう。

上記のような​影響が​考えられますが、​すべての​免税事業者が​インボイス発行事業者になる​必要が​あるとは​限りません。​あくまでも​任意ですから、​事業の​状況や​インボイス制度の​影響などを​ふまえたうえで、​最終的には​経営者の​判断に​委ねられます。

免税事業者が​インボイス発行事業者への​移行を​判断する​ポイント

では、​免税事業者が​インボイス発行事業者に​移行するか​どうかは、​どのように​判断すれば​よいのでしょうか。​難しい​課題ですが、​たとえば、​商品の​販売先の​事業者区分を​手が​かりに​考えてみるなど、​いく​つかの​ヒントは​あります。​ここでは​3つの​場合を​紹介しますが、​個々の​事業展望や​事業規模などに​よって​適切な​対応は​異なります。​あくまで​目安と​して​捉えてください。

商品の​販売先が​おもに​消費者または​免税事業者の​場合

商品の​販売先の​大半を​一般消費者が​占める​場合、​インボイス発行事業者になる​必要性は​低いと​いえます。​なぜなら​一般消費者や​免税事業者は​仕入税額控除を​行わず、​インボイスを​必要と​しないためです。
たとえば​習いごとの​教室や​サロンなどを​営む免税事業者は、​インボイス発行事業者にならなくても​問題が​生じにくいでしょう。

商品の​販売先が​おもに​規模の​大きな​課税事業者の​場合

売上高が​5,000万円を​超えるような​大企業は​簡易課税制度を​選択できず、​一般課税で​消費税を​計算しています。​したがって​仕入税額控除を​行う​ために​インボイスが​必要です。​建設業や​製造業などを​はじめ大規模な​課税事業者を​販売先に​持つ免税事業者は​インボイス発行事業者への​移行を​検討した​ほうが​よさそうです。

商品の​販売先に​一般消費者や​免税事業者と​課税事業者が​混在している​場合

この​場合は​課税事業者への​売り上げの​多寡や、​販売先の​課税事業者の​うち簡易課税制度を​選択している​事業者の​割合などから​総合的に​判断する​必要が​あります。​課税事業者と​いっても​簡易課税制度を​選択している​場合は、​みなし仕入率に​よって​納付税額を​算出する​ためインボイスがなくても​仕入税額控除を​適用できます。

ですから、​売上高の​うち課税事業者への​販売の​割合は​どれぐらいか、​そのうち簡易課税制度を​選択している​事業者への​販売は​どれぐらいかを​考えてみましょう。​また​インボイス発行事業者と​なった際の​事務負担、​消費税の​支払いに​よる​金銭的な​負担等も​考慮しましょう。​どうしても​判断が​難しい​場合は​税理士等の​専門家に​相談する​ことを​おすすめします。

インボイス発行事業者になる​ための​手続き

インボイス発行事業者に​なるには​税務署からの​登録が​必要です。​「適格請求書発行事業者の​登録申請書」を​税務署に​提出し、​審査を​通過し登録が​承認されると​「登録番号通知書」が​交付されます。​登録番号通知書は​失くさないように​保管して​おきましょう。

申請書の​提出方法は​e-Taxに​よる​提出と​書面に​よる​提出の​2種類です。

e-Taxを​使った​インターネット上での​提出は、​質問に​回答する​形で​必要事項を​入力していくだけで​申請手続きを​行えます。​e-Taxには​パソコンや​スマートフォン、​タブレットから​利用可能です。​書面で​提出する​場合は、​登録申請書に​必要事項を​記入して​「インボイス登録センター」に​郵送します。​窓口への​直接持参は​受け付けていないため、​注意が​必要です。

登録申請の​手続きを​終えたら、​現在発行している​請求書等の​様式を​インボイス制度の​記載事項に​合わせて​変更します。​必要に​応じて​販売管理システムも​インボイス対応の​ものに​入れ替えます。​最後に、​取引先に​インボイス発行事業者と​なった旨を​連絡しておくと​良いでしょう。

【参考ページ】
インボイス制度の​概要|国税庁
令和5年10月から​インボイス制度が​開始!​ 事業者間で​やり​取りされる​「消費税」が​記載された​請求書等の​制度です | 暮らしに​役立つ情報 | 政府広報オンライン
免税事業者及び​その取引先の​インボイス制度への​対応に​関する​Q&A | 公正取引委員会
中​小企業・​小規模事業者の​ための​インボイス制度対策​(第3版)

インボイス制度開始後の​経過措置

インボイス制度の​開始を​機に​課税事業者と​なった​事業者や、​免税事業者から​仕入れを​行っている​事業者に​ついては、​消費税の​申告・納税に​かかる​負担が​増えるでしょう。​制度の​導入に​よる​負担を​軽減する​ために、​複数の​経過措置が​設けられています。​ここでは​主な​3つの​経過措置を​紹介します。

登録申請に​関する​経過措置

通常、​インボイス発行事業者になる​ための​登録申請が​できるのは​課税事業者です。​免税事業者が​インボイス発行事業者に​なるには、​まず​課税事業者になる​手続きを​踏まなければいけません。
しかし​この​経過措置に​よって、​免税事業者は​課税事業者になる​手続きを​省いて​インボイス発行事業者への​登録申請が​できます。

対象者

  • インボイス発行事業者への​登録申請を​行う​免税事業者
    対象期間
  • 2023年10月​1日から​2029年9月30日の​あいだに​属する​課税期間

免税事業者が​「適格請求書発行事業者の​登録申請書」を​提出し、​対象期間中に​インボイス発行事業者の​登録を​受ける​場合、​通常は​必要である​「課税事業者選択届出書」の​提出が​免除されます。​登録日以降は​消費税の​申告および納税義務を​負いますので​注意しましょう。

2割特例​(インボイス発行事業者となる​小規模事業者に​対する​負担軽減措置)

免税事業者が​インボイス発行事業者になると、​消費税の​申告・納税に​関する​事務的な​負担や​金銭的な​負担が​増えるでしょう。​こうした​負担を​軽減する​ために、​納税額を、​売り上げに​かかった​税額の​2割と​する​激変緩和措置が​講じられます。

対象者

  • インボイス制度を​機に​免税事業者から​インボイス発行事業者と​して​課税事業者に​なった​事業者
    対象期間
  • 2023年10月​1日から​2026年9月30日を​含む各課税期間

2割特例を​適用すると、​売上高や​収入を​税率ごとに​把握するだけで​簡単に​消費税を​申告でき、​仕入れや​経費を​集計する​必要が​ありません。

たとえば​売上高が​800万円​(消費税額80万円)、​経費が​200万円​(消費税額20万円)の​サービス業を​営む事業者の​消費税申告を​考えてみましょう。

一般課税で​計算した​場合の​納税額

  • 80万円-20万円=60万円
    簡易課税制度で​計算した​場合の​納税額​(みなし仕入率は​50%)
  • 80万円-​(80万円×50%)​=40万円
    2割特例を​適用した​場合の​納税額
  • 80万円×2割=16万円

計算方法が​簡潔かつ納税額も​抑えられる​ため、​事務負担や​金銭負担が​大幅に​軽減されます。​な​お特例の​適用に​あたって​事前の​届出は​不要です。​消費税を​申告する​際、​申告書に​2割特例の​適用を​受ける​旨を​明記するだけで​特例を​適用できます。

免税事業者等からの​仕入れに​係る​経過措置

インボイス制度が​始まると、​免税事業者からの​仕入れに​ついては​仕入税額控除の​適用対象外と​なります。​しかし​この​経過措置に​よって、​一定期間は​免税事業者からの​仕入れでも​仕入税額控除が​認められます。​課税事業者は​インボイス制度の​開始に​よる​税負担の​急な​増加を​防げ、​免税事業者に​とっても​即座に​取引先から​契約を​打ち切られるような​リスクを​抑えられるでしょう。

対象者

  • 免税事業者から​仕入れを​行い、​仕入税額控除を​適用したい​事業者
    対象期間
  • 2023年10月​1日から​2029年9月30日まで

対象期間中は​免税事業者からの​仕入れであっても、​仕入れ税額の​一定割合を​控除できます。​なお、​前半の​3年間と​後半の​3年間で​控除できる​割合が​異なります。

  • 2023年10月​1日から​2026年9月30日まで…​仕入れ税額相当額の​80%を​控除できる
  • 2026年10月​1日から​2029年9月30日まで…​仕入れ税額相当額の​50%を​控除できる

また、​この​経過措置の​適用を​受けるには​次の​2点が​必要です。

インボイス制度導入前の​請求書等と​同様の​内容が​記載された​請求書等
経過措置を​受ける​ことを​記載した​帳簿の​保存

法人​成りで​免税事業者になる​要件​(参考)

小さく​始めた​事業が​それなりの​規模に​なってきた​とき、​頭を​よぎるのが​法人​成りです。​なかには​法人化を​目指して​事業を​始める​人も​いるかもしれません。​ここからは、​課税事業者である​個人事業主が​法人​成りで​免税事業者に​なれるのかどうか、​また​法人が​免税事業者である​ための​要件や、​法人成りの​際に​気を​つけたい​ことを​概説します。

な​お、​ここでは​インボイス制度への​対応と​して​法人成りを​勧める​趣旨は​ありません。​あくまでも​法人​成りに​関する​参考情報と​して​ご理解ください。

法人が​免税事業者である​ための​要件

免税事業者の​要件は​個人でも​法人でも​変わりません。​免税事業者である​ための​要件を​おさらいして​おきましょう。

  • 基準期間に​おける​売上高が​1,000万円以下
    -> 基準期間…​個人事業主は​前々年、​法人は​前々事業年度
  • 特定期間に​おける​売上高が​1,000万円以下
    -> 特定期間…​個人事業主の​場合は​前年の​1月​1日~6月30日、​法人の​場合は​前事業年度の​開始日以後​6カ月
  • その事業年度の​基準期間が​ない​法人の​うち、​事業年度の​開始日に​おける​資本金または​出資金の​額が​1,000万円未満

ポイントと​して、​新たに​設立された​法人は​1期目と​2期目に​ついては​基準期間が​存在しません。​つまり​資本金が​1,000万円未満の​新規設立法人かつ、​設立1年目の​最初の​6カ月で​売上高が​1,000万円を​超えなければ、​原則と​して​2年間は​免税事業者と​なります。

個人事業主が​法人​成りする​場合、​法人成りする​前の​個人と、​法人​成りした​あとの​法人は​別の​事業者であると​みなされます。​したがって​法人​成りする​前に​課税事業者であったとしても、​法人成りすれば​当初2年は​基準期間が​存在しない​こととなり、​納税義務は​生じません。

法人成りする​際に​気を​つけたい​こと

事業の​状況に​よっては​個人事業主で​いるよりも​法人​成りした​ほうが​節税に​つながるかもしれません。​また​社会的信用度の​高まりも​期待できるでしょう。​しかし​気を​つけたい​点も​大きく​3つ​あります。​税金の​支払い​義務、​社会保険への​加入、​そして​事務作業の​負担増です。

税金の​支払いに​ついては、​個人事業主で​あれば​赤字の​場合には​納税の​義務を​負いません。​ところが​法人になると​赤字の​場合でも​法人住民税を​納めなければいけません。​また​社会保険への​加入も​必須です。​法人では​すべての​役員と​正社員、​一部の​パートタイマーは​厚生年金と​健康保険への​加入が​義務づけられます。​たとえ役員1人しかいなかったとしても、​社会保険には​必ず加入します。​社会保険に​関する​事務も​含め、​法人は​個人と​比較し全体的に​事務作業が​増えます。​給与計算を​はじめと​する​日々の​作業が​増える​ほか、​決算書類も​個人の​確定申告より​多く​必要です。

消費税だけでなく​所得税や​社会保険、​手続きや​事務の​負担など、​事業全体を​みて​判断しましょう。

【参考ページ】
No.6531 新規開業又は​法人の​新規設立の​とき​|国税庁
個人事業者の​法人​成りの​場合の​課税売上高の​判定|国税庁
個人事業と​法人の​どちらが​よいか​ | 起業マニュアル | J-Net21​(中​小企業ビジネス支援サイト)

免税業者に​関する​よく​ある​質問

  • 免税事業者とは​何ですか?

    免税事業者とは、消費税の納付を免除されている個人や法人を指します。基本的な要件は基準期間および特定期間における売上高が1,000万円以下であることです。ただし免税事業者である要件を満たしていても、課税事業者となる選択をすることも可能です。

  • 免税事業者は​取引先に​消費税を​請求できますか?

    国内で行われるほとんどの取引は消費税の課税対象です。商品販売やサービス提供によって対価を得る場合、免税事業者であっても、販売先から受け取る対価には消費税が含まれます。原則として、メニュー表やホームページなどであらかじめ商品価格を表示する場合は、消費税込みの価格を表示しておかなければならない総額表示の義務があります。

  • 免税事業者は​インボイス制度に​対応する​必要が​ありますか?

    一概に対応する必要があるとは言い切れません。商品の販売先が一般消費者や免税事業者なのか、課税事業者なのかによっても適切な対応が変わってきます。事業の状況や今後の展望、事務面および金銭面での負担などいろいろな観点からよく考慮して判断することが大切です。


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