働き手を取り巻く状況は時代の流れと共に変化しています。業務毎に懸念される健康被害はさまざまであるものの、近年はメンタルヘルスの問題についても広く知られるようになりました。
多様化する就業状況に対し、雇い主として従業員の健康を守るためには、医学に関する専門的な見解が不可欠です。そこで、働く人の心身の健康を守る役割を担う産業医の存在が重要になります。従業員と事業主の双方を支え、健全な企業運営をするために欠かせない存在であり、近年では一定の条件を満たした事業者は産業医を選任することが義務化されています。義務を怠ると法律違反で罰金の支払いを命じられることもあるため、事業主としては産業医に関する知識を持っておかなければなりません。
今回は、産業医についての知っておくべきことと、実際に産業医を雇う場合のポイントを紹介していきます。
産業医とは
工場医などと呼ばれ昔から存在していましたが、1972年より労働者が50人以上の事業所は産業医を選任することが義務付けられています。
実際に、産業医はどのような役割を担っているのでしょうか。代表的なものを紹介します。
産業医の役割
・仕事場の巡視
産業医は毎月1回(条件によっては2カ月に1回)は、作業場やオフィスを見まわり、仕事場の状況確認を行うことが求められています。従業員の健康を保つために、改善が必要な場合は指導を行います。
・作業状況による健康リスクの評価と改善
健康被害が懸念される化学物質等の有害性に関する情報と、作業現場や従業員のばく露状況を把握し、健康障害が発生するリスクを評価する役割があります。リスクが高い場合には、雇用主に対して指導や勧告を行うことが可能です。
・健康・衛生教育
従業員に向けて健康管理や衛生管理に関する研修を行います。頻度や開催方法などは法律に定められておらず、健康教育の一環として雇用主の要望により実施されます。研修内容も仕事場の課題に応じてさまざまです。
・衛生委員会への参加
従業員が50人以上いる事業所には、衛生委員会を設置する必要があります。また、有害業務など特定の業種については安全委員会も立ち上げねばならず、産業医は衛生委員会と安全委員会の両方の正式なメンバーとして安全衛生対策にも参加します。
産業医の出席は義務ではありませんが出席することが望ましいです。産業医が出席できない場合においても、産業医が議事録を確認できるようにしておきます。
・健康診断
全ての従業員は、毎年最低1回は健康診断を受診することになっていますが、産業医は健康診断の結果から異常所見がある従業員に対し就業判定を行います。また、生活習慣の改善指導や、働き方の改善を助言することもあります。
産業医の必須条件とは
産業医は医師であることが前提ですが、更に次のいずれかの条件を満たしていなければなりません。
・厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
・産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指 定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者・労働衛生コンサルタント試験に合格し、その試験区分が保健衛生である者
・大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
産業医選任のルールとは
一定規模の事業所には産業医の選任が義務付けられていますが、従業員の人数や業務内容によって次のように定められています。
・従業員が50人未満の仕事場は産業医の選任義務はなし
・従業員が50人から999人の仕事場は産業医(嘱託可)を1名は選任
※有害業務に常時500人以上の従業員を従事させる仕事場では専属産業医を選任
・従業員1,000人から3,000人の仕事場は専属産業医を1名は選任
・従業員3,001人以上の仕事場は専属産業医を2名は選任
専属産業医と嘱託産業医
従業員が50人以上999人以下の場合においては、嘱託(非常勤)の産業医を選任することが可能です。嘱託産業医の場合は、普段は勤務医や開業医として働いている医師が毎月1回から数回ほど事業所を訪問するケースが多く、医師の中には嘱託産業医として複数の事業所を担当している人もいます。
それに対して、常時1,000人以上の従業員がいる事業所と、有害業務に常時500人以上の従業員が従事している事業所では、専属の産業医を選任することが必要です。専属産業医の場合は、産業医も企業組織の一員として企業に常勤するようになります。
有害業務にあたるのは主に以下のものです。
・ラジウム放射線やエックス線などの有害放射線にさらされる業務
・異常気圧下における業務
・鉛、水銀、クロム、塩素、青酸、石炭酸などを取り扱う業務
・粉じんが発生する場所での業務
・深夜業を含む業務
・重量物の取扱など重激な業務など
産業医選任の義務を怠った場合の罰則は
産業医を選任すると、選任報告書を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。産業医の選任義務が発生しているにも関わらず、産業医の選任を怠った場合は労働安全衛生法に基づき50万円以下の罰金となります。
条件が当てはまることが予想される場合は早めに産業医を探す準備を始めましょう。
産業医を雇うには
産業医を雇いたい場合にはどのようにすればいいのでしょうか。産業医の探し方にはいくつかの方法があります。
・医師人材紹介サービスを利用する
・事業所がある地域の医師会に相談する
・健康診断を実施している検診機関に紹介してもらう
・親会社に産業医がいないか、選任できるかを相談する
産業医は病院などで診療を行う臨床医と基本的な役割が違います。臨床医は診断や治療を目的としていますが、産業医は中立的な立場から就業状況を評価し、医学的見地からさまざまな評価をするスキルが求められるのです。臨床医と産業医との違いを理解した上で、雇用主と従業員の双方の立場を考慮し、調整することができる産業医を探すことをおすすめします。
産業医を探す際には、産業医の資格にプラスして労働衛生指導医や労働衛生コンサルタントなどの資格を所有しているかどうかも評価の材料になります。これらの資格を所有している産業医は専門性も高く経験や知識も豊富なことが多いため、雇用主として広く意見を求めることができるでしょう。しかし、その分報酬が高くなるケースもあるので、自社の課題と照らし合わせて検討しましょう。
契約の仕方
産業医との契約は医師と雇用主との直接契約と、紹介会社が間に入って企業間で行われる業務委託契約とに分かれます。契約書のひな型を用意している医師会もあるほか、所属の医師会を通して正式文書を取り交わす場合もあるので、産業医となる医師と契約内容を協議し、契約を結ぶようにしましょう。
産業医を選任したら、産業医を選任すべき条件を満たした日から14日以内に選任報告書を管轄の労働基準監督署に提出します。
参照:産業医契約(千葉県医師会第3版)の仕様について(千葉県医師会)
事業を健全に行うために欠かせない従業員の健康。その健康管理を担う産業医は、直接的に危険が伴わない仕事場にとっても不可欠な存在になっています。50人未満の仕事場も、従業員のケアは重要な項目になるので、産業医や労働衛生コンサルタントなどに依頼をして、専門的な見地から評価できる視点を持つことも大切です。
義務の対象となっている企業はもちろん、全ての雇用主にとって従業員の心身の健康は重要であるため、自社に最適な産業医を見つけ、雇用主と従業員の双方にとってより良い職場作りを目指しましょう。
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執筆は2019年4月5日時点の情報を参照しています。
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