レストランや病院、薬局、タクシーなどクレジットカードを利用できる場所が増えていますが、クレジットカードの不正利用による被害額は2014年以降年々増えています。日本クレジット協会の調査によると、2016年の不正利用被害額は142億円だったのに対して、2017年の被害額は236億円に登ります。
参考:クレジットカード不正使用被害の発生状況(一般社団法人日本クレジット協会)
不正利用が発覚した場合、その被害に対する債務責任は今までカード発行会社(イシュアー)にありましたが、2015年より一定の条件下でその責任の所在が移行されました。この移行のことをライアビリティシフト(債務責任の移行)と呼びます。
今回は、クレジットカードを取り扱う事業者としてぜひ理解しておきたい、ライアビリティシフトについて詳しく説明します。
ライアビリティシフトとは
ライアビリティシフトという言葉を初めて聞いた、という人も居るかもしれません。
私たちが日常生活の中で安心してクレジットカードを使用できるように、クレジットカードには安全対策が施されています。クレジットカードには磁気ストライプかICチップ、もしくはその両方が搭載されています。日本では磁気ストライプよりも安全性の高いICチップを搭載したカードの普及率が70%といわれており、政府は2020年までに100%になることを目標にしています。
しかし、安全性の高いICカードが普及しても、フィッシング詐欺や不正アクセスなどの手口によって情報が漏えいするケースも少なくありません。不正な方法で得た情報を基にカードを偽造し、カードが店頭で使われてしまうことがあります。
これまでは偽造カードによる不正利用に関して、その被害の補償はイシュアーと呼ばれるクレジットカード発行会社がその責任を負っていました。
しかし、2015年10月以降、ICチップ搭載のクレジットカードを提示されたときに、ICチップに対応していない決済端末を利用して、その結果不正利用が発生した場合、その被害額の債務責任は店舗側に課せられるようになりました。これをライアビリティシフトと呼びます。国際クレジットカードブランドは2015年10月1日からこのライアビリティシフト(債務責任のシフト)を適用しています。
クレジットカードには、さまざまな個人情報が埋め込まれています。以前は磁気テープの上にカード情報がそのまま転写されたものが使用されていましたが、スキミングなどでカードのデータが盗まれやすく、偽造されやすい作りになっていました。一方、ICチップ搭載のカードは情報が暗号化されるなど高いセキュリティ能力を備えており、現在日本で新たに発行されるクレジットカードにはこのICチップが搭載されています。事業者側がICチップ搭載カードに対応した端末で決済を行えば、不正利用は起こりにくいと考えられます。
そのため、ICチップ搭載のカードにも関わらず、ICチップ未対応の端末で決済をし、不正利用が発覚した場合はICカードに対応した端末を用意していない事業者側に責任があるということになります。
以下の点には注意しておきましょう。
- 適応されるのは対面決済のみで、オンライン上の決済や電話での決済には適用されない
- 店舗側に責任が発生するのはICチップ搭載のカードをICチップ未対応の決済端末を使用して不正利用の被害にあったときのみ(磁気ストライプのみのカードによる被害は適用外)
ライアビリティシフトの背景
ライアビリティシフトの適用はクレジットカード決済を導入している事業者にとっては大きな変更でしょう。この移行に至った背景としては、偽造カードによる不正利用の影響が大きいと考えられます。また、この移行によって、よりセキュリティの高いICチップカード対応の端末を普及させたいという狙いもあるでしょう。
カードのセキュリティ強化の流れ
ライアビリティシフトは国際的な流れですが、一方日本国内でもクレジットカードの普及に合わせたセキュリティ強化対策が行われています。政府は「クレジット取引セキュリティ対策協議会」を発足し、2020年までにIC対応のクレジットカード決済端末を100%にすることを目標に掲げています。
参考:クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画を取りまとめました~国際水準のクレジットカード決済環境の整備を進めます~(経済産業省)
ライアビリティシフトに対応するには
ライアビリティシフトに対応するには、EMVに準拠したカード決済端末を用意する必要があります。EMVとはICカードに関する国際標準規格のことで、
E:Europay
M:MasterCard
V:VISA
の頭文字をとったものです。
この規格が発表されてから、世界各国でEMV対応のクレジットカードと決済端末の導入が進んでいます。ヨーロッパで生まれた規格ということもあり、ヨーロッパ各国での普及は順調に進んでいる一方、北米ではクレジットカードの普及率が高いにも関わらず導入が進んでいないといわれています。日本もこの規格を導入しており、多くのクレジットカードがこの規格に準拠したものになっています。
参考:カードIC化急ぐ米国、2016年にはICカード利用率9割超えか
EMV対応決済端末の用意
新たに端末を用意する必要のある事業者にとっては、費用が気になるかもしれません。
Squareなら、EMVに準拠した専用のICカードリーダー(Square リーダー)を4,980円(税込)で購入することができます。月額使用料などの固定費用もなく、かかるのは決済ごとの手数料のみなので、初期費用が抑えられます。ぜひ導入を検討してみてください。
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執筆は2018年5月17日時点の情報を参照しています。2023年3月8日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash