フェムテックとは?起業する際のポイントや市場状況について紹介

フェムテックとは女性の健康や人生の課題を解決する技術の総称で、2010年代半ばから注目を集め始めた比較的新しい分野です。本記事では、フェムテック業界への参入に興味がある人を対象に、フェムテックとは何かから始め、なぜフェムテックが注目されているのか、参入するメリット、フェムテック業界で起業するためのポイントを説明し、最後にフェムテックに取り組む企業と事例を紹介します。

目次


フェムテックとは

フェムテックとは、female technologyに由来する造語で、「女性向けの技術」と訳せ、「女性の健康や人生の課題を解決する技術」ととらえるとよいでしょう。月経や基礎体温を記録するサービス自体は昔から存在しましたが、2010年代半ばに「femtech」(フェムテック)という用語が使われ始めました。フェムテックは、世界でSDGs(持続可能な開発目標)の達成が目指される中、ジェンダー平等の後押しも追い風となり、注目を集めるようになった比較的新しい分野です。フェムテックの市場規模は、世界で数百億ドル、日本でも数百億円の市場規模があるとされ、今後のさらなる成長も期待されています。民間だけでなく、経済産業省や厚生労働省はフェムテックを推進し、女性の活躍を後押ししようとしています。

参考:フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援(経済産業省)

フェムテックでは、特に以下のような女性特有の課題を扱います。

・月経
・不妊・妊活
・妊娠・産後
・更年期
・女性特有疾患
・セクシャルウェルネス

それぞれについて、どのようなフェムテックのソリューションが提供されているのか見てみましょう。

月経

多くの女性が毎月経験する月経に関するフェムテックとしては、月経周期を記録・管理するアプリがあります。アプリで月経周期を記録することで、次の月経を予測し、ホルモンバランスの乱れや生理痛などに備え、適切に対応できます。また、最近では国内外のメーカーから、月経中の負担を軽減する吸水ショーツも発売されています。

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不妊・妊活

不妊や妊活については、排卵検査薬の定期便やホルモンの検査キット、排卵日を予測するアプリ、不妊治療当事者向けのカウンセリングサービスなどが提供されています。フェムテックは、不妊治療や妊活に取り組む女性が自身の体と健康をより深く理解し、情報に基づいた意思決定を行えるようにサポートします。また、不妊治療に関するコミュニティなども、広義でのフェムテックといえるでしょう。

妊娠・産後

妊娠と出産は女性の心身に大きな変化と負担をもたらします。産前産後の女性の心身の健康をサポートするものとして、妊娠中の体調管理アプリ、授乳支援アプリ、産後のメンタルヘルスサポートなどが提供されています。

更年期

女性ホルモンの分泌が減少し、心身のバランスを崩しがちな更年期は、女性の人生の中でも特に注意が必要な期間です。ホットフラッシュや不眠、心の不調など、さまざまな症状を引き起こし、日常生活に影響を与えることがあります。フェムテックでは、更年期障害の症状軽減に関する情報提供やホットフラッシュに配慮した衣類など、更年期の女性をサポートするソリューションが提供されています。

女性特有疾患

女性特有の疾患として、子宮内膜症や子宮筋腫、乳がんなどがあります。特に仕事と家庭の両立に忙しい女性は、医療機関の受診をあとまわしにして診断が遅れてしまいがちです。これらの疾患を早期発見するためにアプリだけでなく、ウェアラブルデバイスなども開発されています。また、AI技術の開発が進む中、AIを活用した診断支援ツールが普及し、早期発見や診断精度の向上にも寄与することでしょう。

セクシャルウェルネス

女性の性についてオープンに語られる風潮が広がる中、性教育のためのアプリやツール、性的な充足感を向上させるアプリやデバイスが開発されています。性に関するトピックはプライバシーの観点から非常にデリケートで、性交渉から感染する性感染症のテストキットや、プライバシーを保護したオンラインコンサルティングなども重要なフェムテックといえます。

なぜフェムテックが注目されているのか

フェムテックが注目される背景には、ジェンダー平等の推進とテクノロジーの進歩という二つの大きなトレンドがあります。その結果、拡大する市場規模もフェムテックに注目が集まる一因といえます。ここでは「ジェンダー平等の推進」「テクノロジーの進歩」という二つの観点からフェムテックが注目される理由を見てみましょう。

ジェンダー平等の推進

世界的には、女性が男女の平等を求め、権利や社会的な立場を勝ち取ってきた歴史があります。これに加えて、特に少子高齢化が進む日本では、女性の雇用拡大が社会の維持のために必要とされているという事情もあります。このような社会的背景から、フェムテックが求められています。

日本でも働く女性が増え、近年では女性就業率が7割を超える中で、働く女性の健康問題は、女性個人にとっても、企業や社会にとっても対処すべき重要な課題です。男性と比べて、未だに子育てや介護などの負担も少なくない女性が自身の健康問題の解決に十分な時間を取るのは容易ではありません。このような状況で、フェムテックには、健康問題を早期発見したり、解決への一歩を踏み出したりする助けとなる可能性があります。

参考:女性就業率の推移(内閣府男女共同参画局)

世界的にSDGsの達成が目指される中、特に「ジェンダーの平等」に焦点を当てた目標5では、女性の地位向上と、女性が自身の意志を自由に表現し、自分自身で選択できる社会を目指しています。世界的に女性が自身の健康や生活・労働環境について自由に声を上げる機運が高まっています。SNSの普及によって、より女性やマイノリティーの声が社会に広く届くようになりました。#MeeTooというハッシュタグをつけ、SNS上で性犯罪の経験を共有する運動について見聞きしたという人もいることでしょう。

また、女性が社会進出する中で、企業で重要な役職を務める女性の数や女性起業家によって創業された企業が増加しています。自身が当事者であることから、女性特有の健康問題や人生の課題を深く理解しています。自分自身の体験や周囲の女性からのリアルなフィードバックに基づいた製品やサービスは、フェムテックが注目を集める一因といえます。

テクノロジーの進歩

ジェンダー平等が推進されつつあることと併せて、フェムテックが注目される理由としておさえておきたいのがテクノロジーの進歩です。ヘルスケアテクノロジーの発展が、フェムテック業界でのイノベーションを推進しています。

本記事を読んでいる人の中にも、スマートフォンやスマートウォッチで健康情報を管理しているという人がいることでしょう。近年、このように自身の健康情報をデジタルデータとして管理し、それを元に自分自身の健康状態をより深く理解しようという流れが生まれています。蓄積されたデータをもとに月経周期や妊娠の可能性を予測し、具体的な行動をとれるようになりました。

また、個々のデータだけでなく、プライバシーを保護した形で大量のデータを収集・分析できれば、女性の健康問題をより深く理解し、課題に対するソリューションを開発することもできるでしょう。

このように、データを収集するデバイスや、データの処理技術の開発もフェムテックの普及を後押し、フェムテックに注目を集めています。

フェムテック市場へ参入するメリット

フェムテック市場への参入は事業者に多くのメリットをもたらします。ここでは「新しい領域への積極的な企業として注目される」「企業で女性が活躍しやすくなる」「新規事業の柱になる可能性がある」という三つの観点から、フェムテック市場参入のメリットを説明します。

新しい領域に積極的な企業として注目される

まず一つ目のメリットとして、新しい領域に積極的に取り組む企業として注目される可能性があります。フェムテックは近年注目が集まっているものの、依然開拓の余地のある分野で、これからの成長が期待されています。このような新たな分野にいち早く取り組むことで、お客様や取引先に、企業としての革新性をアピールし、企業のブランド価値を高められます。また、女性の活躍を推進している点でも好感を持たれることでしょう。

企業で女性が活躍しやすくなる

フェムテック市場への参入は企業内で女性が活躍しやすくなる環境を整える効果もあります。フェムテック事業への取り組みから、女性の従業員に対して企業として配慮していることが伝わるでしょう。また、フェムテックの開発や事業運営には、女性ならではの視点や経験が欠かせません。企業がフェムテックに取り組むことで、実際に女性従業員の意見が重視され、その能力を発揮する機会が増えます。ダイバーシティの推進にもつながり、長期的には企業全体の競争力強化にも貢献するはずです。

新規事業の柱になる可能性がある

フェムテック市場は現在成長中の分野で、新規事業の柱となる可能性があります。日本はもちろん、世界中にさまざまな課題に直面する女性たちが存在し、くみとられていないニーズも数多くあるはずです。また、従業員の中には、自身や家族、友人などの体験からニーズに気づいていつつも、ビジネスのアイデアを提案できていない人もいるかもしれません。フェムテックという分野があることを従業員と共有し、議論を重ねることで、新規事業のアイデアを発掘できるかもしれません。

このように、フェムテック市場への参入には、企業イメージを向上させ、女性活躍の推進し、新たな成長市場を開拓できるという大きなメリットがあります。まずはフェムテックという分野があることを従業員と共有し、既存事業も考慮しながらどのような事業が考えられるのか、どのような効果が期待できるのか話し合ってみるとよいでしょう。

フェムテック業界で起業するためのポイント

フェムテック業界では、ほかの業界で起業するときのポイントに加え、いくつか注意したいポイントがあります。ここでは以下の七つの視点から、成功への道筋を探ってみましょう。

ユーザーに寄り添ったニーズの把握を行う

フェムテック業界は女性の体や生活、人生に深く関わるため、ニーズは考えている以上に多岐に渡ります。不妊・妊活や更年期については女性のライフステージ、セクシャルウェルネスについては家族関係やパートナーシップなど、個々の事情に寄り添った配慮も求められます。製品やサービスを開発するときには、ただ技術的に優れたものを提供するだけではなく、ユーザーの悩みやどのような方法で改善としたいかといった声をしっかりと聞きとり、女性特有の悩みや願望を深く理解することが大切です。

デジタル技術を活用した商品/サービス開発を意識する

フェムテックの分野では、忙しい現代に生きる女性がストレスなく商品やサービス利用できるように、デジタル技術の活用が欠かせません。画一的なサービスを提供するのではなく、AIやビッグデータを駆使して、個々のユーザーに最適なケアを提供することもできます。ウェアラブルデバイスを使えば、リアルタイムで健康情報を収集し、アドバイスを提供できるでしょう。最新のテクノロジーを活用することで、従来の方法では解決できなかった女性の健康や人生の課題を解消できる可能性があります。ただし、開発チームに女性を入れたり、想定利用者の声を聞いたりして、利用者である女性が受け入れやすい商品やサービスを開発することをお忘れなく。

若年層もターゲットとして意識する

フェムテックの利用者は、妊娠を考える年齢の女性や、更年期を迎える女性だけではありません。生理が始まる10代の女性や、性教育を必要とする若者もフェムテックの重要なターゲットです。商品やサービスのターゲットとするユーザーの年齢層にもよりますが、可能であれば、若年層の意見を聞く機会も設けるとよいでしょう。若年層にはテクノロジーに親しんでいる人が多く、新しい価値観を持つ世代の意見から新しい製品やサービスが生まれるかもしれません。

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スマートフォンやSNSの活用を意識する

スマートフォンの普及に伴い、他業界と同様に、アプリを介したクラウドベースのサービスが広まっています。クラウドベースのサービスであれば、プライバシーを意識しながら、利用者の同意を得て、大規模データを収集・分析し、利用者によりサービスを提供できます。

また、若年層を中心にSNSは日常の一部になっています。SNSの中には、特に若年層が好むもの、女性が好むものがあります。若年層にはTikTokやInstagramが非常に人気で、女性ユーザーには視覚的に情報を共有するInstagramが好まれる傾向があります。想定利用者がどのSNSを好み、どのような発信をしているのかていねいに探ることで、利用者からのフィードバックを受け取ったりコミユニケーションをしたりしやすくなるでしょう。

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プライバシーとセキュリティー対策に気を使う

フェムテックの分野で扱う個人情報は特に配慮が必要です。プライバシーを保護し、ユーザーの信頼を得るためも、厳格なセキュリティー対策が必要です。また、データの取り扱いに関する法律や規制にも適切に対応するために、不安や疑問がある場合や、商品やサービスのリリース準備のタイミングで、専門家のアドバイスを求めるとよいでしょう。

教育や啓発の要素を取り入れる

フェムテックは、ただ商品やサービスの提供だけではなく、女性の健康や性に関する正しい情報や知識を提供する役割も果たします。教育や啓発活動を行うことで、女性自身や周囲の人々が女性の体を理解し、女性自身も健康を管理する力を育むことができます。さらに、教育や啓発活動は、企業のイメージアップにもつながります。

助成金の利用

国のレベルでは、経済産業省が「フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援」を行なっており、フェムテックの実証事業の経費が3分の2以内、上限500万円の補助を受けられます。2023年の締め切りは過ぎてしまいましたが、数年続いている支援プログラムなので、気になった人は次期募集に備えておくと良いかもしれません。

参考:フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援 (経済産業省)

このほか、小池東京都知事がフェムテックに取り組む中小企業支援に言及するなど、各地方自治体からの支援事業も期待できます。フェムテックでの起業を考えている人は、地域の支援事業がないか調べてみたり、最寄りの商工会議所などに問い合わせてみたりするとよいでしょう。

参考:小池知事新春インタビュー、女性の課題解決「フェムテック」開発支援、来年度予算で(2023年1月3日、産経新聞)

フェムテックに取り組む企業と事例紹介

iPhoneのヘルスケアアプリ

フェムテックには、フェムテックに特化した企業だけでなく、さまざまな分野で商品やサービスを提供する大企業も参入しています。たとえば、iOS向のヘルスケアアプリ「ヘルスケア」では基礎体温を記録でき、排卵日や妊娠する可能性のある期間が予測されます。

iCaret

最近のAI活用の流れにのったサービスも見られ、2022年創業でビッグデータとAIの医療への応用を目指す株式会社iCaretは、個々のケースに応じた不妊治療を提案するAIサービスの開発を行っています。

じょさんしONLINE

株式会社じょさんしGLOBAL Inc.は、「世界のどこにいても 安心して妊娠出産育児できる社会」を目指して2019年に創業された企業(2021年に法人化)で、助産師によるオンラインでのケアを提供するほか、経済産業省の実証事業補助では、AIで声を解析することで、妊産婦のよりよいメンタルヘルスを実現しようとしています。

また、中小企業による事例を参照したい場合は、経済産業省によるフェムテックのウェブサイトを見てみるとよいでしょう。大企業の事例も掲載されていますが、フェムテックに取り組む中小企業とその事例も紹介されています。

AIのような最新技術を活用する企業のほか、教育やカウンセリング、コミュニティ運営を行う企業も紹介されています。「テック」といっても、技術を開発する企業から、技術を活用する企業までさまざまな企業があります。技術に固執するのではなく、「女性の健康の課題を解決する」という目標からぶれずに、商品やサービスを開発することを目指してください。

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本記事では、フェムテックとは何かから始め、なぜフェムテックが注目を集めているのか、市場参入のメリット、起業にあたってのポイント、フェムテック分野での事例を紹介しながら、世界的に成長が期待されるフェムテック業界について詳しく説明しました。

ジェンダー平等が推進され、フェムテックに活用できるビッグデータの処理技術やAIといった先端技術が出そろった今は、フェムテック業界での起業に絶好の時期といえるかもしれません。先端技術と合わせて、女性特有の課題への深い理解もフェムテック分野での起業には欠かせません。フェムテック業界での起業を考えている人は、友人や家族など身の回りの人と、フェムテックについて話し合ってみるとよいでしょう。

フェムテック業界に参入してみたいという人は、本記事で紹介したポイントを踏まえながら、事業のアイデアをブラッシュアップしてみてください。


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執筆は2023年8月7日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash