トランプ関税で飲食業は打撃を受ける?飲食店が今できる対策とは

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

アメリカのトランプ大統領による関税政策は単にアメリカ国内にとどまらず、日本を含む多くの国々の経済活動に影響を及ぼしており、中でも外食・飲食業界は仕入れコストの上昇や価格転嫁の難しさなど、さまざまな課題に直面する可能性があります。本記事では、トランプ政権による関税政策の概要、日本の飲食業界に与える影響と、それに対して取るべき対策について解説します。

なお、記事の内容は2025年5月上旬の情報をもとにしています。関税率など、最新の動向は経済産業省やジェトロのウェブサイトを随時ご確認ください。

目次


トランプ関税政策の基本

トランプ大統領の関税政策は「アメリカファースト」を目標に掲げ、主に貿易赤字の削減、貿易相手国との不均衡是正、製造業の国内回帰を目的としています。これらの目標達成のために、輸入品に「関税」という税金を課す政策を進めています。

相互関税と追加関税の動き

1) 相互関税(Reciprocal Tariff)
貿易相手国がアメリカからの輸入品に課している関税率と同程度の関税を、アメリカもその国からの輸入品に課すという考え方です。相互関税の導入にあたっては、単に相手国の関税率だけでなく、日本の消費税にあたる付加価値税、アメリカの貿易を制限する規制や補助金なども理由になり得るとしており、詳しい算出方法が明確に示されているわけではありません。

主な国や地域に対する相互関税率は、中国34%、EU20%、台湾32%、日本24%、インド26%、韓国25%、ベトナム46%、タイ36%、マレーシア24%、スイス31%です。貿易赤字を抱えている国に対して個別に相互関税が課され、それ以外の国には10%のベースライン関税が課されます。

2) 追加関税(Additional Tariff)
追加関税は個別の国や品目に課されます。鉄鋼・アルミニウム製品には25%が課され、3月12日に発動されました。自動車・自動車部品への25%の追加関税も5月3日に発動されました。また、5月5日には海外制作の映画に100%の関税を課すことを表明しています。

飲食業に関わる主な品目

日本の飲食業界への具体的な影響としては、主にアメリカから輸入される食品の価格変動が挙げられます。

主に輸入されている品目としては、以下のものが挙げられます。

  • 大豆
  • 小麦
  • 飼料用トウモロコシ
  • 牛肉、豚肉
  • アボカド
  • 乳製品

また、食品のみならず、アメリカからは食器や調理機器も輸入されています。

飲食業への主な影響

トランプ政権による関税措置は、日本に輸入される食品および日本の飲食業界にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

仕入れコスト増加

トランプ政権は、自国産業の保護や貿易赤字の削減を目的として、輸入品に対して高い関税を課す政策を打ち出しています。関税によって輸入コストが増加し、それが製品の価格に転嫁された場合、アメリカから多く輸入している牛肉、豚肉、アボカド、大豆、小麦などの仕入れ価格が上昇し、経営を圧迫することが考えられます。

また、和牛は日本国内で育てられてはいますが、飼料としてアメリカから輸入されるトウモロコシなどが加工されているため、 餌の価格上昇は和牛の価格にも影響を及ぼす可能性があります。

為替・物流コストの上昇

為替の変動によっても仕入れコストは変わります。円安傾向が進むと、仕入れ価格も上昇し、そのコスト負担がのしかかります。さらに国際的な物流網が混乱すれば、輸送コストや保管コストも跳ね上がり、さらなる負担増につながる場合もあります。

メニュー価格への影響

原材料費や仕入れ価格の上昇は、飲食店の経営に大きな負担となります。値上げによってコスト増加分を吸収しようとすると、顧客離れが起きかねません。他方、特に中小規模の飲食店では、コスト増加を吸収することが難しく、経営が厳しくなる恐れがあります。

飲食店が取るべき具体的な対策

トランプ政権下の関税措置は、輸入食品の価格上昇を通じて日本の飲食業界のコスト増をもたらし、価格転嫁が難しいことで、利益の圧迫や売上減少のリスクが高まる懸念があります。そのため、仕入れ先の見直しや代替食材の使用、メニューの見直しや効率化、無駄の削減などが求められています。

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食材仕入れ見直し・国産品へのシフト

不安定な関税政策に左右されない調達体制を築くため、国産品や地元産品への移行は有効な選択肢の一つです。以下では中小規模の飲食店、大企業それぞれの具体的な取り組み例を紹介します。

中小規模の飲食店

  • 一部の輸入食材を国産品に切り替え、メニューの再構成を図る
  • 地場産品を採用して地域性やストーリー性を前面に出すことで、付加価値で勝負する
  • 地域生産者と直接取引することで、中間コストの削減と安定した供給体制の構築を図る

大企業

  • 複数国・地域からの分散調達により特定国への依存を回避する
  • 系列店舗間の食材流通の効率化により、個別店舗の調達リスクを軽減する

為替リスク・コストリスクの見える化

変動費が多い飲食店こそ、数字を正確に把握し、リスクを分析する仕組みが必要です。特に、為替や仕入れ価格が変動した場合のシミュレーションをし、原価率や利益率を可視化することが重要です。

事前にシミュレーションすることで、コストが急騰した際にも、慌てず対応策を講じることができます。必要に応じて追加融資や補助金の活用を検討するなどの資金繰り計画も求められます。

メニュー・価格の見直し

コスト増の局面では、メニュー構成の見直しや価格設定の調整が有効な手段となります。特に、看板メニューや高付加価値商品の価格戦略は慎重に検討すべきポイントとなります。

原価率が高すぎる商品は、品質を落とさずにコストダウンできる余地がないかどうかを検討し、どうしても難しい場合は提供をしばらく停止することも視野に入れなければいけないでしょう。看板メニューの認知度が高く値上げしにくい場合は、お客さまが納得してくれるよう丁寧な説明が求められます。

売上アップ施策の強化

コスト削減だけでは利益が伸び悩む場合、積極的な売上アップ策が欠かせません。近年は飲食店の営業スタイルも多様化し、テイクアウトやデリバリーを拡充する店舗が増えています。さまざまなチャネルで商品を提供し、客単価とリピート率を上げる工夫が重要です。

また、SNSを活用して顧客とのコミュニケーションを深め、メニューの魅力や店舗のストーリーを発信していくことも効果的です。

支援制度の活用

トランプ大統領の関税政策は、その導入目的や対象品目、算出根拠、実施方法などが必ずしも明確でなく、かつ変更が急に行われることから、情報の精査や正確な理解が困難な点がますます飲食店のビジネスオーナーに負担をかけています。経済産業省やジェトロをはじめ、各関連機関が相談窓口を開設したり、情報発信をしたりしています。身近に利用できそうな支援制度がないかどうかを確認し、積極的に専門家の力を借りることをおすすめします。

全国の自治体・機関による中小企業支援策一覧(2025年5月時点)

アメリカの関税措置で影響を受ける中小企業の資金繰りや経営安定を支援するため、各自治体や関係機関が融資制度や相談窓口を設置しています。​各自治体や関係機関の公式サイトで詳細情報を確認し、適宜活用することをおすすめします。

全国対応(経済産業省・ジェトロ)

経済産業省では関税の情報、相談窓口、支援策をまとめたワンストップポータルサイトを公開しています。
「相互関税の内容とは?」「日本政府の対応策は?」などのFAQも用意されているので、まずはこのウェブサイトをチェックすることをおすすめします。

また、日本貿易振興機構(ジェトロ)でも全海外事務所および国内事務所に相談窓口を設けています。

東京都

東京都は2025年4月4日から「米国関税措置対応特別相談窓口」を設置しています。具体的には以下の二つの窓口で相談を受け付けています。

経営に関する相談窓口

設置場所:​(公財)東京都中小企業振興公社
相談時間:平日9時~11時30分、13時~16時30分
対応内容:​経営支援、専門家の派遣や都の支援メニューの紹介など

資金繰りに関する相談窓口

設置場所:​産業労働局金融部金融課
相談時間:平日9時~17時
対応内容:資金繰りの相談、都の支援メニューの紹介など

また、4月25日には相談窓口に加えて、売上減少が見込まれる企業、資金繰りが必要な企業、海外拠点の見直しをする企業などを支援すると発表しています。詳しくはこちらをご確認ください。

港区(東京都)

港区では海外ビジネスに精通した専門家の無料派遣や関税関連セミナーの開催など、独自の支援策を積極的に打ち出しています。

  • 出張経営相談
  • 巡回相談
  • グローバルビジネスアドバイザーの派遣
  • 関税関連セミナーの開催
    など

神奈川県

神奈川県では2025年4月4日より県の金融課に「米国関税措置等に伴う中小企業向け特別相談窓口」を設置し、主に資金繰りに関する相談を受け付けています。関税に関する相談は独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)横浜貿易情報センターが受け付けています。

また、5月7日には「原油・原材料高騰等対策特別融資」の対象を拡大することを発表しています。

特別相談窓口

設置場所:​県金融課
受付時間:​平日9時~17時
対応内容:資金繰り

山形県

山形県では県内の中小企業を対象に特別金融相談窓口を設置しています。

特別金融相談窓口

設置場所:山形県庁産業労働部、商業振興・経営支援課内
受付時間:平日8時30分~17時15分

仙台市(宮城県)

仙台市では、公益財団法人仙台市産業振興事業団がJR仙台駅近くのビル内に特別相談窓口を設置しています。

特別相談窓口

設置場所:公益財団法人仙台市産業振興事業団
受付時間:​平日9時~17時(要予約)
対応内容:中小企業の商品開発、販路開拓、経営相談

愛知県

愛知県では中小企業向けの相談窓口や支援策をまとめたポータルサイトを立ち上げています。また、詳細は6月発表予定ですが、下記の独自の支援策が計画されています。

  • 自動車サプライヤーの販路開拓支援
  • 自動車サプライヤーの新規事業開発支援
  • オープンイノベーションによる新事業創出支援

広島県

広島県庁に加え、県内にある日本政策金融公庫と商工中金の各支店、信用保証組合、商工会議所などが特別相談窓口を設置しています。

米国関税措置に係る相談窓口

設置場所:​広島県庁経営革新課
相談時間:平日9時~12時、13時~17時
対応内容:​資金繰り、経営支援、県制度融資の紹介など

岡山市(岡山県)

岡山市は産業振興課内に中小企業・小規模事業者向けの相談窓口を設けています。

経営相談窓口

設置場所:​産業振興課(岡山市役所本庁舎5階)
相談時間:平日8時30分~17時15分
対応内容:​経営、資金繰り

福岡県

福岡県は「米国関税対策特別融資」を創設し、金融相談窓口を開設して迅速な支援に取り組んでいます。

米国関税対策特別融資

融資対象:​米国関税措置の影響で売り上げが5%以上減少または減少見込みの中小企業
融資利率:​1.3%(通常より約0.2%低減)
限度額:​3,000万円
融資期間:​10年以内(据置2年以内)
申込先:​取扱金融機関、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会

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まとめ

トランプ政権による関税政策は、その不確実性と影響範囲の広さから、飲食業界にとって非常に大きなリスク要因となり得ます。こうした状況に対応するためには、国産品への切り替えや仕入れ先の多角化、価格戦略の見直し、効率化によるコスト削減、さらには売上拡大施策の強化といった複合的な対応が求められます。また、政府や関連機関が提供する支援制度を積極的に活用し、変化の激しい環境を乗り越えるための備えを整えていくことが重要です。


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執筆は​2025年5月16日​時点の​情報を​参照しています。当ウェブサイトから​リンクした​外部の​ウェブサイトの​内容に​ついては、​Squareは​責任を​負いません。​Photography provided by, Unsplash