※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
トランプ米大統領による関税政策は、日本の小売業にもさまざまな形で影響を与える可能性があると懸念されています。この記事では、トランプ関税のポイントと、小売業に与える影響、具体的な対策、自治体による支援策を紹介します。
なお、記事の内容は2025年5月上旬の情報をもとにしています。関税率など、最新の動向は経済産業省やジェトロのウェブサイトを随時ご確認ください。
目次
- トランプ政権の関税政策のポイント(2025年5月現在)
- 小売業への主な影響
・越境ECの顧客離れ
・コスト負担の増加
・価格調整の複雑化
・在庫コントロールの難化 - 小売業が取るべき対策
・商品ラインナップの再設計
・調達先の見直し・分散化
・原価率と為替影響の“見える化”
・新市場の開拓 - 全国の自治体・機関による中小企業支援策一覧(2025年5月時点)
・全国対応(経済産業省・ジェトロ)
・東京都
・港区(東京都)
・神奈川県
・山形県
・仙台市(宮城県)
・愛知県
・広島県
・岡山市(岡山県)
・福岡県 - Squareのツールを活用し、変化に強いビジネス運営を
・Square POSレジで利益率・回転率の可視化
・クラウド請求書で請求業務の効率化とキャッシュフローの改善
・オンラインチャネル併用でリスクを分散 - まとめ
トランプ政権の関税政策のポイント(2025年5月現在)
トランプ大統領の就任に伴い、経済政策の柱として関税の引き上げが掲げられています。その主な狙いは、世界各国からの輸入を抑制することで国内に製造業を呼び戻し、雇用を創出することにあります。
この政策の中心的な概念の一つが「相互関税」です。これは、貿易相手国が高い関税を課している場合、自国の関税も相手国と同じ水準まで引き上げる措置とされています。この相互関税は、貿易相手国の関税率だけでなく、付加価値税、米国の貿易を制限する規制や補助金なども理由になりうるとされ、その詳しい算出方法は示されていません。主な国や地域に対する相互関税の税率は以下の通りです。
- 日本:24%
- EU(ヨーロッパ連合):20%
- 台湾:32%
- インド:26%
- 韓国:25%
- イギリス:10%
個別の関税率が示されていないその他すべての国や地域には、一律で10%のベースライン関税が課されます。また、相互関税とは別に、産業別の追加関税も実施または検討されています。
小売業への主な影響
トランプ政権の関税政策は、貿易赤字削減や国内産業保護を掲げつつも、その複雑性、不確実性から、国際的な貿易システム、各国の経済、そして小売業を含む個々のビジネスに対して、価格上昇、コスト増加、通関遅延、販路への影響など、さまざまな課題とリスクをもたらしているといえます。
越境ECの顧客離れ
関税が引き上げられた結果、アメリカ在住の購入者は日本から商品を輸入するよりも、アメリカ国内で同様の商品を購入する方を選ぶようになる可能性があります。また、通常は商品の購入者が関税を支払いますが、関税支払い拒否が増えることも考えられます。このような状況下で日本のEC販売業者がアメリカのEC事業者と競争するには、商品の差別化やオリジナリティの強化がこれまで以上に重要になると予測されます。
さらに、原産国にも注意が必要です。たとえば、中国で製造して日本に輸入し、日本から米国に発送しても、原則として「中国製」であることは変わらないため、「迂回輸出」と判断されないように気を付けることが重要です。
コスト負担の増加
商品価格の値上げによる消費者離れを懸念して、関税の増加分を価格に転嫁せずに自社で吸収する場合、その分のコストが増えます。また、対米輸出に依存している企業と取り引きのある事業者は、取引先から受注を減らされたり、コストダウンするよう要請されたりする可能性があります。さらに、関税措置が長期化して製造拠点の移転が必要になった場合には、新たなコストが発生する可能性も生じます。
価格調整の複雑化
関税を商品価格に上乗せするかどうかはもちろんのこと、物価高騰による仕入れコストの上昇も懸念されています。トランプ関税は企業のコスト構造に直接的および間接的な影響を与え、価格調整が今まで以上に複雑化することが考えられます。
在庫コントロールの難化
関税引き上げによる商品価格の変動や納期遅延の発生により、在庫コントロールがこれまで以上に難しくなることが考えられます。また、不確実性が高まる中、リアルタイムで在庫状況を把握・調整する重要性が増しています。
小売業が取るべき対策
トランプ関税による影響を乗り越えるため、小売業が取るべき対策はいくつか見ていきましょう。
商品ラインナップの再設計
5月2日より、中国および香港で生産された小口輸入品へのデミニミスルールの適用が撤廃されています。デミニミスルールとは、少額貨物に対して関税が免除される制度で、具体的には輸入申告価格が800ドル(約12万円)以下の場合には関税が免除されるものです。
関税引き上げの影響を受けにくいデミニミスルールの適用範囲内に商品価格を抑えたり、安価な商品群にシフトしたり、あるいは商品の差別化やオリジナリティの強化、付加価値を高めていくことで、価格競争に巻き込まれないようにすることがこれまで以上に重要です。
調達先の見直し・分散化
トランプ政権の関税措置は、小売業の調達プロセスに多岐にわたる影響を及ぼします。たとえば、お互いに関税を引き上げ合う「貿易戦争」に発展した場合、原材料や商品の調達価格が上昇したり、あるいは不確実性の高まりによって調達そのものに遅延が発生したりするリスクがあります。
特定の国や事業者に調達を集中させていると、こうした事態の影響をもろに受ける可能性があります。調達先を見直したり、国や地域ごとにリスクを分散させたりすることが有効です。
原価率と為替影響の“見える化”
仕入価格や送料、為替レートを踏まえた実質的な原価を可視化し、原価率や為替変動の影響を可視化することで、迅速かつ適切な経営判断が可能になります。コスト構造や収益への影響をリアルタイムで把握できれば、製品価格や仕入れ戦略の柔軟な見直しにも役立つでしょう。
新市場の開拓
関税措置が長期化する場合、影響を受けるのはアメリカ向けの販売比率が高い企業だけではありません。デミニミスルールの撤廃などを受けて、アメリカへの輸出が難しくなった中国の販売者が中国国内市場での販売を強化することで、中国市場で日本製品がさらに価格競争にさらされる可能性が考えられています。
帝国データバンクの調べによると、日本から中国と北米に輸出をしている企業は1万3,000社近くに上ります。これらの企業にとっては輸出先を変えるなど、新市場の開拓がトランプ関税を乗り切る一手になるかもしれません。
全国の自治体・機関による中小企業支援策一覧(2025年5月時点)
関税措置の影響を受ける中小企業の資金繰りや経営安定を支援するため、各自治体や関係機関が融資制度や相談窓口を設置しています。各自治体や関係機関の公式サイトで詳細情報を確認し、活用することをおすすめします。
全国対応(経済産業省・ジェトロ)
経済産業省では関税の情報、相談窓口、支援策をまとめたワンストップポータルサイトを公開しています。「相互関税の内容とは?」「日本政府の対応策は?」などのFAQも用意されているので、まずはこのウェブサイトをチェックすることをおすすめします。
また、日本貿易振興機構(ジェトロ)でも全海外事務所および国内事務所に相談窓口を設けています。
東京都
東京都は2025年4月4日から「米国関税措置対応特別相談窓口」を設置しています。具体的には以下の二つの窓口で相談を受け付けています。
経営に関する相談窓口
設置場所:(公財)東京都中小企業振興公社
相談時間:平日9時~11時30分、13時~16時30分
対応内容:経営支援、専門家の派遣や都の支援メニューの紹介など
資金繰りに関する相談窓口
設置場所:産業労働局金融部金融課
相談時間:平日9時~17時
対応内容:資金繰りの相談、都の支援メニューの紹介など
また、4月25日には相談窓口に加えて、売上減少が見込まれる企業、資金繰りが必要な企業、海外拠点の見直しをする企業などを支援すると発表しています。詳しくはこちらをご確認ください。
港区(東京都)
港区では海外ビジネスに精通した専門家の無料派遣や関税関連セミナーの開催など、独自の支援策を積極的に打ち出しています。
- 出張経営相談
- 巡回相談
- グローバルビジネスアドバイザーの派遣
- 関税関連セミナーの開催
など
神奈川県
神奈川県では2025年4月4日より県の金融課に「米国関税措置等に伴う中小企業向け特別相談窓口」を設置し、主に資金繰りに関する相談を受け付けています。関税に関する相談は独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)横浜貿易情報センターが受け付けています。
特別相談窓口
設置場所:県金融課
受付時間:平日9時~17時
対応内容:資金繰り
山形県
山形県では県内の中小企業を対象に特別金融相談窓口を設置しています。
特別金融相談窓口
設置場所:山形県庁産業労働部、商業振興・経営支援課内
受付時間:平日8時30分~17時15分
仙台市(宮城県)
仙台市では、公益財団法人仙台市産業振興事業団がJR仙台駅近くのビル内に特別相談窓口を設置しています。
特別相談窓口
設置場所:公益財団法人仙台市産業振興事業団
受付時間:平日9時~17時(要予約)
対応内容:中小企業の商品開発、販路開拓、経営相談
愛知県
愛知県では中小企業向けの相談窓口や支援策をまとめたポータルサイトを立ち上げています。また、詳細は6月発表予定ですが、下記の独自の支援策が計画されています。
- 自動車サプライヤーの販路開拓支援
- 自動車サプライヤーの新規事業開発支援
- オープンイノベーションによる新事業創出支援
広島県
広島県庁に加え、県内にある日本政策金融公庫と商工中金の各支店、信用保証組合、商工会議所などが特別相談窓口を設置しています。
米国関税措置に係る相談窓口
設置場所:広島県庁経営革新課
相談時間:平日9時~12時、13時~17時
対応内容:資金繰り、経営支援、県制度融資の紹介など
岡山市(岡山県)
岡山市は産業振興課内に中小企業・小規模事業者向けの相談窓口を設けています。
経営相談窓口
設置場所:産業振興課(岡山市役所本庁舎5階)
相談時間:平日8時30分~17時15分
対応内容:経営、資金繰り
福岡県
福岡県は「米国関税対策特別融資」を創設し、金融相談窓口を開設して迅速な支援に取り組んでいます。
米国関税対策特別融資
融資対象:米国関税措置の影響で売り上げが5%以上減少または減少見込みの中小企業
融資利率:1.3%(通常より約0.2%低減)
限度額:3,000万円
融資期間:10年以内(据置2年以内)
申込先:取扱金融機関、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会
Squareのツールを活用し、変化に強いビジネス運営を
決済サービスのSquareは、変化の激しい市場環境下だからこそ活用したい小売業向けツールを提供しています。
Square POSレジで利益率・回転率の可視化
Squareの小売店向けPOSレジは、iOSまたはAndroidの端末で使えるPOSレジアプリです。取引先別売上や利益率、在庫消化率が分かるレポート機能や、在庫履歴を追跡できる機能など、”見える化”に必要な機能が揃っています。無料プランでもひと通りの機能が利用できますが、より詳細な数字を把握したい場合には月6,000円からの有料プランがおすすめです。
クラウド請求書で請求業務の効率化とキャッシュフローの改善
大口注文のお客さまへの請求にはSquareのクラウド請求書が便利です。クレジットカード決済機能が付いた請求書で、受け取ったお客さまはその場でカード決済ができます。決済金額は最短翌営業日には入金されるので、キャッシュフローの改善にも役立つでしょう。
オンラインチャネル併用でリスクを分散
実店舗だけでなくECサイトでも商品を展開することで、特定エリアや市場に依存するリスクを軽減できます。SquareのECサイト作成サービスなら、無料でオンラインショップを立ち上げられます。前述のSquare POSレジと併用すれば、実店舗とオンラインショップの在庫の一括管理が可能。負担を増やすことなく、販売チャネルの拡大を実現できます。
まとめ
トランプ政権による関税政策は、日本の小売業にとって価格・物流・販売戦略に大きな影響を与えるものです。特に越境ECにおけるコスト増や顧客離れ、調達戦略の見直し、新市場開拓の必要性など、喫緊の対応が求められています。
しかし、リスクをチャンスに変える余地も存在します。商品の差別化、価格設計、サプライチェーンの分散化、デジタルツールの活用など、変化に柔軟に対応できる経営戦略の再構築が鍵です。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2025年5月13日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash
・【PDF】「トランプ関税」 日本企業 1.3 万社に影響の可能性あり(2025年2月7日 、帝国データバンク)
・トランプ関税とは 特定の国・品目で追加課税も(2025年4月2日、日本経済新聞)
・米国公表の「相互関税」全リスト 日本24%、中国34%(2025年4月3日、日本経済新聞)
・トランプ米大統領、世界共通関税と相互関税課す大統領令を発表(2025年4月3日、ジェトロ)
・トランプ米大統領、中国に対するデミニミスルールの適用を終了する大統領令を発表(2025年4月4日、ジェトロ)
・【やさしく解説】トランプ関税、世界で何が起きているのか?(2025年04月14日、時事ドットコム)
・【PDF】米国トランプ政権の関税政策の要旨(2025年4月16日、ジェトロ)
・【PDF】2025年4月「トランプ関税」に関するアンケート調査(2025年4月17日、東京商工リサーチ)
・【PDF】米国トランプ政権の追加関税に関するクイック・アンケート調査結果(2025年4月22日、ジェトロ)
・【PDF】米国トランプ関税の動向と日本経済への影響 (2025年4月28日、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
・日本企業が中国から生産拠点移転の動き、トランプ関税影響減らす(2025年5月5日、ニュースイッチ)
・【JETROに聞く「トランプ関税」の影響は?】<要注意>「日本産」のはずが「迂回輸出」と判断されるケースも(2025年5月7日、日本ネット経済新聞)