トランプ大統領の関税政策が中小企業に与える影響と対策【支援策一覧】

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

アメリカのトランプ政権による一連の関税措置(通称「トランプ関税」)は、日本のビジネスに対し、多岐にわたる影響を与える可能性があります。この記事ではトランプ関税の現状と影響、対策、そして各自治体による支援策を紹介します。なお、記事の内容は2025年5月上旬の情報をもとにしています。関税率など、最新の動向は経済産業省やジェトロのウェブサイトを随時ご確認ください。

目次


トランプ政権(2025年〜)の関税政策の動向

2025年4月2日(日本時間3日早朝)、アメリカのトランプ大統領は、貿易相手国の関税率や非関税障壁に合わせて自国の関税を引き上げる「相互関税」の導入計画を明らかにしました。これは、米国が長年抱える巨額の貿易赤字の解消と国内産業の保護を目的としており、日本には24%の関税が課されます。また、個別の関税率が示されていないその他すべての国や地域から輸入される品目を対象に、一律で10%のベースライン関税を課すことも同時に発表されています。

発表を受けて世界の株式市場が動揺し、各国からの反発も相次いでいます。2025年4月9日(日本時間10日)には、日本や欧州など交渉のテーブルについた国に対する相互関税の上乗せ部分の適用を90日間一時停止すると表明しました。日本政府は一連の関税措置の撤廃を求めて交渉を進めていますが、5月上旬時点ではまだ明確な答えは出ていません。

相互関税(Reciprocal Tariffs)

トランプ政権における相互関税(Reciprocal Tariffs)は、「相手国がアメリカに対して行うことは、アメリカも相手国に対して行う」という考え方に基づいています。具体的には、貿易相手国が高い関税率や非関税障壁などをアメリカ製品に課している場合、アメリカも自国の関税をその相手国と同じような水準まで引き上げることを目指すものです。

対象国と主な関税率

1) すべての国や地域を対象とする一律10%のベースライン関税
2) 特定の貿易相手国・地域に対して、国・地域別の異なる税率を上乗せ:4月2日の発表時点でベースラインと上乗せを足した関税率は、日本24%、中国34%、インド26%、EU20%、ベトナム46%、台湾32%。これらの国がアメリカに課している関税率は「為替操作や貿易障壁も含む」と説明されていますが、詳しい算出方法は示されていません。

主な対象品目

相互関税は、「世界各国からのほぼ全ての輸入品」に対して課される方針です。ただし、スマートフォンを含む半導体関連製品、追加関税が課されている鉄鋼・アルミニウム製品や自動車・自動車部品など、特定の品目群は適用除外となります。また、USMCA(United States-Mexico-Canada Agreement、アメリカ・メキシコ・カナダ協定)の原産地規則(ROO)を満たしている製品には関税は課されません。

免除国

カナダとメキシコは追加関税が課されているため、今回の関税措置の対象になっていません。

追加関税(Additional Tariffs)

相互関税は無人島を含む全世界を対象とする一方で、追加関税(Additional Tarriffs)は個別の地域・国・品目に課されます。

主な対象品目と対象国

  • 鉄鋼・アルミニウム製品:25%
  • 自動車・自動車部品:25%(2025年5月3日発動)
  • 中国製品:20%
  • カナダ・メキシコ製品:25%

ただし、中国に関しては4月2日以降、互いに関税を引き上げる報復措置が続き、アメリカは中国に対して145%の追加関税、中国はアメリカに対して125%の追加関税を課しています。また、5月5日には海外制作の映画に100%の関税を課すことを表明しています。

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関税政策による日本の中小企業への主な影響

これまで見てきたようにアメリカの関税政策に関しては見通しを立てることが非常に困難であり、中小企業や小規模事業者への影響がどこまで及ぶのか、不透明な点も多々あります。ここでは考えられる主な影響を見ていきましょう。

対米輸出品の売上減少リスク

自動車、水産物、電気機器、化学製品など、日本からはさまざまな品目がアメリカ向けに輸出されています。関税コストが製品価格に転嫁されることによる、アメリカでの需要減が懸念されます。アメリカに製品を直接輸出をしている企業はもちろんのこと、そうした企業と取り引きのある事業者にも大きな影響が出ることが考えられます。

追加コストの発生

関税措置によって発生するコストを製品価格に上乗せする代わりに、一部または全部を自社で吸収しようとした場合、追加のコストが発生します。こうした追加コストは業績に大きなダメージを与える可能性があります。生産や調達にかかるコストを下げる、あるいは事業拡大・賃金引き上げといった計画を一旦停止せざるを得ない状況にもなるかもしれません。

為替・物流コストの変動

トランプ関税は世界各国が関税を掛け合う貿易戦争への発展が懸念されています。貿易戦争が起きると、サプライチェーンの混乱、原材料や輸入品の価格上昇、為替相場の変動と、世界経済や各国に広範囲にわたる影響が及びます。帝国データバンクの調べによると、日本から中国と北米に輸出をしている企業は1万3,000社近くに上ります。これらの企業は直接的・間接的なかたちで貿易戦争のあおりを受ける可能性があります。

中小企業が取るべき具体的な対策

関税措置の伴う売上減少、コスト増などのリスクに備えるには、早期な対応が不可欠です。同時に、外部の専門家や公的機関のサポートも活用し、情勢をリアルタイムで把握しながら柔軟な判断を下すことが重要です。

価格転嫁の検討

まずは、取引先との協議し、関税コストの一部を価格に反映する余地がないかどうかを探すことが求められます。ジェトロの調査によれば、関税措置への対応策として4割近くの企業が「顧客への価格転嫁」を実施・検討しています。

関税コストの吸収を含む自社内でのコスト削減も約3割弱の企業が実施または検討しています。ただし、無理なコスト吸収は利益を圧迫し、長期的な経営にリスクをもたらします。価格転嫁が難しい場合でも、別の付加価値を提案して差別化を図るなど、柔軟な対応で利益確保を目指す必要があります。

販売・生産拠点の多角化

前述のジェトロの調査によれば、2割強の企業が「米国以外の国・地域への販路開拓」を検討しています。これは特定の市場への依存を減らし、リスクを分散させる戦略といえます。また、生産拠点が中国にある企業の中には、拠点を東南アジアに移す動きも見られます。

情報収集と専門家への相談

今回の関税措置は全体像の把握や詳細、他社の対応状況の把握が極めて重要です。信頼できるソースからの最新情報を常時チェックし、臨機応変に対応していくことが求められます。また、経済産業省やジェトロ、各自治体が派遣する専門家など、関係機関に積極的に相談することも有効です。

製品・サービス戦略の見直し

すべての製品・サービスが等しく影響を受けるわけではありません。たとえば、他に代えがたい独自の強みがある「レアな商品」「わざわざ買いたい日本限定の商品」への需要はただちに関税の影響を受けないこともあると考えられます。自社製品やサービスの独自性・競争力を高めることも間接的な対策となりえます。

全国の自治体・機関による中小企業支援策一覧(2025年5月時点)

アメリカの関税措置で影響を受ける中小企業の資金繰りや経営安定を支援するため、各自治体や関係機関が融資制度や相談窓口を設置しています。​各自治体や関係機関の公式サイトで詳細情報を確認し、適宜活用することをおすすめします。

全国対応(経済産業省・ジェトロ)

経済産業省では関税の情報、相談窓口、支援策をまとめたワンストップポータルサイトを公開しています。「相互関税の内容とは?」「日本政府の対応策は?」などのFAQも用意されているので、まずはこのウェブサイトをチェックすることをおすすめします。

また、日本貿易振興機構(ジェトロ)でも全海外事務所および国内事務所に相談窓口を設けています。

東京都

東京都は2025年4月4日から「米国関税措置対応特別相談窓口」を設置しています。具体的には以下の二つの窓口で相談を受け付けています。

経営に関する相談窓口

設置場所:​(公財)東京都中小企業振興公社
相談時間:平日9時~11時30分、13時~16時30分
対応内容:​経営支援、専門家の派遣や都の支援メニューの紹介など

資金繰りに関する相談窓口

設置場所:​産業労働局金融部金融課
相談時間:平日9時~17時
対応内容:資金繰りの相談、都の支援メニューの紹介など

また、4月25日には相談窓口に加えて、売上減少が見込まれる企業、資金繰りが必要な企業、海外拠点の見直しをする企業などを支援すると発表しています。詳しくはこちらをご確認ください。

港区(東京都)

港区では海外ビジネスに精通した専門家の無料派遣や関税関連セミナーの開催など、独自の支援策を積極的に打ち出しています。

  • 出張経営相談
  • 巡回相談
  • グローバルビジネスアドバイザーの派遣
  • 関税関連セミナーの開催
    など

神奈川県

神奈川県では2025年4月4日より県の金融課に「米国関税措置等に伴う中小企業向け特別相談窓口」を設置し、主に資金繰りに関する相談を受け付けています。関税に関する相談は独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)横浜貿易情報センターが受け付けています。

特別相談窓口

設置場所:​県金融課
受付時間:​平日9時~17時
対応内容:資金繰り

山形県

山形県では県内の中小企業を対象に特別金融相談窓口を設置しています。

特別金融相談窓口

設置場所:山形県庁産業労働部、商業振興・経営支援課内
受付時間:平日8時30分~17時15分

仙台市(宮城県)

仙台市では、公益財団法人仙台市産業振興事業団がJR仙台駅近くのビル内に特別相談窓口を設置しています。

特別相談窓口

設置場所:公益財団法人仙台市産業振興事業団
受付時間:​平日9時~17時(要予約)
対応内容:中小企業の商品開発、販路開拓、経営相談

愛知県

愛知県では中小企業向けの相談窓口や支援策をまとめたポータルサイトを立ち上げています。また、詳細は6月発表予定ですが、下記の独自の支援策が計画されています。

  • 自動車サプライヤーの販路開拓支援
  • 自動車サプライヤーの新規事業開発支援
  • オープンイノベーションによる新事業創出支援

広島県

広島県庁に加え、県内にある日本政策金融公庫と商工中金の各支店、信用保証組合、商工会議所などが特別相談窓口を設置しています。

米国関税措置に係る相談窓口

設置場所:​広島県庁経営革新課
相談時間:平日9時~12時、13時~17時
対応内容:​資金繰り、経営支援、県制度融資の紹介など

岡山市(岡山県)

岡山市は産業振興課内に中小企業・小規模事業者向けの相談窓口を設けています。

経営相談窓口

設置場所:​産業振興課(岡山市役所本庁舎5階)
相談時間:平日8時30分~17時15分
対応内容:​経営、資金繰り

福岡県

福岡県は「米国関税対策特別融資」を創設し、金融相談窓口を開設して迅速な支援に取り組んでいます。

米国関税対策特別融資

融資対象:​米国関税措置の影響で売り上げが5%以上減少または減少見込みの中小企業
融資利率:​1.3%(通常より約0.2%低減)
限度額:​3,000万円
融資期間:​10年以内(据置2年以内)
申込先:​取扱金融機関、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会

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まとめ

アメリカのトランプ政権による関税措置は、日本の中小企業にさまざまな影響を与える可能性があり、特に対米輸出に依存している企業にとっては売上減少やコスト増加といったリスクが高まっています。これに対して、中小企業は価格転嫁や販売・生産拠点の多角化、情報収集と専門家への相談などを通じて、柔軟に対応する必要があります。また、自治体や公的機関は支援策を講じており、特別相談窓口や資金繰り支援などが提供されています。これらの支援を積極的に活用し、経営の安定を図ることが重要です。


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執筆は​2025年5月9日​時点の​情報を​参照しています。当ウェブサイトから​リンクした​外部の​ウェブサイトの​内容に​ついては、​Squareは​責任を​負いません。​Photography provided by, Unsplash