経営者が知っておきたい有給休暇の義務化

2018年6月に働き方改革関連法案が可決され、「従業員に有給休暇を5日間、時季を指定して取得させること」が企業の義務となりました。2019年4月から、大企業だけでなく、中小企業も新しいルールに対応する必要があります。

「今までの有給休暇制度と何が違うのか」「何をどう対応すればいのかわからない」とお悩みの経営者もいるかもしれません。今回は、有給休暇の義務化について、詳しく説明します。

有給休暇とは

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最初に、基本的な部分について確認しましょう。

有給の正式名称は「年次有給休暇」といい、休んでも給与を減額されずに支払ってもらえる休暇のことです。労働者の権利として、労働基準法第39条に規定されています。

従業員が休暇を取得するには、

・入社から6カ月間継続勤務していること
・その期間の全労働日の8割以上出勤していること

という二つの条件を満たす必要があります。

付与される日数は勤続年数によって異なりますが、基本的には最低10日間からスタートし、長く務めるごとに増えていきます。法律上では、6年以上勤務で20日間の付与が基準となっています。翌年に限って繰り越しも可能なので、40日間の有給休暇を付与されるケースも考えられます。もっとも、企業の考え方によっては、もっと多い日数の休暇を付与しても問題ありません。

参考:年次有給休暇はどのような場合に、何日与えなければならないのでしょうか?(確かめよう労働条件)

従業員の有給休暇取得率が低いことが日本では課題になっています。厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によれば、2017年度の有給休暇取得率は51.1%(2016年度は49.4%)でした。前年度よりは増えてはいますが、エクスペディア・ジャパンが行った調査では3年連続で最下位という結果になっています。

参考:
平成30年就労条件総合調査(厚生労働省)
日本の有休取得率、3年連続最下位 - 上位国との差はどれぐらい?(2018年12月11日、マイナビニュース)

有給休暇は従業員からの申請であり、そもそも申し出がしにくいという現状があるようです。エクスペディア・ジャパンの調査では、58%の日本人が有給休暇の取得に罪悪感があると答え、調査国の中で最も高かったです。

働き過ぎによるメンタルの不調や効率の低下が問題視されている昨今では、労働状況を改善するには、仕事を休みやすい環境づくりが必要です。そこで、法改正により、従業員に休みを取らせることを「企業の義務」とすることで、労働環境の改善を図ることが意図としてあるようです。

有給休暇の改正について

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具体的にどんな改正があったのかを紹介します。

参考:年次有給休暇の時季指定義務(厚生労働省)

施行日

施行日、すなわち有給休暇取得が義務化されるのは、2019年4月1日からです。各企業は、この日までに就業規定の改正などを行い、新ルールに対応する必要があります。

対象者

対象者は、「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)」です。

具体的には、

・雇い入れ日から6カ月が経過した正社員・契約社員
・週4日勤務のパートタイム労働者で、雇入れ日から3.5年以上経過している者
・週3日勤務のパートタイム労働者で、雇入れ日から5.5年以上経過している者

が対象者となり得ます。正社員だけでなく、パートタイマーの従業員も対象に含まれます。なお、すでに従業員が有給休暇を5日以上取得している場合は対象外です。

今までと何が違うのか

繰り返しになりますが、「対象者に5日間以上の有給休暇を与えることが企業の義務」となります。また、これまでは有給休暇の取得は従業員の自由とされてきましたが、2019年4月1日以降は、企業がきちんと休ませないと法律違反となります。

違反した場合の罰則規定

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改正された労働基準法に違反した場合、罰則として最大30万円以下の罰金が科されます。

有給休暇取得の義務化を負担だと考えず、職場環境の改善のチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。たとえば、業務を従業員1人に任せっきりにするのではなく、複数人で業務内容を共有することにより、誰かが休んでも業務が回る体制づくりをしてみるのもいいでしょう。

他者の目線が加わることにより、業務の改善点が発見できる可能性もあります。また、複数人で情報共有がなされるため、仕事がスムーズに進みやすくなる効果も期待できます。

義務化への対応

経営者として、具体的にどのような対応をすればいいのかを紹介します。方法としては、大きく二つ考えられます。

従業員の休暇を個別で管理する

従業員一人ひとりについて有給休暇取得率をチェックし、5日以上の休暇を取っていない従業員に、個別に経営者側から休暇時季を指定するという方法です。従業員のスケジュールや繁忙期などを鑑みて、柔軟に対応できるのがメリットです。ただし、個人の休暇取得状況をそれぞれ押さえておく必要があるため、特に従業員の人数が多い場合は、管理する手間がかかります。

年次有給休暇を計画的に付与する

従業員に対して、あらかじめ計画的に休暇取得日を割り振る制度です。この制度を適用するには、労使協定の締結が必要です。

具体的には、付与日数の5日を除いた残りの日数について、企業側から休暇を計画的に与えられるものです。付与パターンとしては3種類あり、全従業員に対して一斉に休みを与える「一斉付与方式」、グループや部署ごとに分けて順番に休みを与える「交替制付与方式」、年次有給休暇付与計画表を作成して従業員に個別に休みを与える「個人別付与方式」があります。

この制度を用いて、従業員に5日以上の有給休暇を消化させれば、今回の法改正の対象外となります。メリットとしては、従業員一人ひとりの管理をする手間が省けることが挙げられます。

しかし、休暇の付与が業務の運営を妨げると判断されないかぎり、企業は休暇の時季を変更できないというデメリットもありますので、注意しましょう。

参考:年次有給休暇の計画的付与制度(厚生労働省)

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従業員が休みを取りやすくなるような雰囲気づくりが必要

今まで従業員が有給休暇を5日間以上取得していなかった場合、経営者側が「休みを取るのは必要なこと」という雰囲気を作ることも大切です。中には、周りの目を気にしたり、休むことは迷惑になると考えたりする従業員もいるかもしれません。

しかし、心身を休めることでリフレッシュでき、仕事のパフォーマンス向上も期待できます。経営者として、積極的に従業員の意識改革に取り組むとよいでしょう。

今回の法改正は、自社の働き方を見直し、改善を図る好機と考えることもできます。有給休暇が気兼ねなく取れるような企業にするためにも、ぜひこの機会を生かし、従業員にとって働きやすい環境づくりを検討してみてはいかがでしょうか。

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執筆は2018年12月28日時点の情報を参照しています。
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