【商いのコト】感謝されて、お金になって、すごい健全で健康的なビジネスー処方箋なしで病院の薬を売る「オオギ薬局」

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol. 45 オオギ薬局 扇柳創輔さん

ノウハウには誤解がある。事業構想、市場分析、店舗戦略、顧客対応など、ビジネスにまつわるノウハウを説明すると、テクニックと成果予測に注目しがちだ。すぐに試して、結果を出したいから。

処方箋なしで病院の薬が買える、オオギ薬局。オーナーの扇柳(おおぎやなぎ)さんは、「会社勤めをしていると、病院を利用しにくい」というお客様の声に応えたかった。困っているお客様に役立つため、苦労や工夫は惜しまない。扇柳さんの笑顔には、多くのビジネスオーナーが実践してきた“ごくふつう”の弛まない努力と結果が詰まっている。扇柳さんに経営の荒野を歩んできた“ノウハウ”を聞いた。

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オオギ薬局の事業構想

医薬品は主に3種類に分類できる。病院で購入する医療用医薬品と、ドラッグストアで購入できる一般用医薬品。医療用医薬品のなかには、医師の診断を受けて購入する処方箋医薬品だけでなく、処方箋なしで購入できる医薬品もある。その「処方箋なしで購入できる病院の薬」を、オオギ薬局は専門で扱う。日本で3番目に創業した。まだ珍しい。

扇柳さんは、高校生の頃に化学が得意で薬学部に進んだ。就職活動をするなかで、薬局に勤めようと思った。そして、多数の薬局を経営する会社に入社。1年目は、ドラッグストアの処方箋コーナーで働いた。そこで、薬を購入するお客様の声に耳を傾けた。

「お客さんは、『病院に通う時間がない』『病院でもらう、いつもの薬がほしい』と、よく言っていました。働き盛りだと、半休を取って通院することはむずかしいですから。この声に応えたら、役に立てる場面は多い。需要を感じました」

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そんな相談に応えられないか調べているなかで、医療用医薬品を処方箋なしで販売する「薬局アットマーク」を知った。2001年に新潟で開局した、日本にひとつの珍しい薬局だった。入れ替わりの多い薬剤師業界で、扇柳さんは転職を経験する。その中でも、薬局アットマークの存在、やり方はずっと気になっていた。

助かる人がいっぱいいる予感と日本に1店舗しかない不安が混在して、扇柳さんは動けなかった。そして先を越された。

「札幌に、日本でふたつ目の『くすりやカホン』が立ちました。やっぱり開局する人が出てきたか。ぼくが2店舗目になりたかったな。すぐに、くすりやカホンと薬局アットマークに行って、『東京ではじめようと思うんですけど、実情どうですか?』って聞きました。たいへんなこともあるけど、必要としてくれる人はいるという話。いけると思ったんですよ。慎重になりすぎると開局できなかったはずだから、勢いがあってよかったな」

オープンを決意したときは自信満々だった。そして、“珍しい開局”という店舗経営の厳しさに、ごくふつうにぶつかった。

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オオギ薬局の市場分析

薬局業界の関係者は少なくない。厚生労働省は所管する。保健所は許可する。医薬品卸売企業は薬を介する。病院は立地に影響する。生活者は会話やSNSの投稿でクチコミを広める。薬局の店舗経営は各関係者とつながるから持続する。オオギ薬局は関係構築につまずいた。

「前例が少ないから開局を止められました。処方箋なしで医療用医薬品を販売するケースはあくまで救済処置に当たるから、それを事業の柱とする営業形態は望ましくないと言われました。問屋さんには珍しい薬局だったため、近隣に他の卸先として付き合う病院や薬局があると、関係性が複雑になる可能性があるから薬を卸せないとも言われました。それでも、各所と交渉のうえ、最寄駅からバスを使う距離にあるような場所になってしまいましたが、三鷹市の貸店舗での開業にこじつけました。珍しさから『怪しい』『こんなのダメに決まっている』と噂されることもありました」

2016年、三鷹市の住宅街に約200種類の医薬品をそろえて開局した。希少性の高い事業を始めたオーナーが晒されることになる賛否も受けた。創業の動機と一部の声援が支えだった。

「処方箋無しでの医薬品販売はあくまで救済処置だからダメと言われましたが、その救済が必要な方は多いだろうと、開局しました。診療時間といった病院の枠から漏れる人たちの受け皿になりたい。開局してみると、本当に困っている人のなかには、医療用医薬品を個人輸入しているような方や、海外で仕事をしていて日本に一時帰国中で薬が入手できないなど、様々な需要がありました。陰ながら応援してくれる人も現れたんです。地方の医師から、『処方箋なしで販売できる医療用医薬品は薬局で購入して、診療が必要な病気を医師が診るような住み分けが普及してほしい』と励まされることもありました」

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オオギ薬局ではじめて、扇柳さんは処方箋なしで病院の薬を売る経験を重ねた。ごくふつうに、我慢と引き換えに信頼を得ながら。

「開局して1年目は知人の薬局でアルバイトをしました。独り身なので、生活費を切り詰めれば、なんとかやっていける程度の赤字でした。長く続けて、信頼を得ていけたところがあると思うんですよ。珍しい薬局だったので、新聞や雑誌に取り上げてもらうことができて、怪しいことをしていないと安心してもらえていきました。恐る恐る来局してくれて、オオギ薬局の法的な位置付けや売りかた、対応できることとできないことを説明して、納得して買ってくれるように少しずつ変わっていきました」

ふたつ、気づいた。ひとつ目は、品揃えについて。

「約200種類をそろえていたんですが、お客さんの相談を受けて、徐々に品揃えを増やしていき、現在は約700種類に増えました。お客さんには必要最低限の販売しかしないので、たとえば新しい医薬品を100錠単位で仕入れて、10錠販売して、残り90錠は在庫として抱えてそのお客さんのことだけみると赤字になることもあります。それでも断らないようにしました。もちろん、綺麗事だけじゃやっていけない。けど、ポリシーとして、困ってまた頼って来てくれたら対応したいから」

もうひとつ気づいて、オオギ薬局は千代田区神田に移転した。

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オオギ薬局の店舗戦略

「三鷹市の住宅街にオープンしたから、近隣の住民が通院しようか迷ったときにちょっと寄れる薬局をつくろうとしたんですね。ただ、来局者の8割は遠方からやってくるくらい困っている人たちでした。23区に限らず、埼玉県、千葉県、神奈川県から、オオギ薬局のようなところがないかと、わざわざ検索してきてくれるので、神田に移転したんですよ。神田なら、JRや東京メトロ、都営線が通っていてアクセスがいい。新橋や大手町のビジネス街で働く人は昼休みや仕事帰りに寄れる。そして、家賃も抑えられる店舗が見つかりました」

ミントグリーンのビル1階だった。キーカラーに決まった。店舗デザインにこだわった。

「ふつうの薬局じゃないので、明らかに違うことがわかるけど来局しやすいことを表現してほしいって、高校の同級生に内装デザインを頼みました。良い意味で違和感があるのに清潔感があるデザインにしてくれたんです。あとは、なるべく1対1でお客さんと話せる空間にしたかったので、受付と待合席の間に空間を設ける工夫をしました。待つお客さんには反対を向いてもらえるように、受付を背にして座るカウンターをつくりました」

その結果、神田では11時にオープンし、ビジネス街で働く人が昼休憩に入る12時〜13時と、退社時間の17〜19時にビジネスパーソンの利用が増えた。それ以外の時間も、遠方からの来局に接している。

「パパッと早く薬を購入できることから、薬の説明を詳しく聞けることまで、いろんな人に喜んでもらえています。なかには、オオギ薬局のLINEで相談してくれる人もいます。きめ細やかな対応はむずかしいんですけど、答えられる範囲でLINEでも説明しています」

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オオギ薬局の顧客対応

オオギ薬局は、1名当たり5〜10分間かけて薬を説明する。そうしているのは、副作用や生活上の注意点などを伝える義務があること以外に理由がある。

「ふつうに困っているお客さんは、何を困っているのかわかっていない場合があります。ほしい薬を売ることが解決につながらないこともあるんです。生活上の注意点を伝えれば解決する困りごとがあったり、ほしい薬とは別の薬がマッチすると提案したりするだけでなく、その薬だとずっと使い続ける必要が出てしまうから、『改めて医師の診察を受けてください』って伝えることもあります。根本的で、本質的に解決したい。本当に人それぞれなので、日々勉強です」

親切心に強さがこもっている。なぜだろう?

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「オオギ薬局に来局する人は、結局、すごい困っています。どうにかこの薬が今欲しい。オオギ薬局に断られてしまうと、どうしようもない。一種の使命感というか、志を持ってやっていきたい……でも、開局したときに反対や非難を受けたからなのかもしれません。ここまで話してきて思ったことですが、『本当に役立つの?』とネガティブなことを言われてきた一方で、お客さんにすごい感謝されてきました。やりがいを感じるし、利益にもつながる。商売として、感謝されて、お金になって、すごい健全で健康的なビジネスをしているって思うんです。社会人になって以来、右から左にお金を流して利益を出すよりも、人を喜ばせて儲けることができれば、それ以上のことはないんじゃないかってずっと思っていました。たぶん、商売をやっている人に聞いたら、みんながそう答えるはずなんですよ」

売上は感謝の可視化だ。ごくふつうに、そう思うビジネスオーナーの一員として、オオギ薬局は店舗経営を続けていく。明日を見据えて。

「2店舗目を持つことになったら、ふつうの薬局をやりたいんです。オオギ薬局をして、薬剤師の知り合いが増えました。ふつうの薬局も役立てることがあるから、その人たちと一緒に何かできれば。次の店舗は、ヤナギ薬局にしようかな」

これからも、ずっと。感謝の数だけ扇柳さんも笑顔になってほしい。ごくふつうに弛まない努力を重ねている多くのビジネスオーナーの一人として、行動と結果で残してきたノウハウには優しさが詰まっているのだから。

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オオギ薬局
101-0047
東京都千代田区内神田2-8-8 中央ビル1F
TEL : 03-3525-8096

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文:新井作文店
写真:服部希代野