※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
デイサービスを開業して介護が必要な人にサポートを提供するには、働く人員や設備など、さまざまな要件を満たす必要があります。求められる資格や運営基準、資金について、初めてのデイサービス開業のためにわかりやすく解説します。デイサービスを開業するうえでのリアルな「課題」や「成功のポイント」にも注目です。
【この記事のポイント】
- デイサービスは要介護者が日中通って日常生活支援や機能訓練を受ける介護サービスで、家族の負担軽減にもつながる
- 開業には人員、設備、運営体制の基準を満たす必要がある
- 開業までには法人設立から事業計画、物件・人材の確保、指定申請など多くのステップがあり、準備期間は約1年かかる
- 主な課題は利用者の確保、人材不足、利益率の低さであり、働きやすい職場環境の整備や地域との連携が重要
目次
- デイサービス(通所介護)とは?
- デイサービス開業に必要な資格と指定基準
・人員基準:どんな職種が何人必要?
・設備基準:どんな施設が必要?
・運営基準:ルールとマネジメント体制 - 開業までの流れと必要な手続き
- デイサービス開業の課題
・利用者がなかなか集まらない
・人材不足が深刻
・利益が出にくい - デイサービス運営を成功させるポイント
・地域特性に応じたサービス設計
・医療機関やケアマネジャーとの連携強化
・職員のスキル向上と働きやすさの確保
・利用者満足度を高める取り組み - まとめ
デイサービス(通所介護)とは?
デイサービスとは、自宅で暮らす要介護状態の人が通いで利用する介護サービスです。その目的は、自宅で可能な限り自立した生活を送れるようにするための支援であり、デイサービスでは以下のようなサービスが提供されます。
- 食事、排泄、入浴など日常生活のサポート
- 心身の機能維持・向上のためのトレーニング
- 散歩、ゲーム、料理、工作などのアクティビティー
デイサービスを利用できるのは要介護1〜5の認定を受けている人で、多くの人が利用する介護サービスといえます。利用者がデイサービスに通うことで、家族が一時的に介護から離れ、休息の時間を確保できるというメリットもあります。
認知症対応やリハビリに特化したデイサービスもあるため、デイサービスの開業に際しては地域のニーズと併せて検討してみましょう。
デイサービス開業に必要な資格と指定基準
デイサービスの開業計画をを立てる前に、まず開業するために何が必要かを理解しておく必要があります。法的なルールや要請も含め、人員、設備、運営の三つの角度からみていきます。
人員基準:どんな職種が何人必要?
デイサービスは必ず人の手が介在するサービスであり、定められた人員基準を満たしたうえで開業・運営することとなります。一般的なデイサービス(通所介護事業所)の開業に必要な職種や人数は次の通り1です。
| 職種 | 資格 | 配置基準 |
| 管理者 | なし | 1人 |
| 生活相談員 | 精神保健福祉士 社会福祉士 社会福祉主事 |
1人以上 |
| 介護職員 | なし | - 利用者15人まで:1人以上 - 利用者16人以上:「(利用者数−15人)÷5+1」以上 |
| 看護職員 | 看護師 准看護師 |
1人以上 |
| 機能訓練指導員 | 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 看護職員 柔道整復師 あん摩マッサージ指圧師 はり師・きゅう師(※要件あり) |
1人以上 |
開業前に行う通所介護事業所としての新規指定申請では、都道府県または市町村の条例で定められた人員配置の基準を満たす勤務体制が敷かれているかどうかがチェックポイントの一つです。必要とされる介護職員や看護職員の人数は、デイサービスの利用者人数・運営形態によって違い、認知症対応型通所介護などの場合はやや異なる人員基準が適用されます。
設備基準:どんな施設が必要?

介護保険が適用されるデイサービスとして開業するには、施設に必要な設備があるかといった点もルールに準拠する必要があります。具体的に、デイサービスに求められるのは次のような設備です。
- 食堂
- 機能訓練室
- 相談室
- 静養室
- トイレ、手洗いスペース
- 事務室
- 厨房、浴室、脱衣室などの運営上必要なスペース
- 消火設備
各室の広さや造作についてもルール1があり、たとえば食堂と機能訓練室の広さは「利用定員 ✕ 3.0平方メートル以上 = 合計面積」が基本です。相談室については利用者のプライバシーが守られるよう、相談内容が漏れ聞こえることのない造りであることが求められます。また、施設全体にわたってバリアフリーへの対応も必要でしょう。
運営基準:ルールとマネジメント体制
デイサービスを開業するためには、人員と設備だけでなく、運営方法の基準も満たしている必要があります。運営基準が定められている項目のうち代表的なものを以下に挙げてみます。
- サービス内容・手続きの説明・同意
- サービス提供困難時の対応
- 利用者の心身の状況等の把握
- 提供したサービスの記録管理
- 職員の勤務体制の確保
- 通所介護計画の作成
- 緊急時などの対応
- 非常災害対策
- 衛生管理
- 定員(利用者数)の遵守
- 虐待の防止
- 地域との連携 など
こうした項目については、介護保険法に基づいて設けられた運営基準2に沿ってデイサービスの業務を行います。利用者、職員、地域住民などが安心できるデイサービス開業のために不可欠なルールといえます。
運営基準に基づいて施設のルール作りを進めるのと並行して、書類作成や情報伝達の方法といったマネジメント体制も検討すると良いでしょう。
開業までの流れと必要な手続き
人員、設備、運営基準についてイメージできたら、デイサービスの開業ステップについても理解してスケジュールを組んでいきましょう。一般的に、デイサービスの開業までには1年前後の準備期間が必要といわれています。
| 1 | 法人設立 | 事業所(デイサービス)の運営母体となる会社を設立。 ※法人登録のためのコストは、株式会社の場合は20万円ほど、合同会社の場合は6万〜10万円ほど。 |
| 2 | 事業計画の立案 | サービス内容、コンセプト、収支計画、資金調達計画、マーケティング戦略、人材育成計画などを具体的に構想し、文書化。事業計画書は資金調達の際などに必須。 |
| 3 | 資金調達 | 物件・設備費、宣伝費、開業後の運転資金6カ月分などを見積もり、自己資金では足りない分を調達。調達方法は、金融機関融資、公的融資、助成金・補助金など。 ※デイサービスの開業資金は一般的に1,000万〜2,000万円必要といわれる(立地やサービス内容により異なる)。 |
| 4 | 物件選定・改修 | デイサービス開業に適した賃貸物件を探す。設備基準に合致する広さがあるか、または基準に合わせて改修が可能かを契約前に必ず確認。基準を満たした設備となっていることが、通所介護事業者指定を受ける際に必要。 |
| 5 | 人材採用・配置 | 求人広告を出し、利用者の定員に合わせて職員を募集。人員基準を満たさないと、通所介護事業者の指定を受けることができない。 |
| 6 | 備品・資材の準備 | 送迎用の車両、デスク・パソコンなどの備品、タオル・レクリエーション用資材などの消耗品、職員のユニフォームなどを用意。 顧客管理や職員の勤怠管理、利用料金管理のためのシステムなど、デジタルツールも開業前に準備を。 |
| 7 | 指定申請 | 通所介護事業者として指定を受けるために、都道府県または市区町村に申請。申請前後のプロセス・かかる期間は地域により異なり、事前相談や研修受講が必要なケースもある。 ※東京都の例:開業予定月から逆算して2カ月前の15日までに指定申請(例:9月1日に開業予定なら、6月15日までに申請)3。「指定前研修」への参加も必須4。 |
| 8 | 利用者の募集 | 事業者指定を受けたら、利用者の募集を開始。ウェブサイト、名刺、パンフレットなどを作成し、ポスティング、オンライン広告出稿、近隣の医療機関や地域住民へのあいさつ回り、内覧会などを実施。 |
| 9 | 開業 | デイサービスとして開業(サービス提供開始) |
開業以降は年に一度、講習会などの形で行政による集団指導が行われ、介護の質や介護報酬の請求方法などを指導される機会があります。事業所指定期間である6年間に一度は、行政からの運営指導(実地指導)が入り、運営体制、報酬算定状況のチェックなども行われます。
デイサービス開業の課題
高齢化が加速する日本においてニーズの高いデイサービスですが、その運営方法や収益性には課題も存在します。注意すべき課題を知り、開業前から対策を考えておくことがおすすめです。
利用者がなかなか集まらない

利用者がいなくてはデイサービスは収益を生むことができず、特に新規開業に際しては利用者集めは大きな課題です。そのため、事業計画の時点から他のデイサービスと差別化できるポイントを意識的に設け、利用者の募集時に積極的にアピールしていきましょう。地域の他事業所の評判などを丁寧にリサーチしておくことも有効です。
また、営業先としては近隣エリアの病院や診療所、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、老人会などが考えられます。ニーズに訴えかけるだけでなく、利用者とその家族の暮らしを想像し、人と地域に親身に寄り添う姿勢が大切です。
人材不足が深刻
需要の高い介護業界は、人材不足が慢性的な課題となっています。介護労働実態調査5によると、介護職の平均離職率は低下傾向にあるものの、離職率50%以上の事業所が5%あることを示しています。
同調査によると、人材採用に成功している介護施設では「職場の人間関係が良好」「残業が少なく働きやすいシフト」「育児・介護と仕事を両立するためのサポートが充実」といった点がポイントになっているようです。デイサービスは人の手が必要な事業だからこそ、人材不足解消への一手として「働きやすさ」に真剣に取り組むことが開業時点から求められています。
利益が出にくい
デイサービスの運営コストは一般的に、人件費の割合が高いといわれています。利用者数が少なく施設の稼働率が低いと、人件費ばかりが出ていくことになり、利益向上は難しくなります。
このことから、稼働率を高める施策の重要性はいうまでもありません。さらに、利用者のスケジュールと職員のシフト管理の徹底が重要であることもわかります。利用者数に応じてシフトを細かく管理することで、人件費のロスが出にくくなり、利益率を下げないことが可能です。
また、離職率が高いデイサービスは採用コストや新人教育コストが余分にかかるため、利益が上がりにくくなるという特徴があります。利益率という面からも、職員が働きやすい環境を開業前から準備し、人が定着する職場を維持していく工夫が大切です。
デイサービス運営を成功させるポイント
成功するデイサービスを開業するためには、どの地域でも必要不可欠な四つのポイントが存在します。デイサービスに関わるすべての「人」について、それぞれの目線から考えることが鍵となりそうです。
地域特性に応じたサービス設計
デイサービスは原則的に地元の人が利用するため、地域密着型のビジネスといえます。そこで肝心なのが、デイサービスの開業前に地域特性への理解を深めたうえでサービス設計を行うことです。
- 地域に多い家族構成、利用者の年代などに合わせたサービスを提供
- 地域の文化・言葉を取り入れたアクティビティーを用意
- 地域の産業(農業、林業など)の繁忙期と家族の介護負担のバランスを把握
- 同地域内の他のデイサービスが提供できていないサービスを提供
こういった地域特性を理解しておくことで、よりニーズにマッチしたサービスや年間スケジュールなどを設計しやすくなります。
医療機関やケアマネジャーとの連携強化
介護と医療は切っても切れない関係にあり、デイサービスの利用者の生活機能向上のためにリハビリ事業所や医療機関との連携が推奨されています。これは、デイサービスが行う機能訓練の計画にリハビリ専門職員が参加することで、利用者に効果的なサービスを提供できるようにすることを目的としています。デイサービス側はこの連携により「生活機能向上連携加算」6ができることもメリットです。
デイサービスが病院、診療所、訪問看護ステーションなど外部の看護職員と連携を図ることで、デイサービスの看護職員の人員基準をクリアするという方法もあります。こうした連携は看護職員の不足という人材の課題がある場合に効果的です。
また、利用者とデイサービスをつなぐケアマネージャーとの連携も欠かせません。デイサービスの生活相談員がケアマネージャーとしっかり連携し、利用者の課題やケアプランの見直しについて綿密に話し合うことで、より良いサービスを利用者に届けることが可能となります。
職員のスキル向上と働きやすさの確保
デイサービスとして優れたサービスを提供する要となるのは、やはり何といっても職員です。職員が日々、向上心を持って技術を磨き、利用者のために貢献し続けたいと感じられる職場であることが、利用者やその家族に愛されるデイサービスになるためには必要です。
そこで、開業前の事業計画立案の段階から、職員の働きやすさの確保やスキルアップのための仕組みを構想しておくと良いでしょう。資格取得などに合わせた報酬体系、仕事を覚えやすい教育精度、定期的な個人面談、休暇を取得しやすい雰囲気作りなどにより、ポテンシャルの高い職員が定着するデイサービスを目指すことが成功の鍵となります。
利用者満足度を高める取り組み
デイサービスの基本となる考え方は、利用者が自宅で可能な限り自立した生活を送るためのサポートです。そのため、利用者とその家族から「このデイサービスを利用して良かった」「地域のこのデイサービスが開業して助かった」と感じてもらえるような取り組みを考えてみましょう。
- 利用者の能力に応じた個別対応
- 季節感のあるアクティビティーによる変化の提供
- 習い事のような、スキル向上が実感できるアクティビティーの提供
- 認知症予防、孤独感解消などの課題に対応したサービス提供
- コミュニケーションの充実
要介護度や性格は利用者によって異なることから、デイサービスとして均一なサービスを提供したつもりでも同じ満足度につながるとは限りません。本人や家族、ケアマネージャーとのコミュニケーションを通じて、利用者一人ひとりにとって本当に必要なサービスを検討しましょう。
利用者の意欲向上のために、アクティビティー参加ごとにデイサービス内で使える施設内通貨を発行する、ボランティア活動など社会的意義のあるアクティビティーを取り入れる、といったデイサービスの例もあります。開業前から満足度の高いサービスをリサーチし計画しておくことが、利用者を着実に引き付け、安定的な運営を実現する一助となります。
まとめ
人材確保や事業所指定申請など一つひとつをクリアしていった先には、デイサービスの開業によって地域の人びとを笑顔にするというゴールが待っています。まずは利用者や働く人が安心できるデイサービスを開業し、地域に必要とされる施設として存在感を高めていければ理想的です。課題と見えるものこそが成功の鍵であることを理解し、デイサービス開業に向けて一歩ずつ進んでいきましょう。
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執筆は2025年8月1日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash
