※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
従業員やアルバイト・パートスタッフなどさまざまな人が働く職場で、事業主が悩ましく思うトラブルにハラスメントがあります。ハラスメントは相手が嫌がったり苦痛と感じたりする行為や、傷つけたり不利益を与えたりする行為です。行った方の意識や意図に関係しないため、そのつもりがなくてもハラスメントに該当する場合があります。
ここでは、ハラスメントの一つで通称「マタハラ」と呼ばれるマタニティハラスメントについて、定義や事例、事業主が講じなければならない措置、マタハラに関するチェック例のほか、逆マタハラと呼ばれる職場トラブルなどについて解説します。
マタハラとは
マタハラは、妊娠・出産などに関連するハラスメントで、「職場」の上司や同僚から、妊娠・出産したことや育児休業などの利用に関する言動による影響を受けて「労働者」の就業環境が害され、働く個人としての尊厳を不当に傷つけることを指します。
この「職場」には、出張先や参加が強制される宴会なども含みます。また、「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマーや契約社員、派遣社員も該当します。
マタハラの内容
マタハラには、大きく分けて妊娠・出産・育児休業・介護休業に関する制度を利用しようとする、あるいは利用した労働者へのハラスメントと、妊娠したなどの状態に対する女性労働者へのハラスメントがあります。
制度などの利用に対するハラスメント
- 制度などを利用した場合に解雇など不利益な取扱いを示唆する
- 制度などの利用、請求などを阻害する
- 制度などを利用したことで嫌がらせなどを行う
状態に対するハラスメント
- 妊娠したなどの状態を理由に解雇など不利益な取扱いを示唆する
- 妊娠したなどの状態を理由に嫌がらせなどを行う
なお、マタハラの中で、特に男性の従業員が育児休業制度などを利用するときに拒否したり、降格などの嫌がらせを行って不利益を与えたりするような行為を、パタニティ(父性)のハラスメント、通称「パタハラ」と呼ぶ場合もあります。
マタハラ防止は事業主の義務
マタハラについては、男女雇用機会均等法の中で、事業主や人事労務権限を持つ担当者による「不利益取扱い」が禁止されています。また、2017年1月1日からは、ハラスメントの防止措置が事業主に義務付けられています。
参考:雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために(厚生労働省)
マタハラの実態
都道府県労働局に寄せられた相談件数(2018年度)では、婚姻や妊娠出産などに関するハラスメントが2,108件、育児休業などに関するハラスメントが2,106件と、マタハラ関連がセクハラ(セクシャルハラスメント)の7,639件の次に多くなっています。
また、厚生労働省が2018年に中小企業を対象に行った調査によると、妊娠・出産に関する嫌がらせを上司から受けた人は、同僚から受けた人の2倍から3倍いました。また、上司と同僚の両方から受けている人もいます。
参考:平成30年度中小企業における母性健康管理に関する通信調査(厚生労働省)
こんな言動はマタハラです
では、どのような行為や声かけがマタハラとなるのでしょうか。マタハラに該当する例と該当しない例をみていきましょう。
【マタハラに該当する例】
たとえば、次のような言動はマタハラに該当します。
- 妊娠を報告した女性従業員に上司が「いつでも辞めていいよ」という
- 2人めを妊娠した女性従業員に同僚が「また?図々しい」とたびたび嫌味をいう(繰り返し発言する場合マタハラに該当します)
- 妊娠や育児を理由に短時間勤務を申し出た女性従業員に対し、上司が「いつ休むかわからず仕事を任せられない」と雑用ばかりさせる
- 健診のため休みを取ろうと申し出た女性従業員に対し、「忙しいときに休まれると困る。日程を変更して」という
- 休暇や時短勤務などの制度を利用しようとする従業員に対し、「自分なら周りに迷惑かけないようにそんな申し出をしない」といって諦めさせる(男性従業員に対して同様の言動をとるとパタハラに該当します)
【ハラスメントに該当しない例】
業務上必要な声かけについては、マタハラには該当しません。
- 健診を予定している女性従業員に対し、「業務の日程で外せない会議があるから、日程調整できないか」と尋ねる
- 出産や育児のために休暇を取る従業員に対し、「業務の体制を考えたいから、いつまで休暇を取る予定か」を聞く
- つわりなどで具合の悪そうな女性従業員に対し、「体調が良くないようだが、医者から休むようにいわれていないか」と尋ねる
この場合のポイントは、業務上の目的を具体的に提示していることと、従業員の気持ちを汲んで納得してもらうことです。一方的な通告や強要はマタハラ・パタハラとなってしまう恐れがありますので注意しましょう。
なお、妊娠している女性従業員への配慮の際、客観的に見て明らかに体調が悪い場合は、たとえ本人が今まで通りの勤務を続けたいと意欲があっても、休ませたり負担を軽減させたりすることは業務上の必要に基づく言動と考えられます。
事業主に義務付けられている対策
マタハラで問題になるのは、上司や同僚の言動です。このため、職場の中の人間関係の問題、個人間の問題だと思いがちですが、そのような状況を生み出している職場環境の問題だと捉えなければなりません。
事業主には、マタハラ・パタハラが起きない職場づくりや、起きてしまったときの適切な対応を行うことが義務付けられています。
【方針の明確化、周知・啓発】
就業規則など職場のルールを定めた文書に、マタハラ・パタハラを許さない旨を規定し、管理職を含むすべての従業員に周知・啓発します。
【相談(苦情)に応じ、適切に対応するための体制整備】
マタハラ・パタハラに関する相談窓口を設け、担当者を決めて、従業員に相談窓口の設置を周知します。相談方法は、電話やメールなど複数の手段を用意したり、外部機関へ委託したりするなど、従業員が安心して相談できる体制を整えます。
【マタハラが発生してしまった後の対応と再発防止策】
相談を受けた結果、必要な対応をすぐにとれるよう、窓口担当者と人事担当者の連携などのフォロー体制を整備します。また、相談を受けた場合の対応マニュアルを作るなど、適切な対応をとり、問題を悪化させないように工夫するとともに、そのような状況を今後生み出さないための再発防止策を講じます。
相談を受けたらおしまいというのではなく、事業主としてどのように判断し、今後どのように対応していくのかを明らかにします。時間がかかる場合も、現状の提示や解決までにかかる期間の目安を伝えるなど、真摯に対応しましょう。
留意点(並行した措置)
マタハラ・パタハラは、プライバシーに踏み込んだ問題になります。このため、相談者本人と言動をとっている行為者のプライバシー保護には留意しましょう。必要な事項を整理したマニュアルを作って対応したり、相談窓口の担当者に研修を行ったり、従業員に周知したりして、安心して相談できるようにします。
マタハラが発生しない職場づくりをするには
マタハラ・パタハラを生み出さない職場づくりに重要なのは相互理解です。妊娠・出産・育児に関する知識や制度を知っておくだけではなく、従業員がなぜそのような言動をとってしまうのかをイメージしていく必要があります。
どのようなコミュニケーションがとられているか、どのような価値観が働いているかなど、明らかになっている問題だけでなく、隠れた問題が潜んでいないか、職場の状況をよく観察していくことが重要です。
逆マタハラとは
「逆マタハラ」といわれるトラブルがあります。これは、妊娠・出産・育児に関する制度を利用する従業員が、周囲へ配慮しない言動や制度の乱用などで、フォローにあたる別の従業員に過剰な負担がかかってしまう状態を指します。
2015年に話題となった「資生堂ショック」と呼ばれる事例があります。女性が働きやすい制度を整えてきた資生堂が、育児中の従業員にも土日勤務や夜間勤務を行うシフトをとるようにし、一見逆向きの働き方改革を行ったものです。これは、子どもがいる従業員といない従業員女性との間に摩擦が生じたことが背景にあり、一部の従業員に過度な負担がかかることを避けるため、全体の勤務を平等にしたことによりました。
参考:子育て女性社員の特別扱い撤廃 “資生堂ショック”がもたらす教訓とは あなたの会社はどうしてる?(2015年12月30日、産経ニュース)
単純に妊娠・出産・子育てを行う従業員は守られるべきもので、周りのカバーは当然というように気配りのない言動をとる場合は逆マタハラとなるので注意が必要です。
すべての従業員が安心して働ける職場とするために
マタハラ・パタハラも、逆マタハラも、互いの生活環境や働く姿勢などを理解しあい、お互い様として助けあう場づくりがトラブル解消のポイントになります。
職場は、従業員がそれぞれの力を発揮し、補いあって一つの成果を出しあう場です。すべての従業員が安心・安全に業務に臨めるよう、事業主が旗振り役となって、相互理解が進む仕組みを整え、よく観察し、従業員と会社との良い関係をつくっていくようにしましょう。
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執筆は2020年4月2日時点の情報を参照しています。
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