子どもを産み育てたいけれど、なかなか思うように子どもを授からないカップルにとって、不妊治療は一つの選択肢です。
今回は、不妊治療休暇の導入を検討している経営者を対象に、不妊治療について、なぜ休暇が必要なのか、そして今導入が進みつつある不妊治療のための休暇制度について説明します。
不妊治療について
日本産科婦人科学会は不妊について「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」と説明しています。
ライフスタイルや価値観の多様化により晩婚化が進み、不妊に悩むカップルが増えているといわれています。また、ストレスも妊娠の難しさに影響を及ぼしている可能性があります。
このような中、不妊治療を検討するカップルが増えているようです。実際、厚生労働省が2018年1月に発表した資料「不妊のこと、1 人で悩まないで」によると、生殖補助医療による出生児数の割合は2006年から2014年の8年間で1.79%から4.71%に増加しています。
実に20人に1人が生殖補助医療によって誕生していることになります。不妊の検査や治療を受けたことのある夫婦は全体で18.2%、子どものいない夫婦では28.2%で、不妊治療はもはや特別なものではなくなりつつあります。
不妊治療の内容はカウンセリングや検査も含め、投薬、手術を伴うものまでさまざまです。ただし、どのような治療内容でも心身の負担は少なくなく、不妊治療の段階が進むにつれて金銭的な負担は大きくなります。日々事業に貢献してくれる従業員の「子どもを持ちたい」という思いをサポートしたい経営者も多いことでしょう。適切なサポートで従業員の満足度が向上すれば、長期間に渡って企業と従業員の間でよりよい関係が築けます。
事業者ができるサポートの一つとして、不妊治療のための休暇を取りやすくすることが考えられます。
休暇の必要性
不妊治療を受けるにあたって、男性も女性も不妊の原因を調べる検査を受ける必要があります。不妊の原因を調べるために検査を受けてみたいと思っても、不妊外来は混雑していることが多く、必ずしも休日に検査を受けられるとは限りません。業務のある平日に休暇をとることができ、検査を受けることができれば、従業員が不妊の原因を知るハードルを大きく下げられます。検査で問題がないことがわかれば、業務に専念することもできるでしょう。
検査の結果、何らかの原因が見つかった場合、特に女性は生理周期に従った治療を受けるため、休暇が必要になります。厚生労働省による事業主向けの資料には体外受精について一連の流れと所用日数・時間が示されています。
参考:事業主の皆様へ 従業員が希望する 妊娠・出産を実現するために(厚生労働省)
当事者以外にはあまり知られてきませんでしたが、不妊治療では頻繁かつ突発的な通院が必要となります。また、治療の成否は誰にも予測できず、予想以上に長期間の治療を必要とする場合もあります。
会社に不妊治療に関する休暇制度があって、不妊治療に対する理解があれば、不妊治療を受けたい、または現在不妊治療を受けているという従業員が、業務と並行して治療にも取り組みやすくなることでしょう。
不妊治療休暇制度について
不妊治療休暇制度は法律で定められた制度ではありませんが、不妊治療に対する理解が進み、従業員の要望などから一部の企業で従業員が仕事と不妊治療を両立できるよう休暇制度が整えられつつあります。
これまでは通常の有給休暇を駆使して、なんとか不妊治療を受けてきたという人が多かったですが、仕事と不妊治療を両立させる人が増える中、通常の休暇制度では対応しにくい部分もみえてきました。突発的に休暇を取ったり、数時間だけ業務を離れたりすることのできる休暇制度が求められています。
前述の事業主向け資料では、年次有給休暇とは別に不妊治療を後押しする休暇制度として以下のような取り組みが紹介されています。
・不妊治療を目的とした休暇制度を導入する
・多目的休暇の取得事由に不妊治療を追加する
・失効した年次有給休暇を積み立てて使用できる「積立(保存)休暇」の使用理由に不妊治療を追加する
この他、仕事と不妊治療を両立可能にするアイデアとして、所要時間の比較的短い治療のために有給休暇を時間単位で取得できるようにする、フレックスタイムで出退勤時間を柔軟にするといった方法も紹介されています。
新たに不妊治療休暇制度を導入するというと、経営者としては二の足を踏んでしまうかもしれませんが、既存の勤務制度や休暇制度を拡張することで、不妊治療休暇制度導入の第一歩を踏み出せます。既存の休暇制度拡張とともに不妊治療に対する職場での理解を深め、本格的な不妊治療休暇導入へ進むのも一つの手です。
東京都では2018年に職場での不妊治療と仕事の両立を推進する企業をサポートするプログラムが始まりました。事業所のある自治体にこのようなプログラムがないか調べてみてはいかがでしょうか。
不妊治療休暇制度導入の際に注意すべき点
まず、職場で不妊治療に対する理解を深めなければいけません。治療を受ける人、仕事を共にする同僚、上司、経営層すべての人が対象です。子どもを望む思い、通常通り業務ができない可能性があること、それをどのようにカバーするとよいか、すべての人ができるだけ公平かつ納得がいく形で仕事を続けていける方法を見つけていく必要があります。
場合によっては、治療のため業務から離れがちになる従業員の仕事を補い、同僚の負担を増やさないためにも、新たに人を雇うことを考えなければなりません。事業にとって短期的には負担になるかもしれませんが、長期的な投資として検討してみるとよいでしょう。
その上で、治療を受けると決めた従業員のプライバシーに配慮することも欠かせません。不妊治療は以前と比べて一般的になってきたものの、個人の価値観が大きく関わる事柄です。また、周囲が軽くとらえて、冗談であってもからかうようなことがあっては、ハラスメントになります。直属の上司などは業務量に配慮する必要があり、不妊治療中であることを知らなくてはなりません。必要な人にだけ必要な情報が伝わる体制を作るようにしましょう。
個人が治療を受けていることについてはプライバシーを守る必要がありますが、同時に不妊治療や子どもを持つことについてオープンに話し合える雰囲気も育て、大事にするようにしてください。実は不妊治療を受けていて仕事と両立してきたといった人も少なくありません。そういった先人の経験談、治療を受けている従業員をあたたかく見守る雰囲気は職場環境を必ずよいものとするでしょう。
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執筆は2019年3月11日時点の情報を参照しています。
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