※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
建設業界では、下請け業者への発注時に法定福利費を含めた見積金額で契約することが求められています。下請け側は見積もり段階で法定福利費を正しく算出して見積書に記載する一方、元請け側はその働きかけを行い、見積書を適切に処理しなければなりません。
本記事で、法定福利費の基礎知識から、福利厚生費との違い、計算方法と計上の仕方、さらには見積書に記載する際のポイントまで押さえておきましょう。
目次
- 法定福利費とは
- 福利厚生費との違い
- 法定福利費の種類と保険料率
- 法定福利費の計算
・健康保険料の計算方法
・介護保険料の計算方法
・厚生年金保険料の計算方法
・子ども・子育て拠出金の計算方法
・労災保険料の計算方法
・雇用保険料の計算方法 - 計上の仕方
- 建設業の場合は見積書に記載が必要
・見積書作成の注意点
・見積書の作成方法 - まとめ
法定福利費とは
法定福利費は企業が福利厚生のために支払う費用のうち、法律で義務づけられているものを指します。
具体的には、社会保険料や労働保険料のうち、企業が負担する部分のことです。法律においては、健康保険法、労働基準法、厚生年金保険法、介護保険法、労働者災害補償保険法、雇用保険法などで定められています。また、会計処理においては、勘定科目として使われます。
企業にとっては大きな支出負担となりますが、従業員が安心して生活していくために欠かせない費用でもあります。
福利厚生費との違い
会計上、法定福利費と間違えやすいものに「福利厚生費」があります。二つの違いは、ざっくりいえば「法律で義務づけられているか、そうでないか」です。
前述したとおり、法定福利費は法令で企業が負担することが定められている費用のことです。一方、福利厚生費は、企業が従業員の健康維持やモチベーション向上などを目的として、独自に行っている福利厚生制度にかかるお金をさします。
たとえば、住宅手当や通勤手当、慶弔見舞金などが挙げられます。社員旅行などのレクリエーションや、歓送迎会など飲み会にかかる費用も、福利厚生費に該当します。
福利厚生は、従業員の満足度をアップさせ、安心して働き続けられるようにするために、企業が提供する給与以外の報酬・サービスを指します。法定福利費も福利厚生費の一つといえますが、法律によって支出負担が定められているという特徴から、会計上は別々に計上します。
法定福利費の種類と保険料率
法定福利費に含まれる費用と保険料率は次のとおりです。
- 健康保険料(協会けんぽ、東京都):9.91%(2025年度)1
- 介護保険料(協会けんぽ):1.59%(2025年度)2
- 厚生年金保険料(一般、坑内員、船員):18.3%(2017年9月以降は固定)3
- 子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金):0.36%(2024年度)4
- 労働者災害補償保険料(労災保険料、建設事業):0.6~3.4%(2024年度)5
- 雇用保険料(建設事業):1.75%(2025年度)6
上記のうち、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、事業主(企業)と被保険者(従業員)が折半して負担します。子ども・子育て拠出金と労災保険料は事業主のみが負担し、雇用保険料については事業主負担が1.1%、労働者負担0.65%と割合が定められています。
法定福利費の計算
ここからは、各保険料の計算方法を詳しく解説します。
健康保険料の計算方法
健康保険とは、従業員やその家族が加入する制度で、病気や怪我をしたときに医療費の自己負担が軽減されます。正社員は原則加入であり、パートやアルバイトのスタッフも労働条件によって加入義務が発生します。
多くの中小企業と従業員が加入している「全国健康保険協会(協会けんぽ)」では、保険料率が会社所在地の都道府県によって異なります。東京都を所在地とする会社であれば、2025年度の保険料率は9.91%となります1。月々の給与(報酬月額)は、その金額に応じて等級に分けられており、等級ごとに標準報酬が定められています。この標準報酬に9.91%の保険料率を掛けた金額が月額保険料です。下の表は、報酬月額が195,000円から270,000円までの等級と保険料を抜粋したものです。各都道府県の1等級から50等級までの表は、こちらのPDFファイルで確認できます。
等級 | 標準報酬 | 報酬月額(給与) | 健康保険料 (標準報酬×9.91%) |
17 | 200,000円 | 195,000円以上210,000円未満 | 19,620円 |
18 | 220,000円 | 210,000円以上230,000円未満 | 21,582円 |
19 | 240,000円 | 230,000円以上250,000円未満 | 23,544円 |
20 | 260,000円 | 250,000円以上270,000円未満 | 25,506円 |
たとえば、報酬月額が25万円の場合、25万円以上27万円未満の報酬月額が対象となる20等級となります。20等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けて、保険料が次のように算出されます。
26万円×9.91%=25,766円
保険料は労使折半で、企業と従業員が半分ずつお金を出し合います。各都道府県の保険料率や保険料は全国健康保険協会のサイトで確認できます。
介護保険料の計算方法
介護保険とは、高齢者や障害者など、介護サービスを必要としている人を支援するための制度です。40歳から64歳までの「介護保険第2号被保険者」が支払い義務を負います。全国健康保険協会に加入している場合は、全国一律で1.59%かかります。報酬月額が25万円の場合は20等級となり、20等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けます。つまり、
26万円×1.59%=4,160円
の介護保険料がかかります。こちらも保険料が労使折半であり、企業と従業員の費用負担割合は5:5です。
上述の健康保険料と合わせて報酬月額(給与)から従業員負担分が天引きされます。つまり、同じ25万円の月額報酬をもらっている人でも、年齢によって引かれる金額が変わります。
介護保険第2号被保険者に該当しない場合
26万円(標準報酬)×9.91%÷2=12,883円
介護保険第2号被保険者(40歳から64歳)
26万円(標準報酬)×(9.91%+1.59%)÷2=14,950円
厚生年金保険料の計算方法
老後も安心して生活できるように、老齢や障害、死亡に対して給付金を支払うための保険です。厚生年金保険料率は、一律18.3%です。ただし、厚生年金基金に加入している場合は、免除保険料率があるので、加入している基金によって13.3%から15.9%の厚生年金保険料率となります。健康保険料のように月額報酬額によって決定される等級ごとの標準報酬に掛けた金額が、厚生年金の金額となります。たとえば、厚生年金基金に加入しておらず、報酬月額が25万円の被保険者の等級は17等級となります7。17等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けます。つまり、
26万円×18.3%=47,580円
の厚生年金保険料がかかります。保険料は労使折半で、企業と従業員は半分ずつ費用を負担します。
子ども・子育て拠出金の計算方法
国や地方自治体が行う子育て支援サービスに使うため、企業から徴収されるお金です。従業員に負担義務はなく、全額を企業が納付します。勘違いされやすいですが、従業員の子どもの有無は関係ありません。従業員の標準報酬月額と、標準賞与額に拠出金率を掛け合わせた金額を企業が支払います。2020年4月に拠出金率の改定が行われ、現在は0.36%となっています4。
労災保険料の計算方法
一般的に労災保険と呼ばれる制度で、従業員が仕事中や通勤中でケガをしたり、病気になったりしたときに補償金を給付するものです。休業中の補助のほか、障害を負ったり、死亡したりした場合にも保険金が給付されます。
アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態に関係なく、従業員を1人でも雇っていれば、企業は労災保険に必ず加入しなくてはなりません。保険料は、企業が全額負担します。労災保険率は、機械装置の組立てまたは据付けの事業が0.6%、舗装工事業が0.9%、既設建築物設備工事業が1.2%というように、同じ建設事業でも事業の種類によって保険料率が変わります5。事業主は、賃金総額に業種ごとに決められた保険料率を掛けた金額を納めなくてはなりません。たとえば年間の総賃金が正社員、アルバイト合わせて2,000万円の舗装工事会社があるとします。その事業主が納める労災保険料は、
2,000万円×0.9%=18万円
となります。
雇用保険料の計算方法
何らかの理由で離職した従業員や、育児や介護で長期休業する従業員をサポートするために、必要な給付を行う保険です。要件を満たしている場合、従業員の希望にかかわらず加入するのが原則です。なお、法人の取締役は加入対象外です。
保険料率は、事業の種類によって異なります。建設業の雇用保険料率は1.75%で、そのうち労働者(従業員)が0.65%を、事業主(企業)が1.1%を負担します6。
計上の仕方
法定福利費は、企業側が負担する費用と、従業員が負担する費用に分かれています。企業が負担する法定福利費率は、各保険料率によって変わります。
一般的に、法定福利費のお金の流れは以下のとおりです。
1.企業が従業員に給与を支払う
2.従業員の負担分を給与から天引きし、残額を従業員の給与口座に振り込む
3.企業の負担分と従業員の負担分を合わせて、年金事務所へ納付する
計上の際、企業側は勘定科目「法定福利費」、従業員の負担分(給与から天引き)については「預かり金」で処理を進めます。例として、「健康保険料」の項目で紹介した、東京に事業所を置く企業で全国健康保険協会に加入している場合の仕訳を紹介します。給与は25万円で、天引き額は健康保険料の12,883円(25,766円の半額)と厚生年金の23,790円(47,580円の半額)を足した36,673円です。
(1) 給与25万円(天引き額は36,673円)を介護保険第2号被保険者に該当しない従業員に支払うとき
借方科目は「給与 250,000円」、貸方科目は「預り金 36,673円」と「普通預金 213,327円」
(2) 保険料(企業分36,673円+従業員分36,673万円)を口座引き落としで納付するとき
借方科目は「法定福利費 36,673円」と「預かり金36,673円」、貸方科目は「普通預金 73,346円」
法定福利費は原則として非課税です。企業側の負担分は損金として、従業員の負担分は所得税の計算の際に控除されます。
建設業の場合は見積書に記載が必要
冒頭でも触れたように、建設業では見積書に法定福利費を記載することが求められます。明示する範囲は基本的に、法定福利費のうち事業主負担分です。
見積書作成の注意点
下請け側
見積書を作成する際は、経費とは別に法定福利費の欄を設けます。各法定福利費の内訳には、法定福利費の総額だけでなく、対象金額(労務費)と各保険料率を明示し、事業主負担額の計算方法がひと目でわかるようにしましょう。
各保険のうち、労災保険料は元請けが一括で加入します。そのため、見積書に記載すべき法定福利費は以下の5種類です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 雇用保険料
元請け側
見積書に法定福利費をきちんと含めるよう、下請けに要請しましょう。見積書を受け取ったら、法定福利費が正しく記載されているか確認します。法定福利費を減額したり、その他の費用で減額調整したりすると、場合によっては建設業法に違反するおそれがあるので注意が必要です。
見積書の作成方法
法定福利費の基本的な算出方法は、「労務費×法定保険料率」です。本来は年間の賃金総額に保険料率を掛けるのが正しい方法ですが、見積もり段階では年間賃金の把握が難しいため、見積もり時に算出する労務費を用います8。
1.労務費の計算をする
労務費とは人件費の一つで、製品やサービスを生産するための費用です。労務費には、建設工事に直接関わる従業員の給与や残業代、賞与、手当が含まれます。なお、ひとり親方や常勤労働者が5人未満の個人事業所の作業員は法定福利費の適用対象外ですが、見積もり段階ではその把握が難しいことから、すべての作業員を対象として算出してかまいません。
2.法定福利費を算出する
次に、法律で定められた各保険料率を労務費に掛けます。介護保険料については、40歳以上64歳以下の労働者の割合を労務費総額に掛けて算出します。
3.見積書に法定福利費を記載する
それぞれの概算保険料の合計額を算出したら、法定福利費総額として記載します。
まとめ
法人や常勤従業員を5人以上雇用している個人事業主にとって、法定福利費はある程度まとまった支出になります。従業員を雇用しビジネスを拡大していくのであれば、必ず上記を参考に準備しておきましょう。なお、上記で紹介した保険料率は改定される場合もあるため、随時確認してください。
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執筆は2019年9月2時点の情報を参照しています。2025年3月4日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash