「MBO(目標管理制度)」という言葉を聞いたことがある人も多いことでしょう。1990年代から日本の企業でも導入されるようになった制度です。これから自社に取り入れようとしているが、中には「どう運用していいのかわからない」「本当に役に立つのか疑問」と考えている人もいるかもしれません。
今回は、MBOの概要や、具体的なメリットやデメリット、導入する際のポイントなどを説明します。
MBOとは
MBOは、Management By Objectivesの略語であり、日本語で「目標管理制度」と訳されます。ピーター・ドラッカーが提唱した制度です。
具体的には、従業員が個人の目標を設定し、その達成度合いで評価を行うというものです。従業員にとっては、自らの設定目標に向けて動くため、自主性が高まります。また、上長からの指示のみで働くわけではないため、仕事に対する意欲も高まることが期待できます。
会社にとっても、意欲ある従業員が成果を上げることが、生産性や業績に好影響をもたらすことにつながります。
MBOは、会社にとっても従業員にとってもWin-Winとなりうる制度といえますが、導入するにあたっては注意すべき点も多くあります。以下で詳しく見ていきましょう。
MBO導入のメリット
従業員のモチベーションアップ
MBOを導入することで、従業員一人ひとりのモチベーション向上が期待できます。
前述の通り、MBOでは従業員が自ら達成すべき目標を立て、それに向けて具体的な行動を起こします。上長からの一方的な指示は、従業員の仕事に対するモチベーションを低下させてしまうリスクがあります。従業員が主体的に動ける制度を導入することで、意欲を高めることが期待できるのです。
注意点としては、この個人目標は、会社の方向性と合致する必要があるということです。いくら良い目標だったとしても、それが会社の目標とずれていれば、会社にとっては良い影響にならない可能性があるからです。
個人目標は必ず組織目標とリンクさせ、従業員個人にとっても、自分の成果が会社への貢献につながると意識できれば、モチベーションがアップすることが期待できます。
従業員の能力開発につながる
MBOの活用で、従業員の能力開発や育成を促す効果が期待できます。
ただ上長の指示を受けて遂行するだけでは、従業員が自ら改善策や解決方法を考え、創意工夫をする機会を失ってしまいます。自分で考えることが減るため、問題解決能力が育たなくなり、「指示待ち人間」になってしまうかもしれません。
しかし、自ら目標を立てて実行すれば、自分で具体策を考えることが必要になります。ここでのポイントは、「難しすぎるわけではないが、少し努力が必要」なレベルの目標を設定させることです。通常の方法では目標が達成できないため試行錯誤が必要となり、個人の能力を伸ばすことが期待できます。
人事評価に役立つ
人事担当から見れば、従業員の目標とその達成度がはっきりとわかるため、人事評価のツールとして利用できます。目標の達成度合いを定量化できるものにしておけば、より評価がしやすくなると考えられます。
ただし、MBOを「人事評価のための制度」と考えることにはデメリットがあります。これについては、次の項目で詳しく説明します。
MBO導入のデメリット
わざと低い目標を設定する
苦労せずに目標を達成するために、わざと低い目標を設定してしまう従業員がいるかもしれません。 本来、MBOは従業員を主体的に動かし、成長を促し、その結果として組織の成果につなげるマネジメント方法です。しかし、従業員にとっては、明白な結果に基づいて評価をされるため、目標達成を第一の目的にしてしまう可能性があります。
MBOを「人事評価のためだけの制度」と見なすと、成果の可否ばかりが重視され、ただのノルマ管理ツールになってしまうかもしれません。また、簡単な目標ばかり設定すると、従業員の成長にもつながりません。
目標として設定されたこと以外をやらない
これも、「評価」に重点を置きすぎた場合のデメリットといえます。
設定された目標以外のことが評価につながらないなら、やる意味がないと考える従業員が出てくるかもしれません。MBOで立てた目標を達成することが絶対のゴールなのではなく、自らのスキルアップにつなげ、生産性向上をうながすためのものだという認識を周知させることが必要です。
適切な評価の難しさ
評価基準に基づいたとしても、たった一人で適切な評価をするのは難しいと考えられます。どうしても評価者の主観や経験則が影響したり、他従業員との違いが目についたりする可能性があるからです。
こういった事態を防ぐためにも、評価は多人数で行うことが有効と考えられます。また、複数の目線で判断をしていることを周知することで、評価者に対する不満や不信感が芽生えるのを防ぐ効果も期待できます。
導入のポイント
MBOは、①目標の設定、②目標達成に向けた行動、③管理者による進捗管理、④評価・フォロー、という流れになります。それぞれにポイントがあり、導入する際は必ず押さえておきましょう。
①目標設定
従業員が目標を立てる際には、上長も一緒になって考えることが望ましいでしょう。「会社の方向性に沿ったものであるか」「簡単すぎず、難しすぎないレベルの目標か」など、第三者の目線から確認することによって、適切な目標を考えることができるからです。
ただし、目標の押し付けにならないように注意しましょう。また、客観的な評価ができるよう、目標はなるべく数値で判断できるものが好ましいです。
②目標達成に向けた行動
従業員が行動する際には、必要なときに支援を求められる環境を整えておくことが望ましいと考えられます。いくら自主的に動けるのがメリットといっても、経験が少ない従業員では、不安を感じることもあるでしょう。行動に迷いを覚え、せっかくのチャンスを逃してしまうことも考えられます。しかし、いつでも誰かに相談やアドバイスを求めることができれば、従業員も安心して行動を起こすことができるでしょう。
③管理者による進捗管理
上長は、従業員の進捗状況を定期的にチェックすることが望ましいと考えられます。面談を行ったり、報告書を提出させたりすることで進捗確認を行い、必要に応じて、行動や目標自体の見直しをうながしましょう。
このときも、上長が行動を指示するのではなく、従業員が主体的に考えるようにすることで、個人の成長につながります。
④評価・フォロー
結果を評価する際は、「目標達成度」の観点から厳格に判断することが望ましいと考えられます。
努力面を重視してしまうと、「成果は出せなかったけれど、よく頑張った」で終わってしまい、行動の振り返りや課題の洗い出しがおろそかになってしまうことがあります。しかし、努力を無視してよいというわけではありません。結果に結びつかなかった場合、従業員のモチベーションが低下してしまう恐れもあります。
このような事態を避けるためにも、管理者が従業員の努力を認め、言葉をかけるなどのフォローを行うのが有効と考えられます。
MBOは、うまく活用できれば従業員のやる気や能力を引き出せるのはもちろんこと、組織にとっても生産性向上や業績拡大などの効果が期待できます。ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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執筆は2018年7月20日時点の情報を参照しています。
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